AWC 【OBORO】 =第2幕・会者定離=(10) 悠歩


        
#3921/5495 長編
★タイトル (RAD     )  97/ 6/13  23:17  (195)
【OBORO】 =第2幕・会者定離=(10) 悠歩
★内容



 見覚えのある場所。
 それは田邊のメモ書きの住所に、一番近い駅の前だった。そこは優一郎の街の
駅からは四つほど離れていたが、幸い何度か利用した事がある。住所を見て、真っ
先に思い浮かべる事が出来た。
「ここから先、分かるかい?」
 美鳥が問う。
「ちょっと待ってくれ、いま案内板で確認してくる」
 駅に上がる階段の前に、周辺地区の案内板がある。それで場所を確認するため、
優一郎が駆け出そうとする。
「待って下さい。ここからなら………感じます。真月と、大きな力を!」
 音風が優一郎を呼び止めて言った。
「よし、なら、あとひとっ跳びで行ける。お姉、優一郎、掴まって」
 急いで優一郎は美鳥の肩に触れる。と、同時に美鳥の輝く脚が大地を蹴った。
この夜五度目のジャンプ。しかし、一番時間の短いジャンプだった。
 次ぎに流れる風景が停止した時、優一郎たちは大きなマンションの入り口の前
に立っていた。優一郎は、玄関前の住所が刻まれたプレートと、メモとを見比べ
た。
 間違いない、ここが田邊のマンションだ。
「なんか、イヤなマンション………周りに人の住んでいる気配がまるでない」
 独り言のように、美鳥が呟いた。
 玄関の内側にマンションの住民たちの郵便受けが並んでいたが、確かにネーム
・プレートの掛かっている物は極端に少ない。それどころか、このマンション周
囲には他に住宅らしい建物が見当たらない。広い空き地、建設途中で放棄された
ようなマンション、テナントの看板が真っ白のままくすみ始めているビル。この
辺りは大がかりな開発が進められていたが、その途中資金難の為中断されてしまっ
た地域だった。
「お姉さん!」
 音風の声に振り向くと、麗花が玄関に上がる階段の下でうずくまっていた。
「麗花さん」
「お姉」
 優一郎と美鳥も駆け寄る。
「大丈夫………少し、気分が悪くなった、だけ、だから」
 大丈夫とは言うが、麗花の顔色は悪く、苦しそうだ。
「無理ないよ。ここに来るまで、私の力だけじゃ足りなくて、お姉にもサポート
してもらったんだから」
「本当に、ごめん………なさい。時間がないわ………私に構わず、あなたたちは
急いで……」
 ここに麗花一人を残していくのは気が引けたが、いまは一秒を争う。美鳥が優
一郎に無言の合図を送る。
「真月ちゃんを助けたら、戻って来ます。まさかとは思うけれど、麗花さんはヤ
ツに見つからないように、隠れて休んでいて下さい」
「ええ、真月のこと、お願いします」
 優一郎、そして美鳥、音風の三人は玄関よりマンションの中へと入った。
「田邊………ヤツの部屋は11階だ。エレベーターを使おう」
 エレベーターは丁度1階に停まっていたので、待つ必要もなかった。
「いい、優一郎?」
 動き出したエレベーターの中で、美鳥が言う。
「あんたには、私や麗花お姉のような………ううん、それ以上の力があるの」
「俺に?」
「そう………思い出して、夕べのことを。あなたは一度力を解放して、それを押
さえ込む事に成功したの。二度目からは自分の意志で、使いこなせるはずなの」
「夕べ?」
 昨夜も寝苦しい夜だったが、途中で目覚めた記憶はない。しかし………強いて
挙げれば夢を見たような気がするが。
「その夢、思い出せない?」
 その事を話すと、美鳥はそう聞き返して来た。
 昨夜の夢………
「どこか森の中、そうだ沼があって………化け物が出てくる。二匹だ」
 少しずつ思い出される夢。
「そう、それを優一郎、あんたは刀で倒した」
「えっ………」
 それまでまだ半信半疑だった優一郎だが、美鳥の話を聞いて信じるしかなくなっ
た。いま思い出したばかりの夢の内容を、美鳥も知っていた。あれは夢ではなかっ
たのだ。

