#4534/5495 長編
★タイトル (AZA ) 98/ 6/20 13:25 (180)
そばにいるだけで 24−8 寺嶋公香
★内容
テスト明けの数日は、答案が戻ってくるのが不安であっても、開放感からう
きうきするのが普通に違いない。
一部の顔ぶれは、その普通以上にうきうき、いや、そわそわしていた。
「何で純ちゃんまで」
「え……」
鞄の中を覗かれたと知り、遅いと分かっていても、即座に閉める純子。
「きれいにラッピングされた包み、何なのかしらぁ〜?」
へばりつくような口調の富井は、言い終わってから本当に手を純子の肩にへ
ばりつかせてきた。
「何のこと?」
鞄を後ろ手に持つような形で隠し、おとぼけを試みる。だが、無理があった。
富井は自分の大きな目を指差した。
「しっかり見たよぉ。どう考えたってプレゼントだよね」
「あ、あれは」
「誰にあげるの? 相羽君じゃない?」
元々、嘘の苦手な純子だが、正面切って聞かれると拍車がかかる。うなずく
ことで、敢えなく白旗を掲げた。
「もしかして純ちゃん、今度こそ本気になったと」
「違うよ。そういうんじゃなくて……」
理由を述べる段になって、はたと口ごもる。
(前、私の誕生日に、相羽君のお母さんからもらったもの。そのお返し−−な
あんて言ったら、おかしな方向に勘ぐられるかも)
「友達なんだからあげてもおかしくないでしょ。それに、ほら、おばさんにお
世話になってるから」
取って付けたような明るい物腰になった自分がおかしかった。
一度は納得した様子だった富井だったが、胸の前で腕を組むと、首を大きく
傾げた。
「お母さんにお世話になったのなら、贈る相手が違うんじゃあ……」
「細かいことは気にしないで。単なるお礼よ」
「だったらいいけど」
両方の手の平を閉じた富井。
「去年、出遅れた分、今年は頑張らなくちゃ」
「あ、そう言えば白沼さん……いない」
教室内をぐるりと見回すが、白沼の姿はどこにもなかった。まだ始業時間に
は早いから不自然ではない。とは言っても、今日は特別な日なので、ひょっと
してまた何か考えているのかも。そんな予感が起きる。
「相羽君も遅いよね」
「うん。心配だわ。久仁ちゃんのところに行って、一緒に探そうかな」
「わざわざ一緒に探さなくても、下駄箱のところで待てば……まあいいけれど。
あ、芙美が来たわ」
肩の高さで手を振る純子。町田も戸口のところで左右に首を振り、クラスの
様子を窺ってから応じる。
「クラスが違うと、どうもやりにくいわ。席が廊下から近いんで、助かってる
ものの」
「だったら、こっちからも遠征に行くわ」
「うんうん。それでね、さっき来たばかりなんだけどさ、白沼さんがずーっと
玄関の辺りをうろうろしてた。きっと、待ちかまえているのね」
「へえ? 私は見なかった」
「それがさあ、今日が私服の日なのをいいことに、真っ白いドレスを着てたん
だから。レースのひらひらが着いたやつ。まるでピアノの発表会」
「ほんと?」
より大きな反応を示したのは富井。純子はただただ呆れるばかりだった。
「気になるー。また差を着けられちゃうかも」
「いや、相羽君はああいう派手なの、好みじゃないと思うな。だからむしろね
え、郁の場合はかわいらしさを押し出した方が効果あるよ、きっと」
「かわいい? そ、そうかな」
伏し目がちにして、富井は人差し指同士を付き合わせる。こういうことにな
ると、さすがに照れるらしい。
「かわいいよ。ぽちゃっとしたとこなんか」
「ええ? それって太ってるってことじゃないのぉ?」
「自覚があるんだったらケーキ、控えなさいね」
町田に言われて富井はしゅんとなった。
「あはは。まあまあ、そんなに気にしなさんなって。今ならまだセーフよ。だ
からかわいいって言ってんじゃないの。ねえ」
「うん。私もそう思う」
純子が同意すると、富井は元通りに。
「ようし。ケーキの数、減らそうっと。実はにきびが出始めて、気にはしてた
んだぁ。これで決心が着いた」
「食べる量を減らすよりも、運動をたっぷりすれば解決する話じゃないかな?」
「それができるんなら、苦労してませーん」
口をいーっとしてすねてみせる富井を置いて、純子と町田は苦笑混じりの顔
を見合わせた。
白沼の朝一番でのプレゼント作戦は失敗に終わったらしかった。
と言うのも、相羽はこの日、始業開始間際に教室に飛び込んできたからだ。
そのときにはもう、白沼は着席していたので、少なくとも手渡しはできなかっ
たことになる。
言うまでもなく、富井ら他の女子にとってもそれは同じなのだが。
(珍しい。こんなぎりぎりに来るなんて)
相羽の号令に従って頭を下げながら、純子はそんなことを考えていた。
遅くなった理由が気になるが、それを授業中に尋ねるわけにはいかなかった
ため、次の休み時間を狙う。
が、席の位置関係もあって白沼の方が一足早かった。真っ先に相羽の机まで
辿り着いた彼女は、早速お喋りを始める。純子と富井はその様子を、距離を置
いて見守った。
「どうして遅れたの? 私、待ってたのよ」
「遅れたんじゃないよ。時間には間に合ったはず」
妙に理屈っぽく切り返した相羽に、白沼はしばらく口を開けたまま、声を発
