#4394/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 98/ 1/28 21:46 (200)
銀の砂漠の盗賊(23) 赤木 錠
★内容
数々の伝説を残すジルジスの実体の、まさに根幹をなすのが、この勘のよさと断
言しても過言ではない。
そのために、ラエラはだまって席をゆずったのだった。
『敵光子弾が発射されました。弾着まであと三十二秒』
シャハラのフラットな口調がコクピット内に流れる。こたえるものはなかった。
反撃もしない。敵ディーヴァール・システムをダウンさせる意図がない以上、接
触以前の攻撃は無意味だった。
マヤが緊張した面もちで、パイロットシートに背をあずける。
『ディーヴァール・システム作動。被弾します』
シャハラが宣告し、つぎの瞬間、艦体が轟音とともに激しく震動した。
『ディーヴァール・システム、異状なし。被害はありません。つづいて敵光子弾、
三発が接近中。弾着まで五秒。ディーヴァール・システム作動。被弾します』
さきとは比較にならぬ激しさで、ふたたび轟音と震動。
『ディーヴァール・システムに異状は見られません。敵艦接近、パルスレーザーの
照射をうけます。システム続行』
内臓からゆさぶられるような衝撃がたてつづけに艦内を襲いはじめる。
レイが歯をくいしばりながらコンソールにしがみついた。胴部固定アームに、肩
と腹がたてつづけにうちつけられて、激しくくいこむ。
「ひどい気分だ」
ぼやく声音が上下にゆれた。
ジルジスが、声をたてて笑う。
『先頭の艦に接近します。あとはおまかせします、ジルジス。接触は約五秒後』
いってシャハラの声は沈黙する。
壮絶な震動に見まわれる艦内で、ジルジスはヘッドアップ・ディスプレイにつつ
まれた顔をうなずかせた。激しくゆさぶられながら、目には焦慮のかけらも見られ
ない。
敵高速戦艦の巨体がみるみる接近してくる。迫りくるルベン転換鋼の巨体が、異
様な量感をともなって映しだされた。
ぺろりと、ジルジスはくちびるのはしをなめあげた。
両眼部分をおおったヘッドアップ・ディスプレイ内部に、仮想立体映像が交錯す
る。戦闘に必要な各種データと様式化された画像が、仮想映像で表示されるのであ
る。
言葉もなく、瞬時にしてコンソール上にジルジスの操作の手がひらめく。
右舷ブラスター・キャノンが野太いエネルギー束で虚空を切り裂いた。
灼熱の光条が敵戦艦、機関部と居住部のはざまを、あざやかに上下にはしりぬけ
た。
爆光が膨張する。
すれちがう敵艦の後部が、すばやく分離し、放棄された。対艦戦は敵艦の機関部
を破壊できればまちがいなく勝てる。ただし、機関部の爆発に居住部がまきこまれ
ないよう、わざわざ相手に損傷部分離の余裕を与えるのは至難のわざだ。
それをジルジスは、みごとにやってのけたのだった。
リアヴュウに映しだされた巨大な爆光が、ドプラー変移をおこして青紫色に遷移
していく。
『さらに二艦接近。中央突破します。接触は約十五秒後。右側がわずかに突出して
います。パルスレーザー被弾。ディーヴァール・システム、四十パーセントにダウ
ン』
「シャハラ、ブラスターをのぞく全武装を全解放。左右の高速艦にむけて、ありっ
たけぶちかませ」
ジルジスは、野獣のように獰猛に笑いながらいった。
『了解。命令を実行中』
シャハラザード艦体各部に収納されていた各種砲塔がいっせいに開口し、両舷の
高速戦艦にそれぞれ集中砲火をあびせはじめた。
同時に、レーザーの真紅の光束が左右からあびせかけられる。接近するにつれ、
それに敵ブラスターの砲撃も加わった。防御システムの性能がみるみる下降してい
く。
『ディーヴァール・システム、ダウンします』
ついにシャハラが宣告した。
そのときにはすでに、コンソール上でジルジスの手は舞踏のように優雅に踊りは
じめていた。
『右舷高速戦艦のディーヴァールが出力低下。まもなくシステムダウンします』
シャハラがそう告げたとき、両舷に装備されたブラスター・キャノンがジルジス
