AWC キャプテン・ドラゴンE     つきかげ


        
#4044/5495 長編
★タイトル (BYB     )  97/ 8/ 4  17:56  (181)
キャプテン・ドラゴンE     つきかげ
★内容
  メイは、やれやれといったふうに、肩を竦めた。ガイの言葉とはうらはらに、
ゴンドラはさらに降下を続ける。その降下は、惑星の中心部についてしまうかと
思う程続いた。
  突然、闇が途切れる。メイは、眼下に広がる景色に、息をのんだ。
「これは…」
  そこに見えたのは銀河であった。壮大な光の渦。銀色に煌めく光点が、無数に
広がっている。それは、荘厳な地下の暗闇に浮かぶ、巨大な星の集合だ。よく見
ると、その星と見える光点は銀色の透明な枝に繋がっていた。
  輝いているのは、銀色の大樹である。それはおそらく、一つの巨大な山脈に匹
敵する程の大樹であった。
  ゴンドラは、銀色に薄く煌めく大樹の枝の中を、降下していく。星の海の中を、
宇宙船で航海しているようだ。
「これは、一体?」
  メイの問いかけに、ガイは堅い表情で答える。
「銀河先住民族の遺跡さ。説明は目的の場所についてからだ。もう少し待て」
  銀の枝は複雑に絡み合いながら、光の束のような幹へ繋がっている。大樹の幹
は、降りるにしたがって太さを増し、光も強くなっていった。
  メイは、銀色の星空の下へ入り込んだと思えるようになった頃、それが姿を現
す。それは、まるで、銀色の幹に貼り付けられた暗黒の天使のように見えた。
  それは、星の海の中に広がる黒い闇の亀裂のような巨人である。おそらく、ベ
ヒーモスクラスの宇宙戦艦くらいの大きさはあるだろう。その黒い体を持つ巨人
は、漆黒の羽を8枚広げ、銀色の大樹の幹に絡みついている。
  その四肢は、人間のそれとは異なり、蛇のようにくねり、枝へ絡みついていた。
そしてその胴体には、もうひとつ銀灰色の小さな巨人が絡みついている。その大
きさは、小さいといっても巡洋艦くらいの大きさはあるようだ。
  銀灰色の巨人は、漆黒の巨人とほぼ同じ形態である。ただ、漆黒の巨人は強固
な肉体を持つ男性に見えるのに対し、銀灰色の巨人は曲線的な肢体を持つ女性の
ようだ。
  その銀色に輝く海の中に沈んだ、闇色の堕天使のような巨人の表情が、降りる
に従ってはっきりと見えてくる。その頭部は滑らかな卵形であり、凹凸は殆どな
い。ただ、その中央に、アーモンド型の単眼がある。
  漆黒の巨人のほうは、金色に煌めく単眼を持ち、銀灰色の巨人は、サファイア
のように輝く青い単眼を持っていた。
  ゴンドラは、金色と青色に輝く二つの瞳の前を通って、下っていく。やがて下
方にプラットホームが見えてきた。宇宙港の離着陸場一つぶんくらいの広さだ。
どうやらそこが、目的地らしい。
  銀色の海に浮かぶ、青灰色の船のようなそのプラットホームには、幾つかの端
末の他に、黒い棺が置かれていた。棺には、様々なケーブルが接続されている。
  ゴンドラは、海へ沈んだ船が海の底へ沈むように、プラットホームに着いた。
メイとガイは、プラットホームへ降りる。
  メイは、巨人を見上げた。遥かに高い山の頂きのような所から、満月のように
黄金に輝く瞳と、宝石のように青く輝く瞳が見下ろしている。メイは畏怖の感情
が、立ち上ってくるのを感じた。
「こいつはかつて、地球軍からユグドラシルと名付けられた古代の人工知性だ」
  メイは、黄金の瞳を見つめたまま言った。
「この巨人のこと?」
「いや、あれはこの人工知性のマン・マシンインターフェースとしての、端末に
すぎない。人工知性としては、この銀色の木全体から構成される」
  メイは、ガイに視線を戻す。
「まさか、あなたこの人工知性を…」
「動かすのさ」
  メイは、ため息をついた。
「無理よ。一体どうやってアクセスするつもり?」
「巨人は2体あるだろう。黒い巨人は、銀河先住民族の造ったものだ。銀灰色の
巨人は、あの黒い巨人を一部切り取って地球軍が模倣して作り上げた、インター
フェーサだ」
「インターフェーサ?」
「そう。あの銀灰色の巨人へは、通常のサイバーネットワークへアクセスするよ
