AWC Jの悲劇(2/2)      叙 朱


        
#4036/5495 長編
★タイトル (PRN     )  97/ 8/ 3  17:56  ( 78)
Jの悲劇(2/2)      叙 朱
★内容

    Jの悲劇       ジョッシュ

「オレはアイツの首をアイツのネクタイで締めて殺した。あんな小男は、両手両
足が自由になりさえすれば、オレの相手じゃあない。簡単だったよ。でも、念の
ために入り口や窓などは全部、鍵をかけたんだ。邪魔されたくなかったからね。」
「だけど、悲鳴を聞いてぼくが駆け込んだときにも、内側からチェンが掛かって
ましたよ。もし、松田さんが犯人だというなら、高村を殺したあとで、一体どう
やって、鍵をかけたままの部屋から外に出たんですか? あのチェンは、ストッ
パ付きですから、外からかけ直すことは不可能ですよ」
 高村は、部屋で仰向けになって死んでいた。ぼくは、入り口のドアチェンを壊
さないと中へ入れなかった。どう考えても、自殺としか思えないのだけれども。
「アイツがぴくぴくと息絶えたときに、オマエの間抜け声がドアの向こうから聞
こえてきたんだ。最初は、遠慮がちな声だったな。そして、だんだんと大きくな
った」
「はい、中から返事がないので、逃げられたかと思って、慌てました」
「そして、オマエはドアチェンの掛かったドアを蹴破り、勢い余って入り口近く
の食卓を蹴飛ばして、スパゲッティ・ミートソースをそこら一面にまき散らした」
「ああ、見られちゃった」
「まったく、情けない。その上、起きあがろうとして、壁のスイッチに触れてし
まい、部屋の電気を消してしまった」
「はい、真っ暗になったもので、なお、動転しました」
「ところが、なにを血迷ったか、そのままゴキブリみたいに這い進んでいって、
倒れていたアイツにぶち当たった」
「暗かったのに、よく見えましたね」
「ここら辺りは、物音からの想像だよ。オレは、間抜けな刑事が床を這っている
間に、入り口から出たのさ」
「あれえ、それじゃあ、高村は自殺じゃなかったんですか。こりゃ参ったな。も
う、自殺という報告書を出してきたんですよ」
「そうだな、現場は、間抜けな刑事ががまき散らしたスパゲッティーでぐちゃぐ
ちゃ、おまけに指紋もべたべただ。今さら、他殺とは言い出しにくいだろ」
「ひどいですよ、松田さん。中にいたのなら、そう言ってくれなくっちゃ。どう
しよう。また課長から大目玉ですよ」
「いいんだよ。報告書を作り直す必要はないさ。アイツが死んでいたのは本当な
んだから、そっちの殺人事件はそれでけりが付くだろう。それで、相談なんだけ
どな」
 松田さんは、そこでまた、くすくす笑った。
「オレは、アイツをゴミダメ荘まで追ってきたんだが、どの部屋かまでは、定か
じゃなかったんだ」
「はあ?」
「電車の中で、オレはアイツの顔を見ていない。小男で、アイツの頭のてっぺん
しか見えなかった」
「え? それじゃ、高村が痴漢かどうかの確信はないんですか?」
「オレが見たのは、アイツの頭のてっぺんのジェイの形のハゲだ」
「ジェイ?」
「アルファベットのジェイ、Jだよ。それで、手当たり次第にゴミダメ荘の個別
訪問をして、出てきたそれらしい小男を殺した」
「えーっ、それじゃ、殺したのは高村ひとりじゃないんですか?」
「全部で16人だ。絞め殺してから、頭のハゲを確認したんだ」
「それで、ジェイ(J)がいたんですか」
「ああ、16人目のアイツ、高村と言ったか、アイツのハゲがジェイ(J)だっ
た」
 ふーっ、溜息が出る。と同時に、松田さんが電話をかけてきた理由を、やっと
想像できた。でも、念のために聞く。
「あと15人の男たちも同じように、部屋の中に倒れているわけですね」
「そうだ」
「その15人も、それぞれの密室の中で、自殺させたいというわけですか?」
「うん、まあそうだ。しかし、ひとつずつ密室にして、いちいち、オマエがドア
を蹴破るというのも時間が掛かる。」
「はい。それに、そんなにあちこちドアを蹴り破ったら、ゴミダメ荘の他の住人
に気づかれてしまいますよ」
「そこで、オレに考えがある。例えばまとめて集団で自殺したとかな。その中に
現職の刑事がひとり混じっていたりすると、ぐっと信憑性が増す。そうだろ」
「は、はい」現職の刑事? 頭を一瞬だけ大きな?マークが駆け抜ける。でも速
すぎて、どこへ行ったか分からない。マツダさんが急に優しい声になった。
「ところでオマエはひとりか?」
「はい、もう寝るところでした」
「そうか、よし15分くらいで着くと思うから」
 松田さんの電話が素っ気なく切れた。
「は、はい」
 切れた電話に向かって、うなずく。あの憧れの松田さんが、この部屋にやって
くる。ひょっとしたら泊まるつもりかも。気持ちがうわずる。もう頭からは、1
6人の死人のことはすっかり消し飛んでいる。
「ショーツに手がかかって...」
 突然、先ほどの会話がよみがえる。うーっ、頭のヒューズが飛びそうだ。
 急いで、歯磨きしようっと。

(了)




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