AWC そばにいるだけで 12−5   寺嶋公香


        
#4007/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 7/28   5:50  (200)
そばにいるだけで 12−5   寺嶋公香
★内容

 中学生になってから約三ヶ月。
 できればない方がありがたいイベントが、近付きつつあった。そう、期末試
験である。
 中間のときと同様、町田の家に集まって、勉強しようという話が以前からま
とまっていたが、今日はその第一回目。二回目以降の日が持てるかどうかは、
全く分からない。
「暑い」
 クーラーの効いている部屋で、純子はのたまった。
「ごめんねー、カーテン、クリーニングに出しちゃってさ」
 あはあはと、途切れがちな笑い声とともに、町田が謝ったのはこれで三度目。
「別に文句言ってるんじゃないから……」
「そうそう。じゃんけんに弱い純ちゃんの責任」
 富井が手を止め、シャープペンシルで純子を指し示す。
 時間帯と部屋の構造上、カーテンがないと、直射日光を浴びてしまう席が一
人分だけできてしまう。誰がそこに座るかを決定するために、じゃんけんをし
たわけだ。
「手拭い、貸そうか」
「お願いします……」
 うなじを両手でかばいながら、机に突っ伏す純子。こういうとき、長い髪は、
最初は断熱材の役目を果たしても、徐々に熱を持ち、鬱陶しくなってくる。
 戻って来た町田は、手拭いの他に、お盆を両手で持っていた。
「はい、どいたどいた。机の上、場所を作ってね」
 テーブルに置かれたお盆には、背の高いグラスに入ったジュースと、プラス
チック製のざるに盛られたスナック菓子二種類。
「おやつだよ。ありがたく召し上がれ」
「わあい」
「いただきまーす」
 先を争うように、手を伸ばす。
 グラスの表面に浮いた水滴が涼しげで、見ているだけでも心地よくなりそう。
(冷たくて、気持ちいい)
 ストローに口を着けることなく、しばし、グラスを額に当てる純子。目を瞑
っているので、他の三人の様子が分からないが、かまうものか。
「純子、大丈夫?」
 井口がやや不明瞭な声音で問う。何故、不明瞭なのかは、お菓子を頬張って
いたため。
「んー? 平気よ。日光浴してるみたいで、眠たくなったから、頭、すっきり
させようと思って」
「席、代わろうか」
「問題ない。この場所、クーラーのありがたみが、よおく分かるわ」
 強がって答えてから、初めて一口、ジュースを飲む。
「日光浴で思い出したけど、純ちゃん、六月の最初の方辺り、どこか遊びに行
ったのぉ? 少し、日焼け、きつかったみたいだったよ」
「え、ああ、あれ」
 意外なことを富井が記憶していたとの思いから、多少の戸惑いが。
「ちょっとね」
 説明のしようも嘘の言い訳もできないから、笑ってごまかすしかない。巧み
に−−と言うほどではなく、ストレートに話題の転換を図る。
「ね、夏休みになったら、みんなでどこか行かない?」
「それ、いいけど。親がねえ」
「そうなのよね。私らだけで出かけるなんて、許してくれないよ」
「あんた達、そういう先の話は、目の前の試験を乗り切ってからにしてよね」
 町田の一言で、あっさりけりが付きそう。
 でも、富井が食い下がる。
「固いこと言いっこなしだよぉ、芙美ちゃん。折角、休憩してるんだし」
「気持ちは分かるけどね。私は心配性なもんですから、テストが気になって、
遊びの相談に乗り切れないよ」
「じゃあさ、聞いてるだけでいいから」
 富井のあっけらかんとした言い様に、町田も折れた。
「行くところったって、どうせ、ゴールデンウィークのときみたいに、映画ぐ
らいが関の山でしょうが」
「そんな、夢のない……」
 富井と井口が、非難がましい視線で、揃って町田を見つめ返す。
「現実的な話をしたくもなるわよ」
「そうだけどー」
 このままでは果てしなく言い争いそう。そんな予感から、暑さから復帰した
純子は割って入る。
「できる限りのこと、何か考えよ? そう、たとえば……夏のお祭りがあるじ
ゃない。あれだったら、私達だけでも許可をもらえるはず」
「映画と変わらないと思うなあ」
 町田はあくまで悲観的。早くも空にしたグラスを振ると、氷で音を立てた。
「映画行ったとき、唐沢君が来てたんだって?」
 ふと思い出した風に、井口。
 映画を観に行った際、唐沢が来ていたことを気付いたのは、論争の輪から外
れていた純子だけだったのだ。
「うん。デートしてた。三対一でね」
 何故だか、苦笑いを浮かべてしまう。
(唐沢君て、ほんと、よくやるわ。呆れると言うか感心すると言うか)
「いいなあ。何か、悔しい」
 純子の言を受けて、富井が両肘を突き、さも不平そうに頬を膨らませる。
「中学生になったんだから、そういうこともやってみたいよね」
「そういうことって?」
 聞き返した純子に、富井は「やだあ、純ちゃん」とだけ言って、肩をぶって
きた。
 こぼれそうになったジュースに慌てながらも、純子が首を傾げると、代わっ
て井口が答える。
「デートよ、デート」
「デート……って、唐沢君としたいの? だったら、いつでも相手してくれそ
うな雰囲気あるけど」
「本命は相羽君だよ。ねーっ?」
 井口と富井、二人して両手を合わせる。
「だけど、今、いきなりは難しそうだから、その前に、ちょっとね。気分だけ
でも味わいたいじゃないの」
「気分ね」
 呆れるやら感心するやら、何と返事していいのか分からなくなる。
「何となく、読めた」
 町田が唐突に、悟りを得たように言った。腕組みをして、やたらとうなずい
ている。
「郁江、久仁香。あんた達、グループ交際とか、考えてるな?」
「そう! そういうこと!」
「すごーい。どうして分かったのぉ、芙美ちゃん?」
 はしゃぐ二人に、片手で頭を抱える町田。
 その三人を見て、きょとんとする純子。
(え? え? 一体、何のこと? どうして、グループ交際なんて言葉が出て
来るのよっ)
 よほど口に出そうかと考えたが、それより早く、町田が答えた。
「唐沢君に頼むんでしょ。自分達の方はこれだけ人数いるから、そっちも人数
合うように揃えて、なんて。で、その中に相羽君が入っていたら、万歳ってと
ころかしら」
「うんうん」
「よく思い付くわ……」
 自分も、グループ交際という考え方に思い当たった一人であることを棚上げ
にし、町田はため息をついた。
 そして、打ち切りの言葉を冷静に。
「さ、その話は後回しにして、現実に戻りませんかね、そろそろ」

