AWC 紅の鋼騎兵(1)       赤木 錠


        
#4170/5495 長編
★タイトル (GVJ     )  97/11/ 9  12: 3  (200)
紅の鋼騎兵(1)       赤木 錠
★内容

    紅の鋼騎兵(クリムゾン・ロイヤル・ナイツ)

               赤木 錠

  1

 せきこむようなファイアリング・サウンズが、おどろくほど近くで凶暴に鳴りひ
びいた。
 ついさっきまで、まるで別世界のできごとのように遠くでひびいていただけの銃
撃戦の轟音である。それが、まるで切りとられて壁のむこうがわにほうりだされた
かのごとく、するどく耳にとどろきわたったのであった。
 連鎖するように、なんのまえぶれもなく突然、シャトル・コクピットの窓外間近
で目もくらむ閃光が盛大に炸裂した。
 爆発音。操縦士と副操縦士はおもわず首をすくめながらかたく目をとじる。心中
に育ちつつあった焦燥感が、おそろしい実体をともなって一気に膨張していくのを
狂おしく実感した。
 同時に、あらあらしく扉をひらいて数人の学生の集団がコクピット内になだれこ
んでくる。
「離陸させろ。いますぐだ!」
 根こそぎ余裕のうばわれた興奮しきった声音で、乱入してきた二人のうちのひと
りが吠えたてた。
「しかし、姫がまだ――」
 パイロットが口をひらくより前に、学生たちのあとを追うようにしてかけこんで
きた王室づきの秘書官が、これも金切り声一歩てまえの切羽つまった口調でいいか
ける。
 それをさえぎってもうひとりの乱入者が、口角泡をとばしながらわめきかけた。
「もうまにあわないに決まってるだろ! おもてを見ろ! 革命軍はもう完全にエ
ントランスを制圧して、ここまでなだれこんでくるところだ! このままじゃおれ
たちまで離脱できなくなる!」
「そのとおりだ」と最初に口をひらいた学生も叫ぶように口にした。「だいいち、
あんな高慢な女のためになぜおれたちまでが命の危険にさらされなきゃならない?
今度のことだって、みんなが制止するのもきかずにホテルに戻ったりするから、こ
んなことになってしまったんだろうが。もうめんどう見きれんよ。冗談じゃない!」
「もう準備はできてるんだろう?」
 脅迫的な口調の問いかけに、シャトルのパイロットがためらいがちにうなずいて
みせる。
 秘書官が抗議を口にするよりはやく、じゃあ離陸しろ、と興奮した口調で学生は
まくしたてた。
「しかしきみたち、まがりなりにも姫はきみたちのご学友でもあるわけだし――」
「ああ、たしかにご学友であらせられるさ!」学生のひとりが吐き捨てるようにし
ていった。「あの高慢ちきなくそ女! おれたちがあの鼻もちならないくそプリン
セスのおかげで、どれだけめいわくしていたか、あんたにだってわからなかったわ
けじゃあるまい? え?」
「とにかくこれ以上待っても、ありがたきおれたちのご学友であらせられる姫君殿
下がここにたどりつける見こみなんかありゃしないんだ。操縦士さん、いいからは
やく離陸してくれ! 窓の外を見ろよ。ぐずぐずしてると包囲されちまう。やつら
に乗りこまれちまってからじゃ、遅いんだ!」
 ぎくりとして操縦士は窓外に視線をとばした。副操縦士も身をのりだして、シャ
トルポート施設をながめやる。
 断続的な銃声とともに、都市迷彩をほどこした戦闘服の一団がまさに建造物内か
ら滑走路へとわきだすように走り出てくるところだった。
「離陸する」
 決定、というよりは弁解するような口調で操縦士が口にした。
「待ってください!」必死の口調で、秘書官がつかみかかった。「もうすこし! 
もうすこしお待ちください! 姫をおきざりにして帰還したなんて、わたしは首を
つってももうしわけが立たない! どうか――」
「じゃあ、あんたも姫といっしょに残ればいいだろ!」
 パイロットがなにかいいだすよりさきに、学生のひとりがそういいながら秘書官
のえり首をつかみあげた。
 容赦のない鉄拳をそのみぞおちにたたきこむと、もうひとりに手伝わせながらあ
らあらしい口調で秘書官をののしりつつ、パイロットルームから退出する。
 しばらくもしないうちに、ふたりの学生は興奮したおももちのままふたたび戻っ
てきた。
「ほうりだしてきましたよ。さあ、やってください」
 うってかわったように紳士的でいかにも好青年、といった口調になっていた。
 パイロットとコパイロットは不気味そうに顔を見あわせる。
 まずいんじゃないのか――どちらの胸中にもおなじ言葉がうかんでいたが、あえ
て口にする気にはなれなかった。異常きわまる状況が、正常な判断を抑制していた、
という部分もある。
「よし。離陸する」
 決然と機長はいいはなち、学生ふたりも満足げな表情で客室へと戻っていった。
 それがこのシャトルの、生死をわける瞬間だった。

