AWC そばにいるだけで 27−5    寺嶋公香


        
#4597/5495 長編
★タイトル (AZA     )  98/ 9/21  12:46  (198)
そばにいるだけで 27−5    寺嶋公香
★内容

 椎名と別れ、最初に約束していた友達との再合流を果たしてみると、何故か
メンバーが増えていた。
 と言うよりも、もう一つのグループと遭遇した折も折だったらしい。
 女子三名を連れた唐沢が、町田と何ごとか口論している。
「ね、ね。どうしたの」
 距離を取って立っていた富井の服を引っ張る純子。遠野はおろおろしている
のが明らかだし、前田は腕組みをして傍観を決め込んでいた。
「あ、純ちゃん、お帰りなさい。――見てよ、またもめてる」
「きっかけは何?」
 純子は二人の様子を横目で見つつ、聞いた。
 町田の方が突っかけて、唐沢は笑いながら受け流している感じだ。
「たまたま会って、唐沢君が今日は女の子だけかって言ったの。それを芙美が
悪く受け取ったみたいでさあ。『そっちこそ、昨日、今日でころっと相手をよ
く変えられるわね』っていう調子」
「なるほど」
 目に浮かぶようで、思わず吹き出しそうになる。それを我慢し、純子は町田
に声をかけた。
「芙美、もうよそうよ。今日はお祭りなんだし、楽しまなきゃもったいないよ」
「……」
 もはや喋り疲れていたのか、静かに口をつぐむ町田。
 代わりのように反応を示したのは唐沢だった。
「おやー、涼原さん、かわいいなあ! 何着ても似合う。特に浴衣はいいね」
 純子はすぐには応えず、接近してから耳打ちするような調子で言った。
「私にお世辞を言ってる暇があったら、みんなに気を遣ってあげて」
「……へーい」
「楽しくやりたいでしょ、唐沢君だって」
「もっちろん。じゃ、町田さんにはうまく言っておいて。俺だって悪気はない
んだぜ。見たままを言っただけなのに」
「うん」
 首肯して離れると、これ以上もめないように、素早く町田に着く。
 唐沢の話を伝えて、反応を待つ純子。少し不安で、手を胸元で組み合わせた。
 が、それは杞憂で済んだ。町田はにぎやかに去っていく唐沢達四人を醒めた
風に見ると、ふいっとそっぽを向いて頭を振る。
「分かってるわよ。ただね、あいつのやることなすこと、ちゃらんぽらんに見
えて、反発覚えるっていうか……。私以外の女子の言うことなら、何でも嬉し
そうに聞くところとかも気に入らない」
「それは芙美が」
 中途で話すのをやめる。折角収まりかけているのに、再燃させるような話を
向けることはない。
「終わった?」
 意外とのんきな調子で、前田が聞いてきた。腕組みを解き、微苦笑を浮かべ
ている。
「前田さん、黙って見てないで、止めてくれたらよかったのにー」
 純子が抗議すると、前田は肩をすくめた。
「ああいうときは徹底的にやった方が、後々いいのよ。少なくとも、私の経験
ではそう」
「……立島君と?」
「……ええ」
 短いやり取りのあと、純子と前田は、どちらからともなく相好を崩した。

