#4401/5495 長編
★タイトル (NKG ) 98/ 1/31 23:38 (197)
【らぶらぶ・ファイヤー】恋は火力で勝負よ!(3) らいと・ひ
★内容
彼女はますます好奇心にかられて、袋の中を出してみることにしました。
最初に冷たい金属の感触。それが棒状のものの正体でした。まさか、鉄でできた
ほうきなんてことはありませんよ。棒と言うより筒状のものと言ったほうが正確な
のでしょう。
恵理は恐る恐る袋からその物体を出してみます。それはどこかで見たような物で
した。彼女は記憶をたどります。この前、美咲と行ったアクション映画に似たよう
な物が出てきたよね? そう自問する彼女です。
もし彼女の見間違いでないのなら、それは銃の類のものでした。この大きさはラ
イフルって言うんだっけ? 正確な名称を知らない彼女は首を傾げます。
「でも、本物じゃないよね?」
恵理は試しに構えてみます。と、言っても映画の見よう見まねなのでした。引き
金
に指をかけ「ばん!」とまるで悪戯好きの子供のように言ってみました。
バン!
もの凄い爆音が彼女の耳を劈きます。しばらく耳鳴りがして呆気にとられる彼女
でした。
「本物なの?」
彼女はびっくり仰天、目をまんまるくさせながらライフルを見つめます。
けーさつに届けなくちゃ。彼女は素直に考え、暴発しないようにそっと地面にラ
イフルを置くと、すかさず駆け出します。
ふと何か嫌な予感が頭をよぎります。痛々しい鳴き声が僅かながらに聞こえてき
ます。
「まさか」と思い、目を凝らして辺りを見回します。
クゥーンと、こちらを見つめる瞳を見つけました。そこに倒れていたのは野良犬
です。
血?
はっきりとは見えませんが、お腹の部分が黒く濡れたように見えます。
「まさか……わたしが撃ったから?」
手で触るとべとりと血液がつきました。
「なんで? わたしが好奇心なんか持ったりしたから?」
彼女は自分を責めます。それが彼女に出来る唯一の償いなのかもしれないのです
から。
「ごめんなさい。謝ってすまないかもしれない……でも、わざとじゃなかったの」
恵理の瞳から涙がぽろぽろこぼれ落ちます。いくら言い訳しても野良犬は助かるわ
けではないのです。彼女はどうしようもなくなり、身体から力が抜けていきます。
膝をつき、途方に暮れます。そんな彼女のポケットから、小瓶がぽとりと落ちて転
がっていきます。
最初は、虚ろな瞳でそれを追いかけるだけでしたが、薬の効力を思い出しはっとす
る彼女でした。
「まだ、助けられるかもしれない」
急いでその小瓶を拾い上げると、蓋をとって中の液体を野良犬の傷口部分へと垂ら
します。
「お願い」
祈りは通じるはずです。なんといっても魔法の薬なんですから。
薬を垂らしてほんのしばらくして、何事もなかったかのように犬が立ち上がりま
す。 そして「ワン」と軽く吠えると、尻尾を振りながら恵理のところへとすり寄っ
てきました。
「よかった」
犬の頭を撫でながら恵理は考えます。猫についで犬まで飼うなんていったら、マ
マはなんて顔するのだろうな。
結局、恵理は警察には届けずに袋ごと家に持ち帰ってしまいました。もちろん重
いので何回かに分けてです。もしかしたら、あのヤクザ屋さんが隠したんじゃない
かと思われるんですけど、そんな事は彼女には関係ないようですね。いざとなった
ら、魔法の薬という武器もあるのですから、心配は無用でしょう。
さて、肝心の彼女はどうしたかというと、あれから本屋や図書館に通う毎日を送っ
ています。え? 何を調べているのかって? もちろん、拾って来た物に関する事
に決まっているじゃないですか。マニアックな銃器の雑誌から、専門書まで、武器
の取り扱いのことを勉強しています。たぶん、試験前でもあんなに夢中になったこ
とはないのでは、と思うくらい本人も一生懸命になっています。しかし、いったい
彼女は何を企んでいるのでしょう?
