#572/1336 短編
★タイトル (ZWN ) 96/ 4/15 14:46 ( 48)
ゴキブリからのお願い ポテト
★内容
ゴキブリからのお願い ポテト
ヘイヘイ、あたしゃ世の中の嫌われもののゴキブリでやんす。そんな、いきなり
ズズーッと引かないでくださいましな。別に取って食うなんてことはしませんから。
できることなら、日頃の仲間の恨み取って食いたいのはやまやまですが。
おっとっと、冗談ですよ。手に持った新聞を丸めないでくださいよ。ちょっとだけ
わたしのはなしを聞いてもらいたいんです。
こんなあたしでも、生まれた時は、ゴマしおのような、それはそれは可愛い子ゴ
キブリでやんした。そんないやーな目で見ないでくださいな。みんな子どものころ
は可愛いものです。ゴキブリだからって差別しないでくださいな。
あたしは一般家庭の台所の引き出しの奥で、たくさんの兄弟姉妹たちと生まれま
して、一日、二日は兄弟姉妹たちもそばにチラチラしてやんしたが、いつのまにか
てんでんばらばらになりやして、それからというものあたしはひとり自活の道を歩
んできたんでやんす。
人間のこどもみたいに、大人になっても親に頼っているなんて、信じられないこ
とでやんす。ま、甘やかしてる親も親ですが。
ゴキブリの人生ほど、苛酷な人生花井とつくずく思う毎日でやんす。毎日が生と
死の戦いでやすから。
そば屋の子ゴキブリなんぞは七味の中で遊びほうけて、そばの薬味ごと食われて
若死にしたものもおりやす。
大人になって、このからだが、黒ぐろとしてくるにしたがって、身の危険も増し
てきやした。人様に姿を見られないように、外歩きは夜暗くなってからにし、なる
べく音を立てないようにと気を使う毎日でやんす。おかげで、太りずぎてダイエッ
トする必要もありませんが。別にあなたが無神経だからブクブクでぶったなんてい
ってはおりませんよ。誤解のないようにお願いいたしやす。
そこいくと、若い奴らは気が短くっていけません。あたしがいくら生き延びる知
恵を授けようとしても、耳をかそうとはしません。昼間から、ゴソゴソと音を立て
て、大ぴらにところかまわず、歩きまわって人様の目に触れるありさまです。そう
なると、もう皆様のご存じの通りの結末になるわけで。
ある若ゴキブリなんぞは、テレビを見に居間へ顔を出した途端に、新聞紙でおも
いっきり叩かれてあの世に一直線でまいりました。
また、ある若ゴキブリは夕方台所をうろついているところを見つかり、殺虫剤攻
撃を受けながら台所中を走りまわされて、ショック死したのもおりやす。
運良く生きのびたものの、後日重い後遺症に悩ませられ、再起不能にいたったも
のもおりやす。
また、食い意地のはったゴキブリは毒まんじゅうで中毒死したのもおりやす。
また、ある若ゴキブリは誘惑の館に引き込まれ二度と戻ってはきやせんでした。
ゴキブリの一生なんて、あっと言う間の短いものでやんす。人様のように憎まれ
口をたたくわけでもなく、しぶとく生きながらえているわけでもなく、無駄飯食ら
ってぐうたら生きているわけでもなく。いえ、別に人様がゴキブリより性もないな
んて、言ってはおりませんので。誤解のないようにお願いいたしやす。
ただ、ただ、日陰の身に徹して生きておりやすゴキブリ一族でやんす。そこのと
ころをご理解いただいて、今後もう少し、寛大なるお心をお持ちいただいて、時に
は見て見ぬふりをしていただけたらとお願いしたいのであります。我々ゴキブリ一
族も今後一層日陰の身に徹して、皆様のお目に触れぬよう努力する次第であります。
以上よろしくお願いいたしやす。