#4178/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 97/11/ 9 12:35 (200)
紅の鋼騎兵(9) 赤木 錠
★内容
「軍用車輌が三台、遺跡にむけて走っていくのを見たんだ。あやうく鉢合わせると
ころだったぜ」
アミーナはだまりこんだ。
そういうわけだ、とハッサンはうなずき、つづける。
「やっぱ遺跡にはいかねえほうがいいんじゃねえか? 街で見つからねえとなりゃ、
革命軍だってバカじゃねえ。つぎにさがすのは遺跡だろうさ。そこへわざわざ見つ
かりにいくバカやるよりゃ、ほとぼりがさめるまでこの森の奥あたりで時間をつぶ
すほうがいいと思うぜ。なに、さっきの、おれが男でおまえは女って話ゃ、ありゃ
冗談だから心配すんな。だれがおまえみたいなじゃじゃ馬、手ェだしたがるよ。あ
とが恐えぜ」
とたん、姫君はむっと頬をふくらませる。
「どういう意味ですか。こっちこそ、おまえのような蛮人など願いさげです」つん
とあごをそびやかしてからもう一度むきなおり、
「ですから、このような不気味な場所でおまえとふたりきりですごすなど、ごめん
こうむります。おまえがいやだというのなら、わたしひとりでも遺跡にいきますと
も」
「おいおい、こまったなあ」心底こまったような顔をして、巨漢はぼりぼりと頭を
かいた。「まあどうしてもってんなら、装甲車三台ぶんくらいの人数ならなんとか
しようもないこたないが。しかしそれにしても、のちのちめんどうなことになるの
は目に見えてるしなあ」
「ずいぶんと悲観的ではありませんか。その三台はいまさっき遺跡へとむかってい
たのでしょう? となればわたくしたちは予定どおりここで一夜をすごしたのちに
遺跡にむかえば、ちょうどむこうがひきかえしたあとに到着するのではありません
か? 革命軍のひとたちにしても、いるかいないかわからないような他国の姫君な
どにいつまでもかかずりあっていられるほどひまではありますまい。そうすればわ
たくしたちだって、一度捜索をうけてより安心なかくれ家を確保できるというもの
です。ちがう?」
「そううまくいきゃいいんだが」
なおも首をかしげるハッサンに、いいからとっとと野営の準備をなさいとアミー
ナは命じた。
遠方視界モニターに、水辺にそったオアシスのわきにたたずむ陰鬱な施設の姿が
うつしだされた。
シスタレス補給基地である。
規模はそれほど大きくはない。航空機の発着用滑走路が二本、整備場や倉庫とお
ぼしきおおきめの建造物が七つ、あとは宿舎や事務施設といったところだろう。事
前の情報どおり、シャトルのうちあげ施設は見あたらなかった。脱出のときにはど
うやら利用できそうにない。
それでも、VT燃料や使用したルシファーズ・ホークなどのミサイル類、その他
の消耗品を補給するには手ごろな規模といえる。
「楽勝じゃん」
はちきれんばかりの肢体をさしこむようにしてガルウイングの下からのぞきこん
だシェリルが、肩ごしにビショップにいった。
「だけど、正面突破はバカげているよ」肩にかかる息を意識しながらビショップも、
しかつめらしい顔をつくろっていう。「情報によれば、この基地でも革命さわぎで
ひともめあったらしい。つくすきならいくらでもあるはずさ。さしあたって、もう
二、三時間以内にルバンスの業者から補給品がとどくはずだ。それをインターセプ
トしてから、利用できるかできないか検討してみるのもいいんじゃないのかな」
「のんびりしてるわねえ」うんざりした口調でシェリルはいう。「バルンギヤの潜
入限界あるの、わすれてないでしょうね」
「もちろんわすれてなんかいないさ。おいてけぼりをくらっちゃ、たまらないから
ね。不安定な革命政権下でこそこそかくれ住むようなはめには、ちょっとなりたく
ないしね」
「でもわたしとふたりの暮らしなら、ちょっと経験してみたいんじゃない? ん?」
アハハとビショップはあいまいに笑っただけで返答をさけ、補給車のインターセ
プト地点を決定しておこう、と話題をすりかえた。
一時間後、補給基地から充分にはなれた涸れ谷の砂中にひそんだ二機のナグワル
は、とおりがかったコンテナ運搬車をはさみうちに襲撃、捕獲に成功していた。
予想どおりDNA、脳波関連の厳格な検問は現在基地ではおこなわれてはいない、
ということを運転手からききだし、協議のすえビショップが業者になりすまし、二
機のナグワルを積載した運搬車を運転することに決定した。