 一人残された麗花は、美鳥たちがマンションの中へ消えていくのを確認すると、
ふらつく足どりで反対側のビルへと向かった。
「あの男………田邊と言う人物から、もう一人別の匂いがしたわ」
 その匂いに、麗花は覚えがあった。そしてそれはこのマンションに来てから、
田邊と直接接触した時より強く、麗花に届いていた。
 匂い………気配と言った方が正しいかも知れない。
 本当にそれが、麗花の遠い記憶の中にあったものと一緒なのか。それを確認す
る必要があった。

 扉の前、メモ書きと見比べ、ここが田邊の部屋に間違いと確認する。中に気づ
かれぬよう、ノブを回してみるが開かない。鍵が掛かっている。
(優一郎)
 美鳥がそっと耳打ちをする。そして優一郎を残し、美鳥と音風は後ろへと下が
る。
 優一郎はエレベーターの中で聞いて話を思い出す。
 優一郎には二種類の力があるのだそうだ。月の力を借りた朧と、日輪を力とす
る【日龍】。朧は使い手の能力、イメージによって姿を変える。優一郎の場合、
それが刀の姿を成したのだと言う。もう一つ、日輪の【日龍】の、真の姿は美鳥
にも分からないそうだ。だが、二つの力を兼ね備えているため、優一郎の朧の力
は美鳥や麗花を大きく上回っていると。
 手を構え昨夜見た夢、いやあれは現実なのだが。その時のことを思い出し、優
一郎はイメージをする。
 武器だ、武器が欲しい。この閉ざされた扉を開くための力。
 要領が掴めず、なかなか刀は現れない。やはりあれは夢だったのではないか?
「時間がないよ、優一郎。真月が心配だ、駄目なら私が………」
 横で美鳥の拳に光が宿るのが見えた。
 そうだ、真月が危ない。
 優一郎の空の手に、確かな重みが感じられる。虚空からそこに、輝く刀が生ま
れた。
 感動している暇はない。
「ふん」
 ひと振り。
 固い鉄の扉を何の抵抗も感じさせず、切っ先が通って行く。
 チェーンと鍵の閂部分を切断し、扉は開かれた。
「くっ」
 開かれた扉から、出口を得た室内の圧縮された空気が流れだす。凶悪なほどの
悪臭が、三人の臭覚を襲う。
「真月!」
 真っ先に中へ飛び込んだのは、音風だった。
「駄目だ、音風ちゃん」
「危ない」
 優一郎と美鳥は慌てて後を追う。
「ひっ!」
 先を行く音風が、立ち止まり息を飲む。優一郎と美鳥は、音風を庇うようにそ
の前にと回る。
「はあい、ヒーロー登場! うぇるかむ、うぇるかむ」
 ベッドの上で胡座をかいた田邊が、人を小馬鹿にした発音で優一郎たちを迎え
た。だが音風が驚いたのは、田邊の姿を見つけたからではない。優一郎も、その
光景には度の過ぎた恐怖と怒りと嫌悪で、身体が痺れるような感覚に陥る。
 ベッドに下に転がる、裸の女性たち。一瞬、死んでいるのか思ったが、そうで
はない。目だけで優一郎を見る者。息をしている証に、腹を上下させている者。
ごく僅かにうめき声も聞こえる。理由は不明だが、みな動けないでいるらしい。
何か薬を使ったのか。さらに優一郎を驚かせたのは、その女性たち殆どの顔に見
覚えのある事だった。
 行方不明になっていた堀江香奈、大野佳美ら、みな同じ高校の生徒たち。一様
に陵辱された跡が見られる。
 そして。
 ベッドの上の田邊の手に抱かれた真月。
 上半身裸にされた真月の胸と下腹部に、田邊の手が置かれている。
「おにい……ちゃん」
 まともに歯の根も合わぬ、真月の口から優一郎を呼ぶ声が漏れる。
「ま……づき」
「貴様! 真月ちゃんに、何をした!!」
 優一郎の怒りに呼応するかのように、構えた刀の光度が増す。
「おお、恐い恐い。何もしてないさ、まだね。あと二、三分遅ければ、どうなっ
ていたか分からないけれどねぇ。真月ちゃん、やっぱり君はヒロインの資格があ
りそうだよ。ぎりぎりでヒーローのご登場だ」
