AWC  岩手旅行記(五)      [竹木貝石]


        
#3992/5495 長編
★タイトル (GSC     )  97/ 7/ 4   9:22  (168)
 岩手旅行記(五)      [竹木貝石]
★内容

   7 脅威の博物館

 話には聞いていたが、これほどまでに素晴らしいコレクションとは知らなかった。
 枝葉のことは割愛して、珍しい多数の博物につき説明したいと思うが、なにしろ一
度だけの触察と記憶にはおよそ限界がある。

 博物館と言っても、自宅の敷地に建て増ししたプレハブの二部屋と、居室の一部屋
を当てているに過ぎず、棚には動物の剥製がびっしり並べてあり、狭い通路に全盲者
を含む23人が入ると、満員で動きが取れない。
 さくさんはそれを物ともせずに、次から次へと大小のコレクションを引っぱり出し
ては説明を続ける。温厚な人柄で控えめな彼が、この時ばかりは雄弁になり、その生
き生きとした様子は、正に「この道一筋」という感じがする。
 二つの班に分け、一方はさくさんが、もう一方の班は奥さんが説明したが、本当は
両方とも彼自身で解説しないと気が済まないらしい。しかし、彼も偉いし奥さんも偉
い!

 鮫:まず度肝を抜かれたのは3匹の鮫の剥製だ。丸太ん棒のような体は人間よりも
大きく、無論鰭もあるし鋭い歯も並んでいる。こんなのに襲われたら人間など一溜ま
りもあるまい。中にシュモク鮫というのが居て、なるほど両側のハンマーのような出
っ張りの部分に目が付いている。
 ノコギリ鮫の鋸:これはまた何としたことか! 鉄で作った模造品かと思われるほ
ど頑丈で重たく、その手触りも固くて美しい。例えて言うなら、大きな魚の背骨のよ
うな形になっていて、太い棒を中心に、左右へ水平に無数の鋭い突起が並んで出てい
る。全体の長さは1メートル・幅が20センチ・重さが10キロくらいはあったと思
う。これなら武器としても十分使えそうだ。
 カジキマグロ:これも有名な魚らしいが、私は初めて見た。魚自身の大きさはどの
くらいだったか忘れたが、なにせその口吻(上唇)が刃物のように伸びていて、80
センチの長さはあったと思う。もし海中を泳いで来るカジキマグロにぶつかったら、
たちどころに刺し殺されてしまうだろう。
 水牛の角:両手を広げたよりも大きな角が前頭骨から伸びていて、こんな重たい物
を頭に乗せて、はたして歩けるだろうかと心配になる。
 オサ亀:長亀と書くのかどうか、世界一大きな亀で、ここに在るのは小さい方だと
言うが、人間よりも大きな剥製が壁際に立てかけてあった。
 コブラとマングース:蛇の仲間で世界一の猛毒を持つコブラ、そんなコブラにも、
マングースという天敵が居る。ネズミくらいの小さなマングースを、今まさにコブラ
が絞め上げようとしている所、剥製になっていても恐ろしい!
 各種動物の剥製:おっとせい・あざらし・むささび・孔雀・ミンク・もぐら・狸・
子牛・狼・アルマジロ・ペンギン・テン……。ただ単に列記するだけでも膨大な数で
ある。

 隣の部屋に移動すると、ここにまず、太陽系の縮尺の模型が作ってあって、地球の
大きさが小豆粒くらい、水星が仁丹の大きさ、木星や土星はハンドボールほどの大き
さがあるのには驚いた。そして太陽は、運動会の『大玉転がし』に使うあの大玉より
もでかい。頭の中で分かっていても、実際に手で触ってみると、また新たな認識が湧
くものだ。
 鯨の骨格模型:模型と書いたが、本物の骨格である。髭鯨の髭・腰椎・第一頚椎・
第二頚椎・椎間板・上腕骨・前腕骨……。我々は理療科が本職なので、解剖学を学ば
ねばならないが、特にさくさんは比較解剖学に詳しい。部屋の入口近く、鯨のペニス
が立ててあり、人の腕よりも太く、1メーター半の長さはあった。これでも安静時の
状態だそうだ。
 海に住む生き物:マンボー・トラフグ・ハリセンボン・タカアシガニ・大シャコ貝
……。