コンテナが基地のゲートにたどりついたとき、恒星バストラルはようやく地平線
にさしかかりつつあるところだった。
門衛の兵は三人一組であった。情報よりもひとり多い。ナグワル降下の報をうけ
て警戒を厳重にしているのかもしれない。
パスカードをうけとった衛兵は機械的に読みとり機にかけて返してよこし、積み
荷はなにかと問いかける。
「食糧ですよ、兵隊さん。みなさんがおあがりになる兵糧をおとどけにあがったわ
けです」
ここぞとばかりにとっておきの微笑みをにっこりと顔面にはりつけながらビショ
ップはいった。
け、と詰め所の兵が吐きすてる。
「みなさんがおあがりになる兵糧、ときやがった。こちとら、この基地に駐留して
もう半年になるんだぜ。いいかげんあの味もそっけもねえ家畜のえさにはあきあき
してるところなんだ。おまえさんとこのその、自慢の兵糧とやらがどんな味なんだ
か、ためしたことはあるんだろうな。え?」
「それはもちろんですとも」
にこにこと笑いながら、しんぼう強くビショップはいう。
そのようすを背後から注意ぶかく見守っていた三人めの衛兵が、そのときふいに
立ちあがって窓口まで近づいてきた。
愛想笑いをうかべるビショップを無表情に注視し、つぶやくようにして問いかけ
る。
「きのうの業者と、ひとがかわっているな」
「はい」
と、笑顔をはりつけたままビショップはうなずきかえし、衛兵を見つめかえした。
そんな愛想笑いを真正面から見かえしたまま、衛兵はさらにつづけた。
「どうしてそんなにおちついていられる?」
は? とすっとぼけて問いかえすビショップに、衛兵はさらに問いつのる。
「革命軍が占拠している基地だぞ。見てのとおり通常とは雰囲気がちがう。いわば
神経質になっている状態だ。きのうまでの業者は、その雰囲気をさっしてか、もっ
とおどおどとしていた。おまえはやけに堂々としているな。なぜだ?」
「それはもう、わたくしはそういう雰囲気とやらにはきわめて鈍感でして」
まずいかな、と思いつつビショップはさらに愛想笑いをつよめながらいった。
「荷台をあらためる」
そんなビショップの微笑みを完全に無視して、衛兵は真顔のまま宣言した。
9
ふう、とため息をつきながらビショップはコクピットからおりて従順に衛兵を先
導し、いわれる前に荷台をひらいて見せた。
兵は注意深くコンテナ内部に視線をめぐらせる。
あげく、
「やけに量がすくないな」
うす闇につつまれた内部から視線をはずさぬまま、つぶやくようにしていった。
内心の動揺は顔にはださず、ビショップはいまや仮面のようにはりついてしまっ
た、あいかわらずの愛想笑いのまま、
「いつもこんなものだと思いますけどねえ」
そらっとぼけてそういった。
納得しないのか、なおも衛兵はコンテナ内部を見つめつづけた。
が、ふいにため息をひとつついてじろりとビショップを一瞥し、
「まあいいだろう」
いって、いけ、とあごをしゃくってみせた。
おそれいりますといい残してビショップは荷台の扉をとじ、ひらいたゲートに機
体をくぐらせながらほっと深い安堵の息をつく。
「あぶなかったな」
と背後にちらりと視線を走らせながらひとり、つぶやいた。
積載された食糧のうちの大部分を放棄して二機のナグワルをのせたのは、たしか
にあぶない橋だった。
不必要に巨大なコンテナ車にこれっぽっちの食糧などおかしい、と考える者がい
ても不思議はあるまい。その気になってよくよく観察すれば――いかにうすくらが
りのなかとはいえ、かげろうのようにゆらめくナグワルのりんかくぐらいには気が
ついていただろう。
精密に計算されたスペクトル・ジャミングによって不可視の状態下におかれてい
るとはいえ、光学迷彩も完全に姿をかくすことができるわけではない。移動状態に
あるときはもちろんのこと、静止しているときでも空気の状態や光のかげん、ほこ
りなどの影響をうけてかげろうのように質感をゆらめかせる現象は決してめずらし
くはない。
現に、衛兵とともにビショップが見守っているうちにも、水面にうかぶ波紋のよ
うなゆらめきがコンテナ内部に走りぬけた瞬間がいくどかあったのである。
肝のちぢむ思いだったが、入りこんでしまえばこっちのものだった。
注意深く四囲を見わたして不審に思う者がいないかどうかに気をつけながらも、
あらかじめ見当をつけておいた補給施設めがけてビショップはまっすぐにコンテナ
車を走らせた。
夕刻であるせいか、宿舎にむけてのんびりとした足どりで移動していく兵の姿が
