AWC 銀の砂漠の盗賊(14)       赤木 錠


        
#4385/5495 長編
★タイトル (GVJ     )  98/ 1/28  21:13  (200)
銀の砂漠の盗賊(14)       赤木 錠
★内容
暴ぶりを黙殺せざるをえなかった部分がある。
「よし、おろせ。援軍はもちろん要請しただろうな? ええ? よしいくぞ。くさ
れ盗賊ども、いぶりだしてくれるぜ」
 星佐はいって、凶暴な笑みをうかべた。

    廃虚

「だめですな。あと三日は目をさまさないそうです。まったく、あの男もだらしが
ないわい」
 王宮でザグラール王をむかえたリダー大臣が、ほんもののティギーン将軍の容態
をたずねられて口にしたセリフがこれだった。
 いつもなら苦笑しながらきき流す王も、今日ばかりはむつかしい顔をしたままだ
まりこんでいる。
「それと、例の分子弾の分析結果がでたそうです。まったく、こんなことは本来わ
しのする仕事ではないのだが」
 と、なおもぶつぶついいかける大臣をさえぎるように、王はきく。
「結果はどう出た? やはり不発弾だったのか?」
「それが陛下。機能的に問題はまったくなかった、ということですぞ。いやあ、運
がよろしかったのでしょうな。カシムのばかものが先走ったことをしたばかりに、
あやうく盗賊めに溶かされてしまうところだったのですからな」
 うむ、と、おもしろくなさそうに王はうなずいた。
 そして、ひとりごとのようにいう。
「しかし、ならばなぜだ、シャフルード。攻撃をうけてから、おれに報復するだけ
の時間ならじゅうぶんにあったはずだ」
「なに、しょせんは盗賊ふぜいのすることです。とつぜんレーザーの直撃をうけて、
あわをくって報復することも忘れてしまった、とでもいったところでしょう」
 そうは思えん、と、王は内心でつぶやいていた。
 月光を背にたたずむ影が発散するオーラは、まちがいなくほんものだった。たか
があの程度の攻撃を受けたくらいで、あわをくってわれを忘れるとは考えられない。
笑いながら起爆装置のスイッチをおしたはずだ。
 ならば、なぜか。
 カシムへの罵詈雑言をならべはじめた大臣の饒舌をきき流しながら王は、眉間に
しわをよせたまま考えこんだ。