うに、入り込むことができる。そして銀灰色の巨人をコントロールすれば、あの
黒い巨人も制御できるという訳だよ」
  メイは、真っ直ぐガイを見つめる。
「ユグドラシルと名付けられた人工知性のデータは、見たことがあるわ。地球軍
は色々実験した結果、コントロール不能の結論を出したはず」
「できるさ」
  ガイは、世界そのものに向かって、戦いを挑むように微笑んだ。
「おれと、あんた。二人が力を合わせればね」

「趣味の悪い部屋ね」
  リンが、可憐な妖精を思わす顔の眉間に、皺をよせる。そこは、宇宙船オダリ
スクの居住ブロックであり、ブリーフィングルームも兼ねている部屋のようだ。
居住区域は全体が回転し、遠心力による人工重力を生み出すようになっていた。
  その部屋は、壁、床、天井すべてをピンク色に塗装されている。ソファに深々
と腰をかけ、足を組み、肘掛けに頬杖をついたビリーは、夢から目ざめたばかり
のように物憂げな声でいった。
「こういうところが、落ち着くんだ」
「あなたも、同じ意見なの?」
  お茶とホットミルクを運んできたヤンに、リンが聞いた。ヤンがあきらめたよ
うな声で、答える。
「もう、慣れたよ。慣れればどうってこたぁない」
  ホットミルクを受け取ったリンに、ビリーが気怠く言った。
「で、おれに何をさせたい?」
「妹を救いたいの」
「双子の妹か。名前は、なんて言うんだ」
「メイ・ローラン」
  ビリーは頷いた。
「だろうと、思ったよ。で、どこまで調べた?あんたの妹をさらった奴が何者か
は、判っているのか?」
  リンは、遠い彼方を見つめるように不思議な目をして、ビリーを見つめた。
「惑星マルスは知っている?」
「ああ、知ってるよ。地球と同じ恒星系にある惑星だろ」
  ビリーは、相変わらず茫洋とした表情で答えた。
『軍神』の名を持つかつて紅い荒野に覆われていたその惑星は、人類の手により
居住可能な星に改造されている。地球帝国はあらゆる軍事設備の研究と開発を、
その星で行っていた。
「確か、終戦後も封鎖されたままのはずだな。生物・科学兵器のプラントが連邦
軍の攻撃で破壊され、惑星全体が汚染されてしまったとか」
「ええ、封鎖された時点であの星に4億の人間が残っていたのは知ってる?」
  ビリーは片方の眉だけ、ひょいとあげ言った。
「聞いたような気は、する」
  マルスにいた地球人の技術者や科学者たちは、地球帝国崩壊寸前に脱出してい
る。残された4億の人間は他星系より連行され、強制労働を強いられていた人々
であった。彼らは生物・科学兵器により汚染された危険を持ち、他星系への移住
を禁止されている。
  地球軍の開発した未知のウィルスは、惑星マルス全体を覆っていた。閉鎖後の
数ヶ月で、4億の人間の99%は死んでいる。しかし、数万の人間は、かろうじ
て生き延びた。
「あの星に、生き延びた人々がいる。そして、あの星が完全に閉鎖されていた訳
ではないの」
「まさか」
「物理的な意味では、無いわ。サイバーネットワークの抜け道を通じて、外の世
界と繋がっていたのよ。軍用の極秘通信回線が、一部生きていた」
  生き延びた人々は、外の世界と交易を始めた。地球帝国が惑星マルスの中に隠
蔽していた軍事技術を売り、その見返りとして外の世界の物資を投下してもらう。
この惑星マルスの軍事技術を、密かに輸出していた者たちは一種の秘密結社のよ
うな組織を形成していた。その組織の名が、ブラックスローター団である。
「惑星マルスをブラックスローター団により支配し、失われるはずだった地球帝
国の軍事技術を手に入れたのは、一人の少年だったの。その少年の名は、ブラッ
クソル。私の妹をさらった男よ」
  ヤンが驚いて、言った。
「じゃあ、ウィルスに感染してるのかよ、そのブラックソルは。あんたの妹はや
ばいんじゃないのか?」
「その危険性はあるわ。でも、ブラックスローター団が生き延びて、マルス上で
生活しているということは、彼らは汚染から免れる方法を知っていたのよ」
  ビリーは、話を聞いていたのかどうかよく判らないような、夢見ごごちの目で
リンを見つめる。例によって、物憂げに口を開いた。