大半だった。どうやらとがめられずに目的の位置まで移動できそうだ、と思いかけ
た、まさにそのとき――
いきなり、警報が鳴りひびきはじめた。
一瞬、反射的にアクセルをふみこみそうになり、かろうじてビショップは思いと
どまった。まだかれらの正体があばかれたとはかぎらない。
騒然とした雰囲気で立ちどまり、サイレンの鳴りひびく司令塔にむけて視線を走
らせる兵たちのようすを注意深くながめやる。
だれもコンテナに不審の目をむける者はない。
このまま補給施設までいけるか――と、いのるような気持ちでかんがえたとき、
サイド・ミラーにゲートから足早にかけてくる一団を発見した。
ち、と舌をならしつつビショップは減速する。
期待に反して、一団はまっすぐにビショップのコンテナむけて走りよってきた。
ごていねいにも、その背後からいましがたゲートをくぐってきた装甲車が数台、
つらなりつつある。
「まずかったな。捨てた食糧、ちゃんと砂のなかにうめてくればよかったらしい」
舌うちひとつ、ビショップはひとりつぶやいた。
迅速を優先してあとしまつをなおざりにしたのはたしかに失敗だった。気絶した
業者をほうりだしたままにしておいたのは、無用な殺人をおかす気がなかった以上
しかたのない処置だとしても、大量の食糧を砂漠の上におきざりにしてきては、お
なじルートをとおる軍用車がいれば遠くからでも気づかれるのは必至だろう。情報
ではこの時間帯に基地に帰還する軍関係の機体はないとされていたが、緊急の出入
りということも充分にかんがえられる。
「しようがないか」
つぶやきざま、ビショップはアクセルを乱暴にふみぬいた。
吹きぬける風のような大音声とともに、巨大なコンテナ車はぐわりと地表から浮
遊しざまノーズを回転させ、あばれ馬のようないきおいで追いすがってくる一団に
むかって乱入した。
人影が左右にちらばるのを確認するまもなく、ビショップはさらに機体を回転さ
せ、手近の建造物めがけて量感あふれる浮遊機のボディを突進させる。
とじられた頑丈そうな大扉がへしゃげながら内側にたおれこみ、いきおいのまま
コンテナ車は建物内に乱入した。
食糧庫らしい。山積みのコンテナが、突如侵入してきた巨大質量の突貫をうけて
ばらばらと崩壊する。
衝撃に首をすくめながらビショップはつぶやく。
「それじゃ、よろしくお願いしますよ、シェリル大将軍」
揶揄まじりのひとりごとに呼応するごとく――観音びらきの荷台扉をふきとばす
ようにおしひらきながら、深紅の弾丸がとびだした。
接近しつつある装甲車のあいだに割ってはいる。
突如出現した得体のしれない機体に、あつまりかけただれもが逡巡して立ちどま
った一瞬――
鋭利な機械音をひびかせながら、ナグワルの深紅のボディのあちこちが、矢つぎ
早に開口していた。
「ミサイル――」
だれかが叫んだときには、無数の爆煙をたなびかせて凶暴な機械の獣がつぎつぎ
にとびたつところだった。
ランダムに飛翔したミサイル群は、ところかまわず炎の花をまきちらし、芽生え
かけていた混乱をまたたくまに拡大した。
間髪いれず、猫科の獣のように瞬時にしてナグワルが機動。暮色のふりそそぐう
す闇のなかに、バール効果の淡紫色の燐光をまきちらしながら回転しざま、はじか
れたように前進する。
数台の装甲車が糸にひかれるようにあとを追いはじめた瞬間、またもや深紅の機
体はその獰猛な鼻面をぐるりと追跡者にむけ、左右二門の砲塔を展開した。
雷鳴の轟音とともに、つぎつぎに射出されるプラズマ弾が夕闇をあざやかに切り
さいて飛翔し、追跡してきた装甲車をはじめとしてあちこちに、えぐりとったよう
な傷痕を無差別にきざみこんでいく。
生身で歩いていた兵たちはあわてふためき逃げまどい、あやうく被弾をまぬかれ
た装甲車も敵の変幻自在のうごきにまどわされて有効な対処をまったくとれずにい
た。
見すかしたようにシェリルのナグワルは、縦横無尽に基地内をあばれまわった。
そのすきに――補給をおえたビショップのナグワル、もう一機の紅い野獣が、だ
しぬけに基地内を蹂躙しはじめた。
気まぐれで破天荒なシェリルのあばれっぷりにようやくなれ、反撃の体勢をとと
のえつつあった基地側の対応は、今度は理詰めで体系的な攻めを展開するビショッ
プの攻撃をうけてまたもや浮足立つはめにおちいっていた。そのあいだに、シェリ
ルのナグワルも補給を終了していた。
時間にすれば一時間にみたない、ごく短時間の混乱にすぎなかった。