AWC キセキノカクリツ(β版)3/3 らいと・ひる


        
#4985/5495 長編
★タイトル (NKG     )  99/12/25   3: 8  ( 84)
キセキノカクリツ(β版)3/3 らいと・ひる
★内容

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「今日はクリスマスイブだね」
 病室の扉を開けると雪美はいきなりそんな事を言いだした。
「普段は無信仰なくせして」
 ぺしっと尚人は雪美の頭をはたく。
「いいじゃない。ナオトだって喜んで初詣行くじゃない」
 そういう問題じゃないんだけどな、と心の中で呟きながら左手に隠し持っていた
箱を彼女の前に置く。
「わかってるよ。ほらプレゼント」
 雪美の顔があからさまにほころんでゆく。
「開けていい?」
「あたりまえだ」
 彼女は嬉しそうにリボンをほどき、丁寧にラッピングをはがしていく。
「破っちゃってもいいんだぞ」
 尚人にとっては包装紙なんかより中身の方が大事だから、そんな言葉が出たのだ
ろう。だが、彼女は違った。
「尚人からもらったものなんだよ。リボンひとつ、ラッピングの紙一枚だって大切
なんだよ」
「そういわれると嬉しいけどさ」
 面と向かって言われると照れるものである。尚人は、静かにそれを見守ることに
した。
「わぁ! これ、高かったでしょ」
 箱の中には尚人が一生懸命選んだ、銀の指輪が入っている。それを見て彼女の顔
はますますほころんでいく。まるでそのままとろけてしまいそうな感じだ。
「値段は関係ないよ。雪美にあげたかったからさ」
 キザな台詞は思いつかないので、尚人は素直に自分の感情を言葉にした。
「うれしい。ありがとう」
 雪美は指輪をはめた左手に右手を重ね、それを胸の前で抱きしめる。
「今日は約束通りずっといてやるからな」
 そして、尚人はその肩を抱き寄せる。
「ごめんね。あたしからは何もあげられないから」
「いいよ。ユキミが喜んでくれればそれだけでいいって」
 それは、尚人の心からの気持ちだった。
「ごめん、尚人にはいっぱいいっぱい迷惑かけてるんだよね。わがままだってたく
さんたくさん言ってるし」
「それはお互い様かもしれないよ。俺だって昔はユキミに迷惑かけてたんだから」
「あたしね。最近、思うの。幸せ過ぎると不安になってくるって。だって、その幸
せがいつか壊れてしまうんじゃないかって不安が常にあるわけじゃない。だから、
あたしは奇跡を祈るの。この幸せが続きますようにって。でも、永遠に続く幸せな
んてない」
「大丈夫だよ」
「ゆき、降ってほしいのだって、不安だから。そういう奇跡でも起きてくれれば、
奇跡を信じられるようになるから。あたしは弱くて無力な人間だから……」
 雪美の言葉がふいにとまる。
「どうした?」
「ゆき?」
 彼女は窓の外を不思議そうに見つめる。
 彼も窓の外へと視線を移す。と、そこには雪と思われる白いものがちらほらと空
から舞い降りていた。
「うそ? こんなことってあるの?」
 雪美はその事態に驚いてまともに言葉が出てこないらしい。
「奇跡の方から近づいてくるか」
 尚人はマリーの言葉を思い出す。もちろん、これがマリーの粋な計らいによるも
のであることに気づいていた。
「なにそれ?」
 尚人の言葉に首を傾げる。
「とある知り合いの言葉だよ」

**

 病院の屋上に金髪の少女の姿が見える。彼女はフェンスを越えて、屋上の縁に腰
掛けていた。
 首には卵の形をしたブローチをさげ、右手には杖のような長い棒を持っている。
 背中には白い羽のついたバッグを背負っていた。
 ふと、こちらを向く。
 左手の人差し指を口元につけて「しー」と言っているようだ。
「内緒だよ。わたしにスキー場の知り合いがいなくて、降雪機をレンタルするほど
お金を持っていなくて、尚人さんにちょっとだけ嘘をついてたってこと」
 よく見ると右手の杖の下のあたりだけ、そこから雪が舞い降りている。
「うーん、尚人さんに嘘をついたってのは違うかもしれないな。だって、ほんとの
事を言ってないだけだもん」
 彼女は舌を出す。
「だから、秘密だよ。今日はクリスマスイブなんだからさ」







                       1999/12/25 β版





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