 定期試験の日程が終了すると、すぐに委員会をやるのが伝統らしい。
 と言っても、中間試験直後と違って、今回は一学期間の活動を振り返って、
簡単な報告と反省をするだけなので、さほど時間はかからない。
「夏休みに入っても、図書室を開ける日があるから、暇な人は来てくれたら嬉
しいわね」
 最後のしめくくりに、小山田先生がにこやかに言った。
「暇な人なんて、いませーん!」
 そんな声が飛んで、笑いが起きる中、図書委員会は散会。
(ほんと。あんな言い方しちゃ、誰も来なくなるかもしれないのにね)
 先生の人の好い笑顔を思い浮かべながら、純子は家庭科室へと急いで向かう。
 各クラブも、今日を、今学期最後の活動日に当てているところが多い。調理
部もその一つ。
「急げ、急げ」
 小声で口にしながら、特別教室の揃う棟の階段を駆け上がる。
(委員会がいくら早く終わったからって、部活はもっと早く終わるかもしれな
いもんね)
 別に、終わるまでに家庭科室に到着しておく義務はない。ただ、試験が終わ
って開放感いっぱいの今日は、みんなと一緒ににぎやかに帰りたい。そんな気
持ちが強くあるから、遅れるのは嫌だ。待たされる方が、よほどいい。
「−−間に合った」
 階段を昇りきり、廊下へ顔を覗かせると、家庭科室の方から椅子を引く音が。
ちょうど終わったところのよう。
 教室の前まで行って待っていると、二、三年生の人達が先に出て来たので、
黙礼する。しょっちゅう通っているから、顔も名前も覚えられてしまった。
「あ、純ちゃん、早い」
 ようやく富井達が出て来ると、ほっとする。壁から離れ、駆け寄った。
「そっちこそ、意外と時間、かかってたんだ?」
「うん。引き継ぎがあったからねぇ」
「引き継ぎ?」
 軽く首を傾げた純子に、町田が説明する。
「代替わりよ。三年生は一応、夏までだからね」
「ああ、そっか。でも、一年には関係ないでしょ」
「まあね。私らの代では、彼に部長をやってもらおうか、なんて相談してたぐ
らいで」
 と、肩越しに親指で示す町田。
 純子達女性陣の後ろで、相羽はどことなく居心地悪そうに、ゆっくりした歩
調で着いて来ていた。その表情から察するに、将来の部長にと推されているな
んて、思いも寄らないに違いない。
「相羽君を部長に? 無茶苦茶ねえ」
「そうかな。どんどんうまくなってるし、女子に人気あるから、新入部員、期
待できる」
「何と……」
 呆れて物も言えない。
 と、純子は思い出した。
「だめよ。部長にしちゃだめっ」
「ん? いきなり、何を」
 声を大きくした純子に、町田ばかりでなく、富井や井口も反応する。
「別にいいじゃないのぉ」
「純子は、男子が調理部の部長なんて、格好よくないとか思ってるわけ?」
「そ、そうじゃないけれど」
 口ごもる。そして、横目で相羽の様子を探ろうとするが、はっきりとは分か
らなかった。
(はっきり、聞いた方がいいかしら? 『将来の部長にされかかってるけど、
他の部に入るんだったら無理でしょ』って)
 そう。純子は、相羽が掛け持ちするかもしれないと言っていたのを、思い出
したのだ。
「純が心配することじゃないわよ」
 町田が、鞄を持ったまま、両手を頭の後ろで組んだ。
「役職を決めるのは、基本的に先輩なんだから。私らがどうこう言える立場じ
ゃない」
「あ、そうなの。それなら」
 ひとまず安心。
 そこへ、やっとというか何というか、相羽が口を挟んできた。
「さっきから、何をこそこそ話してるの」
「ううん。何でもない」
 井口が笑って両手を振って、ごまかす。
「それより相羽君、今日は勝馬君達と約束してないの? のんびりしてるって
ことは」
「ん、まあ、してない。時間、どれぐらいかかるか分からなかったし、立島や
唐沢も部活だから」
「予定を合わせるのも大変ね。しばらくしたら、生徒会があるでしょ?」
「そうなんだよな。大変と言うほどじゃないんだけど……」
「ひとりぼっちで、寂しいでしょお? 今日は一緒に帰ってあげるね」
 こう言ったのは富井。本心では、自分の方が一緒に帰りたくてたまらないに
違いないのだが。
「それが……本屋に寄りたいんだ」
 言って、何故か純子の方を見る相羽。
「それぐらい、付き合うよー」
 富井も井口も、あからさまに引き留めにかかる。
「私も買いたい本、あるんだ」
 町田が言ったけれど、これは引き留め策なのかどうか、分からない。
「涼原さんは?」

−−つづく




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