AWC そばにいるだけで 43−4    寺嶋公香


        
#4990/5495 長編
★タイトル (AZA     )  99/12/25   9:47  (200)
そばにいるだけで 43−4    寺嶋公香
★内容
「何だか……」
 町田が物珍しそうに学内を見回し、つぶやく。
「花園って感じよね」
 ある意味でその言葉は正しい。あちらこちらに花壇があって、しかも手入れ
が行き届いている。この季節でも花が楽しめる。
「本当に女の子ばっかりだわあ」
 制服に身を包んだ生徒達を見ながら、富井が当たり前のことに感心している。
それも仕方ないほど、学園の中は女の子女の子していた。
 飾り付けが全体に少女趣味がかっている。パステル調の絵の中にいるみたい
だ。看板の文字も全部が全部、丸っこく、かわいらしい。そもそも、出店のネ
ーミングからして、銀の雫だの百合だのリリカルだのと偏っているような……。
「嫌いじゃないけど、これだけになると圧倒されちゃうね」
 井口も嘆息混じりに言った。
 ただ一人、遠野だけはすんなり馴染めた様子。自分の描くイラストとの共通
点を見出したのかもしれない。
「とにかく、国奥さんと会わないと話にならない、っと」
 手の平で庇を作って周囲を見渡していた町田が、急に手を挙げ、激しく振る。
「おーい、国奥さーん。こっち、こっち」
「あ」
 国奥が気付き、おしとやかな小走りでやって来る。純子達も駆け寄った。
「来てくれてありがとう」
「本日はお招きいただき、どうもー」
 町田が深々と頭を下げた。台詞回しの方はもちろん冗談。
「いやあ、ほんと、昨日の晩は緊張したよ。雅な言葉遣いをしなきゃいけない
のかって思ってさ」
「あはは、そこまではないない。でも」
 国奥の表情が引き締まる。横目で辺りを伺うような視線を走らせ、続ける。
「先生の目は結構厳しいのよね。度を過ぎて騒がしいと、その場では怒られな
いけど、あとで、『あの人達を招待したのは誰ですか? まあ、あなたのお友
達は非常にご活発で、まるで殿方みたいですわね』なんて嫌味言われるの」
「おおー、それじゃあ男勝りの純は特に注意せねば。ねえ?」
 肩越しに振り返った町田に、純子はぼんやりうなずいた。
 町田も、富井や井口も、拍子抜けした風にぽかんと見返してくる。
「どしたん? 言い返してこないとは、熱でもあるとか」
「別に何もない」
 二の腕を揺さぶられて、純子はようやく返事した。空元気で答える。
「国奥さんが言った通り、先生に目を着けられないように、大人しくしてるだ
けですよーだ」
「何だかいつもの元気がない感じよ。どうかしたの?」
 心配げに眉を寄せる国奥。普段はほとんど顔を合わせないだけに、なおさら
気になる。そういうものだろう。
「ううん。本当に、何でもない」
「純ちゃんは相羽君に怒ってるんだよね」
 富井がずばり、切り込むように言った。
「私だって悲しいよー。あんな大事なこと、黙ってるなんて。いきなり過ぎる
よねえ」
「全然、相羽君にそういう素振りなかったもんね。ショック」
 井口もすかさず富井に同調する。国奥が戸惑い気味に皆の顔を見た。
「話が全く見えないんですけれど。何がどうなってるの」
 質問を受けて、井口が大まかなところを答える。
「詳しいことは分からない。同じクラスの純子に聞いた方が……」
「私もそれぐらいしか知らない」
 シャットアウト。純子は無理にでも笑って、早く案内してと国奥に頼んだ。
「それはいいけれど……じゃあ、今日、相羽君達は来ないのね?」
「え。ううん、分かんない」
 国奥からは相羽達男子も連れてきてほしいと言われたので、託された招待状
を渡すだけはしておいた。来るかどうか、明快な返事はもらっていないが、相
羽の様子から判断してあまり気が進まないようだった。
「外国行く準備で忙しくて、来られないんじゃないの」
 つい、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。自分でも分かっているから嫌
になる。みんなと視線を合わせたくなくて、景色を見やった。
「あの、でも……決めるのは一月まで時間あると、相羽君は言ってたじゃない」
 遠野が遠慮がちに言った。
 そんなことは承知している。その上で疑問がある。結論を先延ばしにしたと
して、何の意味があるのだろう。
(どうせ、行ってしまうんだわ。じゃなきゃ、隠してるはずないじゃない)
 今日は極端なマイナス思考に走ってしまう日らしい。純子はこめかみを押さ
え、瞼をきつく閉じた。三秒ほど後に開ける。気分はすぐれない。
「あら、もうこんな時間。とにかく行きましょ」
 唐突に国奥が言って、先頭を切って歩き始めた。
 風にちぎれて、葉っぱ達が宙を舞っている。