弾は4発。弾頭に薬を塗り込めたのはこれだけです。ピーノ(犬に付けた名前)
の怪我を治すのと、自分の傷を治す練習に随分使ってしまったので、残り分すべて
でこれが精一杯です。ノートをよく見たら、惚れ薬としての最低限の分量が書いて
ありました。
ライフルは、パパに内緒で借りた釣り竿のケースに入れて、商店街の一番高いビ
ルの屋上へと登ります。
今日はサッカー部の朝練があるので、彼はこの通りを歩くはずです。
まだ、日も昇っていませんが、恵理の心はウキウキでした。ここから狙って奥山
くんのハートを撃ち抜きます。大丈夫、弾の先にはなんといっても薬が付いている
のです。 本当に大丈夫、だって彼女は自分で試してみたんですよ。痛みもなく、
傷口はみるみる塞がっていったようです。怖くなかったんでしょうか? いえ、恋
は何ものにも強いものです。ひとまず彼女の勇気を讃えましょう。
で、すっかり用意の整った恵理は、体勢を低くしてライフルを構えています。奥
山くんが来るまでまだ数時間はあるのですが、彼女にとっては待つ時間も楽しみな
のでしょう。なんといっても、彼女は恋をしているのですから。
恋のスナイパー。なんてぴったりな名前なんでしょう。彼女は、頬を緩めます。
でも、かのじょー、誰かがあんたの今の姿を見たら……。
ターゲットスコープに彼の姿が映ります。そうです、待ちかねたあの人がやって
きたのです。恵理は高鳴る鼓動を抑えながら、慎重に引き金に指をかけます。
彼のハートハートハート。目標は、奥山くんのハートです。
弾は四発しかありません。外さないようにと、神様に祈ります。
−バン!
大音響とともに奥山くんの右側にあったゴミ箱の蓋が吹っ飛びました。あっけに
とられる彼の元へもう一発。
−バン!
今度は左側の自動販売機の見本の並んだ部分に当たります。その衝撃でガタンガ
タンと取り出し口にジュースが溢れ出てきました。
さすがの奥山くんも何が起こったのかに気が付いたのでしょう。血相を変えて走
り出しました。
「だめ! 走ったら狙いが定まらない」
−バン!
「逃げられたらチャンスがなくなる」と、焦っての一発。
−バン!
「もう! 狙いが定められないじゃない」と、自棄になっての一発。
これで弾はなくなりました。ついでに奥山くんもいなくなりました。
さあ、落ち込んでいる場合ではありません。彼女も逃げなくては、もう二度と彼
に会えなくなってしまいます。
急いでケースにライフルをしまい込むと、恵理は一目散に逃げ出しました。
でも、そんな彼女を見ても誰も疑うことはないでしょう。中学生の女の子がライ
フルをぶっ放すなんて、この治安国家の日本じゃ考えられないことなんですから。
ほんと、よかったですね。
薬はもうないのです。だけど、どうすればいいかは考えるまでもありません。
さっそく恵理は買い物に行きます。今度は大量に作ろうと、材料も多めに買い込
みます。最後はペットショップ。イモリはペロちゃんのことで慣れましたから、怖
くはありません。気持ち悪くもないのです。
「いらっしゃいませ!」
あの元気な店員さんの声が聞こえてきます。
「すいません。イモリを百匹ほどもらえますか? 今度は買うんじゃないんですよ。
うちのペットの餌ですから」
少し知恵をつけた彼女はそう言って誤魔化しました。百匹分の餌を買わされては
予算をオーバーしてしまいますから、彼女も必死なのでしょう。でも、なんだか声
は明るいですね。
店を出た彼女は、近くのビルが警察によって封鎖されていることに気が付きます。
ちょっと悪びれた感じを受けながらもさりげなく歩く彼女を、警察どころか誰も気
にとめようとしません。それは当然といえば当然のことなのでしょう。
でも、いいのかな?
