AWC そばにいるだけで 13−7   寺嶋公香


        
#4018/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 7/28   6:17  (200)
そばにいるだけで 13−7   寺嶋公香
★内容
「クイーンは、前田さんが持っていてね。それで、こっちのキングは」
 純子はスペードのキングを手に取ると、裏返して、手元のカードの山の一番
上に載せる。
「占いの手順だけど……最初に、前田さんはこの山を好きなだけ切ったら、床
に置いて、そのクイーンを一番上に載せる。それからこうやって」
 説明をしながら、純子は空のトランプケースを手にし、カードの山に載せた。
「私がケースを載せるから、そのあと、二人の年齢の合計だけ、秒数を数える
の。立島君は十三歳で、前田さんは……?」
「十二よ、まだ」
「じゃ、合わせて二十五秒。前田さんが口に出して数えてね」
「いいわ。それから?」
 尋ねられるのを待っていた純子は、ケースの縦を人差し指と親指とでつまみ
上げ、すぐさま絨毯の上に降ろす。
「ケースをどけて、もう一回、今度は私が切るわ。それを、前田さんは好きな
ところでストップをかけてね」
「うん。どうでもいいけど、ややこしい占いね」
 苦笑する前田に対し、純子は表情を引き締めた。
「もうすぐだから。−−そのあと、カードを順に見ていって、クイーンとキン
グの間にどれだけ余分なカードがあるか、調べるのよ。その枚数が、二人の仲
を表す。多いほど離れていて、少なかったら近い。で、約束してほしいの」
「なあに?」
「立島君とちゃんと話をするのを何日後にするか、この占いで決めるのよ。ク
イーンとキングの間の枚数を日にちと見て。三枚あれば、三日後。もしクイー
ンとキングが隣り合っていたら、今日中にかけること」
「うふふ、分かったわ。面白いこと言うわねえ。それじゃあ、最悪の場合……
ジョーカー二枚も入っているから、五十二日も開けなくちゃならないわね」
「そんな結果は、出ない方がいいでしょ?」
「……まあね。じゃ、始めましょう」
 前田はハートのクイーンを横に置くと、床からカードの山を取り、切り始め
た。しなやかな指が器用に動く。たまに、長い爪が引っかかるようだが、なか
なか手際よい。
「どんな切り方でもいい?」
「ええ、いいわよ。占いの神様も、怒らないでしょ」
 冗談めかして純子が言うと、前田は手元のカードを二組に分け、左右の手に
持ち、交互に落としていく切り方−−リフルシャッフルを始めた。
「−−よっ、と。うまく行ったわ」
 リフルシャッフル後、また数度、一般的な切り方−−ヒンズーシャッフルを
してから、床に置いた。そのてっぺんに、ハートのクイーンを裏向きに載せる。
 純子は先ほどしたようにケースをつまみ上げ、慎重かつ手早く、カードの山
の上に置いた。
「さ、数えて」
「え、ええ。始めるわよ」
 さすがに神妙な声になってから、数え始めた前田。
 実際の一秒よりも、ほんの少し、長いだろうか。二十五を数え終わると同時
に、純子はケースだけを取り除いてから、改めてカードの山を持った。
「切るから、好きなところで止めていいよ」
「分かってる」
 前田に断ってから、ゆっくり、切り始める。十回ほどヒンズーシャッフルを
したところで、前田の口から「ストップ」という言葉が出た。
 純子は再度、カードを絨毯に置き、それを指差しながら聞いた。
「ここでいいのね? 運命を変えるんなら、まだチャンスあるわ」
「……いいわよ。そのままにしておいて」
「そう。じゃ、前田さん、カードを上から、一枚ずつめくっていきましょ」
「私がめくるの?」
「もちろん。自分のことを占うんだから」
 純子は笑みを見せて、前田をうながした。
 少し間を取る前田。喉が、ごくりと動いたように見えた。
 そして右手を伸ばし、指先を一枚目に乗せる。
「……」
 息を詰めるようにしてめくった一枚目は、スペードの三だった。
「−−はあっ」
 前田が大きく深呼吸をしていた。
 それからもめくっていき、ついにスペードのキングが現れた。十一枚目だ。