「要するに、ブラックソルとかいう小僧がマルスに残った開発プラントを利用し
て戦艦を作り、マルスを脱出してあんたの妹をさらった訳だな」
「ええ」
「よく判らないな。連邦軍の封鎖を、どうやって抜け出したんだ?」
「元々ブラックソルの使っている戦艦は、連邦軍が命じて作らせたものなの」
 連邦軍にしても、マルスに残された地球軍の軍事技術は、魅力的なものだ。と
いって、汚染された惑星上におりる危険は犯したくない。そこで、ブラックスロ
ーター団との取引を思いついた。
「ブラックソルは、連邦軍が研究の為に作らせた戦艦を、乗っ取ったのよ。連邦
軍は、ブラックスローター団との取引が発覚すれば大きなスキャンダルとなると
判断した為、公表しなかった。ブラックスローター団はとてつもない戦力を持っ
てしまったので、連邦軍もへたに手出しが、できなくなった」
「そいつは、判った。しかしな、判らないのは、なぜその小僧は、そんなふざけ
たまねをしたんだ。単純にマルスを脱出するのなら、もっとうまい手はあるだろ
うが」
  リンは、少し息をつく。その瞳が深みのある輝きを、見せた。
「ブラックソルの狙いは、ひとつの惑星を手に入れる事だったの。その惑星は、
グランノアール」
「聞いたような、名だな」ヤンが呟く。
「銀河先住民族の遺跡がある惑星として、一時注目されたわ。ただ、調査が打ち
切られ、人々の記憶から消えた」
「ああ、なるほど」
「ブラックスローターの必要としたのは太古の人工知性、ユグドラシル。ブラッ
クソルはユグドラシルに眠る、太古の秘術を手に入れようとしているのよ。私の
妹、天才デジタル・ダイバーのメイ・ローランを使って」
  ビリーはラブロマンスを演じる俳優のように、甘い笑みを見せる。まるで、恋
人に愛を囁きかけるように、言った。
「それは、それとしてだ。なぜ、メイ・ローランなんだ?デジタル・ダイバーは
そう大勢いる訳ではないが、金をだせば雇えるだろう。おれの推測では、おそら
くそのブラックソルという小僧だって、かなりの能力を持ったダイバーだぜ。そ
うでなければ、連邦をだしぬいてマルスを脱出するなんてまねは、できない」
  リンは、少し嫌そうに、答える。
「デジタル・ダイバーは一人よりも二人組んでダイブした時のほうが、遥かに高
い能力を発揮できる」
  デジタル・ダイブとは、特殊な能力である。それはオペレーティング・システ
ムやアクセス・メソッドを一切介さず、直接デジタル化された情報へアクセスす
る事だ。メモリ上、あるいは外部記憶媒体に展開されたビットのオン/オフにす
ぎない情報を脳内に展開し、そこから意味を見出す。それは、超能力といっても
いい才能である。
  デジタル・ダイブの前にはセキュリティシステムは、全く意味をなさない。セ
キュリティで制限できるのは、アクセス・メソッドの使用権までである。それを
介さず、ある種の直感に近いもので情報をとりだすデジタル・ダイバーに必要な
ものは、ハードウェアのチェック用ユーティリティと同レベルのソフトウェアだ
けであった。
 ダイバーは、誰でもなれるものではない。訓練したところで、そのまねごとす
ら、できない。ダイバーは先天的な、異能者といえる。
  二人でダイブした場合、一方の人間がメモリの役目を果たし、もう一方の人間
がCPUの役割を担う。情報を脳内に展開するのはどちらかといえば、右脳の能
力であり、それを解析し意味を見出すのは左脳の能力である。一人の人間がその
二つの事を同時に行うのは、困難だ。分担したほうが、効率がいい。
  ビリーは、物憂げに質問を続ける。
「確かにそれは、聞いた事がある。しかし、ダイバーが二人でダイブできるのは、
相当シンクロ率が高くないと無理だ。たとえば、あんたとメイのように、双子だ
とかね」
  リンは、頷く。その妖精のように美しい瞳に、凍てついた極北の夜空のような





前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 つきかげの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE