#4387/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 98/ 1/28 21:19 (200)
銀の砂漠の盗賊(16) 赤木 錠
★内容
砂漠でおきざりにした追撃隊の先頭部隊が、追いついてきていいタイミングだっ
た。
となれば、戦闘機で先行していた兵士に、ティーズバードが炎上した地点でガン
シップでかけつけた追手が加わり、徒歩で移動してきたのかもしれない。
足のおそい浮遊戦車隊が追いついてくるまでには、もうすこし時間がかかるはず
だ。
重装甲のデザートガレー相手に対抗できるだけの武器は、手もとにはない。爆発
寸前のティーズバードからじゅうぶんな装備をもちだす余裕など、とてもなかった
のだ。
だから、できればデザートガレーが姿をあらわす前にけりをつけてしまいたかっ
た。
さいわい、これまでの応酬で歩兵の半数以上は戦闘不能にしたはずだ。
ただし、不安材料がもうひとつある。
ブラスターのエネルギー残量だ。
ジルジスは半分以上を消費している。
かたわらの樹陰にひそむマヤに視線をむける。
少女はなさけなさそうに首を左右にふってみせる。
「あと十発も撃てば、エネルギー切れ」
「わかった」
ジルジスはいって、あごをふった。
打ってでるぞ、という意味だ。
敵の兵士から、武器を奪う算段だ。
マヤも無言でうなずきかえす。
「六人か?」
ジルジスがきいた。
マヤは首を左右にふる。
「八人。ほら、あそこ」
指さしたさきに、樹木にさえぎられて見とおしのききにくい場所に位置するビル
があった。
窓から、銃口がのぞいている。
「なるほど」
「ちょっと待って。さらに修正。十人にふえたよ」
マヤの指さすさき、下生えがかすかにゆれていた。
「わかった。半分ずつだ」
「じゃ、ボクこっち」
「よし」
短くいいかわし、そのままなんの合図もなしに、ふたりは同時に樹陰からとびだ
した。
敵の銃撃がふりかかる。
マシンブラスターだ。
たてつづけの弾着が、樹から樹へと走るふたりを追った。
かまわずふたりは、援護も何もなしに二手にわかれて疾走した。
ジルジスはある程度走ってから、手近の樹木にとりついた。
猿のように身軽に、見るまに枝から枝へとのぼりつめる。銃撃が追ってきたが、
間一髪でジルジスの動きのほうがはやい。
すばやく樹上にでると、そのままなんのためらいもなく、となりの樹に飛んだ。
宙を舞う影を追い、幾条もの熱線が移動する。
反撃はまったく加えず、ジルジスはさらに移動する。
手近にいた二人組に接近した。
パニックになった兵士たちが、やみくもに撃ってくる
光条は見当ちがいの方角をないだ。とつぜん頭上から敵があらわれたのだ。パニ
ックも手伝って、まともな照準ができずにいるのだろう。
「ふん」
鼻をならしてジルジスはブラスターを撃った。
けりはすぐについた。
遮蔽物にたどりつくよりさきに、二人組はそれぞれきき腕の肩を灼かれてうずく
まった。
出力はおさえてある。致命傷ではない。
だがショックで、二人とも銃をとり落としていた。
ジルジスは飛びおりた。
別方向から放たれた熱線が、それまでジルジスがいた樹上をないだ。
かまわず、ジルジスは敵の二人が起きなおるよりさきに突進し、まとめて体当た
りをくらわせた。
手にしたブラスターの銃把で、手近の相手の側頭部をたたきつけた。
うめいて兵士はうずくまる。
そのときには、もうひとりの兵士はたおれこみながらも、とり落とした足もとの
ブラスターに飛びつこうとしていた。
ジルジスはそのブラスターを強引に、足をのばして蹴りつけた。
砕けた舗石上を銃がころがる。
「動くな」
飛びだしかけた兵士のうしろから、ジルジスはいった。
銃口をその後頭部にむけていた。
兵士が硬直する。
「わるく思うな」
いってジルジスは、兵士の後頭部を蹴りつけた。
一撃で昏倒する。
うめいているもうひとりにも、首のうしろに手刀をたたきこんで、きちんと気絶
させた。
そして地におちたマシンブラスターをひろいあげた。
同時に、背後から怒声があがる。
考えるよりさきに、足が地を蹴った。
かたわらに密生する樹木のなかに飛びこむ。
あとを追って、銃撃が舗石をたたき割った。
ジルジスは樹幹に身を隠しつつ、収穫したマシンブラスターで敵の足もとをなぐ
ように掃射をくわえる。
下生えから身をのぞかせていた敵が左右に散る。
「よし。これでなんとかなる」
ちいさくつぶやき、ジルジスはふたたび樹陰をつたって移動をはじめた。
そのとき、ぴぴぴと音がなった。
首にまいたチョーカーの宝石からあがった音だ。
ジルジスは移動を中止する。
敵の位置を確認しながら死角に身を隠し、首もとに手をのばした。
血のように赤い宝石をかこむ装飾部の一端に、つい、と指をふれる。アラームは
鳴りやんだ。
「コール“シャハラザード”」
ジルジスは低くつぶやいた。
同時に、耳もとのピアスがオルゴールの音を発しはじめる。
ジルジスのコミュニケータだ。ピアスが受信器、チョーカーのルビーが送信機に
なっている。オルゴールは相手へのコール音だ。
すぐに、こたえが返ってきた。
『どうした』
軌道上のレイである。
「ティーズバードがおしゃかにされた。迎えにこい」