           *           *

 はっきり言って、来るつもりじゃなかった。純子や町田達から招待状を手渡
されたときだって、「多分、行けないと思う」と受け取るのを拒否しようとさ
えしたところを無理矢理握らされたくらいだ。
 それなのに来たのは、招待状を唐沢に見られてしまったことに原因がある。
 見られた瞬間は、特に何とも思わなかった。だからどういう招待状なのかに
ついても、過不足なく伝えた。
 すると――あれだけ勉強に打ち込むようになった唐沢のことだ、これは断る
だろうという相羽の予想に反し、唐沢は、「久々に女の子大勢と騒ぐのもいい
かな」と言い出したのである。
「違う学校というところに惹かれる。女子校だぜ、女子校」
「おまえ、受験勉強は」
「心配してくれなくて結構だよん。おまえには頼らないから、気にするな」
 さらに唐沢は相羽も着いてくるように要請した。
「だって、おまえが招待状もらったんだから、おまえがいなけりゃ話にならん。
入れてもらえないかもしれない」
「そんなばかな」
「いや、あり得る。お嬢様学校だから堅苦しいに違いない」
 呼び方が、女子校からいつの間にかお嬢様学校に変わっている。
「第一、俺は国奥さんていう女子を知らないもんな」
「ん? 会ってるはずだぜ。少なくとも……そう、この間の文化祭で」
「細かいことは言いっこなし。おまえの小学生のときの知り合いなら、おまえ
抜きで尋ねるのは気が引ける」
「気にせず、行ってくれてかまわないんだけどな。何なら、町田さん達と一緒
に行けば」
「……町田、さん達とねえ」
 意味ありげに笑い、次いで眉を寄せ、唇を尖らせる唐沢だった。
 丞陽女学園の学園祭に行った最終的な顔ぶれは、相羽と唐沢の他に五名を数
える大部隊となった。長瀬、柚木、勝馬、清水、大谷である。
 校門前まで来て、相羽はまだ逡巡していた。招待状の入れ場所を探すふりを
して、時間を稼ぐ。稼いだところで何にもならないと分かっていても。
「女子校だったら、問答無用でもてるんかな」
「俺は完全にそれ目当てで来た」
 勝馬と大谷が盛り上がってるのを前に、相羽は分からぬように嘆息した。
 清水と柚木の会話もこの手の話題だ。
「そういや柚木、おまえには彼女いるだろ。どういうことなんだよ」
「高校受験を理由に別れた。別れられたと言うか」
 意外にさっぱりした風に言う柚木。
「そりゃあ気の毒な」
「でもないけど。無理して続けることないだろ」
 相羽には理解しがたい話だった。
(そんな簡単にあきらめられるものなのかな……)
「あの受け付けの子、なかなかかわいい」
「いや、あれは子供っぽいね。受け付けやるぐらいだから一年だろうし。それ
よか、そこでクレープ売ってるショートカットの子」
「おお、美人」
 長瀬と唐沢は耳元に口を寄せ合い、小声で品定めしている。ともに身長があ
って二枚目だから、そんな所作でもさまになって見えるだろう。現に、幾名か
の女生徒が振り返ってひそひそ話をする姿が目撃できた。
「相羽。まだか?」
 招待状の催促。引き延ばしはもう限界を迎えたようだ。

