AWC 「よく・ある・話」−突堤−    写愚


        
#61/1336 短編
★タイトル (ZBF     )  93/ 6/13  20:24  ( 28)
「よく・ある・話」−突堤−    写愚
★内容

揺れる舟、橙色の光を放つ常夜灯、漂う潮の香。
海はコンクリートの岸壁を叩き、タプタプと音を立てている。
今夜の港は、妙に悲しい。

 青くムクんだ死体が波に弄ばれながら、岸に近付いてきた。お決まり通りに
服は着けていない。何週間も漂ううち、波に脱がされてしまったのだろう。男、
のようだ。
 別に驚くほどのことではない。この岸壁の下には夜の闇に紛れて飛び込んだ
車が何台も沈んでいる。たいていは心中。尤も殺人だとしても、水死じゃ証拠
は残りにくい。「完全犯罪」を目論むなら、こいつに限る。まぁどっちにしろ、
俺には関係ない。
「心中かい? 相方は どうしたんだ」俺は男に呼びかける。
「…………」
「車の中に置いてきたのか 薄情な奴だ 女は浮かばれまいよ」
「…………」ガクッと男の口が、いや顎が開いた。肉が耳まで裂けていやがる。
白い歯並びが笑っているようだ。頬の辺りもピクピクしている。どうやらタチ
ウオや小魚に潜り込まれているらしい。
「死人に口無しか…… おい 何とか言えよな」

 どこからともなく、深く響く声が降ってきた。
「……ボク ドラゥヱモン」男は頭にプロペラを着けると、ザバザバと水を滴
らせながら、北極星へと飛んでいった。
 フッ、疲れていやがる。飛んでいく男から慌てて目をそらせ、再び海を見下
ろす。すると、そこには白ムクんだ顔の、膨れ上がった全身を、赤く染めた女
が……。

         「よく・ある・話」−突堤もしくはドルゥアミとの夜−了




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