#4454/5495 長編
★タイトル (AZA ) 98/ 4/ 1 11: 5 (200)
そばにいるだけで 22−2 寺嶋公香
★内容
目配せをする南。
「確認しようがないけれどね。それにしてもみんな仲のよろしいことで、感心
するわ。そうそう、まだ気が早いかな。七月には次期部長とかを決めることに
なるから、ぼちぼち考えておいてよ」
「役職って、先輩達が決めるんじゃあ……」
一年生部員らは一様に怪訝な表情をなす。
「最終的にはそう。でも、やる気があるんだったら立候補していいのよ」
笑みを投げかけてきた部長に、町田達は顔を見合わせた。
* *
角の影から何かがひょこっと飛び出してきて、相羽は慌てて足を止めた。ぶ
つかりそうになるのを、すんでのところでかわす。
「−−白沼さん」
相手を確認し、その名をつぶやいた。
夕暮れの光の中、長い髪をかき上げ、微笑む白沼。手に学生鞄があるから、
彼女も下校途中に違いない。
それでも、相羽は不思議に感じた。
「白沼さん、家はこっちじゃないはず……」
「用事があるから」
ゆっくり進み出した相羽に、ぴったり合わせて横に並んだ白沼。
「相羽君、あなたに用があるのよ」
「え。学校でよかったのに」
「人がいると嫌なの。時間、いいかしら」
「うん、少しぐらいなら。立ち話で済む?」
「そうねえ」
再び立ち止まった相羽の前で、白沼は考える素振りを見せる。
「立っているのも疲れるわ。どこか座れる場所に行きましょ」
「じゃあ……公園に」
相羽と白沼は近くの公園へ移動した。時間帯のせいか、他に誰もいない。そ
れどころか風が出て来て、ブランコが寂しげに軋んでいる。
ベンチには白沼だけが座った。
「話は何?」
相羽はその斜め前、やや距離を置いて立ち、見下ろす。
白沼は面を上げ、笑み混じりに見つめてきた。
「春休み、どこかに行きたいわ」
「……行けばいいじゃない」
「もぉ、分かってるくせに。あなたと一緒じゃなきゃ嫌よ」
言って、手招きする白沼。そしてベンチの空いてる部分をぽんと叩く。
「とりあえず、相羽君も座ってよ」
相羽は息をつき、少し間を作って隣に座った。
「ねえ、時間空いてない? 私の方で合わせるわ」
「空いてないことないけど、それよりどうして……」
「決まってるでしょう。もっと知りたいの、あなたのこと」
「……聞いてくれれば、今答える」
「またとぼけるぅ」
甘えた響きの口調になって柳眉を寄せると、指先で相羽の腕をつついてきた
白沼。
相羽は何気ない動作に紛らわせ、腕を頭に持っていった。
「とぼけているつもり、ないよ」
「じゃあ、私と付き合ってちょうだい」
「ど、どうしてそうなるのさ?」
急ぎ口調で応じ、すぐさま冷静さを取り戻す相羽。浮かしかけた手を膝の上
に置いた。顔色の変化だけは、陽の光のせいではっきりとは表面に出ない。
白沼は口に手を当てて、ころころ笑う。相羽の反応ぶりがよほどおかしいら
しい。
「相羽君のことを知るって言うのは、そういう意味よ」
「違うと思う」
「いいから。私はあなたのことを知って、その代わり、相羽君は私のことを知
ってちょうだい。いいでしょ?」
相羽が言葉に詰まると、白沼は間髪入れず追い打ちをかけてきた。目にいた
ずらっ気が映っているが、今のこの状況を彼女自身満喫しているらしくて、笑
みが堪えない。
「やっぱりデートね。また私の家に来てもらうのもいいし。もっちろん、相羽
君のお家に伺いたいんだけれど、だめかしら」
「ちょっと、勝手に話を進めないでくれよー」
さすがに語気を強くし、さらには手で遮るポーズまでしてみせた相羽。
「あら。当然、相羽君の意見も聞くわ。どこか行きたい場所があれば言って。
遠くでも大丈夫。お母さんに送ってもらう奥の手があるから」
「そうじゃなくて。まだ僕は返事してない」
「そんなこと言うなんて、まさか断る気?」
「−−弱ったなぁ、もう……」
ほとほと困り果て、両肘をそれぞれの膝の上に載せ、こうべをがっくりと垂
れる相羽。
白沼は座る姿勢を変え、身体ごと相羽の方を向いた。
「ふふ、困らせるつもりはないのよ。私だってね、あなたの目がよそを向いて
いるのぐらい分かってる」
「な……」
目を丸くする相羽に、白沼は笑顔の度合いを緩め、きっ、と詰め寄った。
「でもねえ、特定の相手がいるわけじゃないんだから、私を拒ばなくたってい
いじゃないのよ」
「決まった相手はいないのは事実だけど……」
「相羽君はね、ずるいのよ」
「ずるい−−」
語尾を疑問形としなかったのは、その言葉の指し示すところが何となく分か
ったため。
「チャンスをちょうだい。私は、私のよさをもっと知ってもらいたいのよ。な
のに、玄関のドアはおろか、門さえ開けてくれない」
芝居気たっぷりに肩をすくめ、目を瞑る白沼。そして右の目だけを開け、相
羽を見やってからウィンク。
「堅苦しく考えなくていいわ。試しに付き合ってみてほしいの」
「……試しに、か」
うつむき気味の上体を起こし、考える口ぶりを見せた相羽。
だが、結論は決まっていた。
「できないよ」
「どうして」
さしもの白沼も、言葉が少しばかり刺々しくなる。
「チャンスがあれば、私、絶対にものにしてみせる自信あるのよ」
「そういうことじゃない。僕にはできない、唐沢の真似は」
