AWC 「死期」  井上 仁


        
#111/1336 短編
★タイトル (VHM     )  93/ 8/15   3:15  ( 93)
「死期」  井上 仁
★内容

                「死期」


 このごろ、俺は街を歩くのが楽しくてしょうがない。
 いつごろからだったか、とか、どうしてか、とかいうのはちょっと覚えていないが、
とにかくそのころから、単なる土木作業員の下っ端をするだけだった俺の毎日は、一
転した。
 他人の死ぬ時が、わかるのだ。
 それもなんとなくではない。目に見えて、そう、まさに目に見えてとは適切な表現
だ。なにしろ、街を行く全ての人々の頭上に、残りの命が秒単位までデジタル表示さ
れているのだから。
 それが見たくて、今日もこうして街中をほっつき歩いているわけだ。
 じろじろとみつめる俺を気味悪がってだろう。だれも俺の方を見ようとしない。そ
んなことはおかまいなしに、観察を続ける。
 ・・・このおやじ、30歳そこそこだろう。おーお、背筋伸ばして。こいつが、あ
と・・・えっと、2年ぐらいしか生きられないと知ったら、どんな顔するかな。
 ちなみに、「・・・えっと」は時間を年数に計算しているところ。これでもだいぶ
慣れてきて、直感で換算できるようになった。
 俺は何度も、今みたいに人にそいつの寿命を教えてやろうと思うのだが、まあどう
せ信じないだろうし、さすがにかわいそうすぎ・・・あ。
 あらま。
 あのちっちゃい娘の手引いてる若い女の人・・・もうすぐ死ぬ。
 俺は立ち止まり、心の中で三秒数えた。
 7,8歳ぐらいの少女を連れていた、女性の頭上に点滅する緑の表示が、0:00
と表示した。
 そのとき、銃声がとどろいた。
 弾丸は、女性の心臓部を貫いた。血を前方に吹き出しながら、衝撃で後ろに吹き飛
ばされ、倒れる。ほら・・・やっぱり。
 まわりにいた人々がおおげさな悲鳴を上げ、一瞬にして死体を中心とした輪をつく
る。手を引かれていた少女を除いて。
「・・・お姉ちゃん!」
 少女は、一瞬だけその場に立ち尽くしていたが、そう叫ぶなり、死体にすがりつい
て泣き出してしまった。お姉ちゃん、お姉ちゃんと繰り返しながら。少女のエメラル
ドグリーン一色のワンピースがみるみる血で染まっていく。
 しかし、どうやって死ぬかと思えば、まさか撃たれるとはね・・・なんか物騒な事
に巻き込まれたんだなあ・・・でもあの娘はかわいそうだなあ。べつに悪いことをし
た訳でもないのに・・・おや?へえー・・・あの娘、すごいね。寿命の桁が普通より
一つ上だよ。幸せ者だなあ・・・

 それにしても、まったく面白い能力だ。これで残りの人生、飽きないな。
 しかも、面白いばかりではない。この間なんか、命を救ってもらったのだ。
 俺が長い鉄橋を渡ろうとして、ふと鉄橋を向こうまで見渡したとき。鉄橋の上にい
る人たちの寿命表示が端から端までほとんど全員、00:04なのに気づいたのだ。
あれは壮観だった。俺は全力でその橋から離れた。
 四秒後、大音響が耳に飛び込んできた。橋げたの全てが同時に大爆発し、橋が一瞬
にして崩れ去った音だった。そんな大胆なことをやった犯人は、まだ捕まっていない
らしい。
 もしあの時、俺にこの能力がなかったら、俺は確実に死んでいた・・・
 そう考えて、俺は身震いをした。ここは自分の家。夜の静けさ。俺は冷たいビール
をすすった。やめやめ。もっと楽しいことを考えよう。
 しかし、その決意とは裏腹の考えが、俺の脳裏にふと、浮かんだ。
 ・・・俺は、いつ死ぬんだろう・・・?
 一般人と違って、それを確かめるのは俺にとってたやすい。鏡を見ればいいのだ。
 しかし、自分の死ぬ時を、知ってしまったら?
 長生きできるのならいいが、いや、それでも、しかし、もしあと一年ぐらいだった
り・・・いやそれよりも、もし、明日とか、だったら、あーでも、せっかくの能力を
使わないのはもったい・・・いや、そんな問題じゃない・・・でも、しかし・・・
 それからたっぷり10分、恐怖と好奇心とを戦わせた結果、俺は立ち上がった。
 引き出しから雑誌大の鏡を取り出し、ひと呼吸おいて、鏡を表にした。

 ・・・・・・ふう・・・

 失望と安堵のいりまじったため息。
 なにもなかったのだ。俺の頭上には。
 くっそー・・・自分の命は見えないようになってるのか・・・それならそうと教えて
くれよ・・・今までの緊張感はどうなったんだ・・・
 俺はなんだかイライラしてきた。えーいもう、気分直しだ、気分直しっ。
 残暑のせいで、蒸し暑い。風が身体にまとわりついてくる。
 そういえば、さっきのは最後の一本だったんじゃ・・・ま、散歩がてらに買いに行
くのも悪くないな。
 俺はそれでも一応、台所へ向かった。


「あ、ほらほら、ここよ」
 電灯から遠い夜道を、二人の女子高生が歩いてきて、明かりのついた一戸建ての前
で立ち止まった。
「ここ?確かに電気はついてるけど・・・」
 その家を指さしながら、一人が言う。
「そうよ。いい?ここに住んでた男の人は、もう半年も前に車にはねられて無くなっ
てるの。それでも夜になると、誰もいないはずの部屋に突然電気がついて、しばらくた
つとまた消えるのよ。まるで誰かが生活しているみたいに・・・わっ!!」
 彼女の突然の大声に、もう一人がびくっ、と身を震わせる。
「きゃん!!・・・もう、びっくりさせないでよ。心臓に悪いよぉ・・・」
「ははは、ごめんごめん。まえちゃんって、ほんとにこういうの弱いねえ」
「ただびっくりしただけだってばぁ・・・きーちゃん、もう帰ろうよぉ・・・」
「そうね。そうしよっか」
「うん・・・ねえ、きーちゃん」
「え?」
「あれって、やっぱり・・・」
彼女の視線を追うまでもなく、まえちゃんと呼ばれた少女は答えた。
「幽霊よ」





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