 祭りがもうすぐ終わってしまう。
 期待していたのに、国奥と顔を合わせることはなかった。
(やっぱり、あらかじめ約束しておかないと無理なのかな。まだ会えるチャン
スはあるかもしれないけれど、偶然頼みだもんね。
 そう言えば、鈴木君、木戸君とも長いこと会ってない。元気にしてるかな? 
進学校だと忙しくて、お祭りどころじゃないのかしら……。男子の誰かが知っ
てないか、今度聞いてみようっと)
 今考えてもしょうがないことに思いを馳せていると、人差し指が急に冷たく
なった。
「あ――やっちゃったわ」
 注意がお留守になって、手にしたソフトクリームが溶け始めていた。
 慌てて浴衣をざっと見下ろし、クリームがどこかに付着しなかったかどうか
を確めにかかる。幸い、被害はなかったようだ。
 安心できてから、改めて指に付いた方をひとなめ。あとはちり紙で丁寧に拭
いておく。ちり紙を懐に戻す折に、指先がハンカチに触れた。
(そうだ。ハンカチ、返しそびれてるのよね。どうしよう)
 物がここにあれば、帰途、少し遠回りをして届ければいいのだが、実際には
家に置いたままだからできない。
 などと考えていると、またクリームがこぼれそうになる。急いで口を持って
いった。
「あの、涼原さん、大丈夫? 上の空みたいに見えるけれど……」
 斜め後ろにいた遠野から、声が掛かった。
「えっ? ううん、何でもない。あれ、他の三人は?」
「ゆっくり歩いてたから、少し離れてしまったみたい」
 目で前方を示す遠野。純子も同じように前を向き、見失う距離でないと知っ
て、安堵した。
「着慣れないから、なかなかうまく歩けなくて。遠野さん、付き合わせちゃっ
てごめんね」
「そんなこと……。それよりも、涼原さんに聞きたいことがあって」
「ん、何?」
 応じる純子は、不意に、顔をかすかにしかめた。ソフトクリームを大急ぎで
片付けようとしているものだから、こめかみが痛くなってきている。
「最近になって、また新しくなったけれど……『ハート』のコマーシャルに出
ている女の人、涼原さんに似てると思うの」
「――え」
 反応が遅れた。これは動揺なのだろうか、目をそらしがちになる純子。
「おかしな話をして、ごめんなさい。言われたこと、ない?」
 遠野はいつにない勢いを持って言葉を重ねる。響きこそ穏やかだが、この話
に熱心なのが表れていた。
 純子が返事に窮していると、わざわざ説明を加えてくれる。
「あ、知ってる? 『ハート』っていう缶飲料のコマーシャル……」
「え、ええ、もちろん知ってる。……似てるって言われたことはある、よ」
 答えながら、純子は西崎愛美からの手紙を思い起こしていた。
(あのときは手紙だったからお茶を濁せたけど、正面切って尋ねられると、ま
ずいよー)
 表情に出てしまってないかどうか気になるが、鏡があるわけでもなし。
「昔の話を蒸し返すけれど、涼原さんはモデルをしたことがあるのよね」
「う、うん」
 次に来るであろう質問を想像して、純子はいよいよ窮地に立った。嘘はなる
べくつきたくない。
「……」
 しかし、純子の緊張とは裏腹に、遠野は急に大人しくなった。純子が小首を
傾げると、ようやく口を開く。
「いいなあ。頑張ってね、応援してるから」
「は、はあ。どうもありがとう……」
 遠野の話の矛先が急転換したような気がして、純子は心中でほっと胸をなで
下ろしつつも、どこか釈然としない物を感じもした。
「もうそろそろ、追い付いた方がいいみたい」
 遠野がつぶやく。
 前を行く三人が、きょろきょろし始めていた。

