#4045/5495 長編
★タイトル (BYB ) 97/ 8/ 4 17:59 (181)
キャプテン・ドラゴンF つきかげ
★内容
冷たい光がうかぶ。
「私たちもいたの。その惑星マルスに」
ビリーは、愛の告白を聞いたように、優しく頷いた。
「私たちの父は、帝国の技術者だった。あの戦略支援システム、フェンリルを設
計したのは父よ。体制に対して批判的だった父は、秘密警察にマークされていた。
そして…」
「消されたか」
言い淀んだリンの言葉を、ビリーが補った。リンが頷く。
「そうよ。私たちは、母と共に逃亡し、マルスを脱出する事にした。でも、追い
つめられた」
「そこで、フェンリルにダイブした訳だな。データを改竄し、帝国軍を混乱させ
た」
「ええ。私たちは、脱出に成功した。けど、母は終戦を待たずに死んだわ。それ
と、父には母以外に愛人がいた。その愛人にも私たちのような、双子の子供がい
たはず。ただ、男女の双子だった」
ビリーは、満足げに頷いた。
「その男のほうが、ブラックソルか」
リンは、何もいわずに頷く。リンは透明な、なんの感情も宿していない瞳でビ
リーを見つめると、言った。
「私の物語は、終わり。ブラックソルは、グランノアールにいるわ。私は、リン
をブラックソルに渡すつもりはないの。奪い返して」
ビリーは、どこか投げやりに言った。
「ヤン。やっと行き先が決まったよ。クリステヴァ星系のグランノアールだ」
「了解、キャプテン」
ヤンは席を立ち、ブリッジへ向かう。それを見届けると、リンが言った。
「今度は、あなたの話を聞かせて、キャプテン・ドラゴン」
「なんだい?」
「あの龍は…一体何?」
「ヤンから聞かなかったのか」
「聞いたけど、納得した訳じゃないわ。一体どうやってあの龍を手に入れたの」
「銀河先住民族によって封鎖されたエンシェント・ロードは知っているか?」
「ええ。確か…龍の道?」
「戦争中、帝国軍がその封鎖を突破する方法を、見出した。そのころおれは、連
邦軍の調査局の一員だった。おれは帝国軍を追って、龍の道の奥へと入り込んだ」
「そこに、あの龍がいたわけ?」
「ああ。そこには、閉鎖惑星ケルダーがあった。先住民族が作り出した次元渦動
の奥にあったのは、亜空間ウィルスに汚染された星、ケルダーだったんだよ。先
住民族は亜空間ウィルスと接触した時に、その危険性を認識し星系ごと封鎖した。
その結果、ケルダーは異常な世界になった。おれがあの龍に出会ったのは、その
狂気の星、ケルダーでだ。
おれは、龍に呼ばれたんだよ。やつは死んでいる。やつには、魂が必要だ。お
れはやつが望むまま、魂になってやった」
「なんていう名前なの?」
「あ?」
「あの龍の名前」
「マンダだ」
リンは少し笑った。
「原始宗教のマンダ教では、造物主は狂った存在であり、人間の魂を地上に縛り
付ける専制者としている。マンダ教における龍とは、太古に楽園にいた人間を誘
惑し、造物主に背く為の英知を授けた蛇と同一視されている。
マンダとは、救い主としての龍という意味?」
ビリーは、苦笑する。
「難しく考える事、ないんじゃないの?」
漆黒の地下に広がる、銀色の星々。その煌めく銀河が広がる、地底の宇宙の中
に浮かぶプラットホーム。メイ・ローランは金色の単眼に見下ろされながら、暗
黒の天使のような少年にいった。
「私とあなたで、デジタル・ダイブをするっていってるの」
ブラックソルは昏く輝く瞳を、メイに向けて答える。
「そのとおりだ」
「無理よ。シンクロが成功する可能性は、ほとんどないわ」
ブラックソルは獲物を追いつめる獣の笑みを見せ、言った。
「あんたとおれが、兄妹だったとしてもか?」
メイは息を呑んだ。
「どういう事?」
「おれの父親は、ジェイ・ローラン。あんたの父親と同じ男だ。おれは惑星マル
スで、あんたの母親とは別の女を母親として生まれた。いや、おれたちは、とい
うべきだろうな」
「おれたち?」
「ついてこいよ」
そういうと、ブラックソルは棺に向かってあるき出す。漆黒の棺に接続された
端末が、聖壇に灯された火のように鈍い光を放っている。棺に接続されたケーブ
ルは、棺を大地に繋ぎとめる為の根のようだ。
ブラックソルは、無造作に棺の蓋をあける。巨人達の黄金と青色の眼差しに、
蒼ざめた肌の死体が晒された。それは眠れる天使のように美しい、全裸の少女の
死体である。それは巨人達の眼差しの下で手折られた白い花のように、儚げに見
えた。
「これは…」
メイは、絶句した。これは私の死体?といいそうになった為だ。眩惑が生じて
いた。自分の魂は肉体を遊離して漂っており、本当の自分は死体として棺の中に
横たわっているような気がする。まるで、自分の死がリアルな現実のように、記
憶の中に甦った。ここは、もしかすると、冥界?そして目の前の漆黒の少年は、
冥界の使者?
ブラックソルの瞳は、手負いの獣のように狂おしげに輝いている。
「紹介しよう。あんたとおれの姉、リンダ・ローラン。改めて名乗らせてもらう
と、おれはガイ・ローラン」
メイは、宙に浮いているような眩暈をこらえつつ、ブラックソルを見つめる。
「リンダとおれは双子として生まれた。リンダはおれの唯一の肉親であり、恋人
であり、おれ自身の一部であり、おれはリンダの一部だ。おれはリンダを取り戻
さねばならない」
メイは、ブラックソルの言葉を自分と双子の姉、メイとに置き換えてみる。ブ
ラックソルのいうことは、痛い程よく判った。
「じゃあ、あなたは、ユグドラシルを作動させて、死人を生き返らせようとして
いるの?」
「そうだ。地球帝国はかつて部分的にユグドラシルを作動させ、エントロピーの
逆転が発生する事を確認している。ここでは、生体の中の時間軸が逆転し、老い
た者は若返り、死んだものが生き返る。むろん、帝国軍がそこまでの実験を成功
させた訳ではない。しかし、おれとあんたが、完全にダイブに成功すれば、死者
をこの世に呼び戻す事も可能だ」
メイは、横たわる死者と同じくらい蒼ざめた顔で言った。
「断ったらどうする気?」
「人格矯正システムを使うよ。しかし、シンクロ率が低下する恐れがあるのと、
あんたの能力が著しく低下する危険性がある。あんたが、拒否すればしかたない
だろうな」
人格矯正システムはパーソナリティーとそれに付随した記憶を破壊し、ある一
定のプログラムにそった人格を作り直す洗脳機械である。人格矯正システムを使
用されるという事は、メイにとって死ぬことと、等しい。
「協力したらどうなるの?」
「あんたの世界に、帰ってもらう。相応の謝礼はするよ」
メイは、不安げにブラックソルを見つめる。
「考える時間を頂戴」
ブラックソルは凶天使のように、笑った。
「二十四時間待とう。それ以上は、だめだ」
うねるハウリングの響きに、掠れた声で投げやりに歌うボーカルが被さる。ギ
ターはフィードバックノイズの轟音に飲み込まれ、ベースがゆるやかにメロディ
を刻んでゆく。
薄暗いそこは、ライブハウスでは無く、電子装備に埋め尽くされた宇宙戦艦の
ブリッジであった。そこにいるオペレーターは、三人の少女である。少女たちは、
ブリッジを満たす音楽に身を委ねながら、それぞれのコンソールを操作していた。
ブリッジの中心には、球形のホログラムが蒼白い光を放っている。その周囲に
コンソールブースが放射状に配置され、12あるブースの内、0時、4時、8時
の場所に少女たちが収まっていた。
