#470/1336 短編
★タイトル (ALN ) 95/ 6/27 1:10 (100)
未草 聖 紫
★内容
未草
睨み付けた空で輝の射翳い光りは総てを隠す様に突き刺し
波を忘れた池の鏡に写した熱と彩に包まれて開く未時の華
流れて往きたいと可憐に白い夢お前には抜けない泥の足枷
側に居てやりたい夏に立止まる俺には渡れぬ深い沼になる
お前に微かにでも束の間にも触れることが出来るのならば
渡る風になりたい例えば立ち止まれないと分かっていても
時雨て抱き込む蝉の叫びは嵐凍えて消えゆく思いは熱の氷
距てるものと引き合うものとお前と俺には二つの愛がある
登り詰めた天空に立ち止まる翳り行く事を忘れた束の間の
陽射しが永久に換わらぬ様にこのままお前と俺が消えるか
時を隔て遥か遠く消えゆく者達を哀れむ様に朝を繰り返す
心に魅得るのは背中の夜か繰り返し巡り訪れを待つ胸の夜
お前には触れぬ光りが在る様に俺には見れない明日が在る
朽ちて逝く躯の痛みを捨てた腐り逝く心の苦みが俺を襲い
引き替えに出来るもの等無いお前の代わりに奪い去りたい
唯一の証を立てて信じる代償に裏切る為故一つの愛がある
海岸線
夏待ち顔の寂しさは寄せる波の様な時めきを真似して響き
君を描いた真っ白なキャンパスは色を忘れたまま眠り続け
心の中で聴こえる声はもう二度とこの耳では聴く事もない
遠ざかる音に似て君の笑顔は夏へと代る束の間のデッサン
もう繰り返し言葉を確かめる必要もない君の瞳に映る唇は
声を忘れた咽背中合わせでは伝わらない形の不要い独り言
淋しい砂浜に足跡も未だ無くうつむき加減に笑顔は枯れて
夢に酔う様な妖しい優しさで悪戯な少女の幻が波間に誘う
賑やかな街に帰る場所も旅する路も忘れて終おう今夜限り
紫陽花
時の静寂を縫い合わせ響き忘れて蜘蛛の糸に似て幾筋もの
雨が始まる前の夏の色を探しながら流れて行く心の傷跡を
雲は強すぎる陽射しを優しく隠して光りは静かに降り来る
雨が暖かく抱き込むやわらかな微笑みに似て咲いた紫陽花
俯けば背中は泣いて居る様で振り返れば雨の雫が伝うだけ
抱き寄せれば傷つけそうで知らない素振りでも心は乱れる
ひとつになれない夜と別れられない朝とその色で知らせて
雨待ち顔の時を慰める束の間の言葉が欲しかっただけの夏
歳時記
子供の頃に仕舞忘れた玩具箱の中のお伽噺の様に夢を観て
独り夜更けに取り出す煙草に似て灯す炎に絡む紫煙に似て
お前の影を探すのは何時もの悪い癖そんな風に言い訳して
独り言闇に墜ちて消える間際心の透き間に冷たい風が吹く
きっと観た夢は目覚めて忘れて来た様に繰り返し同じ事を
今夜も明日の夜も戯れに憧れてみるそんな夜にとけ込んで
乱流
髪は乱れぬ様に震えて瞳は切りつけぬ様に輝き紅を引き乍
声を殺し躯で泣き叫ぶ鏡に映るお前を見つめて背中を抱き
細い首筋に牙をむく俺を欺き優しい接吻で騙す事も出来る
胸に舞わした此の腕で静かにお前の細首を絞めて終おうか
それとも優しい愛撫で騙し切ろうか俺が夢から目覚る前に
捨てたいものとしがみつきたいものと気づいて仕舞う前に
魅事為月
雨に抱かれた後の萩雫に射す光は虹の数を忘れた闇の中で
蟠りの理由を確認様に覗き込む瞳の奥で心に覆いを掛けて
六月の花火は雨の中で… 火玉は傘の中で… 煙は闇に…
昔話を湿った風に乗せて明日の夢が立ち止まる今日は今日
爪先は影に怯える光り… 絶えかねて墜ちる夢支え切れづ
溜息さえ悩ましい妖しさは熱に代わる視線を隠し夜は徒然
幾重もの雲襞に沿って碧い月には姿もなくただ見えるだけ
暖かく抱き寄せて重たく押し倒す様な闇の流れに魅事為月
聖 紫