「立島君のカードが、先に現れたわね」
 前田に一旦、手の動きを止めさせ、純子は相手の顔を覗き込むようにする。
「あとは、前田さんのカード、ハートのクイーンがどこにあるか」
「早くめくらせて。しんどくなってきた」
 前田はかなり早口になっている。
 うなずく純子。
 再び深呼吸をした前田は、次のカードをめくる瞬間、目を閉じていた。
 そしてカードの表を向けると同時に、見開く。
「……あ!」
 現れた結果に、前田は膝立ちして、両手で口を覆った。
 そう、ハートのクイーンが姿を見せた。隣には、スペードのキング……。
「凄い! よかったね、前田さん」
「え、ええ……よ、よかった。信じられない……」
 前田は、まだトランプを見つめている。
 純子が両手を差し出すと、やっと気付いたように、握り返してきた。
「さ、約束。電話でも何でもいいから、立島君に今すぐ連絡を取ろうよ。ね?」
「うんっ」
 強がりでない、本当の明るさを取り戻した返事。
「立島君、家にいるかな? やっぱり、直接会わないと、気が済まない」
「いると思うわ。ほら、頑張って」
「ええ。−−ありがと、涼原さん」
 立ち上がってうろうろしていた前田は、思い出したように礼を言った。
「やだぁ。私なんかに言っても意味ないってば。占いで出たんだから」
「そ、そうよね」
「じゃあ、私、帰るから。絶対に、立島君と仲直りしてね、前田さん」
 トランプを片付け終わり、立ち上がった純子の手を、前田は強く握った。
「うん。絶対に、する」

 純子は家に真っ直ぐには戻らず、公園に立ち寄った。
 そこには、ブランコに腰掛ける相羽の姿があった。退屈そうに、足をぶらぶ
らさせている。ために、ブランコ自体もゆるく前後に揺れていた。
「相羽君!」
 嬉しさのあまり、大声でその名を呼びながら、駆け寄った。
「あ、涼原さん。……その様子じゃ、成功したんだ?」
「もっちろん! あんなにうまく行くなんて、思わなかった」
 腰を上げた相羽の手を取り、上下に振る。
「あの手品がこんな風に役立つなんて、僕も思ってなかったんだけどね」
 照れ笑いめいたものを浮かべると、相羽は手を柔らかに振りほどき、ブラン
コに座り直した。
 相羽の前を通って、右横のブランコに純子も腰掛ける。
「教えてもらった通りにやったら、前田さん、占いだって最後まで信じてくれ
たわ。手品だってばればれだと、私は思ってたんだけど」
「見せ方の問題さ。沖縄のときみたいにやれば、手品になる。涼原さんに教え
たやり方だと、占い。いんちき占いだけどね」
 肩をすぼめ、苦笑する相羽。
 やり方は至って簡単だった。沖縄で見せてもらった最後の手品を解こうと必
死になっていた純子も、馬鹿らしくなるほど。
(カードの山にケースを載せるとき、ケースの底に隠した一枚も置くだけなん
て……分かってみたら、ほんと、がっくり来るわねえ)
 つまり、前田の前で披露した場合で言うと、占いの手順を説明する際、カー
ドの山のてっぺんに置いたスペードのキングを、ケースを取り去るときに一緒
に持っていったのだ。そして、前田がハートのクイーンを置いたあと、ケース
を載せる動作を隠れ蓑に、スペードのキングを再び置いた。それだけだ。
 あとは、純子が、キングとハートが離れてしまわないよう、丁寧にヒンズー
シャッフルをすれば、どんなにトランプを切ろうと、二枚のカードは重なった
ままになる。
「それよりさ、立島君が打ち明けた相手が、あなたでよかったわね。凄い偶然」
「完全な偶然てわけでもないよ。言ったろ。白沼さんから誕生日の贈り物をも
らった者同士ってことで、立島から相談してきたんだ」
 前日、純子の家を訪れた相羽は、前田と立島がすれ違いになっていることを
知っていた。立島から聞かされたのだ。
 立島としては、「おまえも白沼さんからいきなり、誕生日プレゼントもらっ
ただろう? もらった物をどうしたのか教えてほしい」という気持ちからの行
為だったらしい。
 話を聞く内に、立島は白沼からプレゼントをもらえたことを喜んでいるが、
だからといって、あっさり前田から心を移したのではないと分かった。