ホログラムの中心には、四角錐の形をした宇宙船の映像が、浮かんでいる。そ
れは今彼女たちの操っている船、オベロンクラスとよばれるタイプの戦艦の映像
であった。
オベロンクラスの船は殆ど武器を装備していない、人工知性の集合体のような
船である。直接戦闘を行うのではなく、他の船を制御したり、作戦の立案、解析
を支援する為の船であった。
ホログラムの中のオベロンクラスの映像を中心にして、その周りに、2枚の放
熱板兼用の装甲板を装備した巨大な槍のような形態を持つ宇宙戦艦の映像が、レ
ンズ状に展開されている。その縦長の蜻蛉を思わす形態の戦艦は、シルフィール
ドクラスと呼ばれる戦艦であった。
シルフィールドクラスは、オベロンクラスと反対に、武器以外殆どなにも装備
されていない戦艦である。居住ブロックは極度に小さく、無人であっても外から
の制御により動かす事のできる船であった。
このオベロンとシルフィールドは対になっており、オベロンクラスの船によっ
て、シルフィールドクラスの船が操作される。今、30隻の無人のシルフィール
ドクラス戦艦が、3人の少女によって操られていた。
少女たちは、皆、黒い革のコンバットスーツを身につけている。袖とパンツの
腿から下が切り取られ、手足を露出させていた。
銀色の髪の少女が、深紅に髪を染めた少女に言った。
「アグネス、そろそろ時間よ。音楽を止めて」
「判ったわ、ソフィア」
アグネスと呼ばれた、深紅の髪の少女がコンソールを操作すると、ブリッジを
包んでいた音楽が打ち切られ、静寂が広がった。黄色い髪の少女が、ソフィアに
向かって言う。
「ソフィア、目標がアクセスポイントからログアウトするのは、約360秒後よ」
「了解、クララ」
ソフィアがコンソールを操作すると、ホログラム上に輝点が浮かびあがる。ア
クセスポイントからのログアウト位置を、示すらしい。
「アグネス、クララ、各シルフィールドの照準を、最終チェックして」
ホログラム上の輝点に向かって、輝線が走る。シルフィールドたちの映像から
発せられたオレンジ色に輝く線が、一カ所に集まった。
「こっちは、OK。いつでもいけるわ」
「こっちも問題なし。ビームは、ピンポイントに集約される」
ソフィアは、自分のブースのコンソールをチェックした。ディスプレイの発す
る光が、銀色の髪を輝かせる。ソフィアが頷くと、言った。
「ロックオン完了ね。システムの自動起動を、セットして。それとエナーシャル
アンカーをセットして、全艦の位置を現状で固定」
「目標のログアウトまで、あと120秒」
クララの言葉と同時に、ホログラム上にタイマーが表示され、カウントダウン
が始まる。
「セット完了。ログアウトと同時に、全シルフィールドのメインビームが作動す
るわ」
そう言った後に、アグネスは不思議そうに、尋ねた。
「それにしても、龍の表面はそれ自体が時空特異点としての性格を持っているか
ら、電磁的ないし、熱力学的なエネルギーを与えても反射するだけなんでしょ。
こんな攻撃意味あるの?」
ソフィアが、微笑みながら答えた。
「龍はその表面を、時空特異点としての皮膜に覆われていると考えたほうがいい
わ。つまり、龍そのものは質量を持っているし、慣性もある。シルフィールド3
0隻分のメインビームシステムをピンポイントで直撃すれば、力学的に龍は加速
される。
理論的に龍に与えられるポテンシャルは、100Gを超えるはず。龍が平気だ
ったとしても、中にいるキャプテン・ドラゴンは轢き殺されたカエルみたいにペ
ッチャンコだわ」
「目標のログアウトまで、あと60秒」
クララのカウントダウンと同時に、ホログラム上に表示されていた数字の色も
紅く変わった。ここからはマシンボイスが無機的な声で、カウントダウンを10