の命をうけ、灼熱の牙と化して左右の高速戦艦に襲いかかった。
同時に、敵の放ったブラスターもシャハラザードの船体をなめた。
耳もとで無数の銅鑼をうち鳴らされたような凄絶な轟音がひびきわたった。
四肢がばらばらにひきちぎられそうな激烈な震動が艦内をふるわせ、狂おしく意
識を撹拌する。
『右舷搭載艇格納庫被弾。左舷エンジンノズル被弾。左舷ディーヴァール・ジェネ
レータ被弾。エンジン・ノズルを分離します。消化システム、作動中。出力二十パ
ーセント・ダウン』
「敵艦はどうなった?」
叫ぶようにしてききながら、ジルジスはモニターにかみつくような視線をやった。
『左舷側の高速戦艦は機関部を破壊されて分離後、戦線を離脱。居住部に深刻な損
傷は見られません。右舷側の高速戦艦はディーヴァール・システムを完全に中和し
きれず、ブラスターの照準にわずかに狂いが生じたようです。ディーヴァールその
ものはシステム・ダウンにより完全に沈黙したものの、破壊は不充分。四つの機関
部のうち、第二エンジンのみ損傷、第四エンジンとあわせて分離ののち、反転にか
かっています。追撃の体勢です』
ききながらジルジスは状況を目で確認していた。くそ、とうめく。
「逃げきれるか?」
『不可能です、ジルジス。オーヴァードライヴ可能域に達する直前に、敵光子弾の
射程内に入ると推測されます。ノズルの損傷が悔やまれます』
恒星系内、とくに惑星などの巨大質量の付近では、重力場と磁場が複雑に交錯す
るために超光速航法(オーヴァードライヴ)に入ることができない。オーヴァードライヴに
突入することさえできれば追撃はふりきれるが、その前に追いつかれるだろうとシ
ャハラはいうのである。
「よしわかった」とジルジスはいった。「敵射程外ぎりぎりにまわりこんで反転だ。
迎えうつ」
レイも、マヤも、そしてシヴァまでもが、目をむいてふりかえった。
受けてジルジスは、にやりと笑った。
「勝ち目がないぞ、ジルジス」レイがいう。「いや……敵もディーヴァールが使え
ないから、五分五分か」
「システムの性能なら、こっちのが圧倒的に上だぜ、レイ。そうだろう? こっち
のが射程がながいんだ。敵の射程外からじわじわあぶってやる。勝ち目はあるぜ」
ふん、と鼻をならしてレイは笑った。
「勝手にしろ」
マヤも、蒼白の顔をしながらジルジスにむかって微笑んでみせる。
あいかわらず無表情のまま、シヴァもまたうなずいてみせた。
「よし」と、ジルジスはいった。「いけ、シャハラ」
『了解しました。高速反転開始』
シャハラザードはゆるやかに弧を描きはじめる。
ジルジスはコンソールに手をのばした。
待つ。
やがて、シャハラがいった。
『敵高速戦艦、追撃航路から離脱。サディレシヤへの帰還軌道にのります』
なんだと、とレイが目をまるくしていった。
「敵はこっちの性能は把握していないはずだ。なぜ逃げる?」
「おじけづいたんじゃないの?」とマヤが口をひらいた。「きっと、あのくされバ
カ王、最初の戦艦か、もうひとつのエンジンやられちゃったのに乗ってたんだよ。
指揮官うしなったら、戦意もなくなっちゃうもんでしょ」
「それはどうかな」
つぶやいたきり、レイはだまりこむ。
ジルジスも、無言のままモニターのなかで遠ざかっていく敵高速戦艦の噴射プラ
ズマの光をながめやっていた。
「もういい」
遠ざかるリアヴュウのなかの“シャハラザード”の光をながめやりながら、ザグ
ラール王は疲れたように、先刻口にしたセリフをもう一度くりかえした。
「もう、いいんだ」
自分にいいきかせるようにして、さらにつぶやく。
シートに深く身をうずめて、ため息をつきながら目をとじた。
それっきりザグラール王は、その姿勢でながいあいだだまりこんだままでいた。
疲労とかなしみが、そのおもてを深く沈ませていた。
すわっている者を卵型につつみこむエアバッグが、ふいに音を立てて左右にわか
れていった。
「終わったようですね」
シートから身を起こしながらラエラが口にする。
コクピットに隣接するコンパートメントであった。
半身をおこしながら、サフィーヤ姫は夢からさめたような顔をして、目をしばた
