#129/1336 短編
★タイトル (WMH ) 93/ 8/30 6:45 ( 29)
水/有松乃栄
★内容
記号としての水。
水がなければ、生きていけない。
それはわかっているんだ。僕には、水が一番必要だということ。ありとあらゆ
る、どの肥料よりも、僕が求めているのは、水。
水が欲しい。
水という存在、その形を融合させたい。
記号としての水。
形の上での、偽物でもいい水が欲しい。そして、その水を使いたい。
僕の名前はゴムホース。
庭やガレージの蛇口に、怠惰に何重かに巻かれている、それ、そのものだ。
僕は、水が欲しい。水道用のゴムホースとして、生まれてきた僕にとって、水
は自己表示でも、存在証明でもある。水がなければ、僕は、水のない、中途半端
なゴムホース。
例え、長く使われることなく、いつもその内部が渇ききっていたとしても、水
を受け入れていたという形、そう、その形跡が僕は欲しかった。
けれど。
僕は、ゴムホース。
使われることなく、その一生を、よりによって焚火の炎に照らされることにな
ろうとは。
異臭を放ち、朽ちていく哀れな姿を、この、僕の持ち主の前にさらけ出すこと
になるとは。
さぞ、悲しかろう。誰が、そう思ってくれるだろう。
ゴムホース。
僕は水が欲しかった。
(終わり)