「待ちなさい!」
「失礼! むだです、姫さま!」
 垂直離陸するシャトルの青白い炎にむかって突進しようとするアミーナ姫を、老
秘書官ジャムハンは必死にすがりついておしとどめた。
 エントランスで銃をかまえた兵士たちが、緊張した様子でいっせいにふりかえる。
「お隠れください、姫さま! 撃たれてしまいます!」
「撃たれるのがなんですか! シャトルがいってしまうのですよ! ジャムハン、
おまえもとめなさい!」
 むちゃくちゃな命令を平然と口にする、十七歳の可憐な少女ををひきずるように
して、老秘書官はものかげに身をかくす。女とはいえ若い肉体が力まかせに抵抗す
るのだから、なかなか思うようにはいかなった。
 完全に発見されたか、兵士たちが一団となってこちらに走りよってくる姿がちら
りと目に入る。
 これまでか、と老秘書官はなかば観念した。行をともにしてきたもうひとりの秘
書官がシャトルの離陸をひきのばしにかかっていたはずだが、どうやらそれも果た
せずに終わってしまったらしい。
 アミーナがイアドラ・ルナフの姫君であることは、公式には知れていないはずだ
が、どこまでかくしとおせるか、それよりもかくしておいたほうがいいのか否か、
ジャムハンにはまるで判断がつかなかった。
 いずれにせよ、殺気だった革命軍の手中におちいることだけはどうにかしてさけ
たかったのだが――それもどうやらかなわぬ望みらしい。
「お逃げください、姫さま。つかまってしまいます」
「だって、シャトルがほら、いってしまうのよ! 呼び戻さないと――あっ」
 驚愕の叫びは、頭上にむけられたままだった。
 なにごとかと姫の視線を追う老秘書官の眼前に――信じがたい光景が展開する。
 上昇するシャトルの噴煙を追うように、赤黒い、光の矢のようなものがまっしぐ
らに飛翔していくのである。
 対空砲。
 死の矢は逃げるシャトルのバックファイアにみるみるうちに追いつき――ふたつ
の光がひとつとなった。
 つぎの瞬間。
 爆散した。
 雷光と八方に散るどすぐろい噴煙とが、夜空をあやしく染めあげる。
 老秘書官のみならず、アミーナ姫までもがぞっと背筋をふるわせていた。もし強
行離陸を敢行したあのシャトルに乗っていたら、ふたりもまたおなじ運命におちい
っていたはずだ。
「そんな……。わたくしのシャトルが……」
 ぼうぜんと口にするアミーナ姫に、老秘書官ジャムハンははっとわれにかえって
叫びかけた。
「姫さま、それよりもいまは逃げてくだされ」
 どん、とあらあらしく背中をおしてつきとばす。
 ふだんなら金切り声をあげて無礼をとがめだてるところだが、いまは高慢な姫君
もシャトルが炎上する姿をぼうぜんとながめあげているばかりだった。
「はやくお逃げになってください!」
 叫びざま老秘書官は、殺到してくる兵士たちの一団にむけて両手をひろげておた
けびをあげながら突進した。
 むろん――その無謀な猛進は一メートルと持続することはなかった。殺気だった
兵士たちはいっせいに銃口を老人にむけるや、ためらうことなくひきがねをひいて
いたのである。
 無数の銃口から光のパルスがつぎつぎと吐きかけられ、老秘書官のやせ枯れた肢
体は、舞踏でもおどっているように奇妙に姿勢をかえながら崩おれていった。
「あ……ジャムハン!」
 アミーナ姫は叫びながら目をむいた。
 一瞬、棒立ちになっていたが、すぐに衝動的に走りだした。
「とまれ、姫!」
 ほぼ同時に――兵士たちとはまったく正反対の方角のものかげから、野太い制止
の声がかかった。
 しかしとうぜんのごとく、錯乱した姫君の耳にはとどかない。
 月光に凶暴な光をはなつ銃口がぎらりと移動する。
 その顎が、アミーナにむけていましも死の光条を吐きだそうとする、まさにその
瞬間――
 閃光が、姫君と兵士たちとのあいだに炸裂した。
「きゃ――」
 手で目をおおいながらアミーナ姫は、ぺたりとその場にしりもちをついた。
 ほとんど間をおかず、その小柄なからだがひょいと抱きあげられた。
