#112/1336 短編
★タイトル (YBB ) 93/ 8/18 11: 6 (141)
沖田総士 一久
★内容
やはり、殺さねばならない.....
この惨状を目の当たりにして歳三は自分の決意が正しかったことを確信した。
新選組局長、芹沢鴨の眠る「離れ」へ踏み込んだ土方たちは、あまりの光景に慄然とす
るしかなかった。
どうすればこんな殺し方ができるのだろうか?
頭蓋が瓜のように、「4つ割り」にされて土間にころがっていた...
会津中将の密命を受けて芹沢暗殺に乗り込んだ土方達。
だが、そこには「先客」がいた....
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総士の刀が一旋する度に、肉塊のちぎれ飛ぶ音、血の叫ぶ風。
断末魔の悲鳴さえもない、死神の業が繰り返される...
もはや、何人いたのか、人間であったのかさえも判然としない、肉と血のぬかるみの中
で、悪魔は涼しげな声を投げかけた。
「さあ、楽しませてくださいよ...芹沢さん。」
座敷の奥にうずくまっていた、もう一匹の野獣がゆっくりと起き上がる。
暴風が巻き起こる。
芹沢自慢の居合が沖田の頭蓋を横一文字に両断していた。
そして、肉塊が血を伴って落下する。
沖田は、鼻下を掠める距離で刃を見切り、同時に芹沢の左手を切り上げていた。
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バケモノめ!...
刀を奮う右手を切るのではなく、腰にあてた左手を切るなどと人間の業ではない。
「猫」と言われた土方の目だけが、ようやく二人の動きを暗闇にとらえることができる
ようになってきた。
今踏み込めば、死ぬ...だが...勝機はある...
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沖田は愉悦に浸っていた。
「肋一寸」を豪刀が切り裂さく。
恐怖と衝撃に続いて、血が沸きだし、痛みが快感を高める。
その楽しみを沖田に教える度に、芹沢は手足を失っていく。
むろん、総士は芹沢の剣を見切っているのである。芹沢に勝ち目はない。しかし、もし
自分が足をすべらせたら?、汗が目に入ったら?、なにか予期せぬことが起こったら?
芹沢の剛刀は、間違いなく自分の命を奪うであろう。
その緊張の快感を最高の快楽にしているのが、沖田総士という化け物である。
しかし、その時も終わりに近づいた。
そして、土方歳三が近づく...得意の忍び足で...
手足、目耳を切り落とされ、刀を握った右手だけになった芹沢を前に、血だらけになっ
た沖田は、有終の美を飾る「切り方」を思案している。
「総士、仮にも新選組局長だ。正面から切るべきだな...」
それしかもはや楽しみようはないな、という表情で沖田はうなずく。
芹沢の右手はなお生きている。正面から切り込めば、殺気を感じて最後の力を振り絞り
、横殴りに切り払おうとするであろう。
速さの勝負を競うことになる。
上段に構えてじりじりと近ずく沖田。芹沢は居合に構え直して間合いを図っている。今
なお牛をも一刀のもとに斬る力を持っているであろう。
「人斬りほど、楽しいものはないなぁ...」
最高の幸福感の中で沖田は思っていた。
このとき、土方が抜刀していることに、総士は気付いていただろうか.....
虫の音.....鈴虫....か.. !!!
総士の剣は、芹沢の頭蓋を二つに割ったばかりか、総士を両断せんとして振るった芹沢
の右手をも同時に切断し、さらに骨盤までも切り裂いて畳に深く切り込んだ。
と同時に、土方歳三は満身の力を込めて、2尺8寸の長刀を、沖田総士の背中に突きさ
していた。
切っ先が背骨を傷付けた手ごたえを残して、刀は総士の背肉と羽織を切り裂いていく。
これさえも躱せるというのか...恐怖...死か!
そう、さすがに沖田も予期していなかったと見えて、体をひねって振り返りざま反射的
に繰り出した剣は、土方を一太刀で絶命させるべき斬撃であった。
遊んでいる余裕はなかったのだ。
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土方は生きてこの「離れ」を出た...
彼の命を救ったのは、切り落とされた芹沢鴨の右手から飛び出した刀であった。偶然、
土方の身を守る位置に落下してきたのである。
事態を悟って、きょとんとする沖田。
やがてその肩が小刻みに震えだす。
「クックックック...楽しい!..楽しいですねぇ、土方さん...」
「あなたとなら、もっと楽しめそうだ...もっと、もっと楽しませて下さいよ・・」
「キャハハハハ! きゃきゃきゃきゃははは! イィッヒッヒッヒッヒッヒ!」
出ていく沖田の背中を見送りながら、歳三は改めて思った。
やはり、殺さねばならない...
沖田総士が、労咳に似た症状を煩うようになるのはこれからすぐのことである。
土方歳三は医薬に通じていた。
END