AWC 【らぶらぶ・ファイヤー】恋は火力で勝負よ!(2) らいと・ひ


        
#4400/5495 長編
★タイトル (NKG     )  98/ 1/31  23:36  (199)
【らぶらぶ・ファイヤー】恋は火力で勝負よ!(2) らいと・ひ
★内容
「お客さん。餌はどうしますか?」
 そう訊かれて、恵理は返答に困りました。だって、飼うわけじゃないのですから
餌などいらないはずです。でも、黒焼きにするなんて言えるはずがありません。
「それもつけていただけますか」
 彼女はそう言うしかありませんでした。
 こうして、17種の材料を手に入れた恵理は、籠の中でかさかさと動き回るイモ
リに目眩をおぼえながら、なんとか帰路につきました。
 情が移らないうちにイモリの処理をしたいのですが、どうすればいいのでしょう
か?
 恵理の魔法の薬へ本格的な試みは、大きな問題を残して座礁してしまいました。


 あれから何日かたち、イモリはすくすくと育っています。恵理もようやくその姿
になれ、触れる程度にまでなりました。それはいいのですが、今度はペットとして
の情が移ってしまい殺すことをためらってしまうようになりました。
 材料はそろってます。あとはイモリのペロちゃんをどう処理するか? え? あ
きらめるんですか? もったいない。ここまで用意をしておいて、それを試さない
のはもったいないというものです。恵理はやはり優しすぎるのか、それとも勇気が
ないだけなのか、それは彼女自身にもわからないことなのです。
 そんなある日、学校から帰った恵理が籠の中を見ると、ペロちゃんがいないこと
に気づきます。よく見ると、フタが少し開いているじゃありませんか。たぶん、彼
女が昨日餌をやった時にきちんと閉めるのを忘れたからでしょう。
「ペロちゃーん」
 呼んだところで返事の返ってくるような生き物ではありません。でも、彼女は愛
おしげに呼びながら部屋中を探し回りました。ふと床を見ると、机に積まれていた
辞書の一冊が落ちていることに気づきました。何かの拍子で落ちたのだろうか? 
そう思い辞書を手に取ると、その下には哀れにも潰れかけたイモリの亡骸がありま
した。
 こぼれ落ちる涙、そして胸の痛み。あんなにも嫌っていたイモリ。でもやっと好
きになれたかもしれなかったのに。そんな想いが恵理の中で沸き上がり、泣かずに
はいられなかったのでしょう。
「かわいそう……わたしに飼われなければ、こんなことになることもなかったのに。
わたしが欲を出したばかりに」
 泣きながらイモリをハンカチの上に乗せ、このまま土に埋めてお墓でも作ってや
ろうかと彼女は考えました。
 でも、火葬の方がいいのかな? そんな考えが心を過ぎり、再び邪な考えが浮か
び上がります。
 黒焼き。
 かわいそうかもしれない。でも、死んだことを悔やんでもしょうがないのです。
運命は早まるか遅まるか二つに一つなのですから。
 棺はハンカチからアルミホイルへと変わりました。そしてペロちゃんの胸にはセ
ージの葉がのせられます。これは香り付けだとノートに書いてありました。
 火葬場はオーブントースターです。親に気づかれないように、自分の部屋へと持っ
ていき、コンセントを探します。
 トレイにのせると「ペロちゃん、安らかに眠ってね」などと弔いの言葉を述べて、
スイッチタイマーを最大までひねりました。
 ほどよくしてヒーターは加熱して、じりじりと肉が焦げる音が響いてきます。
 あとは待つだけ、これでペロちゃんは本来の材料となり、魔法の薬の成分の一つ
となるのです。ああ、どうかこの罪のなき魂が救われますように、などと彼女はそ
こまでは考えなかったのでした。
 チン! と音がして、なんだか香ばしい臭いが部屋に充満します。さて、これで
この黒焼きのペロちゃんを粉にすれば、第一段階の準備は終了です。
 いざ、魔法の薬よ。もし本当に効き目があるのなら、わたしは他に何も願うこと
はないのです。だから、少しだけ期待をさせて。恵理のそんな想いが通じるのかは
わかりません。が、一つだけはっきり言えるとすれば、それは彼女が少しだけ欲張
りになったということです。


