AWC 紅の鋼騎兵(11)       赤木 錠


        
#4180/5495 長編
★タイトル (GVJ     )  97/11/ 9  12:43  (200)
紅の鋼騎兵(11)       赤木 錠
★内容
「これも焼きはらわれてるのかな」
 問いかけに、即座にこたえがかえる。
「どうかしら。レーザーでも傷ひとつつけられない材質でできているそうだから、
一般には焼かれていると思われているようだけど、もしかしたらこれがもともとの
形状である、という可能性もちいさくはないわ」
「あの不気味にゆがんだ形が、設計図どおりにつくられたものだってのかい? 信
じらんねえな。異星人てのはまったく、なにかんがえてんだかわけわからねえや」
 くすりと笑いながらアミーナはちらりとハッサンをふりかえった。
「おまえのような人間を、ショーヴィニストと呼ぶのよ。おぼえておきなさい」
「はあ? ショー、ヴィ、ヴィ?」
 口ごもる巨漢にくすくすと笑いをなげかけながら、アミーナははずむような足ど
りでさきに進みはじめた。あわててハッサンもあとを追う。
 そこからが、迷宮のはじまりだった。
 通廊の規模はほぼ一貫して、人間の通常のスケール感覚からすればややひろすぎ
るほどの大きさがつづいてはいたが、下降上昇でたらめのスロープや階段がつぎつ
ぎに出現し、わかれ道などもこれでもかというほどあとからあとからあらわれる。
 アミーナの警告で枝道が出現した時点で要所要所にマーキングを残してきたのだ
が、これだけあちこちいったりきたりしてるのだからおなじ道に二度や三度でくわ
してもとうぜんのはずなのにもかかわらず、ひきかえしたとき以外は自分たちが残
してきたマーキングを見つけたことは一度としてなかった。
「まさに迷宮だな」さすがにいささかの不気味さを感じながらハッサンはつぶやく。
「二度とでられなくなりそうだ」
「行方不明になった発掘隊も、実際いくつかあるそうです」
「おいおい」
 おそろしいセリフを平然とはくアミーナの背中を、ハッサンは思わずかるくたた
いていた。
「あら」と姫君はおかしげにふりかえる。「こわいのですか?」
「あたりまえだろうが。冗談じゃねえ」
「だいじょうぶよ」ころころと声をたてて笑いながらアミーナはいった。「ちゃん
とマーキングしながらきてるのだし、それに――」
 いいかけて口をつぐみ、意味ありげにハッサンを見あげる。
 大男はまぶしげに目をほそめてそっぽに視線をおよがせた。
「それに、なんだ?」
「なんでもないわ」
 そっけなくいってアミーナはぷいと顔をそむけ、さきに立って歩きだす。
 それからしばらくのあいだ無言で進み――ふいにハッサンが立ちどまった。
「どうしたのですか?」
 先行しかけてアミーナもふりかえり、棒のようにたたずむハッサンを不思議そう
にながめやる。
 巨漢の顔には、さきほどまでのようなリラックスした表情が消失していた。
 ゆっくりと、なめまわすように四囲を見まわし、眉をひそめる。
「どうしたのです?」
 くりかえしたアミーナには目をむけず、なおも見えないものをさがすようにして
周囲に視線を移動させながら、うなるようにしていった。
「どうも、なにかに見られている」
「遺跡などではよくあることよ」こともなげにアミーナはいった。「どこかから、
だれかに見られているような気がするってのはね。もちろんそれは気のせいよ」
「ちがう」珍しくがんこな口調で、ハッサンは否定した。「見られてるような気が
する、じゃねえ。見られてるんだ」
 言葉をのみこみ、アミーナはびっくりしたような目でハッサンを見あげた。
 それが、うたがわしげにつうとすぼめられる。
「なんだ、信じてねえな」これも珍しく、憤然とした口調でハッサンは抗議した。
「いいか、こう見えてもおれはいくつもの戦場を経めぐってきた歴戦の勇士ってや
つなんだ。気配をよみちがえるなんてことはねえ。いいか。断言するぞ。おれたち
は、なにかに見られている」
「でも、遺跡にはいるのははじめてなんじゃないのですか?」
 なおもうたがわしげに姫君は問いかける。
 それがどうした、とハッサンがいうとバカにしたような笑いをうかべ、いった。
「よくあることよ。遺跡の雰囲気に感化されて、存在しないものを存在するかのご
とく錯覚してしまうのはね。もう一度いいます。気のせいよ」
 断言されて憤然となにかいいかけ、ハッサンはち、と舌をならして不機嫌そうに
だまりこんだ。
 ふたたび前進を開始する。
 しばらくもいかないうちに、またもやハッサンが立ちどまった。
「もういいかげんにしなさい、この憶病者」無遠慮な口調でアミーナは叱責する。
「ラルシザーク人は十万年以上も前に姿を消してしまった過去の存在なのよ。亡霊
でもないかぎり、いまここにいるなどということはあり得ないの」
「亡霊だろうがなんだろうが」対してハッサンは――ひどくしずんだ口調で、静か
にこたえたのだった。「いるものはいるんだ」
「もう。めんどうみきれないわ」
 あきれたようにいいはなってアミーナは歩きだし――
 曲がり角を曲がったところで障害物にいきあたって、立ちどまった。
 なにげなく視線をむけて――悲鳴をあげる。
 その叫声に呼ばれたように、うずくまっていた黒い、ちいさなものがとつぜん、
のびあがった。
 瞬時にしてそれはアミーナより三倍近くもの高さにまでのびあがり、異様なうめ
き声を発した。
「ばか、つっ立ってんな、姫」
 いいざまハッサンは少女の華奢なからだをかるがると抱きあげ、後退した。
 そのようすを見てか、頭上はるか高みにある黒い影の、首とおぼしき部分が追跡
するようにつうと移動した。
「ち」
 舌うちひとつ、ハッサンはハンド・ブラスターをかまえてセイフティを解除する。
 そのまま数刻、無言のにらみあいがつづいた。
 緊張の糸がとぎれるかと思えた、まさにその瞬間――
 ずるり、と音をたてて黒い巨影が身じろいだ。
 そして――しぼんだ。
 まさに収縮したとしか形容しようのない消失ぶりだった。
 ともかく影は出現したときと同様、しぼむようにしてちいさくなっていき、床の
継ぎ目にでも吸いこまれてしまったかのごとく、かけらさえ残さずに消滅してしま
ったのだ。
「な、なんですかあれは」
 ぶるぶるとふるえながら姫君がいうのへ、ハッサンは得意げに「ほうれ見ろ」と
いった。
「やっぱりいただろうが」
 アミーナには同意する余裕などかけらさえなかった。

