AWC 「よく・ある・話」−女優−  写愚


        
#64/1336 短編
★タイトル (ZBF     )  93/ 6/17   3:28  ( 44)
「よく・ある・話」−女優−  写愚
★内容

 カフェ・テラスの午後六時、女がボンヤリとした顔で座っている。灰皿には
Moreのメンソールが六本、八十mm程を残して、揉み消されている。歳は三
十少し前、大きく開かれた二重の目に、薄黒い隈が出来ているのが厚い化粧の
上からも見える。深い紅のルージュを引いたフックリした唇は半ば開き、冷め
た紅茶で濡れている。暑い。テラスの床からは陽炎がたち上っている。
 夜に抑えつけられ、太陽が真っ赤になって震えている。女の頬は、西日に燃
えながら、深く沈んでいる。女は八本目のMoreを揉み消した。後れ毛を、
ユッタリと掻き上げた。一瞬、目つきが鋭くなる。が、すぐに瞳のキラメキは
消え、澱む。チラリと女はリスト・ウォッチに目線を走らせる。ため息を一つ
つくと、腰を浮かせた。俺は思い切って、声をかけた。

 「お連れの方は 現われませんでしたね」
 「え えぇ」女は数秒だけ驚いたようだったが、落ち着いて腰を落とした。
 「私でよろしければ ご一緒させて戴けませんか」
 「よろしいですわ どうせ誰でもよかったのです
  でも 何故 私が…… どうして お解りになったのですか」
 「遠くから こんな所に やって来る人の目的は決まっています」
 「まぁ ふふふ どうして遠くからと?」
 「失礼ですが この暑い季節に 昨日から 服を換えていませんね
  しかも こんな時に…… ヨレヨレですよ」
 「どうせ汚れた肉体ですもの それに海が奇麗にしてくれるから」
 「岬の先まで歩いて十五分程かかります そろそろ行きますか」
 「そうですわね 闇に飲み込まれるよりは 輝く波に…… 参りましょう」
 「えぇ」
 「どうして お声をかけて下さったの」
 「待ってたんです あなたのような方が現われるのを 毎日通ってきては」
 「毎日 ふふ 本当に あたしなんかで よろしいんですの」
 「この上ないことです こんなに 美しい人と一緒なんて」
 「まぁ お上手ですこと」

 二人は昔からの恋人同士のように、岬の道を歩いて行った。身の上話を交わ
しながらブラブラと。先端に着いた。二人は、どちらからともなく見つめ合っ
た。
 「待てっっ」一人の男が猛然と駆け寄り、飛び掛かってきた。
 「幸一さんっ」女が驚き叫んだ。俺は頭が空白の侭、突差に彼女を庇い身を
かわした。
 「うぅわあああああぁぁぁぁ」男は絶叫と共に遥か下方の海へ落ちていった。

 「あなたとなら やり直せそうな気がする」暫らく海を覗き込んでいた二人
は、顔を見合わせた。どちらの声か解らない。或いは、どちらも声に出さなか
ったのかもしれない。二人は崖を離れ、闇の中を、街へと戻っていった。

                            (お粗末さま)




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