 あれだけの材料で、できた分量は50ccあるかないかです。でも、問題は分量
ではありません。効き目なのですから。
 ノートによれば、この薬を相手の体内に入れればそれでいいそうです。飲ませる
か、吸わせるか、皮膚からの吸収はかなり効果が薄いらしいとのことでした。
 恵理は考えます。せっかく苦労して作ったはいいのだけど、問題はまだまだあり
ます。飲ませるにしろ、吸わせるにしろ、直接行ったのでは不信がられてしまいま
す。なにせ彼女と奥山くんはそれほど親しい間柄ではないのですから。だったら、
人に頼みましょうか? それもダメです。頼んだ人間が今度は不信がります。それ
よりも、恵理の知り合いに奥山くんとそれほど親しい人がいないことの方がネック
でしょう。
 水風船に入れて投げつけるとか? それもダメです。皮膚からの吸収は効果が薄
いらしく、第一そんな子供っぽいことして、もし外れたりしたら薬を失うばかりか
彼に嫌われてしまいます。
 さて、どうしたものかと恵理は再び頭を悩まします。
 何かヒントはないかと、ノートを再び読み返すことにしました。
 項目「副効能:心ばかりでなく肉体の傷口をも回復する力があります。ただし使
いすぎに注意」
 惚れ薬が傷薬? なんだか妙な副効能に頬を緩める恵理でした。でも、試してみ
る価値はあるかもしれない。それが効き目を確かめる確実な方法なのだから。彼女
はそう思い立って、裁縫箱からまち針を取り出します。そしてそれを小指に刺しま
した。
「痛!」
 ぷつんという感覚とともに赤い点がじわじわを広がり、刺したところから血が盛
り上がって出てきます。
「もし本当に効き目があるのなら」
 スポイトで魔法の薬を吸い取り、血が出た指先へとぽとりと落とします。すると
どうでしょう。痛みがすぅーっと引いていき、ぴたりと血が止まりました。ティッ
シュでふき取ると、そこには刺された後がありません。
「嘘?」
 思わず声にだしてしまう恵理でしたが、小さな傷では気のせいという可能性も強
いのです。今度は思い切って手のひらに、カッターで1センチくらいの傷をつけま
した。
 これなら見た目にもわかりやすいです。もしこの傷がきれいさっぱり消えたのな
ら、薬の効果は本当だということでしょう。
 再びスポイトで傷口に数滴たらします。まるで、麻酔のようにすぅーっと痛みが
消えていき、傷口も嘘のようにふさがってしまいました。
「あとは本当に惚れ薬としての効果があるかね」
 次の日恵理は、コンビニで猫用の缶詰を買います。もちろんポケットには小瓶に
いれた数ccの薬が入っています。
 近所にいる野良猫は人見知りが激しく、いくら優しく話しかけても寄ってきたり
なんかしません。それは単に恵理が、猫をあまり好きじゃないからかもしれません
が。
 でも、今日は魔法の薬があります。もし、この薬の入った餌を食べたのなら期待
通りの効果が持てましょう。しかし、人間以外に効くのかな? そんな疑問も浮か
びあがります。人間で実験できない以上、猫で試すしか手はないのですから、それ
もしょうがないのでしょう。効果がなかった時は別な方法を考えればいいのですか
ら。
 猫缶のフタを開けます。缶切り不要なので、そのまま引っ張るだけの簡単なもの
です。その中に魔法の薬を小瓶から数滴垂らします。
 恵理の嗅覚にはとても甘く心地よい感じが伝わります。猫にはどうなのでしょう。
かえって警戒してしまうのかもしれません。そんなことを考えながら、彼女は缶詰
を猫のよく通りそうな建物と建物の間の狭い通路部分に置きます。
 明日再び来て、餌がなくなっていればどこかの猫が食べた証拠です。もしその猫
が恵理になついてきたのなら成功なのかもしれません。食べてなかった場合は猫が
臭いに警戒してしまったということ、食べていても猫が寄ってこなかった場合は、
人間以外の動物には効かないのか、それともそんな効果なんて初めからなかったの
かのどちらかになります。ほんとは人体実験をやりたいのですが、親を試すわけに
はいきません。もちろん親友の美咲なんかにこの薬を飲ませたら大変なことになる
のです。
 あくまでも、あせらずじっくり様子を見ましょう。そう心の中で落ち着けて家に
戻ることにします。