  11

「げ、なんだこの味は」
 いいつつ、一度は口にふくんだかたまりをシェリルはだらーんと取り皿に吐き戻
した。
「うーん。きたないしぐさだと思うよ、それは」
 まるでテーブルマナーを知らない子どもをさとすような口調でいって、ビショッ
プはにっこりと微笑む。
「そういう問題じゃないでしょお」口もとをぐいぐいぬぐいながらシェリルはむき
になる。「あんたはこの味を異様とは思わないの?」
「ひどいいいぐさだなあ。このメンシェフはカランドリアやサーシュあたりじゃ、
ふだんは口にすることもできない高級料理なんだよ。宮廷料理として珍重している
ところさえあるんだ」
「だってこれ、ヨーグルトで煮てあるじゃない」
 美貌をくしゃくしゃにゆがめてシェリルが抗議するのへ、
「あれ、ひとくち食べただけなのに、よくもまあ料理法までわかるものだねえ。り
っぱりっぱ」
 本気なんだか揶揄なんだかわからない口調で、ビショップは誉め言葉を口にする。
「あんた、まずくないの?」
 たのむからまずいといってくれ、とでもいいたげにシェリル。
「とてもおいしいよ。さすがは宮廷料理だ」
 しれっとした口調でビショップもこたえる。
 その背後から、
「また苦情ですかい。あんた、旅行者? ちかごろの外国人には味のわからんやつ
が多すぎるなあ」
 ぶつぶつといいながら近づいてきたのは、みごとな布袋腹のシェフであった。
「だってーまずいんだもん」
 と、無慈悲にくりかえし強調するシェリルに、かっぷくのいいシェフは「まずけ
りゃ食わなくていいよ。金はいらん」といい捨ててぷいとそっぽをむき、うってか
わった満面のえびす顔でビショップに微笑みかける。
「いやあ、あんたのほうは味がわかるねえ。そうとも、あんたのいうとおり、これ
はイアドラ・ルナフのお姫さまだってご用達の一品なんだよ。まったく、この高級
料理の味がわからんだなんて、そんな人間にはバストラルはもちろんのこと、エル
・エマドにだって足をふみいれてほしくはないもんだね。もっともこのあいだ来た
でかいヤツは、エル・エマド人だったみたいだがね。ありゃ出身地がそうとう田舎
だよ」
 バストラルとてどちらかというと田舎なのだということを完全に棚にあげ、太っ
たシェフはひとりうんうんと悦に入っている。
 そんなシェフのようすなど完全に無視して――ビショップはまるまると目を見ひ
らいていた。
 ぼうぜんとしたままシェリルに視線を移し――嬉々としてべつのメニューをウエ
イターにオーダーしている姿にいきあたって、がくりとなる。
「あ、あのね、シェリル」
「ん? どうしたの? あんたもなんか追加注文する? なんせ金はいらないそう
だから。あんたも正直にいいなよ、まずいって。そのほうが得みたいだよ」
 いいぐさに、さらにがくりとなるビショップの横で、かっぷくのいいシェフもが
くりと首をたれた。
「かなわねえ」
「まったくです」なさけなげにビショップも同意し、すぐに真顔になって問う。
「ところでシェフ。さっきの、お姫さまのお話なんですけどね」
 とたん、バネ仕掛けのようにかくんと起きあがったシェフが自慢たらたらできき
もしないこまごまとしたことから説明をはじめた。
 ビショップは熱心にききいり、シェリルははこばれてきた新しい料理を、今度は
気に入ったのだろう、周囲のことどもなどいっさい目に入らぬとでもいった雰囲気
で一心にたいらげはじめる。
 そして――もう一組、シェフの話に熱心にききいる者たちが、べつのテーブルに
いた。
 熟年期にさしかかったとおぼしきするどい目つきの男と、腐肉あさりの肉食獣の
ように油断のならない顔つきをした小男――
 革命軍にそのひとありとおそれられる、エアガレー小隊を統率する“鷹の目”の
イスフェル中尉、そしてその副官たる“砂漠の鼠”ラマロ曹長である。