 田邊に臆する様子は微塵もない。それどころか、この状況が楽しくて仕方ない
といった様子で、真月の耳元に囁く。
「でもねぇ、ここでヒーローがやられてしまっては、意味がないよねぇ。まあ、
それこそがぼくの長年待ち続けた場面、なんだけど。さあて、優一郎くんはゲー
ム、好きだったかな? いよいよラス・ボス(ラスト・ボス)との対決ってとこ
だろうけど………ゲームでは、ラス・ボスを目の前にして、なかなかたどり着け
ない難関ってものがあるんだよ」
「ごたくはいい、さっさと真月ちゃんをこちらによこせ。女の子たちも、解放す
るんだ」
 優一郎は切っ先を田邊に向けたまま、後ろの音風に合図を送くる。
「音風ちゃん、警察に電話して」
 しかし音風は立ち尽くしたまま、動こうとはしない。
「音風ちゃん、早く」
「だめ………」
 苦しそうに音風は答える。
「どうして?」
「やだなあ、優一郎くん。ぼくの話を聞いてる? ラス・ボスへの難関その一。
君らはもう、動けないよ」
「なに?」
 優一郎は田邊に向かって、一歩踏み出そうとした。だが出来ない、脚が進まな
い。
「なによ、これ」
 美鳥の声がした。どうやら、美鳥や音風も優一郎同様、動く事が出来ないらし
い。
「さあて、どうして君たちは動けなくなったんだろう? 分かるかなあ………く
くくっ」 田邊の笑い声を聞き、怒りはさらに増したがどうする事も出来ない。
「早いとこ、謎を解いてなんとかしないと、この子、ピンチだよ」
 そう言って田邊は無抵抗の真月から、パジャマの下も脱がせてしまった。真月
が抵抗しないのは、やはり動きが封じられているのか、それとも恐怖のためなの
かは分からない。
 しかしこれだけは言える。田邊は本気だ。このままでは優一郎たちの目の前で、
真月は陵辱を受けてしまうだろう。それは部屋中に転がっている女性たちの姿か
らも、容易に想像出来る。
「それにしても、愉快だね。一人ずつ順番に、と思ってた残していた姉妹のうち、
三人までがいっぺんに手にはいるとは、さ。飛んで火にいる、ってやつかな? 
さて、このまま優一郎くんの前で、この子にいたずらするのもいいけど、もう一
つ難関を与えてあげよう」
 田邊が右手を挙げ、くいっ、と指を動かす。すると倒れていた女性のうち、三
人が糸を引かれたマリオネットのように、すくっと立ち上がる。
「うーん、まだ練習不足だなあ………一度に三人が限度かあ。ま、君らも三人だ
から、ちょうどいいねぇ」
 三対三。数の上では対等でも、内容は違う。こちらは三人とも、指一本自由に
ならないのだから。
 立ち上がった女性は大野佳美を先頭に、まるで映画で観たゾンビのようにふら
ふらと近寄ってくる。三人とも酷く辛そうな表情を見せ、それが自分の意志でな
い事を知らせていた。
「よ………陽野くん………ごめんなさい」
 佳美の白い手が、優一郎の首に絡み付く。徐々に指先に力が込められ、優一郎
の喉を締め上げていく。
「ぐっ」
 女性の細腕とは言えど、一切の抵抗が出来ない優一郎を絞め殺すのは容易い事
だろう。しかも佳美の腕には、とても信じ難い力が宿っている。このままでは、
優一郎の意識が落ちてしまうまで一分も係らないだろう。
 美鳥や音風はどうしたのだろう。同じような力で締め上げられていたら、とう
に窒息しているかも知れない。
 後ろの音風は確認出来ないが、ほぼ真横の美鳥はなんとか視界に捉える事が出
来た。美鳥は首を絞められてはいない。美鳥に取り付いた女性は、その服をゆっ
くり脱がせようとしていた。
「ふふ、安心していいよ、優一郎くん。女の子は簡単に、殺さないから。君の死
を見ながら、姉妹三人と楽しませてもらうから。ねぇ、真月ちゃん」




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