 真夜中。
 何かの音で恵理は目覚めます。時計の針は2時16分。なんだかうるさいなぁ、
と思いながら眠い眼を擦ります。
マャーオ。
 なんとも甘ったるい猫の鳴き声とともに、彼女の部屋の外壁をがりがりと引っ掻
くような音も聞こえてきます。
「なんだろなぁ」
 寝ぼけた頭には、夕方に仕掛けた猫の餌のことなど思い出せるはずがありません。
仕方なく恵理は、部屋の窓を静かに開けます。
 窓から顔を出した途端、鳴き声の主であろうと思われる猫と目が合います。猫の
ほうはというと、何かを訴えかけるようにミャーミャーと鳴いています。
「あなた、もしかしてあの餌食べたの?」
 恵理はやっとそのことに気が付きました。でも、そんな質問をしたところで伝わ
るわけがなく、猫はただミャーミャーと鳴いているだけです。
 彼女は窓から身を乗り出して、庭に迷い込んだ猫を抱き上げました。
 猫の瞳はどこか焦点の合っていない感じです。部屋の中にそっと置くと、猫は彼
女の方へとすり寄ってきました。
「本当にわたしに惚れちゃったのね?」
 恵理は微笑みながら猫を見つめます。惚れさせちゃった責任もあるのだから一緒
に寝てもいいかな、そんなことを考えながら自分のベッドに猫を招き入れました。
 今はまだ少し肌寒い季節。なんにせよ、ぬくもりはありがたいものです。
 彼女は薬の効果に喜びながら、その日は奥山くんのことを想いながら眠りにつき
ました。


『料理は愛情!』
 だらだらとテレビを見ていると、いつもの料理番組が始まります。
 恵理は学校から帰ると、頭を抱えながら部屋に戻り、悩み疲れていつしかリビン
グでソファーに寝転がりながらテレビを見ていました。
 薬の効果があることは証明されました。あとは方法です。学校で、奥山くんに接
触する方法をいくつか考えました。でも、それほど親しくない間柄です。もっとも
接近できてもせいぜい2、3メートル、無理矢理薬を口に押し込むことなんてでき
ません。人目も気になりますし、そんな態度に出た時点で警戒されてしまいます。
そうなったら二度とチャンスはないのですから。
 紙飛行機の先に薬をつけて……なんてことも考えましたが、うまくいくわけがな
い。頭からどぼどぼと薬をかけるなんてのは問題外。彼女は、考えに詰まってしま
い気分転換にとテレビをつけたのでした。
『今日は鯉を使った中華料理です。中華は火力が勝負ですからね』
 たわいもない説明を出演者の一人がしています。
「恋も料理みたいに誰でも簡単に作れればねぇ」
 恵理は自分では気づいていないようですが、ギャグではないのでしょう。思い詰
めた頭にはそんなユーモアなんか欠片も残っていないのですから。
 さてさて、テレビでの気分転換もうまくいかず、恵理は再び外へ出かけることに
します。外をぶらぶらと散歩する。人間の頭というのは、身体を適度に動かしてリ
ラックスしている時の方が良いアイデアが浮かぶことが多いのです。
 もう日も暮れかけて、長い時間は散歩できないな、と思いながら空を見上げます。
夕焼けの茜が空を染めかけています。
 茜色はとても寂しい色だけど、なんだか暖かみも感じる。そんな詩的なことを考
えて上を向いていたものだから、何かがぶつかってきても、それを避けることはで
きませんでした。
「痛!」
 衝撃で尻餅をついて、おもわず恵理は軽く悲鳴をあげます。
「気をつけろ!」
 我に帰って前を見るとヤクザ風の男の人も同じように尻餅をついて倒れています。
「ごめんなさい」
 たしかに前を向いていなかった恵理も悪いのですが、この男の人だって同じこと
でしょう。でも彼女は、それを追求する気にはなれませんでした。
 男は無言で立ち上がると、焦ったように走り出していきます。
 恵理はあっけにとられて倒れたままの状態なのです。なんだか、嵐が過ぎ去って
いったような気分でした。
 お尻の埃を払い落とすと、恵理は何事もなかったかのように歩き始めました。今、
考えなければいけないのは、薬をいかに効率よく効果を出させる方法を探すかなの
です。 考えに考えながら歩いていたので、思った以上に遠出をしてしまいました。
気が付くと工場跡地の寂れたところにまで来てしまっていました。
 ここは、ひとけがないので気をつけなさいと学校からも親からも注意されていた
場所です。早く帰らなくちゃいけないと思い、どうせなら近道をと思ったのでしょ
う。恵理はそのまま工場跡地内に入り、反対側にある道路まで突っ切って行こうと
走り出しました。
 何かの突起物で、彼女の足が引っかかります。倒れそうになりましたが、なんと
か持ちこたえます。
「なに?」
 好奇心にかられて、恵理はその場所を調べてみることにしました。
 地面からわずかに出たその突起物は、布袋のようなものに包まれています。しか
も、ここだけ埋め直したような後がある。幸い、工場のその部分は砂地だったため
か、物体を掘り起こすのにそれほど手間はかかりませんでした。
 恵理と同じくらいの丈はあるだろう長い布袋に棒状の物が2、3本、それから底
の方に箱に入った何かが触った感じからわかります。重さはけっこうなものなので、
持ち帰るわけにもいきません。




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