AWC お題もどき>幽霊>境界線を越えるとき 4   永山


        
#4209/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/11/28  14:37  (176)
お題もどき>幽霊>境界線を越えるとき 4   永山
★内容

 視界が急に開けた。
 太陽に照らされ、明るく浮かび上がるのは、茶色がかった地面。芝生が枯れ
たものらしい。
 そこを目指し、ダッシュ。
 探すまでもなく、幽霊屋敷を目にすることができた。
「これが……幽霊屋敷?」
 怪訝そうに言ったのは、守中。その隣、一段低い浩二と同じような格好で、
ぽかんと見上げている。
 守中が不審がるのも無理ないと思った。僕だって内心、びっくりしている。
 何故って、幽霊屋敷は純和風の平屋建てだったのだから。
「幽霊屋敷と言うよりも、お化け屋敷だな」
 敬介が言った。その二つの言葉は似ているようで、全然違う。
 目の前のぼろ屋は大きいことは大きかった。十部屋ぐらいあるんじゃないだ
ろうか。でも、全体的に黒く朽ちていて、壁の木の部分には、ところどころに
穴が空いている。漆喰の箇所は、ひびが走り、剥がれ落ちている割合も高い。
家屋のあちこちを棒で支えてあるし、ぺんぺん草みたいなのが茅葺きの屋根に
生えている。崩壊寸前、そんな印象だ。
「外人さんが住みそうなところじゃないわね」
 榊原が、くすくす笑った。守中が言ったのなら僕は怒っていただろうけど、
榊原なら許せる。嬉しいぐらいだ。
「おっかしいなあ。噂とちょっと違う」
 頭をかいてると、江川が「ちょっとじゃなくて、全然です」とちょっかいを
出してきたので、黙ってグーパンチをお見舞いしておいた。
 それから六人全員で、近寄った。
 遠くからでも近くからでも、ぼろっちいのは一緒だ。それどころか、さっき
まで気付かなかったけれど、変な臭いがする。鉄錆の臭いと……何だか分から
ないけど、鼻につーんと来る、薬品みたいなのと。歯医者を思い出して、嫌な
気分になった。
「とにかく、中に入ってみようぜ」
「いいけど。しかし、結構、危なさそうだな」
 敬介が言った。
「何だよ、怖じ気づいたのかよ、敬介」
「そんなんじゃない。崩れ落ちそうで、危険だって言ってるんだよ、ほら」
 怒った風に言って、斜め上を指差す敬介。だが、そんなことしてもらわなく
ても、このぼろ屋敷が崩れそうなのは一目で分かる。
「ここまで来て、入らない訳に行かないだろ」
「そりゃそうだ。でも、安全を確認して……」
 語尾を濁しながら、敬介は窓から中を覗き込む。窓と言っても、ガラスも何
もなく、筒抜けだ。
「……暗くてよく見えない。こんだけおんぼろのくせして、屋根が壊れてない
から、中は真っ暗だ」
「……床、抜けそう」
 敬介の後ろ、肩越しに家の中を覗く榊原。
「建物が崩れなくても、足を怪我するかもしれないわ。やめておいた方がいい
んじゃない?」
 心配してくれるのは嬉しいけれど、僕は反対だ。
「気を付ければ、平気だって。だいたい、これで帰ったら、馬鹿みたいじゃな
いか。学級新聞に書くことだって、なくなっちまう」
「新聞には、この家の外見を知らせる記事を載せれば充分よ」
「だったら、その中がどうなってるかも、調べとかないと、完全とは言えない
と思う」
「誰か、懐中電灯、持って来てないか?」
 不意に、敬介がみんなを見渡したが、返事はなかった。
「だめか。懐中電灯があれば、この窓から覗くだけで済むと思ったのに」
「だから、中に入ればいいんだ。少しだけだから、危なくないって」
「……みんなの意見は?」
 僕から視線をそらし、他の四人を促す敬介。
「中に入るかどうか。僕は慎重にやるべきだと思う。榊原さんも反対だね。江
川、君は?」
「あ、危ないとは思います。ですが、ここまで来て何もせずに引き返すのは、
来なかったのと一緒です。そんな無駄なことをするため、我慢して着いて来た
んじゃないんですけど……」
 珍しい。僕と江川、意見が一致するなんて。
「分かった。じゃあ、守中さんはどう?」
「どっちでもいいんだけど」
 荷物を下ろし、退屈そうに後頭部で腕を組んでいる守中。
「ま、どっちかって言ったら、東山君よりだな、私は」
 そう言うや、彼女は横目で僕を見やってきた。うーん、守中まで味方してく
れるとは、こりゃ、明日は雪が降るかもしれないな。
「都築君、あんたねえ、今さら危険だの何だのって言う必要がある? 道も分
かんないのに、あの森を突っ切ってきたんだよ、私達。迷子になる危険性、あ
ったと言わないかしら、これって?」
「そうかもしれないけど……だけど、この家が崩れたら、確実に怪我する」
「迷子になったら、下手したら死ぬよ」
 恐がらせるように、意地悪げな笑顔を作る守中。こういう表情をさせたら、
クラス一だ。
「がたがた言わないで、入ればいいのよ。そんなに崩れるのが恐いなら、最初
から壊そうか。全員で蹴っ飛ばせば、五分もしないで壊れそうよ」
「な、何だって?」
「壊してから、みんなで屋敷跡を調べて回る。幽霊はいませんでした、はい、
おしまい−−どう?」
「……分かったよ。じゃあ、浩二は? お姉ちゃんに着かなくてもいいんだぞ」
 敬介は肩をすくめると、守中の弟に、言い含めるような調子で聞いた。
「僕は……入ってみたいよ」
「頭の上が崩れて、危ないかもしれないんだぞ」
「冒険なんだから、それぐらい覚悟しなくちゃ。幽霊屋敷の探検、したい!」
 いっぱしの口を利いて、姉貴と目を合わせた浩二。なかなか見所あるじゃな
いか、うん。
「四対二、ですね」
 民主主義をことある毎に持ち出す江川が、張り切った顔つきになる。
 敬介は再度、肩をすくめた。
「しょうがない、入ろう。ただし、外で見てる者を一人か二人おいて、もしも
のときに備えるんだ。それから、入る奴は、頭の上に帽子でもハンカチでもい
いから、何かを被ろう」
「はいはい、心配性なんだから」
 守中がしたり顔をし、両手の平を上に向けて首をすくめると、一瞬遅れて笑
いがどっと起きた。

