#463/1336 短編
★タイトル (KCH ) 95/ 5/28 19: 7 ( 55)
お題>「博物館」 そあら
★内容
太陽が西に傾き、夜の帳が訪れる。
そんなときに、奇妙な建物を見つけた。
外見が「奇妙」なのではない。
ただ、その建物に立ちこめる雰囲気がどことなく街にそぐわないものだったのだ。
しかし誰かに誘われたかのように、いつの間にやらその建物の扉を開けていた。
中は明治洋風の内装が施されており、白熱灯の明かりが薄暗く玄関ホールを照らし出
していた。
人がいないか回りを見渡すと、ある扉の傍らに「順路」という表示板があった。
ここは博物館か美術館なのだろう。
それ以上深く考えずに、その「順路」を進みはじめた。
扉を開けると、壁にたくさんのパネルが展示してあった。
一番扉側にある絵は、刀を振りかざした一人の侍が何本もの銃剣で刺されている絵で
あった。しかし、その銃剣に刺されている侍の顔は黒く塗り潰されてあった。
どういうことを表した絵なのか。
そう思い、絵の題名を探してみたが、それらしきものは見つからない。
しかたがないので、不思議に思いながらも次のパネルに移った。
次の絵は2、3世代前の偉い人が着ているような服装の人物がくすんだ群青色の服を
きた人からナイフで刺されている場面だった。
これまた二人の人物の顔は黒で塗り潰されていた。
そのまま進んでいっても、絵の場面は変わらなかった。
描かれている人物は違うのはわかるのだが、顔のほうになるとすべて黒く塗り潰され
てある。
どうしてこんなことをしているのだろう?
そんな気を持ちながらも、次なる扉を開けた。
この部屋もモチーフとしては変わらないようだ。
変わったのは、絵から写真になったこと。
それと、死にゆく人々の顔がカッターか何かで削られているということ。
見進んでいくうちに、一枚の写真の中で死んでいる人々の数がみるみるうちに増えて
いき、次の部屋への扉のそばにある写真にいたっては、写真一杯に死体が写っていた。
そのすべての死体もまた顔が削られていた。
顔を削る意図は何なのかますます疑問は深まっていた。
その疑問の答えは次の部屋を見てわかったような気がした。
壁一面に人間の顔がびっしりと張り付けられていたのだ。
思わず一歩後ずさる。無理矢理気を落ち着かせて、まじまじと壁を見つめる。
それぞれの顔にはいろいろな表情があった。
大半は苦悶の表情なのだが、一部穏やかなものもある。
その顔の持ち主がどういう気持ちで死んでいったのか。
それぞれの顔が如実に物語っている。
まだ死にたくない。
もう少し生きていたい。
疲れた。
もう終わりだ。
やっと死ねる。
楽になった。
自分はどんな気持ちで死に至るのだろう。
顔の表情を見ていくうちに、ふとそういう疑問が沸いた。
いろいろ考えているうちに、いつの間にか私は建物を出ていた。
気付いたときには、通り慣れた商店街を歩いていた。
三日月が星の見えない黒い空を白く切り抜いていた。
<了>