AWC そばにいるだけで 20−6   寺嶋公香


        
#4436/5495 長編
★タイトル (AZA     )  98/ 2/28  11:16  (199)
そばにいるだけで 20−6   寺嶋公香
★内容
「そこまで高望みはしない、というかできないよな、俺の身分じゃ。それより、
おまえの成果を聞いてるんだぁ、こっちは」
「今年は去年よりいいかもしれない」
 答えてから、相羽がふっと微笑むのが見て取れた。
「なぬ? てことは倍増か?」
「そういうんじゃなくて、その、くれる相手がさ」
「まさか、本命からゲットしたのか? 誰なのか教えてくれ。それでチョコが
義理だったら笑えるな」
 相羽の返事を待たず、一人で喋ってげらげら笑う勝馬。
「うん、当たらずとも遠からずってところ。まだ確認してないんだよな」
「すぐ確かめればいいじゃん。付き合うよ。見たいからだけど」
「遠慮しとく。家に帰ってから一人しみじみ確かめるのさ。あははは」
 そう言うと相羽は席を立って、教室の外に向かう。勝馬はまだ聞き足りない
とばかり、急ぎ足で追っていった。
(ふーん。ついに本命からもらった?)
 純子は本を読むふりを続けながら、頭の中で情報を整理する。
(つまり、この学校にいる誰かってこと? だけど、通学の途中で渡されたな
んて可能性もあるし。そう言えば今朝、あいつったら珍しく、私より遅い登校
だった。色々受け取っていたから遅くなったのかもしれない)
 そこまで考えて相羽の空の席を見やったとき、白沼の様子に気が付いた純子。
 彼女もまた純子と同様に、さっきの相羽達の会話に神経を集中していたらし
い。両肘を突き、顎を手の平に乗せて、眉間にしわを寄せている。
(あっ。もしかして白沼さん、まだ相羽君にプレゼントをあげていなかったの
かも? だからあんな恐い顔をしてる?)
 純子は首をすくめた。あんまり見続けていると、白沼に勘づかれそうな気が
したから。
(白沼さんには悪いけど……やっぱり相羽君、白沼さんには気がないんだね。
バランスがよくないとは私も思ってたものの。
 そうなると、えっと、久仁香の分は私が朝の内に入れたんだから、見込みが
あるわけよね。郁江はもう渡したのかしら。もしもまだなら、この話を知った
ら泣くだろうなぁ。芙美は結局どうしたのかな? あとで聞いてみようっと)
「純」
 純子の気持ちが伝わったわけでもあるまいが、町田が周囲を窺うように目線
を走らせつつ、近付いてきた。
「ちょっと出ない?」
「ん。いいわよ」
 本を置くと、町田に続いて純子は廊下に出た。校舎の作りがよりしっかりし
ているのか、小学校のときに比べると寒くない。もちろん、教室内の方が気温
はもっとあるが。
「誰かに渡したの?」
 壁にもたれ掛かって、気軽な調子で聞いてくる町田。その隣で同じような姿
勢を取った純子は、眉を寄せた。
「またその話? 誰にも渡してませんよーだ」
「口酸っぱく言ったのに、今年もまた誰にも」
「あっ、一人あげるわよ」
「どうせ、またお父さんて言うんでしょうが」
「ぐっ……鋭い」
 使い古した冗談を見破られ、気まずさから笑う純子。
 町田は呆れた視線で見返してきた。
「全く……。そうだ、久仁香が休みだって聞いたんだけど、知ってる?」
「うん、知ってる。朝、電話が掛かってきて、あの子の家まで行って来た」
 純子はことのあらましをざっと話して聞かせた。
「そうなんだ? だったら久仁香も一安心して高枕ね」
「あは、多分。それよりも芙美は一体誰に……。ばらまくみたいなこと言って
たけど、本気なの?」
「さあ、どうしよっかな」
 頭の後ろで両手を組み、町田は明後日の方を見る。
 純子は焦れったくなって、前に回った。
「人のことをあれこれ言うんだったら、芙美自身どうしたかぐらいあっさり教
えてくれてもいいじゃない?」
「悪気はないのよ。本当に迷ってるの。一応、相羽君の分は下駄箱に入れてお
いたけれどね」
「あきらめないんだ、結局?」
「そこなのよね。どうにもこうにも……相手が悪い予感がする」
 町田はそこまで言って首を傾げると、純子に視線を送ってきた。