『ばかめが』レイは憎々しげに答える。『私に頭脳労働以外の仕事をさせるなと、
何度いえばわかるのだ、おまえたちはまったく』
「いいからすぐこい。でないとラエラが死ぬぞ」
『しかたがない』ほんとうにしかたがなさそうに、通信機のむこうでレイがいった。
『おまえのことはどうでもいいが、ほかの連中はかわいそうだしな』
「位置はわかるか?」
『待て……よし、確認した。地形を確認する。よし。ポイントE1―1500あた
りでどうだ?』
ジルジスはすばやく位置関係を計算する。
「いや、そこだとティーズバードの残骸がある。敵がうろついている可能性がある。
E5だ」
『よし。距離は1200。時間はQ1』
「たのむ」
ジルジスはいい、ふたたび身がまえた。
「よし、銃をすてて両手をあげろ」
いいながら髭面の男――カシム星佐は、油断なく銃をラエラの心臓にポイントし
た。
ち、と舌うちひとつ、ラエラはおとなしく言葉にしたがって、銃を足もとに落と
し、両手を頭のうしろで組んだ。
「よし」星佐はサフィーヤ姫に視線をうつす。「あんたもだ、姫」
傍若無人な口調でいった。
ラエラはひそかに舌うちをする。
姫を戦力と考えていたわけではない。眼前の男のぬけ目のなさが、気にいらなか
ったのだ。つけいるすきがない。
姫は目をまるくしたが、おとなしく従い、ラエラとならんで手を頭のうしろにま
わす。
「よーしよし」にやにやと、いやらしい笑いをその髭面にうかべながらカシム星佐
はいった。「動くなよ。ええ? でないと、おまえらのそのきれいな顔に、みにく
いやけどのあとができちまうぜ」
慎重な足どりで樹木のあいだをぬって近づいてくる。
「よけいなことは考えるんじゃねえぞ。おまえらはぜんぶで五人だろ? 二人は、
おもてのほうでおれの部下どもとやりあってる。もうひとりも、見当ちがいの方向
に走り去っていくのを確認しておいたからな。援軍は来やしねえ。絶対にな。あき
らめな」
いいながら、足もとに落とされたラエラのブラスターを蹴りつけて遠ざけ、さら
にゆっくりと近づいてきた。
やがて、手のとどく距離まできた。
すきあらば飛びかかってやろうと、ラエラは敵をにらみつけた。
が、無造作な足どりに見えて、眼前の髭面の男の動作にはむだも油断もない。
にやにやと笑いながらカシム星佐は、手にした銃の先端をラエラのあごの下にさ
しこんだ。
銃口を、愛撫でもするように首もとにすべらせる。
「いい女じゃねえか」舌なめずりをしながらいった。「もったいねえな。ここで死
ぬなんてな」
ぴくりと、サフィーヤ姫が反応した。
「殺すのはやめてください」
哀願口調でそういった。
「もちろん殺しゃしねえよ。あんたはな」カシム星佐はいった。「だが、こっちの
ねえちゃんはダメだ。油断のならねえ目つきしてやがる。ちょいとすき見せたら、
とたんにのどもとにかみついてくるって目つきだ」
いいながら、ぎらぎらとした目でラエラの顔を、なめまわすように見た。
それからふいに、つ、とあとずさり、ふたたび銃口をラエラの胸にむけた。
「そういうわけで、あばよ」
トリガーにかけられた指が、なんのためらいもなく引かれた。
マジュヌーン
耳ざわりな銃撃音がまきおこった
そして、たてつづけに放射された熱線が――ラエラの眼前の空間で、目に見えな
い壁にはじかれるようにしてまばゆく八方にスパークした。
「なに?」
星佐は目をむき、さらに銃撃を加えた。
結果はおなじだった。
光条は――ラエラに達する直前で、花火のようにはじけ飛ぶばかりだった。
ぼうぜんと、カシム星佐はラエラを見つめる。
対してラエラは――こちらも、驚愕したように目をまるくして、眼前でまきおこ
った怪現象を見ていたが――カシム星佐と目があうや、ふいににやりと笑った。
「おめえ……」星佐がつぶやく。「超能力(ティール)を使えるのか」
「わたしじゃない」応えてラエラはいった。「わたしの援軍さ」
「ばかな。おめえの仲間はぜんぶ――」
「ここにひとりいる」
と――星佐の背後から、抑揚を欠いた声がそういった。
うぐ、とうめき星佐は硬直した。
「銃をすてろ」
背後の声が、無機質に命ずる。
銃をすてようがすてまいが、どうでもよさそうな口調だった。
すてなければ、引きがねを引くだけのことだ――声はそういっているのだった。
なおもカシム星佐はぼうぜんとしていたが、やがて、くそ、と吐きすてながら手
にした銃を足もとに落とす。
「ご協力どうも」
いいながらラエラが、のんびりとした動作で捨てられた銃をひろう。
壮絶な形相で、カシム星佐はラエラをにらみつけた。
ぱちり、とラエラは片目をつぶってみせる。
「ちくしょう、白ぬり野郎か」
「マスクだよ、シヴァの顔はね」
いいつつ、銃口を星佐にすえたまま数歩あとずさる。
「動くなよ」
いれかわりのように背後からシヴァが声をかけ、頭のうしろで手を組んだ姿勢の
星佐の身体検査をはじめた。
「てめえ、アタルヴァンか」
おとなしくされるがままになりながら、カシム星佐は憎々しげにきいた。
「いや」とシヴァは無感情にこたえる。「マジュヌーンだ」
「くそ。ぬかったぜ」
星佐は吐きすてた。
アタルヴァン、マジュヌーンとは、異能力の持主をおおざっぱに分類したイレム