 第三の部屋に入って、ジュースなどご馳走になりながら、さらに珍しい品々を見せ
てもらった。
 アンモナイトの化石:直径20センチもある大きなのと、やや小ぶりだが、円い石
の中につつましく納まった化石を見せてもらった。後者のは三分解になっていて、貝
の渦巻状の模様が見事に浮き出していた。
「これはね、ヒマラヤで見つかった化石なんだよ。ということは、昔はヒマラヤが海
の底だったと言うことさ!」
 と、さくさんが説明してくれる。
 私好みの品々:大瓢箪・長瓢箪・夕顔・駝鳥の卵・自在鈎・脱穀機……。大きさも
手触りも重量感も抜群と言うしかない。
 各種レプリカ:姫路城(白鷺城)・名古屋城の金の鯱・ピラミッド・前方後円墳・
スフィンクス・モアイ象・馬踏飛燕……。カーネギー博物館とか言っていたが、なる
べく本物通りの縮尺に製作してあるそうだ。
「こういうのを全盲の人たちに触らせても、ほとんど誰にもわかんないんだよなあ!
いかに我々の知識が耳学問かと言うことさ。」
 と、さくさんは言うのであった。


   8 民族楽器

 帰りの時間がきて、三々五々皆が去ってしまうと、後にはさくさんと私たちの両夫
婦だけが残った。
 いよいよこれからが私の嬉しい時間となる。と言うのは、様々な民族楽器を見せて
もらえるからだ。先ほど帰って行ったメンバーは邦楽の名手揃いだから、当然楽器類
にも興味があり、熱心にあれこれ調べていたが、まだ他にも色々在るらしい。
「楽器なんかより、もっと見せたい物がいくらも在るんだよ!」
 と言うさくさんに、
「いやまあ、そう言わずに…」
 と無理遣り頼んで、奥の方から面白い数々の民族楽器を取り出してもらう。
 以前の経験で、外国の名前は絶対に覚えられないことがわかっているから、妻に楽
器の名称と原産の国名だけはメモしてもらった。
 ところが、それを今読み返してみても、どんな形でどんな材料を使っていたのか、
すんなりと思い出すことが出来ない。それに、楽器の音色や演奏法を分かりやすく文
章に書くことは至難の業であるから、ここが旅行中の最も重要な場面でありながら、
詳細を省かざるを得ないこととなった。

  打楽器類
 ネパールのつづみ
 ダムラー:インドのでんでん太鼓
 ハテリ:インドのガラガラ
 あまぼう(雨棒):南米の楽器、サボテンの種を木製の筒の中に封入してあり、砂
時計の要領で、筒を一方へ傾けると雨音のような涼しい響きが50秒間も聞こえる。
 ラカタク:ギニア、瓢箪の皮を10枚使ってある。
 カスカド:ギニアのコラの実、コラの実というのは、山羊の首に付けるベルを少し
扁平につぶしたような形で、これが50個くらい紐でつないであって、振り回すと、
「カラカラカラカラ」と、何とも言えず素朴な音を立てる。
 チャスチャス:インドの山羊の爪、山羊の成長とともに抜け落ちるらしく、その爪
を百個ばかり紐でつないであり、これまた「シャラシャラシャラシャラ」と爽やかな
音を発する。
 瓢箪マラカス:ギニア
 チベッタンベル:チベット、分厚い金属製のやや大き目のベルが二つ、それを紐で
ぶら下げてシンバルのように鳴らす。
 バラフォン:西アフリカの木琴、裏側(木の下側)に取り付けた瓢箪が共鳴箱の作
用をし、竹の枠にも情緒がある。音階は日本の陽旋法に似ているが、微妙にずれてい
て、これが甚だ素朴だ。
 スティールドラム:中米、本体は半球形に近い金属製のボウルで、このボウルを仰
向けにすると、内壁の8箇所に膨らみ(鈍い山形)が付けてある。各山形の中心部を
スティックで叩くと、ドレミファの音になっていて、なお驚くことには、時計と反対
廻りで、しかも一つ飛びに、ド レ ミ ファ ソ ラ シ となっており、高音のドはド
ラムの中心部を叩くのである。音程が正しく調律されているから、製作者の技術はも
のすごいもので、また、それを巧みに演奏する人がいるのは驚嘆に値する。
 ペンカ:巨大ないんげん豆かササギの鞘のような形で、幅3センチ・長さは40〜
50センチもあり、マラカスのように振って音を出す。
 瓢箪ギロー:ペルー
 ボンバマラカス:プエルトリコのマラカの実
 クイカ:ブラジルの摩擦太鼓、摩擦太鼓とは私が勝手に付けた名前で、片面に皮を
張った太鼓であるが、叩くのではない。皮の裏側の中心部から細い棒が胴(太鼓の円
筒)の中に伸びている。タオルなどを水でぬらして、筒の中の細い棒を摩擦すると、
「ブー ブー ブー ブ ブ 」と奇妙な音が出る。
 シェケレ:ブラジル、大きな瓢箪の外側に紐でつないだビーズ(細かいガラス玉)
が被せてあり、これを振ると鋭く甲高い音がする。
 サヌカイト:有名な四国産の石、叩くと金属製の音がする。

