AWC そばにいるだけで 17−6   寺嶋公香


        
#4224/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/11/30  12:41  (199)
そばにいるだけで 17−6   寺嶋公香
★内容
「う、うん」
 一人だけこんな格好をしているだけに、気恥ずかしさもいつも以上。他の女
子の後ろに隠れるように振る舞ってしまう。
「−−南先輩。僕はどこで着替えたらいいんですか?」
「ああ、そうねえ」
 思案げな表情の南。
 −−昨日の打ち合せで、純子が仮装をすると決まった途端、相羽も言い出し
たのである。「僕もやります」と。
「……と言うことは、つまり、セシアになるわけ?」
「そうです。一人より二人。多い方が、お客もたくさん来てくれるんじゃない
かと思って」
 それならいっそ、町田もという話が出たのだが、敵役ファジーがいたら子供
が逃げちゃうという町田自身によるもっともらしい反論によって、三人目の仮
装はならなかった−−。
 相羽が自宅から持って来た紙袋を手に取ったところで、他の二年生が言う。
「教室は空いてない?」
「はい。部に入ってない子や運動部の子は、基本的に見るだけだから、休憩な
んかは教室を使ってて……」
「そうよね。となると、体育館……は、軽音学部の準備でだめなんだわ。トイ
レとかは? 悪いんだけど」
「ぞろっとした衣装だから、床のタイルを掃いちゃいますよ」
「……ここで着替えちゃえば?」
 匙を投げたように苦笑する先輩達に、相羽は首をすくめて遠慮の意思表示。
(一人は嫌だからねっ)
 そちらの様子も気になる純子だが、不意にスカートを引っ張られた。
「いいなあ、純ちゃん。相羽君とお揃いで」
 うらやましがる富井は、本当に指をくわえかねない雰囲気だ。
「じゃ、代わって」
「できるわけないでしょぉ」
「全く。だいたい、どこがお揃いよ」
 呆れてため息をつく。と、そのとき、急に閃いた。
「相羽君、来て。いい着替え場所、あったわ」
「ほんと? −−あ、でも、その格好で行けるのかい?」
 振り返った相羽は表情を明るくした後、純子を指差してきた。
「ど、どうせ、お客さんを集めるために出なくちゃいけないんだから。覚悟で
きた。さあ」
「どこへ?」
 相羽のその問いかけに直接は答えず、純子は調理部のみんなに言った。
「図書室に行って来ます。待っててください!」