たいた。
「どうなったのでしょうか……?」
「シャハラ、どうなった?」
ラエラがきいた。
『敵高速戦艦のうち、二隻を航行不能の状態にしました。のこりの一隻は、反転離
脱。サディレシヤへの帰還軌道に乗っています』
ラエラがいぶかしげに眉をひそめる。
サフィーヤ姫は、しばし考えるようにしてだまりこんでいたが、やがて、ちいさ
くつぶやいた。
ザグラールさま、と。
ラエラは、そんな姫君に視線をやり、しばし見つめた。
それからいった。
「それでは、サフィーヤ、まいりましょう」
「あ、はい」
姫君はさきに立って歩きはじめたラエラのあとにつづく。
てっきりコクピットにむかうもの、と思いこんでいたが、ラエラは通廊をはさん
だ反対側のコンパートメントの前に立った。
「サフィーヤ。この船には、実はもうひとり乗客がいるんです」
姫君の顔を見つめてラエラはいった。
え、と姫は女盗賊を見かえす。
ラエラはあわく笑ってうなずいた。
それから、コンパートメントわきについているパネルのボタンをおした。
しばしの間をおいて、自動扉がつつましやかな音を立てて左右にひらく。内部の
人間が操作したのだろう。
手をさしのべてラエラは、サフィーヤ姫に室内に入るよううながした。
姫は、いぶかしげにラエラを見かえしながら、とまどい気味に室内に歩み入った。
ラエラはついてこず、背後で扉のしまる音がする。
そしてシートからひとつの人影が立ちあがるのが、姫君の視界のすみに映った。
眉をひそめながらそちらに目をやり――
「サフィーヤ」
万感の想いをこめて呼びかけてくる人の姿を前にして――姫君は信じられぬよう
におおきく目を見ひらき、両手で口をおおった。
いっぱいに見はった両の瞳から、みるみる涙があふれだす。
「サフィーヤ。しばらく見ないうちに、またいちだんときれいになったな」
こちらも涙で目をうるませながら、長身の貴公子然とした人物はいざなうように
して、両手をおおきく左右にひらいた。
「お――」泣きながらサフィーヤは、感きわまったように口にした。「おにいさま」
そのまま一直線に、サフィーヤ姫は兄アリシャール王の胸のなかへと飛びこんで
いった。
エピローグ
放心した時間を、ザグラール王は軌道ステーションの専用居室の内部ですごした。
食事もせず、眠りもせずにだれひとり室内に歩み入ることすら許さぬまま、虚空を
ながめてながい時間をそこですごし――ようやく眼下の惑星におりる決心がついた
ときは、半日以上の時間がたっていた。
シャトルで運ばれるあいだも、地上におりてから王宮にむかうまでの途上も、終
始無言のままでいた。
魂のぬけたような顔をしていた。
そして王宮にたどりついたザグラールをリダー大臣が出むかえた。
くどくどと無事帰還を祝いはじめる大臣を疲れたように王はさえぎるだけだった。
大臣は、王の尋常ならざるようすに眉をひそめる。追跡行がついに不首尾におわ
ったことはきいていた。さすがにかけるべき言葉も見あたらず、力なく居室をめざ
しはじめた王のあとをしばし言葉もなく追った。
「そうそう、陛下。例のこと、調べておいたのですが、おどろくべき報告が得られ
ましたぞ」
沈みこんだ王の気分をもりたてようとしてか、大臣は不自然なほど快活な大声を
だしていった。
「例のこと? ああ」
気がなさそうに王がいうのへ、リダー大臣はかぶせるようにいう。
「はい、わが軍が全追跡行の過程においてだした人的損害です。よろしいですか、
陛下。じつに不可解なことなのですが――姫が強奪されてから、宇宙での追撃戦に
いたるまでのすべての過程において、死者はひとりもでていません」
ほう、と王は力なくつぶやき――立ちどまった。
あやうくぶつかりそうになりあわてて立ちどまる大臣の前で、王は意味がのみこ
めずに虚空をながめあげ――
「死者が、いない?」
ふりかえるや、目をむきだしてききかえす。
「はい。負傷者は多数でていますが、死者はおりません。重大な症状の負傷者もお
りませんので、今後もこの件に関しましては死者がでることはないでしょうな。ど