AWC 【迷昧】12             悠歩


        
#3947/5495 長編
★タイトル (RAD     )  97/ 6/15  23:56  (110)
【迷昧】12             悠歩
★内容
 金を渡した後、高橋は元木に「煙草が切れたが、この辺で売っている場所が分
からない。買ってきてくれないか」と頼んだ。元木も煙草を吸っており、自分の
買い置きを出してよこしたが、その銘柄ではだめだと高橋は断る。ならば自分で
行けと言う元木に、あと七十万を払うのだからそれくらいのサービスはしてもい
いだろうと応える。確実に残りの金を受け取りたい元木は、渋々承知した。
 元木が、部屋を離れた隙をみて高橋はパソコンを起動させ、隠し持っていたフ
ロッピーディスクの中身をプリント・アウトした。それがあの遺書である。指紋
など、証拠になりそうなものを残さぬよう、注意を払い高橋は帰って来た元木と
しばらく今後の事を話し合って部屋を去った。
 それからすぐに、高橋の予想通り元木が警察に呼び出される。そうなるように
元木と静音の噂を広めたのだ。
 その日の夜中、元木へと電話を掛けた。高橋は残りの七十万円を払うと言って、
境川の橋の上に呼び出した。
 約束の場所に現れた元木は上機嫌だった。一度警察に呼び出されすぐに解放さ
れた事で、自分への疑いは晴れたと思ったのか、大量の酒を飲んでいたらしい。
元木に抵抗されないよう、睡眠薬を混入させたウイスキーを持参していた高橋だっ
たが、それを飲ませるまでもなかった。
 元木は金を渡すふりをして近づいた高橋が、ズボンのポケットに遺書の封筒を
押し込むのにも、全く気づかない有り様だった。
 そして高橋に突き落とされ、元木も溺死した。



 日曜日、晴れ渡った空もそろそろ薄暗く染まり始めた頃。
「ねえ、最後はこれに乗りましょう」
 そう言って、琴音が指し示したのは観覧車だった。
「うん、琴音ちゃんのご希望とあらば」
 あれから、琴音は何度も裕樹に謝った。
 もともとは、高橋への当て擦りのため裕樹との交際に応じたのだと言う。
 裕樹が琴音に好意を抱いている事を、最初に気づいたのは静音だったそうだ。
静音は琴音に裕樹との交際を勧めた。誰かとつき合えば、琴音にも手を出そうと
していた高橋もあきらめるだろうと考えたらしい。静音が高橋に夢中になってい
た事を知っていた琴音は、それに応じた。彼女自身、交際することで高橋から逃
れるなら相手は誰でも良かったかも知れない。と裕樹に言った。
 彼女たちの思惑に問題だったのは、裕樹がいつまでも告白を躊躇っていた事だっ
た。だからあの時、静音が裕樹の肩を押すための発言をしたのだった。
 それには裕樹もいい気はしない。はっきりと言えば不愉快だった。
 けれど何度も頭を下げ、いまでは本当に好きだと言ってくれた琴音を怒る事は
出来なかった。やはり裕樹も、本当に琴音が好きなのだから。
 それからの二人は、学校の中でも当たり前に話をするようになった。二人の仲
を隠すことはなくなった。
 堅くドアの閉じられたゴンドラは、ゆっくりと天へ登って行く。徐々に広がっ
て行く視界。現実から、不思議なとても特別な時間へと移行しているようだ。
「そう言えば、前に遊園地に来たときも、最後は観覧車に乗ったね」
「ええ、そうだったわね」
 琴音が微笑む。しかし裕樹にはそれがどこか不自然であるよう、思われた。
 一抹の不安。
 それは観覧車のゴンドラの中という、外とは隔離された特別な空間の持つ空気
なのか。それとも、ある時から裕樹の中でくすぶっていた、ささやかな、けれど
いつまで経っても消えぬ不安だったのか。
「明日、お父さんが帰ってくるんだって?」
「ええ………」
 言わない方が良かったのか、紅い陽光に染まった琴音の表情が翳って見える。
 父親の帰国は改めて姉の死を思い出さなければならない。
 それだけか? それだけだろうか?
「二年、振りよ。私を私と分かってくれるかしら」
 裕樹には、それが妙に意味深に聞こえた。
 この世でただ一人、静音と琴音を見分けられた人物の帰国。
「前に乗ったときは………」
 裕樹は話題を変える。ある意図を持って。
「琴音ちゃん、ずいぶん楽しそうだった」
「だって、裕樹くんと一緒なんだもの」
 本当に嬉しそうに笑った。
 それで裕樹は満足した。
 もう充分だ、事実がどうあれ。
 ふと思う。琴音が死んだ姉を、いつから「静姉」と呼ばなくなったのだろう。
 いつの間にか、ゴンドラは下降を始めていた。
 遠くなっていた現実の世界がまた、裕樹たちに近づいて来ていた。


                             終わり


                   【製 作】:   悠歩(RAD71224)
                   【協 力】: 永山智也(AZA40160)



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*後書き

 如何でしたでしょうか、私の初の推理物は?
 当初はもっと推理的な部分が多くなるはずだったのですが、結局サスペンス
 になってしまったような気もします。

 作品の最後に記したように、今回始めて推理物を書くあたり、永山さんに協
 力を頂きました。
 まず私の作った物語(あらすじ)の補足。実際当初の粗筋はもっとすっきり
 したもので、実に味気ない部分が多かったものです。
 そしてトリックの提供。これについては、かなり沢山のアイディアを頂いた
 のですが私の力足らずで使用する事が出来ませんでした。
 あらすじ、トリックとも作品化したものの数倍を用意してもらっていました。
 またこれだけに留まらず、執筆に入ってからも文章の推敲、果ては校正作業
 に至るまで協力、いえ全く永山さんに任せてしまう状況でした。
 また脱稿後、書き足し分と再度の全体チェック。
 作品の準備に取り掛かったのが、昨年の11月に入った頃でしたから半年以
 上に渡りご尽力を頂いた事になります。
 この作品、私の名前で発表させて頂きましたが、事実上、永山さんとの合作
 だと言っていいでしょう。
 この場を借りて、永山さんに深く感謝の意を表しお礼申しあげ、みなさんに
 もご報告させて頂きます。

 これだけ協力を頂きながら、作品として不充分ところは私の力不足。
 ただこの作品を書き上げた事で、いままで自分には向かないと思い躊躇って
 ジャンルへの足がかりを作る事が出来たようです。
 また何れ今度こそは、永山さんを、みなさんを、唸らせる作品を書き上げよ
 うと目論見つつ、後書きにかえさせて頂きます

                                悠歩





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