「わかったわ。むかし、この都市の郊外でエネルギー衛星の暴走事故があったのよ」
 手にしたコミュニケータのデータ・バンクを検索していたラエラが顔をあげてい
った。
「暴走事故だ?」ジルジスがあきれたように眉根にしわをよせてききかえす。「ず
いぶんとずさんだな」
「の、ようね」ラエラがさらにデータをスクロールさせながらいう。「出力調整の
きかなくなったレーザー波をうけて、エネルギー変換施設が全壊。汚染が確認され
たために住民は避難命令をうけて、それ以来廃虚のままらしいね」
「なるほど」
 いってジルジスは、惨状をさらけだしたゴースト・タウンに視線をむけた。
 草原に不時着したティーズバードから離れ、近くに見えていた都市に移動してか
ら小一時間が経過していた。
 戦闘艇は自爆装置を作動させ、粉みじんになっている。エンジンが完全にやられ
ていたために、ほうっておいても爆発はしていたのだ。搭載された各種の最新技術
をかけらでものこしていくわけにはいかなかったための処置である。
 その場で携帯食糧をわけあい、すぐに移動をはじめて、今ようやく都市の端にた
どりついたのだ。
 ところが、戦闘機のコクピットからちらりと垣間みた都市は、たどりついてみれ
ば人っ子ひとり見あたらない廃虚であった。
 そこでラエラが、レイの手配でコミュニケータのデータ・バンクにしこんであっ
たデータを検索した結果が、上の会話である。
「汚染の影響は残ってるの?」
 マヤが不安そうに周囲を見まわしながらきいた。
 建造物はのきなみひび割れ、荒廃の影が街全体をぬぐいがたくおおいつくしてい
る。背後にひかえる密林の先端部、熱帯樹林の浸食も、どうやらはじまっているよ
うすだ。
「それはだいじょうぶ。ただ、エネルギー照射衛星の暴走は変換施設を全壊させる
だけにはとどまらなかったらしくてね。街中を横断するようにして、レーザー照射
が雨あられとふりそそいだみたいなんだ。で、街の損傷がひどすぎて復興のめどは
まるで立ってないってことらしい」
「なるほどね」
 とマヤは立ちならぶビルの残骸をながめながらつぶやく。
 五人はゆっくりとした足どりで廃虚内部へと歩をすすめた。
 足もとのアスファルトや舗石はひび割れ、あちこちにもりあがりができている。
そしてそういったひび割れや、もりあがった部分の頂点などから、ふりそそぐ陽ざ
しの熱波をうけてやわらかくなった部分を引き裂くように植物が顔をだし、街路を
おおいつくしているのである。
 ビル群にもからみつくように蔓植物がおいしげり、周囲からは無数の鳥の鳴き声
がひびきわたっていた。
 崩れかけた窓々からのぞく枝の上に、あざやかな色をした鳥がかるい足どりで遊
びまわり、時おり葉むらをふるわせて連鎖反応的に無数の影が飛びたつ。
「なるほどね」心なしか顔を青ざめさせて、そんな周囲のようすをながめやってい
たマヤがもういちど口にした。「これじゃ、復興しようとしても一からやりなおさ
なきゃしようがないもんね」
 先頭をいくジルジスは、ものめずらしげにあちこちをながめやっている。
 そして比較的原型をとどめた、損壊度のひくそうな建物を見つけ、立ちどまって
しばしながめあげた。
 そのうしろで、マヤはそんなジルジスを、うかない顔で見た。
「ちょっと、入ってみよう」
 懸念どおりのセリフを、ジルジスが口にした。
 やっぱり、とマヤは顔をしかめる。
「いー。やめようよ。なにが出てくるかわからないよ」
「だがレイと連絡がとれるようになるまでにはまだ時間がある」いいながらジルジ
スは、すでにすたすたと建物の入口目ざして歩きはじめている。「これから陽ざし
だってどんどん強くなる。いつまでも当てもなく歩いてるわけにもいくまい」
 炎上するティーズバードからでた直後、コミュニケータを使って一行はレイに救
援を要請しようとしたのだが、連絡がつかなかったのである。
 計算してみると、周回軌道上をめぐっているレイは、いま、ちょうど惑星の裏側
あたりにいるらしかった。中継局を経由させれば連絡をとれないわけではないが、
それをやるとジルジスたちのいる場所ばかりでなく、軌道上でファンタム状態で身
をひそめているレイの居場所まで敵につつぬけになってしまう。
 その上、コミュニケータでは出力が低いために、ダイレクトに連絡をとれる時間
はごくかぎられることとなる。
 つまりそれまで五人は、敵に見つからぬよう身をひそめているくらいしか、でき
ることはないのだ。
「うう、待ってよう」
 半泣きでマヤはジルジスのあとを追った。三人もそのあとにつづく。
 屋内にふみこむと、外界ほどは熱帯樹林の浸食もすすんではいなかった。ひび割
れから植物がつつましく顔をのぞかせている程度である。
 ジルジスは無造作な足どりで奥へとどんどんすすんだ。
 そして、手近の部屋の前にたった。
 ドアが半壊している。
 蹴りとばしてそれを完全に破壊し、なかをのぞきこんだ。
「ほう」
 とつぶやく。
「なにかあったの?」
 ききながら、おそるおそるマヤは、ジルジスのわきの下から顔をだした。おちつ
かなげな視線をめぐらせる。
