#768/1336 短編
★タイトル (AZA ) 97/ 4/11 18:10 ( 59)
許される?嘘 WM
★内容
「どうなるんすかね」
「さあな」
「さあなって……先輩。下手したら、大変なことになりますよ」
「弁護士先生だって、全く読めないと言ってた」
「……そりゃそうですね。こんな裁判、初めてです」
「俺も聞いたことないぜ」
「でも、何とかなるんじゃないですか」
「おまえに何が分かるっての。ええ?」
「いや、想像なんですけど。今までにいくらでもあるじゃないですか。T・F
やD・K、G・JにR・S。日本人ではK・Y、A・H、M・K、I・T……」
「おい、やばいって」
「イニシャルなら、いいでしょう」
「関係者もいるんだ。そういうこと、あとでどう吹聴されるか分からんぞ」
「いいですよ、別に。僕はスターじゃないですし、職にも困らないですから、
いつでも辞められます。実家に帰ればみかん農園が待っています」
「俺もあやかりたいね」
「とにかく、自分が言いたいのは、どこもかしこもやってるじゃないか!てこ
とになります」
「それを訴え出るのは、ナンセンスだっちゅうこったな。俺も思うよ。思うが
な、そういう感情論が通用せんのは、おまえもよく分かってるだろが」
「そうですねえ……。こちらの主張が認められなかったら、どうなるんでしょ
うね。詐欺でしょうか、やっぱり」
「詐欺で訴えられたんじゃない。学があるのかないのか分からんな、おまえっ
て奴は。損害賠償を払うだけさ」
「いくらですかね。うち、そんなに儲かってないでしょう?」
「はっきり言うなって」
「この裁判で負ければ、二田さんは胸を張って出られるんですよね?」
「何でだ?」
「何でって、裁判で負ければ、過去の嘘を認める訳でしょ? つまり、退いて
ないってことですから」
「なるほど。だが、訴えた連中、きちんと身を引けってのも、条件に加えてた
ぞ、確か」
「金取った上に、身を引かなきゃいけないなんて、無茶苦茶ですよ。強欲な奴
等ですね」
「全くだ。こちとら、おまんまの食い上げになっちまう。二田さんのおかげで、
やっと盛り返してきたのに」
「何考えてんですかねえ、今さら……。あっ、始まるみたいですよ」
「よっしゃ。まあ、気楽に行こうや」
* *
とあるスポーツ新聞から抜粋。
<(1面から続く)十二日、前代未聞の裁判として一部で注目されていた、い
わゆる二田裁判の一審判決が出た。
この裁判は、プロレスラー・二田康志(本名同じ/開拓プロレス)が四年前、
引退試合を行ったにも関わらず、昨年十月になって再びプロレスラーとして活
動を開始したことに端を発している。
今年の三月に入って、二田ファンであり、二田の引退試合に涙したプロレス
マニアの一団三十名が、損害賠償と二田の即時引退を求めて、訴えを起こした。
一時は和解の動きもあったが、リングにちょくちょく上がっていた二田が、
マスコミのインタビューに「俺は嘘つき」「おまえら(ファン)も嘘つきだ」
等と発言したことでこじれ、裁判で争っていた。
この判決を受けて、二田、開拓プロレス、ファンのコメント及び、他の各プ
ロレス団体の反応を紹介する>
−−終
註.実際に訴えたらどうなるのか、予想もつかないので、判決箇所には触れら
れませんでした(苦笑)。