#98/1336 短編
★タイトル (VHM ) 93/ 7/31 4: 7 ( 36)
「手紙」井上 仁
★内容
「手紙」
井上 仁
俺は壁の大きな柱時計を見た。11:53を指していた。外の暗闇からは、なんの音
も聞こえては来ない。
明日は、世界が滅びる日だ。
他の人たちは皆、息をひそめてその瞬間を待っている事だろう。あと7分後にやっ
てくるその時を。もちろん、心を好奇心で染め上げて。
俺以外のおそらく全ての人は、その時を、微塵も恐れていなかった。
今日会った俺の知人は余さず、手紙を受け取っていたからだ。
差出人など、どうでもよかった。その内容が、彼らの恐怖を消し飛ばした。
『我らは助かる』
しかし。
俺にだけは、その手紙はやってこなかった。なぜだ。俺は助からないと、いうのか。
そうだ、俺は死ぬんだ。世界の終わりだ。誰も死なない方がおかしい。俺はみんな
の身代わりに、世界の終わりを一人で背負って・・・ちくしょう、差出人め。呪って
やるぞ。呪って・・・いや、呪いません。手紙をくれたら一生感謝し続けます。だか
ら、ああ、だから・・・
・・・まだ、まだだ。
俺は残りの7分に、賭けざるを得なかった。
俺は、恐怖に震えながら、それでも息を殺してじっと、待った。
コトリ、外の郵便受けが鳴った。
−−−11:59
俺は外に飛び出した。郵便受けには、一枚の封筒が入っていた。
間に、合った。
俺は封を破って中の手紙を見た。そこには、たった一行。
『彼らは助かる』
柱時計が、時を厳かに告げた。