 呼び込みを始めた途端、幼稚園から小学生低学年ぐらいの子達につかまって
しまった。
「はい、だから、調理部の……あいたたた、髪を引っ張っちゃだめっ−−。来
てね、食べに」
 腰を折って、目線の高さを合わせながら、必死に言って回る純子。
 セシアこと相羽の方は、どうだろう?
『私、セシアやフラッシュ・レディのレイも推薦、調理部の喫茶・軽食は、家
庭科室でやっています。場所は特別教室棟の……』
 どうしてだか分からないが、作り声で客−−こちらは小学生三〜六年生が主
力か−−を集めていた。その手つきは、アニメから抜け出たキャラクターと言
うよりも、真っ白なマジシャンと言った風情。
 かと思ったら、本当に手品を披露した。
 何もなかったはずの手の平から、小さな造花を一つ、出現させたのだ。
 相羽にしては珍しく、仕込みのある道具を使ったらしいが、それでもなかな
か手際がよい。人が行き交う廊下でやるには、打って付けだろう。事実、拍手
がぱちぱちと起こった。
(う、受けてる)
 もはや客引きと言うより、子供達の遊び相手と化していた純子は、しつこく
髪を引っ張られながらも、相羽の準備のよさに感心してしまう。
(昨日、急に決まったのに……凄い)
 それ以後も相羽は三つほど簡単な手品を行った。すると当然、周りの小学生
達が騒ぐ。
「種、教えてー」
 その声を待っていたらしく、相羽は、またも作り声で。
『家庭科室に来てくれたら、教えるかもしれないよ』
 意外と商売上手のようだ。
 小学生達は口々に「絶対行くから」とか「お母さんを連れてくるっ」なんて
言って、徐々にばらけていった。
 人の環が崩れたところで、相羽は純子の方へ近付いてくる。
「大変そうだね」
「そ、そうなの。助けてほしいわ」
 苦笑いしながら純子が言うと、相羽は小さな子供らに向かって、両手を大き
く広げた。
「ほーら、君達。フラッシュ・レディが好きなら、あんまり困らせるようなこ
としちゃだめじゃないか」
 今度はいつもの声だ。何故か、保父さんか教育テレビの幼児番組に出て来る
おにいさんを思わせる。
「こんぐらい、平気だよね?」
 小さい女の子が一人、純子の背中に飛び付いてきた。それが合図となったか、
他の子達も、我も我もと群がる。
「あ、相羽君……全然、言うこと聞いてくれないーっ」
 床に両膝を着いた格好で、純子は音を上げそうになる。真面目な話、最初か
らこれでは疲れてしまって、身体が持たないかも……。
「参ったなぁ。−−それは正義の味方だから、みんなの相手をするのも当たり
前だけどね」
 と、相羽は子供達相手にまた「説得」を始める。
 早くしないと、彼自身、子供の新たな餌食になりかねない。
「あんまり邪魔をすると、敵が攻めてきたとき、うまく戦えなくなってしまう。
そうなったら、困るんじゃないかな」
 今度は効果があった。
「敵って、ドームとか?」
「ファジーやカオスにやられちゃう?」
 子供達の不安そうな声に表情。それを煽る風に、相羽はうなずいた。そして
論理のすり替え。ここで再度、相羽は作り声を駆使した。
『やられないように、私やレイは、お腹いっぱい食べなくてはいけないんだ。
みんなもそうしないと、ドームにやられてしまうかもしれない』
 最初、呆気に取られていた純子は、次第におかしくてたまらなくなってきた。
(あぁ、何てことを言うのっ。わ、笑っちゃう……今、笑ったら、いけないけ
ど……)
 吹き出しそうなのを、うつむいて、こらえるのに必死。肩が震えてしまいそ
うだ。
 だが、幸いにも、子供達は相羽−−セシアの喋りに夢中。催眠術でもかけら
れたみたいに、みんな、「食べに行く」と言い出していた。
「じゃ、今から行こっか。−−レイの」
 言いながら、相羽は純子のそばまで来ると片膝を着き−−。
(何?)
 戸惑う純子の髪を軽く取る相羽。ずっと髪を握っていた子供らも、手を離す。
「髪の毛みたいに長いスパゲッティを食べに」
 相羽はこう言って、笑った。
(人の髪を、スパゲッティにたとえるなんて)
 ようやく解放された純子は、複雑な気分。自然と、眉を寄せてしまう。
(おかげで助かったけどさ)
 そんな純子の前に、手が差し出された。
「お疲れ。一旦、家庭科室に戻ろうか」
「う、うん」
 引き起こしてもらってから、足にまとわりついた埃を払う。
「でも……予定だと、十二時までは外でお客さんを呼ぶんじゃあ……」
 先輩に言われたことを思い出して、純子は足を止める。
 相羽は頭をかきながら、照れ臭そうにした。そして口を開く。
「手品の種明かしするって言った約束、守りたいんだ。さっきの、涼原さんに
聞こえたかどうか分からないけど」