  弦楽器類
 サーランギ:ネパールの弦楽器、四本の弦が張ってあり、材料の木も凝った作りも
味わい深いものだが、残念ながらうまく音を出すことは出来なかった。
 バラライカ:ロシア
 エクタール:インドの一弦楽器、ネジを絞めたりゆるめたりしながら演奏し、ある
いは、外枠の二本の棒を摘んで揺り動かすことによりビブラートを掛けることも出来
る。
 スワルマンダル:インドの古代ハープ
 チャランゴ:ペルーの弦楽器、小型マンドリンに似ており、楽器の胴がアルマジロ
の甲羅で作られ。弦は2本ずつ5組張られている。

  笛類
 サンポーニャ:中南米の葦笛、よく磨かれた葦[アシ)の茎を正しい調律に切りそ
ろえ、糸で二列に束ねてある。
 タルカ:中南米、木製の縦笛
 アンタラ:中南米、一列の葦笛
 プーンギ:コブラ使いの笛、瓢箪に三本の笛を取り付けた形で、一定の高さの音を
延々と鳴らしつつ、他の笛は指穴を開閉して和音を奏でる。息を一度も吸わずに、長
時間音を連続させて吹くのだという。ひちりきのような音色である。
 ケーナ:アンデスの笛
 ディジュリドゥ:オーストラリアのアボリジニー地方の笛、ユーカリの根
 モセーニョ:南米の横笛、二本笛になっている。
 ピンクージョ:南米の長い縦笛、サトウキビで作られ、1メーターもの長さがあっ
て、私たちはついに鳴らすことができなかった。

 ブーメランのような楕円形の金属板に紐を結んだ楽器が在ったので、
「これはどのようにして鳴らすの?」
 と聞いたら、さくさんが、
「ジャア、外へ行こう。」
 と言い、二人は玄関から表に出た。
 彼の振り回したブーメランが屋根のひさしにぶつかったので、
「これはまずいなあ。」
 と言って、さくさんが数歩前に出て、もう一度振り回したその途端、紐が切れてブ
ーメランが何処かへ飛んで行ってしまった。
 妻や奥さんも呼んで、暫くその付近を捜したが、深い植え込みの中にでも入ったも
のか、とうとう見つからなかった。五日後の今もなお見あたらないらしいが、よく考
えてみると、不幸中の幸いだった。今までにも何人かの人があの楽器に挑戦し、音の
出た人と出ない人が居たそうだが、偶然持ち主のさくさんが紛失させたからよかった
ものの、他の人だったら申し訳なく思うだろうし、それより何より、たまたま通りが
かりの人にでも当たったら大けがをさせたかも知れない。





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