 声をあげる余裕もないまま、姫は抱かれたまま移動する気配を感じていた。突然
の光にやられて、視界はフラッシュにうめられたままだった。
 異様な轟音が背後に遠ざかる。
「だれ? だれなの?」
 くらんだ視界が回復しないまま、突如うかんできた不安につき動かされてアミー
ナ姫はたくましい腕のなかでもがきながら叫んだ。
 毛深い腕は、びくともしなかった。
「おれだよ、姫。けがはなかったか?」
 野太い声音が、笑いをふくんだ口調で問いかける。
「だからだれなのですか? 離しなさい、この無礼者。わたくしを拉致する気?」
 叫びながら姫は、男の胸板とおぼしき部分を力まかせになぐりつける。
 まるで動じたふうもなく、男は笑いながらつづけた。
「おいおい、三日間もツノつきあった相手をわすれちまったのかい? 薄情な姫さ
んだなあ。ええ?」
「三日間? あ――」
 ようやく回復してきた目をこらして、アミーナ姫はおのれをかるがると抱きあげ
た巨漢にぼうぜんと視線をあげた。
 にやにや笑いを口端にうかべたごついひげ面の、筋肉隆々の大男であった。たし
かに見覚えがある。
「ああっ、おまえはハッサン」
「ようやく思い出してくれたか。え? さびしかったぜ、姫さんよ」
「どうしてここに……」
 アミーナ姫はぼうぜんとした口調で問うた。
 ハッサンはにやにや笑いを口もとにはりつかせたまま、無言で走りつづけるばか
りだ。
 都心でクーデターが起こっている、という情報が入るまで一週間ほどの日々をす
ごしていた発掘現場で、現地調達した作業員のなかにいつからかあった顔だった。
からかうような口調でなにかと姫に話しかけてきた男で、アミーナの高慢な態度に
もいささかも動じた気配も見せずにやりあっていた作業員である。
「残念だが、都市にゃそうながいこといられそうにねえな。どっか、革命軍の目の
とどかないところでほとぼりをさますか」
「でも、あてはないわ」ようやくのことで自分のおかれた立場に思いいたり、姫は
絶望的な口調でいった。「現地に住んでるおまえならともかく、わたくしはいつま
でもどこかにかくれているわけにはいかないのよ。もし革命軍につかまりでもした
ら――」
「人質、だろうな」こともなげな口調で、ハッサンがいう。「イアドラ・ルナフの
姫君を手中にしたとあっては、革命軍もいろいろ使い道があるだろうからな。ま、
ただじゃすむまいさ」
「簡単にいわないで」
 抗議をいいかけ――アミーナ姫は目をまるくした。
「……ハッサン。なぜわたくしがイアドラ・ルナフの姫だって知っているの? て
っきりおまえは、私が姫であるということすら信じていないのだとばかり思ってい
たのに……」
 巨漢は、姫を見おろしてにやりと笑ってみせた。
「おれはなんだって知っているのさ。なにしろ、姫、あんたの騎士なんだからな」
 笑いながらウインクをしてみせる。髭面のゴリラのウインクだった。
「似合わないわ」むっつりとした顔つきで姫はいい――眉と眉のあいだに、つうと
縦皺をきざんだ。「ということはハッサン、おまえはわたくしがほんとうの姫君だ
と知っていたのに、そのように横柄な口をきいていたの?」
「あたりまえだ」巨漢は口もとをへの字にゆがめてみせる。「あんたが姫君だろう
が大王だろうが、おれ個人にはまったく関係ないんだからな」
「無礼者!」
 革命に揺れる街の喧噪のなかに、パン、と小気味のいい音がひびきわたった。

  2

 すそのながい聖衣をなびかせながら、ジブリール・ビショップはオレンジ灯の灯
るながい通廊をゆっくりとすすんでいく。
 さしてあわただしいわけでもない、ゆったりとした歩調なのだが、アフマド大佐
はそれについていくだけで小走りにならなければならなかった。
 うかぶ奇異の念はあえてのみこみ、大佐は歩調にあわせるような早口でさきをつ




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