 純子は、中学二年生になって、親から初めて許されたことがいくつかある。
 夏祭りに関係ある話をすれば、友達同士のみでクライマックスの九時まで見
物していていいとの許可をもらった。去年までは親が一緒じゃないとだめだと
釘を刺されていた。そのため、最も大きな出し物の一つである花火大会も、親
同伴で見ていた始末。それが今年からは解消されるのだ。
 もっとも、夕食時には一旦帰宅するようにと申し渡されている。食事を済ま
せ、改めて友達同士で集合。面倒と言えば面倒であるが、致し方ない。
「遠野さんは親からお許しが出ないので、無理。前田さんは立島君と二人きり
で見るから、こっちはパスだそうよ」
 町田が教えてくれた。純子は富井と顔を見合わせてから、確かめる。
「と言うことは、これで全員?」
「そうなる。それにしても、純も郁も、やっとお許しがもらえたわけだね。め
でたい、めでたい」
「私なんか、最初はだめだったんだよー」
 頬を膨らませ、思い出し笑いならぬ「思い出し怒り」の様相を呈する富井。
「それが、純ちゃんや芙美ちゃんも一緒だって言ったら、『それなら、まあい
いわ』だって。どーゆー意味よ。複雑な気持ち」
 純子と町田は、笑いをこらえるのに努力を要した。
 そのあと、三人揃って近くの河川敷を目指す。花火の見やすいポイントの一
つとされる場所だ。
 そこへの道すがら、「前田さんみたいに、男の子と二人きりっていうのが理
想だよね」などとお喋りをしていると――。
「あ、あれ、相羽君じゃない?」
 純子は、通りの向こうから徐々に近付いてくる人影を指差した。
 暗がりに溶け込んでいたそれは、じきに外灯を浴びて正体を鮮明にする。純
子の第一印象通り、相羽だった。
「ほんとだわ!」
 富井が大きな声で反応したためか、相羽の方も顔を向けてきた。だが、気付
いた素振りはまだない。
 先に声を掛けたのは町田。手を大きく振って、さらに注意を喚起する。
「おーい。相羽君も、お祭りの花火を見に行くの?」
 相羽は即答せずに、近付くために道路を渡った。両手を後ろで組んで、ひょ
いひょいと。
「確かに見るけど、川の方へは行かないよ」
「そう言えば、逆方向に歩いてた」
 人差し指と親指が直角になるように立て、左右を指し示す町田。
 相羽は姿勢を保ったまま、淡々と続けた。
「もっといい場所があるからね」
「えー? どこ?」
 些細なことに、富井が大騒ぎする。狙いは当然、
「私、そっちに行きたいなあ」
 である。
 富井の意思表明に、相羽はすぐ応じた。
「うん。多分、大丈夫と思う。マンションの屋上なんだ。結構、穴場なんじゃ
ないかな」
「え、それって、相羽君の家のある?」
 純子は聞き返しつつも、すでに合点が行った。あのマンションの屋上からな
ら、さぞかしよく見通せるに違いない。
「でも、屋上に出ていいの?」
「もちろん。普段は閉鎖されてるけれどね、花火大会なんかがあるときは、特
別に開けてくれる」
「そういう意味じゃなくって、私達みたいな部外者が入っていいのかってこと
よ」
「あ、それも問題なし。マンションの人の知り合いなら、簡単に入れるから」
 相羽の「知り合い」という表現に、富井が表情をほころばせた。
「町田さんや純子ちゃんも来る?」
 一も二もなく、相羽の誘いに応じることにした。
 マンションまでゆったりした調子で歩きながら、お喋りに花を咲かせる。人
数が一人増えて、にぎやかさに拍車が掛かった。主導権を握るは富井。
「今日は一緒に回れなかったけれど、忙しかったのぉ?」
「うん、色々とやってたから」
「……色々って?」
 二の腕をさするだけで詳しく語ろうとしない相羽に、しびれを切らしたよう
に聞く富井。外野の町田から、「変な間!」と声が飛んだ。
「いつもの通りで、話すほどのことじゃないのにな。――特別なことと言えば、
道場のみんなとごみ拾いしたぐらいで」
「ごみ拾い?」
 富井のみならず、純子も町田も声を上げた。
「何でまた、そういう……」
「地域奉仕ってやつ。凄いんだよ。一抱えもありそうなごみ袋が、山みたいに
できてさ。空き缶の中からは得体の知れない液体が出て来るし、捨ててあった
ラジオのスイッチを冗談で入れてみたら鳴り始めるし。面白かった」
 本当に楽しげに話す相羽。炎天下のごみ拾いなんて、楽しいだけではなかっ
たはずだが。
「顔は帽子被ってたからよかったものの、腕は日焼けしてしまって、家に帰っ
てシャワー浴びたら、ひりひりした。ははは、次からはクリームでも塗らない
といけないや」
「うーん、頭が下がるわ。私らが遊んでる最中、そんなことしてたとは」
 腕組みをした町田がうんうんうなずくのに続いて、富井が「格好いい」とま
で言う。
 相羽は首を横に振った。
「道場の方針でやったみたいなもんだよ。全然格好よくない。それよりも、来
年からはやらなくてすむようにしたいな。みんなが捨てなきゃいいことだから」
「そりゃまあそうだ」

――つづく




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