AWC N君からの手紙           もつお


        
#65/1336 短編
★タイトル (BBH     )  93/ 6/19  23:57  ( 97)
N君からの手紙           もつお
★内容



1993年5月26日消印、N君からの手紙

「今まで何度となく君に手紙を書いたし、何度となく君からの手紙を受け取った
けど、なんて書き始めたらいいのかは、まだよく分からない。変な話し、手紙な
んて書かない方がいいとよく思う。でも、今回はちょっと違うんだ。今までの愚
痴だけを書いたものじゃない。まあ、いいや。

 いずれにしても、元気にしているかい? どうも奇妙な感じがするね。直接会
えばいいのに、こんな風にしか言葉を交わすことができないんだ。僕もそうだけ
ど、君もそう思っているんじゃないかな?
 高校二年の新学期が始まってもう二カ月近く経つけど僕はやっぱりクラスにな
じめないよ。なんでだろうね? クラス替えをやってくれれば僕も少し希望を持
てたんだけど、でも、同じことかもしれない。僕のことをしっている奴がクラス
の中に一人でもいれば同じことなんだ。結局、毎年、何も変わらないんだ。僕も
変わらないし、周りの人間も変わらない。僕はあいかわらずクラスの人間から無
視されているし、クラスの人間はあいかわらず僕のことを無視する。よく思うん
だ、いじめてくれるのならそっちの方がいいんじゃないか、ってね。いや、やめ
よう。たぶん、そっちの方がつらいんだろうから。
 真綿で首を絞める、とかいう表現があるみたいだけど、それが僕には当てはま
るみたいだ。おはよう、って僕が言っても、シーン、と沈黙しか答えてくれない
んだ。中学のときもそうだったね。僕がおはようって言えるのは君しかいなかっ
たし、君も僕以外におはようって言って返事が返ってきたことなんてないだろ
う? ばかにしてるんじゃないんだ。ただ、そういうことだよ。
 サッカーやってもそうだった。必ずディフェンスしかやらせてくれないしね。
ボールがたまに来たら、ポーン、って向こうに蹴ればそれでよかったんだ。失敗
してもちゃんとした奴がキーパーやってるから責められもしないし。期待なんて
最初からされてないけど。下らない思い出しかないけどさ、よく思い出すよ。二
人でぶらぶらゴール前にボーっと立ってボールが来るのを待ってだべってたりし
てたのを。最近はよくさ、Jリーグとかいってプロが試合してるけどさ、中学校
のときじゃそんなにうまいフォワードがいたわけじゃないし、高校でもそうだけ
ど、ただゴール前で待ってって、ボールが来たら、ポーン。それでいいんだ。で
もさ、おぼえてるだろ。中学のときさ、二人でディフェンスやってって、まあそ
れなりに上手い奴がボールもって攻めてきてさ、二人がかりでボールをとりに
行ったらなんだか本気で怒っちゃってさ。邪魔なんだよ、おまえら、ふざけん
じゃねーよ。いつも、そうなんだ。邪魔なのかな?
 なんか昔の話しばかりになっちゃったね。今のことで話すことなんてないんだ。
昔と同じさ。ただ、今は僕一人だ。君もいないし。友達(この言葉に触れると涙
が出そうになる)もいないし。学校に行っても、一人で机に座って、休み時間は
必ずトイレに行くんだ。そうでもしなきゃ、時間が過ぎていかない。で、トイレ
に行ったら、職員室の前まで行くんだ。どうしてかって? 中学のときと同じ理
由だよ。ただ、行って、また、教室に返ってくるんだ。運がよければちょうどそ
のときにチャイムがなる。まだ時間があまってれば、ただ机に座ってるだけ。そ
れで、昼休みになるのを待って、校舎裏に行くんだ、そこに誰もいないのを確認
して。そこでお弁当を食べる。給食のときはよかった。そういう時間なんだ、
