#74/1336 短編
★タイトル (DRH ) 93/ 7/ 1 8:55 ( 58)
「孤独」/Tink
★内容
言いようもない程の孤独感を覚えて、僕は目を覚ました。
こじんまりとした、ワンルームマンションのベッドから身体を半分起こして、壁掛
けの時計を横目で見てみると、すでに夕方の六時になっていた。
どうやら文庫本を読んでいるうちに、いつのまにか眠ってしまったようだ。
僕は、寂しさをごまかす為にTVのスイッチを入れてみるが、どのチャンネルも、
ニュースキャスターが事務的な口調で、今日の出来事をまくしたてているだけだから
なのか、胸の内の寂しさは消えることは無く、かえって大きくなっていくような感じ
さえした。
どうしてこんなに寂しいのだろうか? こんなことは初めてだった。
高校を卒業して、関西の美大をストレートで合格した時から始めた独り暮らしなの
だけれど、友達もほとんど出来ないまま一年が過ぎようとしている。
それでも今までは、寂しいなんて思ったことがなかった。
自分のしたいことと、しなければならないギャップや環境の変化で、めまぐるしく
過ぎ去って行く毎日についていくだけで、精一杯だった。
今はもう、何もする気が起こらなかった。
僕はベッドから這いずるようにして抜け出すと、台所の方へと向かう。
冷蔵庫の中から冷えた、ハーフボトルのワインを取り出して、一気に飲み干すと、
少し気分が楽になったような気がした。
炬燵の上に置いていたマイルドセブンの箱の中から、タバコを一本取り出し、口に
くわえてから火を付ける。タバコから立ち上っていく紫煙を何気なく見ていると、慌
ただしかった数ヶ月間の事を思い出していた。
何をするにも自分だけが頼りで、助けてくれる人なんて一人としていなかった。
そんなことを考えていると、重い雰囲気の泥沼にはまって行きそうで。実際嫌な事
ばかりが頭の中で渦巻いていた──。
僕はしばらく、そのままベッドに放心したように座っていたが、気分を変えようと
思い、外に出かけることにした。
簡単に身支度を整えて、家を出ようとした。しかし、まるでドアの向こう側に、な
にかがつっかえてでもいるかのようにドアは開かない。
僕は、渾身の力を込めてノブをひねりながらドアを押す……。何度やっても無駄だ
った。ドアの覗き窓から外を伺ってみるが、廊下の照明が消えてしまっているのか、
漆黒の闇以外に、何も見えなかった。
何かが変だった。妙な静けさでとても耳が痛い。
しっとりと汗ばんだ掌を握り締めると部屋の中に戻り、締め切ったカーテンを開け
てみる。そこに見えるのは、いつものように広がっている風景では無く、ドアの外側
と同じような漆黒の闇だけが存在していた。
TVやラジオを付けてみるが、さっきまで確かに受信されていた放送は写らず、や
けに耳障りなノイズの音だけが部屋中に響きわたる。気が狂いそうだった。
AVラックの隅に置いている、コードレスフォンの子機をひったくるようにして取
ると、実家の番号を夢中でプッシュする。しかし、断線でもしているのか発信音すら
聞こえなかった。
僕は、子機を力一杯に床に投げ付ける。すると、タイミングを見計らったかのよう
に部屋中の明かりが消えてしまった。
じわりじわりと襲ってくる恐怖感で胸がヒリヒリと痛む。自分でも段々と正気を失
って行くのが分った。
僕は、わけの分らない言葉を発しながら、炬燵台を窓のほうへと投げ付ける。
割れた窓からは、目に見えない闇が滑り込んで来て、僕の体を取り巻いた。
後は、ただ漆黒の闇だけが残り、僕は二度と目覚めることは出来ないだろうと消え
て行く意識の片隅で思った。
自我の崩壊と共にその生命体の世界も閉じ、
後はただ、虚無だけが残る──。
Fin