AWC 青の国(7)   穂波恵美


        
#4155/5495 長編
★タイトル (PRN     )  97/10/26  23:53  ( 65)
青の国(7)   穂波恵美
★内容
 終章 藍色の夜空

「おーいリュウサ、お客さんだぞ!」
 山羊の群を小屋に入れていたリュウサに声がかかったのは、星が瞬き始める時刻だ
った。
「はーい、今行きます」
 手早く小屋を閉め、部屋に駆け込んだリュウサは、メリーにどんと背中を叩かれつ
んのめりそうになった。
「女の子を待たせるもんじゃないぞ!」
「え?」
 ニコニコ笑いながら、メリーが客間を指さす。
「リュウサ、今日はお花ありがとう!」
 扉を開けたリュウサの目に、窓辺の椅子に腰掛けた青銀の輝きが映る。
「プリシア!」
 事件から一週間。今日はプリシアの歌の発表会だった。
 プリシアは堂々の第一位。
 大きな花束を幾つももらっていたから、リュウサのあげた野の花で作った花束など
気にもとめていないと思っていたのに……
「お仕事あったのに、来てくれたんだよね! ありがとう」
「うん、メリーに頼んで今日の昼だけね……言ったら、どうしてもっと早く言わなか
ったんだって叱られたよ、いくらでも許可してやるのにって」
 照れ笑いを浮かべながら言うと、プリシアはくすっと笑った。
「そっか、よかったね!」
「うん」
 微笑み返して頷くと、プリシアはちょっと黙ってリュウサの顔を眺めていたが、弾
みをつけてポンと立ち上がった。
「じゃ、そろそろプリシア帰るね」
「え、もう?」
「うん、遅い時間だし、お礼言いに来ただけなの」
「あ、じゃあ送るよ。もう少し、話したいし」
 そう言うと、プリシアはいつものこぼれそうな笑顔を見せた。
「うん、ありがとう!」


 外は、満天の星空だった。
 降るような星空とはこういう状態を言うのだろうな、と思いながらリュウサはプリ
シアの隣を歩いていた。
 春先とはいえ夜の空気は冷たいけれど、つないでいるプリシアの手は暖かい。
 たぶん、プリシアも同じことを感じているかもしれなかった。
「ねえ、リュウサ」
「なに?」
 プリシアは珍しくちょっと言いよどんで、それからそっと問いかけた。
「スカイ、ソウ、サイのこと……覚えてる?」
「スカイ、ソウ、サイ……何か聞き覚えのある名前だけど」
 リュウサは、舌の上で何度か三つの名前を転がしてみる。
 懐かしい響きだったが、その名前の所有者は思い出せなかった。
「ごめん、僕には分からないや」
 そう言うと、プリシアは大きく首を振った。
「ううん、それならいいの!」
 リュウサの小指に、プリシアの小指がからめられる。
「リュウサ、ずっと一緒にいようね」
 藍色の夜空に星が輝く。
 その銀色の光に照らされたプリシアは、初めて見た女の子のように綺麗で……そし
て、どこか神秘的だった。
「リュウサ?」
 見とれていたリュウサを不審に思ったのか、プリシアが小首を傾げる。
 瞬く間に星明かりの魔法はとけ、そこにいるのはいつものプリシアだった。
 リュウサは、ほっとしたような、それでいて残念のような気持ちで頷く。
「うん、ずっと一緒にいよう」
 そして、指切りが交わされる。
 幼い、けれど永遠の約束。
 それを見ているのは、包み込むような夜空に輝く星々と月だった。
 
                        終わり





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