#4242/5495 長編
★タイトル (NKG ) 97/12/11 23: 8 (163)
絶対、運命……(6/6) らいと・ひる
★内容
−「勝負はついたな」
−「彼はまだ戦える」
−「半分死にかけてるんだぞ」
−「天野クン……天野クン……」
誰かが僕を呼んでいる。心地いい声だ。
−「天野クン」
なんだかすごく気持ちがいい。このまま眠りたいぐらいだ。
−「天野クン」
誰だろう?
「天野クン」
視界には宮内籐子の顔が。
「天野クン、戦えるよね。大丈夫、あなたにはわたしがついてるんだから」
優しい微笑み。まるで女神のようなあたたかさ。
「これはおまじない」
そう囁くと、唇に柔らかい感触が。
まるで魔法をかけられたかのように、体中に力がみなぎってくる。
「籐子! 裏切る気か?!」
冷静さをなくしつつある先輩を横目に、僕は自分の身体にみなぎる力の不思議さ
を感じていた。なぜか、出血もとまっている。
いける!
剣を両手で握る。そして先輩に向き直る。
「ケリをつけましょう」
「のぞむところだ」
勝てる気がする。
小細工はいらない。心の赴くまま素直に剣を揮えばいい。
今度は相手の方から仕掛けてくる。
視界がはっきりしている。
ゆっくり動いているわけでもないのに、剣の動きが読める。
右。
剣の動きはわかっているから、それに合わせて避けるだけ。あとは、胸のバラを
目掛けて剣を突き刺せばいい。
今だ!
軽い手応え。
自分の剣先にバラが突き刺さり、相手の胸から引き離される。その時、ちぎれた
数枚の花びらが宙に舞う。
そして、そのまま先輩の脇を抜けていく。
「バカな……」
後ろから惨めったらしい言葉が聞こえてくる。
「俺が負けるなんて、そんなバカなことがあるものか!」
殺気。
自棄になったのか、剣を再び構えてこちらへ向かってくる。
「やめてください! 勝負はもうついたはずです」
そんな事を言っても無駄だろう。
「何か細工をしたんだろ。そうでなければ俺が負けるはずがない」
「先輩! 何回勝負しても同じですよ」
何かの自信が僕にそう言わせる。
「ならば、もう一度勝負を……」
言葉が途切れ、急に先輩が床へと倒れ込む。
「貴……様!」
その視線の先には、宮内籐子が銀色のロッドを持って立っていた。
「言ったはずよ。わたしは強い人が好きだって」
彼女の冷ややかな笑い。こんな表情の彼女は初めて見る。
「こ……の……」
悶えながら何か言葉を発しようとしている。
「今のは死なない程度の電流だったけど、もっと流して欲しいの?」
スタンロッド。そんなものがあったのなら、もっと早く勝負がついてたかもな、
などとバカなことを考え出す。
いいじゃないか、勝ったのだから。
「天野クン。ありがとう」
彼女に後ろから抱きしめられる。甘い香りが、僕を包み込んだ。
とても心地良い気分。
「これでキミは宇佐見先輩から解放される」
それは、ずっと言わなければいけないと心の中にしまってあった言葉。
これで、何もかも終わったのだ。全身から力が抜けていく。
「そうね。ありがとう」
彼女の表情は見えないが、きっと喜んでいるに違いない。
「そして、天野クン。……あなたはわたしのものよ」
「あいつ変わっちまったよな」
「そうだな。女ができるとああいうもんかね?」
「普段が真面目だっただけに、変わりやすいんだろ」
2組の廊下の前で、そんな噂話をしている男子生徒たちの前を通り過ぎる。
石塚は、目的の人間が見つからないまま階段の踊り場へ出た。そこの窓から校庭
を見渡す。だが、そこにもお目当ての人物は見あたらないらしい。
ふと、誰かがその後ろを通り過ぎていく。
気配を感じて振り返ると、セミロングの小柄な後ろ姿が見えた。
「宮内」
怒りを沈めながら彼は彼女の名を呼んだ。
「なに?」
涼しい顔で振り返る彼女−宮内籐子。
「天野に何をした?!」
彼は知っていた。友人が変わってしまった原因が彼女にあることを。
「何もしてないつもりだけど」
相変わらず表情は冷めたもの。
「そんなことがあるか! おまえと付き合っているって噂を耳にしてからだぞ。あ
いつが変になったのは」
「変になったなんて失礼ね。あれが本来の彼の姿なのよ」
「宇佐見先輩はどうしたんだよ」
「さぁ? 他の子と仲良くやってるんじゃない」
あくまでも、自分は無関係であることを主張する。表情はまるで仮面のように、
なかなか内面を表に出そうとしない。
「噂には聞いてたけどな。まさか、身内が巻き込まれるとは思ってもみなかったよ。
なぜ天野に手を出した?」
怒りはふつふつと沸き上がってくる。
「それは、あなたには関係ないこと」
「おまえが陰でなんて呼ばれているか知ってるのか?」
「ええ。『魔女』でしょ」
「もう一度聴く、天野に何をした?」
その問いに彼女は笑い出す。
「何がおかしい?!」
「だって、友達の心配をしているのかと思ったら、単なる嫉妬なんだもの」
「……何、言ってるんだよ」
一瞬、言葉を詰まらせる石塚。
「わたしが知らないとでも思っていた? あなたがわたしに好意を持っていたこと
を」
さらに嘲り笑う宮内籐子。
「……」
石塚は何も言い返せなかった。言葉を発した時点でそれが言い訳にしかならない
ことを本人自身がよく知っていたから。
「天野クンは、わたしのモノにするだけの価値のあるコだったの。でも、あなたは
違う。体裁や常識に縛られて自分の想いを押し殺した……悲しい人」
「……」
彼女の言うことは事実なのかもしれない。天野を戒めながら、結局は石塚自身を
戒めていたのだから。
「そう。あなたは、天野クンのひたむきさが羨ましかったのよ。だから、あんなに
もムキになって彼を止めようとした」
「否定はしないよ……そうさ、あいつがおまえの事を好きになったのが悔しかった
んだ。俺の方がずっと前からおまえを見ていたんだから」
「でもあなたは、ヒロからわたしを奪う意気地もなかった。自分の気持ちに素直に
なることもしなかった」
石塚は黙って彼女に責められ続ける。
「あなたは殻に閉じこもったままわたしを見つめていた。殻を破ろうともしないで、
もがき苦しんでいる。そんな男に用はないわ」
彼女の視線がふと逸れる。もう関心がないという表情をしている。
「やっぱりおまえは『魔女』だな。酷いことを言われても嫌いになることができない。
ずっと……ずっと、俺を苦しめている」
石塚は懇願するかのように彼女を見つめ続けた。
「『魔女』って呼ばれるのはあまり好きじゃないな。せめて、actrice<アクトリス>と呼ん
でくれない」
再び彼女は彼を振り向く。その瞳はまるで彼を哀れむよう。
「だったら、とんだ大根だよ。少なくとも俺の前では」
彼はなんだかおかしくなってきた。結局は自分も宮内籐子に弄ばれているのだと。
だから、せめてもの皮肉を言った。
「あなたはかわいそうな人よ。劇場の看板を見つめているだけの、ただの通行人。
あなたの想いは永遠に届かないし、交わりもしない。これからも、ずっと……。あ
なたは、わたしの観客にはなり得ないの」
もう二度とは振り返ることのない後ろ姿を、石塚は静かに見送った。
Fin
クライマックス部分の推奨BGM(笑)
『When Where Who Which』〜絶対進化革命前夜より〜