           *           *

 不思議の国のアリスとピーターパン、それに宝塚歌劇の世界が同居している
ような喫茶だった。二クラス分はある大きな部屋に、整然とテーブルが並べら
れ、きれいな書き割りがそこかしこに置いてある。
 ウェイトレス役の生徒がそれぞれ自由な格好をしていて、一歩間違えると仮
装行列になりそう。でも、どことなく調和が取れているから不思議なものだ。
 昼食をすませたあと、機会を見て、国奥が純子に話し掛けてきた。
「相羽君のことなんだけれど、ちょっといい?」
「……」
 周囲の喧騒にかまけて、聞こえないふりをしようかなと思った。けれど、結
局はできなくて、短く返事する。
「ん。いいよ」
「彼さあ、何も言わずに行っちゃうつもりなのかしら」
「何のこと?」
「相羽君が好きな相手って、誰なのか気になるんだもの。その相手に何もアク
ション起こさずに行くのかなと思って」
「……さあ。国奥さんがそんなことに興味持つようになるなんて、女子校生活
はよっぽど退屈みたい」
 空っぽのカップの中を、スプーンでかき回す純子。
 国奥は真面目な顔のまま、口を開いた。
「実はね、私……相羽君に告白したことあるの」
「えっ?」
 今日、初めて素直な感情が表に出た。驚きを表情に乗せて、国奥をまじまじ
と見返す。しばらく声も出ない。
「あっさりふられたんだけれど」
「そ、それ、いつのこと?」
 勢い込んで尋ねる純子は、身を乗り出すようにした。国奥は落ち着いた様子
で両肘をつき、手の甲の台に顎を置く。斜め上を、焦点を合わせることなく見
つめている。
「もう三年近く前になるわ。小学校を卒業したあとの春休みにね。公園まで来
てもらって、思い切って言ったのよね」
「……断られた?」
 手探りの質問。国奥は笑って答えた。ただし、ため息を交えて。
「そ。好きな人が他にいるって。だけど、そのあとも相羽君、とっても優しか
ったんだよ」
 楽しい思い出話をする風な国奥。事実、そうに違いない。当時はいざ知らず、
今となってはいい思い出なのだ。
(その、好きな人って、私のことだったのかな)
 相羽の一途さを思えば、無理のない想像であろう。
(国奥さんがそのときふられたのも、私のせいになる……)
 重荷が増えたような気がする。気分転換になればと思って足を運んだ学園祭
だが、逆効果になりかねない話を聞かされてしまった。
「それでね。私思うんだけど、相羽君が好きな人って」
 国奥の言葉を最後まで聞かずとも分かっていた。以前から散々言われてきた
ことである。
 しかし、認めるのはためらわれた。昔ふられたという話を聞いたばかりだし、
そう何人にも言い触らすようなことでもない。だいたい、この場で話して万が
一にも富井達に聞き咎められたら、ちょっとまずい。今はうまく説明できる自
信がなかった。
「関係ないよ」
 決めつけるように言って、笑顔を国奥へ向ける。
「あいつが外国の学校行くのは、ピアノがやりたいからでしょ。好きな人どう
こうなんて、関係ない」
「そう……かしら」
「そうそう」
 納得していない国奥を、相づちを打つことで押し切る。
「これは相羽君の問題であって、私達には関係ないのよ。うん」
 純子はやおら立ち上がり、ウェイトレスの生徒に尋ねた。
「食器はこのままでいい?」
「はい、どうぞ」
 やわらかな声音とスマイルが返って来た。しつけの現れなのか、作り物でな
い自然さが感じられる。
「ごちそうさま。おいしかった」
「どうもありがとうございます」
 そんな純子とウェイトレスの会話を見上げていた国奥も腰を上げた。
「涼原さん、出るの?」
「ええ。かなり長い時間いたと思うし、そろそろ混み始めるでしょ」
 二人が席を立つと、他の友達四名も慌てた風に行動を起こす。
「行くのぉ? だったら、次は、遠野さんのリクエストで、童話研究会に行っ
てみよう?」

           *           *

――つづく




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