相羽は言って、肩をすくめてみせた。と同時に、ようやく笑えた。
「私は−−」
「待った。白沼さんが言いたいことは分かった。だけど、人のことを知るのっ
て、特別に付き合わなくてもできるはずだ。僕はそう思う」
「……付き合った方が早いじゃない」
不満そうに唇を尖らせる白沼。しかし相羽は、やんわりと否定した。
「ごめん。怒らせるつもりじゃないんだけど、僕は女子の友達と普通に話して、
普通に接してたら、だいたい分かってきた。せっかちに知るよりも、こっちの
方がいいと思うんだ」
「……なるほどね」
勝ち気そうな高い声できっぱり言うと、白沼は軽く唇を噛みしめた。
「今日はもういいわ。ただし、一つだけお願いがあるの。聞いてくれる?」
「言ってくれなきゃ分からない」
「私のこと、せめて友達として見て」
白沼が不意に真剣な面持ちになった。
「涼原さんや町田さん達を相手にしているときみたいに親しくして。−−これ
がお願いよ」
「今でもそうだよ」
相羽も真摯に応じる。
「でなきゃ、こうして話すこともないんじゃないかな」
「……かもね。ごまかされた気がしないでもないんだけれど」
白沼に笑みが戻ったのを見て、相羽も笑った。
「もういいかな? そろそろ帰らないと」
「いいわよ」
そう答えてから、白沼はふっと言い足す。
「まず最初に涼原さん達と仲よくなろうかしら」
「え?」
「何でもないわ。相羽君、またね」
言うだけ言って、白沼はぱたぱたと駆け出していった。
相羽はその姿を半ば呆気に取られつつ見送ってから、急に気掛かりになった。
(暗くなり始めたけれど、送らなくて大丈夫だったかな)
* *
小学校の中に入るのは、純子も相羽もほぼ一年ぶりだった。
「かわいらしく決めてるね」
椎名の白と紺を基調にした装いに、純子はそんな感想を口にした。
当の椎名は、ただでさえ卒業式の感激に浸っていたのが、花が咲きこぼれた
みたいに笑みを浮かべる。
「嬉しいな、涼原さんに誉められた」
「誉めたというか……」
「四月からよろしくお願いします、ねっ」
腰を折って深々と頭を下げたかと思うと、ひょっこり起こす椎名。それから
純子の腕に両手でしがみついてきた。
今日の純子は、椎名の頼みを受けて、古羽相一郎の出で立ち。と言っても、
服装はモノカラーのシャツにジーパン。遠くからなら、カップルに見えなくも
ないかもしれない。
「め、恵ちゃん、お父さんやお母さんは?」
「バザーに出てます。でも心配いらないから、私達は私達で」
椎名は目を細め、純子の胸元へなつくポーズをした。
「……邪魔だったら、帰ろうか」
純子の後ろ、相羽はジャケットの両ポケットに手を突っ込んだまま立ち尽く
している。
「ちょ、ちょっとー。見捨てて行かないでよ」
慌てて振り返り、純子は引き留めにかかった。
椎名も別の意味で慌てた様子。
「邪魔じゃありません! 来てほしいって言ったの、私なんですから」
「そう? なら、これ」
ポケットから出た手には、細長い箱があった。水色に金の線が入ったリボン
がかかっている。
「卒業と中学入学のお祝い」
「わ。ありがとうございます!」
押し頂くように受け取る椎名。きゃあきゃあ言って、箱をいろんな角度から
眺めている。
相羽は弱り顔になった。
「そんなに喜ばれると、あとでがっかりさせてしまうなあ」
「何ですか?」
「シャープペンシル。何本も持ってるかもしれないけれど、中学生になって使
う物といったら、これを最初に思い浮かべてさ」
「そっかぁ、小学校は持って来ちゃいけないってなってましたもんね。ありが
たーく、使わせていただきまっす」
礼を述べた直後、椎名は純子に向き直った。何かと思って小首を傾げると、
両手を揃えて突き出してくる。
「涼原さんからは?」
「め、恵ちゃん。少しは遠慮してみてくれても、ばちは当たらないわよ」
「じゃあ、本当に何かいただけるんですね? うわぁ、感激っ」
純子はため息を大きくついてから、ゆっくりと答えた。
「あげるというのは、ちょっと違う。してあげる、ね。そのぉ……古羽探偵に
なって、一日付き合ってあげようかなって」
いいアイディアだと思う反面、どうにも気恥ずかしさが立って、口ぶりがご
にょごにょ、曖昧模糊としたものと化す。
このプレゼントのことは相羽にも言ってなかったから、彼には目を見開かれ
てしまった。
「羽織袴で外を歩く気?」
「違うってば。要するにスカートじゃなくズボンを穿く。あとは髪型をこうす
るってことよ」
急ぎ説明をし、今の頭を指差す純子。
相羽は納得した風にうなずき、代わって再び椎名が喜びを露にする。
「わあい! いつでもいいですか? 二人きり?」
「いつでもとは行かないかもしれない。なるべくなら、春休みにね。とにかく、
できるだけ恵ちゃんに合わせるわ。二人きりなのは、まあ……」
仕方ない、という言葉は飲み込んだ。
(恵ちゃんのこと、嫌いではもちろんないけど、変に親しくなっちゃうと深み
にはまりそう。それに、コマーシャルの男装を気付かれたら困るし)
初対面の頃を思い出し、純子は苦笑を浮かべた。
「今日行くんなら、結局僕はお邪魔虫か」
相羽はさっきと同じように、帰る真似をした。
「今日なんて、そんなもったいない」
椎名が首を横に振るのを見て、純子は質問。
−−つづく