AWC 代償   第一部 16    リーベルG


        
#3910/5495 長編
★タイトル (FJM     )  97/ 6/ 9   5:26  (102)
代償   第一部 16    リーベルG
★内容

                16

 由希はゆっくりとドアを開けると、屋上に足を踏み出した。後ろ手でドアを静
かに閉じる。その音で、フェンスの向こう側にしゃがみこんでいた美奈代が振り
向いた。
「藤澤さん」由希は穏やかに声をかけた。「私よ」
「先生!」美奈代は悲鳴に近い声で叫んだ。「こないで!」
「何も心配することはないわ」由希は慎重な足取りで、一歩ずつコンクリートを
踏みしめるように美奈代に近づいていった。「先生以外は、誰も入らないから」
「いや!」
「藤澤さん。お願い、少しだけでいいから話を聞いて」
 由希はフェンスから1メートルほどの場所で足を止めた。
「藤澤さん」
「あたし、もう駄目!」美奈代はすすり泣いた。「全部知られちゃった。生きて
いけないのよ!」
「死ぬなんて言葉を簡単に口にするものじゃないわ」
「汚されたのよ。あたし、汚されたのよ!3人だったわ。3人が順番にあたしを
犯したのよ。全部中に出された。痛くてやめてって言ったのに、あいつら、あた
しの中に突っ込んだの」
「あなたは悪くないわ」
「だめよ」美奈代は頭をフェンスにこすりつけた。「絶対だめだわ。みんな忘れ
てくれない。どこに行っても、みんながあたしのこと話してるのよ。絶対生きて
いけない。死なせて!」
 由希は美奈代をじっと見つめた。そして、不意に冷たい笑いを浮かべた。
「そう」嘲るように美奈代に言う。「なら死んだら?」
 美奈代は涙の浮かんだ目を大きく開いて、由希の顔を見た。今、耳にしたこと
が、理解できずにいる。
「え?」
「死んだら、って言ったのよ」由希の口調からは、およそ人間の持つ暖かみが完
全に消えていた。「どうだった?レイプされた気分は?ヤクザに裸にされて、ビ
デオ撮られて、写真撮られて、脚を大きく開かれて、太いペニスを突っ込まれた
気分はどう?あんたのバージン奪ったのは、あのスキンヘッドだったわねえ。よ
かったじゃない、一番太いやつに奪われて」
「せ……」美奈代の身体が震えだした。「なん……」
「隣で見物させてもらったわ。全部ね。最初から最後まで。あんたが獣みたいに
犯されるところをね。とってもいい声で泣いてたじゃない。子宮の奥まで男のザ
ーメンぶちまけられた気分はどうだった?」
「い、いや……いや……」
「一人で楽しむのももったいないから、ビデオと写真を、あんたのクラスメイト
の何人かに送っといたわよ」由希は容赦なく告げた。「そのうち裏ビデオにも流
れるでしょうしね。おまけに、あのホームページ。あんたがどういうめにあった
か、学校中に知れ渡るわね」
「いやああ!」美奈代は叫んだ。「なんで!なんで?先生が全部たくらんだの?
まさか、違うわよ、そんなこと」
 由希は口元だけで微笑んだ。
「そうよ。全部私がやったのよ。あんたと仲良くなるふりして、あんたの行動調
べてね。本当はもう少し後でやる予定だったけど、これ以上田上さんをいじめさ
せるわけにはいかなかったのよ。もっとも、あれであんたに対する同情は、最後
の一滴までなくなったけどね」
「どうして……どうして、こんなこと……先生のこと信じてたのに」
「あんたには恨みがあったのよ」由希は微笑んだ。「だから、私はあんたを破滅
させてやると誓ったの。妹のためにね」
「い、いもうと……?」
「大菅加代」鋭い視線で美奈代を射抜きながら、由希はその名前を口にした。「
あんたが中三のときよ。おぼえてる?」
 美奈代の顔に理解の光がさした。それは、すぐに恐怖に変わっていった。
「あれは、あたしのせいじゃない!」美奈代は懸命に叫んだ。「あの子は自殺し
たんじゃないの!あたしが殺したんじゃない!」
「あんたたちのせいなのよ。遺書は残っていなかったって発表されたけど、私が
隠しておいたの。加代の日記には、あの子を自殺に追い込んだ奴らの名前が、し
っかり書かれてたわ。あんたの名前もね」
「知らない!しらないわよ!そんなこと忘れたわよ!」
「私はそいつらを絶対に許さないと誓ったの。一生かけても殺してやるわ。死ぬ
前にたっぷり苦しませてからね。あんたは最初の一人よ」
 由希は一歩踏み出した。
 美奈代は怯えたように身体を動かした。
「いや」懇願するように、美奈代はすすり泣いた。「許して。そんなつもりじゃ
なかったの」
「あの子が許してって言ったとき」由希はさらに前に出た。「あんたは、それを
きいてあげたの?」
「いや、いや、おねがい」
「あんたはもう終わりなのよ」由希は前に出ながら囁いた。「レイプされたこと
は、みんなが知ってる。これからあんたはヤクザにレイプされた女って指さされ
ながら生きていくのよ。転校したって、その学校に写真とビデオを送りつけてや
るわ。就職したって、勤務先に送ってやる。結婚したら新婚旅行先に送ってやる
わ。子供ができれば、子供に知らせてやる。逃げれば、あのヤクザたちに追いか
けさせて、もっとひどい目にあわせてやる。あんたの人生は、全部ここで終わり
なのよ。終わり。わかる?エンド、フィナーレよ」
 美奈代は絶叫して、由希から逃れようとするように手を突きだした。自分が今
どこにいるかということなど、頭になかった。手がフェンスに当たり、その反動
で美奈代の身体はぐらりと揺れた。
「いやああ!」
 由希は素早く駆け寄った。
 美奈代が救いを求めるように伸ばした指先が、かろうじてフェンスに引っかか
った。落下しかけた美奈代の身体が一瞬、停止した。想像を絶する恐怖で美奈代
の顔は歪んでいたが、由希に向けた視線には一抹の希望と懇願がこめられている。
由希は、こんなめに遭わされても、美奈代が心のどこかで、まだ由希を信じてい
ることを知った。
 由希は手をのばした。美奈代の手首を支えることは充分に可能だった。
 そうするかわりに、由希は美奈代の指を手で払いのけた。優しく微笑み、最後
の言葉をかけながら。
「さよなら、藤澤さん。あっちで加代に謝るのね」
 美奈代の身体は落下していった。
 見守っていた教師たちが、叩きつけるようにドアを開けて、駆け寄ってきた。
由希はフェンスを握りしめて、悲痛な声で叫んだ。
「藤澤さん!藤澤さーん!」
「先生!」
 誰かの手が肩にかかったとき、由希は目を閉じてその場に崩れ落ちた。そして、
意識を失ったふりをしたまま、心の中でつぶやいていた。
 最初のひとり。





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