 外に残ったのは、榊原一人だけだった。
 僕や守中、浩二は当然入りたがったし、江川も本心では入りたくなさそうだ
ったけど、この目で確かめるとか言って、無理をした。
 反対していた敬介は、見張りは一人いれば充分だからと、一緒に入ることを
決めた。でも、それだけじゃなく、僕らだけを入れさせる訳に行かないという
頭もあったんだと思う。そういう奴だ、こいつは。
「万が一のときは、親に知らせに帰って」
 そう告げると、榊原は心配そうに両手を胸の前で組み合わせつつも、こくり
とうなずいた。
「ま、そんなこと、ありっこないけどな」
 そう言って、僕は引き戸に片手をかけた。
 が、格好よく探検開始とは行かなかった。
「か、固いっ。動かねえ」
 両手を添えて力を込めても、扉はがたぴしゃ言うだけで、一向に横滑りして
くれない。歯を食いしばっても、同じだった。
「貸してみろ」
 呆れた風に敬介。だが、交替しても結果は変わらなかった。いつも落ち着い
てる敬介が、額に汗を浮かべる。
「何だ、これ? 簡単に開きそうなのに……」
「蹴っ飛ばした方が早いんじゃない?」
 守中の意見。女子のくせして、乱暴なことを言う。案の定、敬介が却下した。
「自分から危険性を増すような真似は、なるべく避けないと」
「だったら、浩二に、窓から入らせようか」
 と、弟を見下ろす守中。
 浩二は、「僕一人で?」と嫌そうに爪を噛んだ。
「仕方ないでしょうが。窓をくぐれるの、あんたぐらいちっこくないと無理な
んだからね」
「待って」
 突然、榊原が口を開く。何ごとかと思って見ていると、彼女は戸板のはまる
溝を指差した。
「ほ、ほら、あれ」
 片方の手で口元を覆いながら、榊原は言った。どうやら、笑いをこらえてい
るらしい。
 僕らも溝を覗き込み、そして弾けるように大笑いした。
「何だよ、これぇ」
 力が抜けた感じで、敬介はしゃがみ込む。それから細長い石を拾って、さっ
き榊原が指し示した一点に当てた。そこには、太い釘が打ち込んであったのだ。
溝の上下に釘が深く打ってあって、扉が動かないようにしてある。いくら古び
ていても、これでは開かないはずだ。
 敬介の釘掘り出し作業は、三分ほどで終わった。正確には、掘り出すのでは
なく、溝に完全に埋め込んでしまったのだが……とにかく、これで戸は易々と
動いた。ようやく探検開始だ。
 そろそろと探るようにして、足を一歩、踏み入れる。徐々に力を込めていっ
ても、床が抜け落ちはしなかった。
 その代わりに、あれだけそっと足を置いたのに、もうもうとほこりが立ち昇
って、せき込んでしまう。片手を口にやり、もう片方の手を顔の前で必死に動
かした。
「予想以上に、ひどい」
 しんがりの敬介が言った。
「懐中電灯を持って来なかったのは、本当に失敗だぜ」
「もういいじゃないか。目が慣れてくれば、見えるって」
 事実、段々と闇に慣れてきて、ぼやっとしていた物の陰影が、徐々にはっき
りし始めている。
「結構広いわね。手分けして調べる?」
 守中が言った。その右手は、弟の左手をつないでいる。
「いや、だめですね」
 江川がきっぱり、反論してきた。
「一人、二人じゃあ、見間違いも起こります。五人で見てこそ、はっきりした
証言が得られるというものですよ」
 なるほど、一理あるな。そう思う反面、江川の奴、やっぱり恐がってるんだ
なとも感じる。
「固まってる方が、安全だよな」
 今度は簡単に意見が一致した。足下に注意しながら、ゆっくりと、一部屋ず
つ見て回ることになった。
 最初に入ったのは、台所のようだ。黒ずんでいるけど、流しみたいな空間が
壁際にあった。飛び出している蛇口は、からからに乾いていて、錆も浮いてい
る。水はとても出そうにない。
 そのすぐ横に、ぼろぼろの木くず−−多分、木くずだ−−が山になっている。
テーブルや椅子を壊して(壊れて?)、ひとまとめにした物のようだ。
「……戸棚かと思ったら、冷蔵庫じゃないの」
 焦げ茶色の四角い箱に触れながら、守中が言った。触れた箇所がほんの少し
はげ落ちて、白が見えた。
「うわっ!」
 突然、悲鳴がした。と思う間もなく、激しく転ぶ音。見れば、江川だった。
「おいおい、大丈夫か?」

−−続く




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