「はー、おいしかった、あのパラオ。あんたも、あんなまずいものムリして食べず
に注文しなおせばよかったのに」
 店をあとにしてそぞろ歩きながらシェリルは、ぽんぽんとおなかをたたいて満足
そうにいった。
「いやあのね、ぼくはあのメンシェフがけっこう好きなんだけれども」
「なにいってんのよ、あんな家畜のえさ。さーて。おなかもいっぱいになったこと
だし、どうする? ナルジーラでもやりにいく?」ナルジーラというのは麻薬いり
の水ぎせるのことである。「魔窟(ジャヒーム)さがしなら、あたし得意中の得意だよ」
「い、いや、ぼくは薬は遠慮しておくよ。こう見えてもいちおう聖職者なんでね」
「あーそうなんだってね。似合わないなー。だいいちアシュトラ教って、けっこう
麻薬とか非合法なものガンガンやってるっていうじゃない」
「ちょっと、あの、声がおおきいよ。だいたいここらあたりでアシュトラ教の悪口
をいうなんて、さらわれても文句はいえないんじゃないかな」
 エル・エマド圏内はアシュトラ教がさかんで、居住する人口の大部分がなんらか
の意味でアシュトラ教にかかわっているという統計がある。
「あらそうなの。しょうがないなあ。じゃ、ホテル帰って寝るかあ。夜這いかける
んじゃないよ。いい?」
 はあ、とさすがのビショップもふかぶかとため息をつき、情けなげに頭を抱えこ
んだ。
 そして、ふと顔をあげてすばやく左右に視線を走らせ――
「ホテルには帰れないかもしれないな」
 ぽつりといった。
 そのときにはすでにシェリルもまた目をすうとすぼめて立ちどまり、こころもち
上体をひくく落として身がまえていた。
「いやだなあ。今夜はナンパされる気分じゃないんだけど」
 セリフの内容とはうらはらに、その全身からありありと殺気が発散されている。
 その殺気に応ずるようにして――ものかげからふたつの影が姿をあらわした。
 がっしりとしたからだつきの目つきのするどい男に、こずるそうな顔をした小男
――イスフェル中尉と、腹心のラマロ曹長である。
「あんたたち、さっきの食堂ではおもしろい話をしていたねえ」
 にやにや笑いをくちびるの端にきざみこんで、ラマロがゆるゆると無造作にふた
りに近づいてきた。
 ビショップは無表情に後退し、シェリルはのばされた手をしかめ面ではらいのけ
る。
「おっと、つれねえなあ」いかにも意地の悪そうなにやにや笑いをはりつけたまま
小男はいった。「おまえさんがた、今夜は泊まるところがまだ決まっていないんだ
ろう? おれがいいところにご案内してやるよ。ん?」
「ありがたいけど、宿ならもう決まってるんだ」
 ため息をつきながらビショップはいった。
 対してラマロは、いやいやいやいやとにやにやしながら盛大に首を左右にふって
みせ、




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