家に帰ると彼女は薬作りに取り掛かりました。明日は日曜日、いくら夜更かしし
ても大丈夫です。
恋は時に人を変えてしまうことがあります。人を強くすることもあります。でも
でもぉ、最近の彼女ってなんか変じゃない? なんて噂を耳にすることもあるので
すが、恵理にとってはそれは些細なことなんです。
彼女にとっては奥山くんがすべてなんですから。
さて、部屋には数十匹分のイモリの黒焼きが出来上がりつつあります。このペー
スで行けば明日の朝までには出来上がるでしょう。イモリを焼いている間ちょっと
暇になるし、クッキーでも作っちゃおうかな、ピンクのかわいいエプロンをしたに
わか魔女さんは呟きました。
朝から戦闘準備開始です。オーバオールの胸ポケットには拳銃を、背中の赤い小
さめのリュックにはクッキーと換えの弾倉を、釣り竿ケースにはライフルではなく
LMG(軽機関銃)が入っています。これは最後の手段、「数撃ちゃ当たる」の論
法です。
さあ、いざ出発です。お目当ての奥山くんは、今日は隣町までサッカーの練習試
合に行ったらしくお昼過ぎには帰ってくるでしょう。今度は慣れない狙撃なんて真
似はやめたのです。至近距離からの一発、2、3メートルもあればいくら拳銃の扱
いに不慣れな恵理でも当たるでしょう。ライフルよりも全然短いから、こっちの方
がかわいくて好きだな、と訳のわからない感情を拳銃に抱いている彼女です。
隣駅の改札の近くで恵理は待つことにします。お昼過ぎに試合が終わるというだ
けで、ここに来るの正確な時間なんてわかりません。でも、家に帰るためには確実
にここを通るはずです。その点においては、すっぽかされることもないので彼女は
安心して待っていられます。
なんだか初デートのような感覚ですね。恵理は嬉しくて頬を染めてしまいます。
待つこと数時間、奥山くんはクラブの仲間たちと騒ぎながらやってきます。もち
ろん恵理のことなんかに気づくはずはありません。
彼女は、そっと後を付けます。彼が一人になったところを狙おうと考えているの
です。でもでもぉー、それってストーカー行為っていいません? か弱い女の子な
ら許されるってわけでもないでしょう。
彼女は相変わらず心をときめかせながら、彼の後を追います。次の駅で彼は降り
ません。どこか寄る所があると、仲間たちと別れます。これは、チャンスとしかい
えないでしょう。恵理は彼との間合いを詰めます。
目の前には彼の背中が2、3メートル近くまで迫っています。今は電車の中、こ
んなところで拳銃を取り出すわけにはいきません。必死に気持ちを抑えます。
しばらく電車に揺られ、大きなターミナル駅に着きました。そこで彼は下車して
行きます。
すかさず、恵理は彼を追いかけて距離を離さないように、また近づきすぎないよ
うに気をつけながら歩きます。
駅前の大通りを渡って少し行くと、緑地公園が見えてきました。大きな公園です
ので、もしかしたら二人っきりになれるかもしれません。
期待が高まり、それと同時に胸の鼓動も早くなります。とうとう薬を使うことが
できるんだ、そんな想いが今までの苦労の記憶を引き出します。
突然降ってきたノート。あれはやっぱり神様の仕業だったのかもしれない。そし
て、初めて試したおまじない。その次の日、初めて名前を呼んでもらえた。とても
嬉しくて眠れなくて、また同じおまじないをやったりしたものでした。それから、
忘れられないのがペロちゃんの尊い犠牲です。あのコがいなければ、恵理もこの薬
を作る事ができなかったに違いありません。あとは、猫のジャックや犬のピーノの
協力。今ではこのにわか魔女の、まるで使い魔のような忠実なる下僕です。これも
怪我の功名?
武器を拾った時は、恵理はどうしようかと思ったけど、こんな使い方があるなん
て考えもしなかった。あの時の閃きはわたしの一生分の能力を使ってしまったのか
もしれない。
物思いに耽りながらも、足はしっかりと奥山くんを追いかけています。
公園の手前を曲がられたらどうしようかと思いましたが、彼はそこを突っ切って
いくようです。それとも公園自体に用事があるのでしょうか?
今日は、なんだか人通りが少ないようです。これはかなりチャンス、今日の恵理
はかなりツイてます。魚座のA型、よく当たるとの占い雑誌の通り、赤いものを身
につけてきて正解でした。彼女は単純に喜びます。
ポケットから静かに拳銃を抜きます。安全装置を外して、目の前の彼の背中へと
銃口を向けます。この距離なら当たる、そう思って引き金を引いた瞬間に、彼はしゃ
がみ込みます。靴ひもがほどけたのでしょうか?
−バン!
銃声だけが響きわたります。
奥山くんは驚いて後ろを振り返りました。
目が合ってしまいます。恵理は照れ隠しにと、微笑みを浮かべました。
「水谷さん? なにかの冗談?」
彼がひきつった顔で言いました。
「ううん。本気」
わたしは本気であなたのことが好きなの。そう言いたかったのでしょう。でも、
恵理が持っているのはまぎれもなく拳銃です。それも本物なんですよ。
「それ、モデルガンだよね?」