黙って食べてりゃいいんだ。一日が終わったらすぐ帰るよ、やることがあろうと
なかろうとね。ゲームセンターによることもあるけど、学校のそばや地元のゲー
ムセンターには絶対行かない。駅を三つぐらいずらす。ばかみたいだけど、この
前の手紙を読んだら君もやっぱり地元のゲームセンターには行かない、みたいな
ことを書いてあって、なんか僕たちはどこか似てるんだろうね?
 昨日お母さんとけんかしたよ。大学行くのか行かないのかでね。お母さんはど
こか勘違いしてるんだ。大学に行けるのか行けないのか、なんだよ。それで、本
当のところは、行けるはずがないんだ。僕の行ってる高校から大学なんてまとも
にねらったってしょうがないし、僕はどこに行っても偏差値が四十前後なんだ
(不思議だよね。僕は偏差値四十でいける高校に行ったんだ、と言うことは、高
校の偏差値が五十ぐらいになってもおかしくないんだ、それでも四十。面白いも
んだ)。僕はだから言ったんだ、就職するって。でもさ、大学に行かないなら、
せめて専門学校ぐらいは行けって、お母さんは言うんだ。結局、あなたは何をし
たいの、ってことになったんだけど、別に何もしたくないよ。そう言ったんだ。
僕は何もしたくないし、何にもなりたくない。時間が過ぎて行くのも最近は耐え
られないんだ。かといって、ずっと今のままでいたいはずもない。
 いろいろ考えたけど、今までこんな形で手紙のやり取りをしてたけど、これが
最後になると思う。楽しかった。手紙をはじめなさい、と言ったカウンセラーの
先生が正しかったのか、間違っていたのかは分からない。そうだろ。先生には先
生の立場があって、僕には僕の立場があるんだ。しってるかい? あの先生は立
教を出てるんだ。立教だよ。僕らとは住む世界が違うんだ。事務の女の人とは楽
しそうに話しをするし、しゃれたスーツを着てるし。何より、僕らと違ってかっ
こいいし、背は高いし、汗くさくないし、メガネもかけてないし、友達もいるだ
ろうし。でも、あの人は結局あの人で、僕は結局僕で、君は結局君なんだ。気に
してもしょうがないんだろうね。
 まあ、いいや。これは僕にとって重大な決断なんだ。少し前書きが長くなった
けど、かんべんしてくれ。僕はこれを君に伝えたかったから手紙を書くことにし
たんだ。そうじゃなかったら、手紙を書くなんてことはやめてたと思う。
 なんで、書き出せないんだろ。よし。僕はね、死のうと思うんだ。不思議なん
だ。そう考えると、ごはんもおいしいし、よく眠れるんだ。どうやって死ぬかは
決めてあるんだ。中学のときに冗談で話したけど、睡眠薬が僕の机の中にある。
いまこうやって手紙を書いていても、その机の引き出しには睡眠薬の大瓶が入っ
ている。僕はそれを飲もうと思う。君以外には誰にも言う気はないし、遺書も残
さない。遺書って言うのも変だけど。一つ嫌なのは、ワイドショーとか週刊誌と
かで取り上げられるのかなー、ってことだ。でも、大丈夫かもしれない。僕はい
じめられてたわけじゃないし。ただ、忘れられてただけなんだ。誰も気にも止め
ないかもしれないね。そう考えると、ほっとするけど、淋しい。
 いろいろありがとう。とにかく、僕は死ぬ。そう決めた。たぶん、この手紙を
これからポストに入れにいくけど、その後すぐに死のうと思うんだ。だから、こ
の手紙を君が読む頃には僕はもう息をしていないと思うし、テレビで先に知るこ
とになるかもしれないね。それじゃ、元気で。

PS 冗談じゃなくて、最後に女の子とやりたかった。」





めずらしく長い手紙だな。まあ、それにしても、N君も死ぬことにしたんだ。





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