 純子はきょとんとしつつ、しばし思考に没頭。
(−−ああ、白沼さんのことよね。相手が悪いって)
「大丈夫だって。少なくとも相羽君本人には、その気がないみたいよ」
「はい? 何を言ってんの、純?」
 反対側に首を傾げた町田。
 純子は一瞬言葉に詰まって、心持ち首を前に突き出す。
「え、だって……白沼さんの話でしょう?」
「……ははは、違うわよ。純、全然違う」
「じゃあ、一体誰なのよ。もしかして、郁江や久仁香?」
「それも外れー。純、あんたって案外……」
 言いかけて、途中で口をぴたりと閉ざす町田。
「案外?」
「言うの、やめた」
「何で? 気になるよ」
「だって、ほら」
 町田が指差した方角へ振り返ると、相羽の姿が目に入った。いつ教室を出た
のだろう、勝馬と話しながら歩いている。
「戻ろうか」
 町田が促すので、純子もうなずいた。
「うん。仕方ないわね」

 バレンタインデーの放課後、純子は早々に友達と別れると、通学路途中の公
園に向かった。
「あ! もう来てるっ」
 ここまで早足でやって来た純子は、待ち合わせの相手の姿を認め、一気に駆
け出した。
「恵ちゃん、待たせちゃったね!」
「きゃあ、涼原さん!」
 公園入り口の車止めに腰を下ろしていた椎名は、表情を明るくして立ち上が
った。ピンク色のジャンパーが翻る。
 が、純子が距離を狭める間もなく、その表情が曇ってきた。
「あら、どうしたの?」
「……涼原さん、女の格好してる……」
 片方の人差し指を口に当て、上目遣いにじとっと見やってくる椎名。
 純子は大慌てで両手を振った。この寒いのに、汗が出て来たような気がする。
「そ、そうは言うけれどね。学校がある日はこれが限界よ」
 先ほど束ねたばかりの髪を指差す。
 純子の必死の弁解に、椎名はしかめ面を急変させ、笑顔になった。
「うふふ、冗談ですよ。分かってますって」
「あのねえ……」
 がっくりうなだれた純子は、ともかく座りたくて公園内に入った。ベンチか
ブランコか、それとも滑り台か……ちょっとだけ迷ってから、ノーマルにベン
チを選んだ。
「どのくらい待った?」
 左隣に腰掛けた後輩に尋ねる。
「三十分ほどです。あの、気にしてません。放課後すぐに来てくれるって聞い
てただけですから」
「あぁ、よかった」
 ひとまず安心を得て、純子は微笑した。それを待っていたみたいに、ジャン
パーのポケットから箱を取り出した椎名。
「これ、受け取ってください」
 差し出されたその長方形の小箱は、赤と白のストライプ模様の紙で包装され、
肩にメタルグリーンのリボンが掛かっていた。
「聞くまでもないのかもしれないけれど、これって、やっぱり……」
「はいっ。バレンタインのプレゼント」
 善意いっぱいの椎名のあどけない表情。
 もはや純子にできることと言えば、ひきつる笑みで贈り物を受け取ることし
かなかった。
「あ、ありがとう……何かしらね、あははは、楽しみのような」
 恐いような、とまでは台詞にしない。
「安心してください。ただのチョコレートですから」
「はあ、ただの、ね」
「それともう一つ。『毒入りチョコレート事件』というすっごく旧い推理小説
があるんですよね」
 椎名の事も無げな言い様に対し、純子は気持ち、ベンチからずり落ちそうに
なる。
「ちょうどいいと思って、それを読んでもらいたくって、本屋さんで探してる
んですが……見つからなくて」
「いい、いい。図書館で探すから」
「そうですかあ? あんまりないと思いますけど」
「いざとなったら、相羽君に頼ればいいわ。多分、持ってるんじゃないかしら」
 ほとんど口から出任せに近い形。
 すると椎名の表情が、目が、また別の意味で輝く。
「そうそう、相羽さんはまだですか?」
「……何のこと?」
「相羽さんも来てくださいって、言ってあるんです。遅いってことは、何かの
当番なのかなって思ったんですが、違います?」
 弾けるように話す椎名の隣で、純子はこめかみを押さえた。
(先に言ってほしかった……。そうかぁ、相羽君も呼んだのね。それなら恵ち
ゃんの男性毛嫌い症もだいぶ回復したと思っていい……のかしら?)
 いまいち確信が持てず、首を捻った。
 ともかく純子はプレゼントを鞄に仕舞うと、ベンチから立つ。
「じゃ、私はそろそろ帰るね」
「ええー? どうしてですか」
「だって、これをくれるのが目的だったんじゃないの? それにこのあとも私
がいたら邪魔でしょ」
「邪魔じゃありません。いてくれなきゃ困りますよぉ。まだまだ一人だと不安
なんですから」
 行こうとした純子の腕にすがりつくようにして、椎名は足止めを企てる。
 体勢を崩しかけたのをどうにか修正し、純子は答えた。
「そ、そう言われたってね、恵ちゃん。私にも都合が。心の準備とか」
「あ! 来ました!」
 純子の片腕を抱えたまま、公園前の道路の一点を指差して騒ぎ立てる椎名。
 改めて見るまでもなく、相羽が意外にのんびりとやって来るところだった。
「おっと。涼原さんも?」
 芝居がかったびっくり目をしつつ、先に純子に声を掛けてきた。相羽のその
口元には、苦笑とも微笑ともつかない笑みが見え隠れ。
「そうよ。チョコもらっちゃった。うらやましいでしょ」
 もう破れかぶれになって、純子は自慢する風を装ってみた。
 すると今度は椎名が、急ぎ口調で言い足す。
「もちろん、相羽先輩にも差し上げますから。ちょっと待ってください」
 そして、さっきとは逆のポケットをまさぐると、青い包装紙の丸い箱を取り
出した。その頃には充分近くまで来ていた相羽に、椎名の手から箱が渡される。
「どうぞ」
「ありがとう。それじゃ、こっちも約束の物を」
 と、相羽が鞄をごそごそ探り始めたのだから、純子は焦る。
(ええ? お返しをこの場でするの? どうしよう、私、何も持ってない)
 必死で考える純子の目の前で、相羽は白い紙の束を取り出した。文字がびっ
しり書き込まれている。
「人に読んでもらうような出来映えじゃなくて、悪いんだけど。これからうま
くなるから」
「そんな謙遜しないでください。楽しみに読ませてもらいまぁす」
 二人のやり取りを聞く内に、純子も段々と事態が飲み込めた。
(推理小説を書くって言ってたの、ついに完成させたのね。ちゃんと約束守っ
て、偉い!)
 感心することしきりである。
 加えて、椎名や相羽の影響を受けて、多少なりとも推理小説に興味を持つよ
うになったものだから。
「……」
 椎名が大事そうに仕舞い込む原稿を、じーっと見つめてしまっていた純子。
「涼原さんも読みます?」
「はい? え、ええ、まあね。読んでもいいかなあって」
 手を頭の後ろで組んで、笑ってごまかそうとするが、相羽は見逃してくれな
かった。
「涼原さんが読んでくれるんだったら、別にもう一部、プリントアウトする」
 物腰が実直なのと裏腹に、隠しきれない喜びがこぼれてしまう−−そんな笑
顔になる相羽。
「そんな、いいわよ。恵ちゃんのあとで読ませてもらうから」
「それよりも同時にちょっとずつ読みませんか、涼原さん?」
 椎名の予想外の提案に、涼原はがくっと肩を落とす。
「あのね、恵ちゃん。同時に読んで意味があるの?」
「一緒に犯人当てしましょうよ。どっちが早いか、競争で」

−−つづく




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