「同じ男の僕が言うのも変だけど……立島のやつ、あからさまなんだ。前田さ
んが来るって分かってたら、他には誰も来させずに待っていたのにって。えら
い悔しがりよう」
 物真似を交えた相羽の言い方に、純子は笑えた。
 ……そうして、立島が前田と元の状態になりたいと願っていると分かった相
羽は−−頼まれたわけでもないのに−−、少しでも力になろうと考えた。
 でも、自分一人ではどうしようもない。少なくとも、前田の気持ちを知らな
いとうかつな行動には出られない。
「前田さんに直接聞くのは無茶だから、前田さんの友達で、僕もよく知ってい
る女子……って考えたら、涼原さんが思い浮かんで」
 相羽と純子が話を付き合わせた結果、立島と前田双方の気持ちが確かめられ
たので、早速、相羽は解決のための案を示した次第。それが、占いもどきのカ
ード手品だった。
「これじゃあ、白沼さんが目を着けたのが、あなた達二人だったという偶然に
感謝しなきゃね」
 おかしくて、笑ってしまう。
(変なの! 元はと言えば、白沼さんのせいで二人の仲が悪くなったのに、仲
直りのきっかけも、そもそもは白沼さんにあったなんて)
「ところで、どうして私にやらせたのよ? 手品だったら、あなたの方が、よ
っぽどうまくやれるのに」
 軽く漕いでいたブランコを止め、相羽の方を向く純子。
 今度は相羽の方が漕ぎ始めた。
「僕がやったら、占いだと言ったって、信じてもらえないよ。それに、男子よ
り女子でしょ、こういう場合」
「……言えてる」
 また前を向いて、純子もゆらゆら、漕いでみる。
「だけどなあ……ちょっぴり、罪悪感あるのよね。嘘を言ったことになるのが。
本当の占いじゃなかったんだから」
「嘘じゃない」
 意外にきっぱりと、相羽が言い切った。
「占いは嘘だったけど、立島と前田さんの仲に、誰も割り込めないっていうの
は本当だろ?」
「それもそうよね、うん」
「それまでに、両方の気持ちも確かめたんだしさ。確かめないまま、こんなこ
とやったら、やばくなる場合もあるだろうけど。成功したんだったら、いいん
じゃないか?」
「−−あら。成功したかどうか、まだ分からないわよ」
 脅かすように言って、純子はブランコの上に立った。そして、今度は勢いよ
く漕ぎ始める。
「まさか」
「さあ、どうかしらね? 好きとか嫌いとかって、私には全然分かりませーん。
明日辺り、聞いてみないと。あはは」
「……こうまでして、仲直りしてなかったら、面倒見切れないや」
「ふふふ。ほんと、そうね。だいたいさ、前田さんも立島君も、お互いのこと
を分かってるはずなのよ。それなのに、こんな、人に迷惑かけて」
 純子の言葉に、何故か肩をすくめた相羽。彼も立って、漕ぎ始めた。
「ちょっと。二人揃って漕いでたら、子供っぽく見えるじゃないの」
「子供のくせして」
「そ、そうだけど、目立つし。私、やーめた。−−えいっ」
 タイミングを計って、飛び降りる。ぴたりと着地も決まった。
 嬉しくなって振り返ると、相羽が気疲れしたように、ブランコに揺られるま
まにしていた。
「−−どう? 見た見た? 決まってたでしょ」
「危ないなあ。どっちが子供だか。それに……スカートなんだから」
「えへへ。大丈夫、キュロットだもんね」
 調子に乗って、セーラールックのキュロットスカートの端をつまんで、めく
って見せた。
 途端に相羽が目線を逸らしたので、純子の内でも恥ずかしさがこみ上げる。
(私ったら、何やってんだろ!)
 慌ててスカートを戻し、しわを直そうと両手をあてがう。
「と、とにかく」
 相羽もブランコから降りていた。
「怪我だけはしないようにしてくれ、頼むから」
「え? −−ああ、そうよね。顔や腕に怪我の跡が残ったら、相羽君のお母さ
んに、迷惑かかるかもしれないもんね」
 純子は、まだ残る恥ずかしさを隠そうと、意味もなく笑ってしまう。
 と、相羽は小さく頭を振った。
「そうじゃないのに」
 純子には聞こえないほどの声量で、こうつぶやきながら。

−−『そばにいるだけで 13』おわり




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