 昼も一時三十分になって、調理部の賑わいもようやく一段落した。これ以降
は交代で店番をしつつ、他の部を見て回る余裕が持てる。
 すでにかなりの注文数をこなしたので、純子達客引き部隊のお役目も、ひと
まず終了だ。
「どこから行く?」
 図書室でフラッシュ・レディの扮装を解いて戻って来た純子が、髪を整えな
がら皆に尋ねる。
 町田が応じた。
「歴史研究会の展示、結構凄いらしいよ」
「どういう風に?」
「戦争がテーマだから……想像つくでしょ」
「うーん」
 唸っていると、今度は富井と井口が。
「先輩から聞いたんだけど、二時から体育館で、手芸部のファッションショー
があるんだって」
「ファッションショー?」
 モデルをやるようになったせいでもないが、興味がわく。
 が、続く井口の説明に、純子はがくっと来た。
「うん。毎年恒例で、爆笑物なんだって」
「……お笑いなのね」
 気抜けして息をついていると、遅れて相羽が戻って来た。やはり図書室で着
替えてきたのだが、先に純子が着替えてからだったため、待ち時間を要してし
まったわけ。
 相羽はセシアの衣装を入れた袋を置くと、さっさと出て行こうとする。
「あ、一緒に行こうよ、相羽君」
 町田が声をかけると、相羽はぴたっと立ち止まった。廊下に踏み出していた
右足を戻し、返事する。
「悪い。勝馬達と約束してるんだ。ただ、ちょっと時間に遅れたから、つかま
えられるかどうか……」
「だったら、その約束の場所まで一緒に行って、いなかったら、私達と一緒に
……ってことでどう?」
「どうって言われても……」
 困惑顔の相羽。
「勝馬達を探さないといけないから」
 町田は、さも楽しげに唇の両端を吊り上げた。
「みんな、そうしたがってるんだよ。ねえ?」
 急に話を向けられた純子達は、戸惑って、身を引いてしまう。三人で顔を見
合わせ、ひとまずうなずいた。
(芙美ったら、何考えてるのかしら。やっぱり、芙美も相羽君のこと、狙って
るんだ? 幅広くやるとか言ってたし)
 なんて風に解釈する純子の横で、富井と井口は口々に相羽を歓迎する言葉を。
「お、男同士より、こっちの方が楽しいわよ、きっと」
「そうそう。相羽君の見たいところでいいからさあ」
 最終的には、相羽が折れた形になった。
「じゃ、じゃあ、勝馬達を探しながらってことで」
「よかったぁ」
 相羽と女子四人で、部屋を出る。
「待ち合わせてるの、どこ?」
 純子が首を傾げながら尋ねると、相羽は頬をおかしそうにひくつかせてから
答えた。
「三年一組の教室の前。立島の先輩−−バスケ部の先輩がいるって。それより、
男同士なのに待ち合わせって言われると、変な感じがするよ。集合場所と言っ
てほしい」
「意味は合ってるでしょう。性別なんて、関係ない」
「それはそうだろうけど」
 話す内に、三年一組の教室前に到着。少なくとも、廊下には勝馬や立島らの
姿は見当たらない。
 三年生はクラス単位で出し物をすることになっていて、一組は教室をお化け
屋敷に改造した模様である。窓を覆う黒いビニール袋の向こうから、悲鳴がち
ょっとずつ漏れ聞こえる。中には、笑い声らしきものも混じっているようだが。
「中に入ってるのかもしれない……確かめにくそうだ」
 一目見たぐらいでは、お化け屋敷の中に誰がいるのか、分かりっこないだろ
う。かと言って、営業をやめてもらって、ライトを点けるのは絶対に無理。
「出口で待ってれば?」
 町田の意見に、相羽は少し考える様子を見せてから首を横に振った。
「ここを終わって、次に行ってたら、いもしないのにずっと待ってなきゃなら
なくなるよ」
「立島君の先輩という人に聞いてみたら?」
 今度は井口。相羽は再度、否定的な返事をする。
「だめなんだ。だって、その人の顔を知らなくてさ。お化け屋敷じゃなかった
ら、『バスケ部の人、いませんか!』って、大声で聞くんだけどな」
 打つ手なしのようだ。富井が待ちきれなくなった風に、足をじたばたさせる。
「もう、ほったらかして、行こうよ。時間、もったいないっ」
「じゃあ……ここ、入って行く?」
 相羽は、目の前の教室を指差した。

−−つづく




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