さずにひるんでいた。
その間に、相羽はちらりと辺りを見渡してから、さらに続けた。
「それに約束してたっけ? していたらごめん。忘れていた」
「いいえ、してないわよ。だけど、私はあなたがいつも通りに来ると思ってい
たから」
「……やきもきさせて悪い。どんな用事だったの?」
相羽が手を軽く持ち上げ、白沼を促す。
待ってましたとばかりに白沼は最上の笑みを作った。
(あ−−。この場で渡す気だわ)
純子は察しが付いたものの、白沼を止めることはもちろんできない。富井が
どういった反応を示すかが気掛かりだ。
そうこうする間にも白沼は足早に往復し、プレゼントらしき包装のされたノ
ート大の箱を持ってきた。お誕生日、おめでとうと言いながら、半ば押し付け
るようにして相羽の手の中へ。
「あ、ありがとう」
明らかに動揺していた相羽だったが、去年のこともあるためか断ろうとする
努力は見せずに、ストレートに受け取った。
周囲の男子が口笛やら冷やかしの声やらを上げ始めたが、白沼がぐるりと目
線を巡らせると、すぐに収まる。
そうしておいてから、白沼は小首を傾げるようにして相羽へ微笑みかけた。
「前みたいに当てて」
「え?」
「お得意の推理で。絶対に喜んでもらえる自信あるのよ。でも、中身は分から
ないと思うわ」
「ふうん……」
相羽は白沼からもらった箱へ、じーっと視線を送る。拳銃の形にした左手を
口元に当て、考える仕種。
「推理じゃないけれど。箱の大きさを無視していいのなら、ネックレスとか。
前にサッカーやったあと、白沼さん、幸運のお守りにいいって言っていたから」
「−−当たったわ」
嬉しさと落胆が一緒になったような、不思議な顔つきになる白沼。
彼女のそんな返事には、周りで聞いていた純子達だけでなく、相羽本人も驚
いたようだ。目を白黒させ、にわかに吹き出した。
「はははっ、当たるとは思わなかった」
「箱をわざわざ大げさにして、分からないようにしたつもりだったのよ。どう
して分かったの?」
「推理じゃないって言ったんだけどな。ただ……最初、この箱の大きさならT
シャツかなと考えたんだ。でも、白沼さんからのプレゼントって、ここのとこ
ろ着る物が続いたから」
辺りをはばかるように、声を低くする相羽。
「それに、白沼さんの顔を見たら、当てられない自信に溢れていた。じゃあ服
じゃない。どっちかと言えば、箱の大きさも引っかけかなと思って」
「びっくりさせたかったのに。まあいいわ」
簡単に立ち直ったらしい白沼は、髪をなで上げると、相羽に顔を近付ける。
「ネックレス、明日からでいいから、ぜひしてきてね」
「……」
相羽は聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりなのか、返事をせずに
手元の箱を見下ろしていた。
白沼が再度口を開くよりも早く始業のチャイムが鳴って、先生が姿を見せた。
その日は調理部の活動日ではなかったけれど、富井や井口のたっての希望に
より、部の会合という名目で集まった。
場所はしかし、家庭科室が開いていないので、図書室。さすがに遠慮が出て、
奥の隅っこの席にこそっと陣取った。
「これで誰にも邪魔されずに渡せるーっと」
相羽を待つ間、ご機嫌にも鼻歌を唄う富井。井口も似たようなものだ。
「それにしても遅いわね、相羽君」
町田が出入り口を振り返った。すぐに純子へ向き直り、尋ねてくる。
「何かやってんの?」
「クラス委員の仕事よ」
椅子に横向きに腰掛けた姿勢の純子は、本から顔を起こして答えた。
「委員長の純が今ここにいるのに、何で副委員長が遅いわけ?」
町田の重ねての疑問に、今度は富井が応じた。
「それはねえ、相羽君に白沼さんがやたらと話しかけるから、終わらなかった
んだよぉ。純ちゃんがとっくに終わったのに……」
腕組みをする富井。ぷんすかしているのが音として聞こえてきそうだ。
「ほう。で、今も白沼さんは教室にいるのかいな」
「ううん。私や純ちゃんが出るのと同時に、さっさと。多分、茶道部があるん
じゃないかなあ。ぎりぎりまで粘ってたみたいだった」
富井の喋りを耳にして、純子はまざまざと思い出す。
(私達が教室を出たら、白沼さんも出て行ったもんね。あれってきっと、本当
は部活の時間が迫っていたけれど、相羽君が他の女子と一緒になるのを邪魔し
ようとしていたのかも)
詮なき空想に苦笑を浮かべる。
そんな純子は、ふと横目で相羽の到着を捉えた。
「来たわ。−−こっち」
本から片手を離し、さっと上に伸ばして振る。
相羽は間を置かずに気付いてくれた。足早に、なるべく人のいないコースを
通って、純子達のいる一角に到着。
「悪い、遅くなって。ところで急に会合って、何か議題があったっけ?」
不可解そうな相羽の前で、女子四人は顔を見合わせる。
相羽はますます怪訝がって、首を捻った。
「調理部のことじゃないの」
「そうなんだ? いや、南部長がいないし、変だと感じてはいたんだ」
相羽はごまかす風に笑った。
「それで?」
二度目の問い掛けを、純子達はやはり顔を見合わせることで対応した。そし
て「せーの」と小声で言うと、一斉に相羽を見やる。
「お誕生日、おめでとうっ」
−−つづく