 すぐに、うす暗い部屋のすみに、巨大な土のかたまりのようなものが盛りあがっ
ているのに気がついた。
「なんだろう」眉根をよせながらマヤはつぶやいた。「土砂くずれでもあったのか
な」
「ああ、なるほど」おなじ方向に視線をやりながらジルジスがいった。「いわれて
みれば、土が盛りあがってるようにも見えないことはないな」
「あれ土じゃないの?」
 じゃあ何さ、といいかけてマヤは――ぎょっと目をむく。
 土色のかたまりが、うごめきはじめたからだった。
 無秩序に巻きこまれた太い土色のロープが、見えない手でするすると巻きとられ
ていくような動きだった。
 ぐ、とマヤは息をのむ。
 なおしばらく、その巨大なものがずるずると動きつづけるのをながめやったあげ
く、いった。
「だからやめようっていったのにい」
 泣き声になっていた。
 ぐいぐいと、ジルジスの黒い衣服のそでをひく。
 うごめいているのは――ヘビであった。
 それも、頭部が人間の胴体ほどもある、とてつもない大蛇である。
 シューと、二股にわかれた舌をちらつかせながら、巨大な爬虫類は無機質な目で
ジルジスとマヤをにらみつける。
「いくらなんでも、育ちすぎだよう」
 泣き顔でマヤはいう。
 ジルジスは笑いながら、腰帯にたばさんだブラックメタルのブラスターをぬいた。
 しゃあ、とヘビの頭部が、弾丸のように飛びかかってきた。
 同時に、灼熱の光条がうす闇のよどんだ室内にひらめいた。
 どさ、と巨大なものが床面におちる。
 きゃあ、とかんだかい悲鳴をあげてマヤは頭を抱えながらその場にしゃがみこん
でしまった。
 おちたのは、大蛇の首であった。
 炭化した切断面から異臭をはなつ煙をあげながら、まがまがしい視線をジルジス
とマヤにすえたまま、くぱあ、と大顎を全開にする。そのせいで巨大な首はごろり
と、床面でころがった。
 口をとじる。
 またごろりと、もとに戻った。
 それからまた大口をひらいて威嚇するようにふたりをにらみつけた。ごろり。
「やだもう、首もげちゃったのに生きてるじゃないか」
 頭を抱えこみながら涙声でマヤはいう。
「ヘビってのはああいうもんだ」
 平然とジルジスがいった。
 ごろん、ごろんと、大顎の開閉をくりかえすたびに床面でころがりつづける大蛇
の首の背後では、巨大な胴体がどたんばたんともつれあい波うちながらもがきまわ
っている。
「よし」
 といってジルジスはブラスターをもとの位置におさめ、腰をぬかしたままのマヤ
をひょいと抱きあげて部屋をあとにした。
 階段を見つけ、かるい足どりでのぼりはじめる。
 三人があとにつづく。
「ちょっとお、ジルぅ」と抱きあげられた姿勢のまま、マヤは情けなげにいう。
「こんなぶきみなビル、もう出ようよう」
「ほかの建物だって、なにがいるか知れたもんじゃないだろう」平然とジルジスは
いった。「それよりゃ、あんなどでかいやつがひそんでたんだ。ここなら、ほかに
ゃそれほど危険なやつはいるまいさ」
 理屈になってるんだかなってないんだかよくわからないことをいう。
 いやだよう、出ようようとマヤは泣き声をあげつづけたが、かまわずジルジスは
二階にあがると、わざわざ大蛇がひそんでいた部屋の真上にあたる場所に歩をふみ
入れた。
 壁に蔓植物がはっているほかには、たしかに生きているものはいないようだった。
「よし」
 といってジルジスは窓際にマヤの小柄なからだをそっとおろし、そのとなりにど
さりと腰をおろした。
「やだってば、こんなとこ」
 となおも泣き言をこくマヤを見て、つづいて入ってきたラエラが苦笑する。
 シヴァは部屋には入らず、入口わきの階段部分に腰をおろした。
 それを横目におっかなびっくり、サフィーヤ姫も室内に歩をふみ入れた。ただし
こちらは、マヤほどにはおびえていない。巨大爬虫類を直接目にせずにすんだから
かもしれない。
 どうやら異状はなさそうだと見てとって、息をつきながらサフィーヤ姫は、腰を
おろしたジルジス・シャフルードに視線をむける。
 目をまるくした。
 壁にもたれて自堕落な姿勢になった伝説の盗賊は――目をとじて、やすらかな寝
息をたてていた。
「まあ」
 と姫君は思わず声をあげた。
 どうやら伝説の盗賊は、一瞬で熟睡してしまったらしい。
「寝てしまわれたの?」
 信じられぬ、といいたげに、ラエラのとなりに腰をおろしながら姫君はいう。
 苦笑しつつラエラはこたえた。
「この男は、いつもこんな感じなんですよ。とても伝説にうたわれているのと同一
人物とは思えないでしょう?」
 姫君は、眠っている盗賊と苦笑するラエラとを交互に見やり、口もとを両手でお
さえたままうなずいた。
 ラエラは笑いながらうなずきかえす。
「ふだんはまあ、こんなもんです。そういえば、砂漠でわたしたちが追いつめられ
たときも、ぎりぎりまで出てこなかったな、こいつ」
「きっと眠りこけてたんだよ!」ジルジスのとなりでマヤが、憤然といった。「ボ
クたちがあんな目にあってたってのにさ」
 こんとこぶしで、伝説の男の額をこづく。




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