AWC すべてがAIになる 8    永山


        
#3717/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/12/31  17:36  (199)
すべてがAIになる 8    永山
★内容
「いいえ。だからこそ、こうやってみんなに聞いて回ろうと考えたんです」
「……犯人を見つける気か」
 須川が呆れ顔になった。それでも堂々と答える上島。
「そのつもりです」
「ん……まあ、頑張ってくれや。俺は正直、関わりたくない。高倉が嫌いなん
じゃない」
 野瀬に視線をやる須川。彼もまた、野瀬と高倉の関係を知っているらしい。
「ただ、工学の連中がぐだぐだ言うのが気にいらねえ」
「何か言ってきてるんですか?」
 野瀬が不安そうな色を覗かせると、須川はこしらえたような笑みで答えた。
「君が心配するこっちゃないがね。ロボットがなくなる騒ぎがあったばかりだ
ろ。それで今度は、情報科学科の人間が殺されたってことで、研究が滞る、い
い迷惑だってよ。もっとも、面と向かって言う奴はそういないが」
「あ−−あの、ロボットですけど」
 野瀬と千堂、上島は互いに見合って、おずおずと切り出した。なくなったロ
ボットが改造された形で、現場である四〇一号室の、野瀬の本棚の下から発見
されたと告げる。
「−−このこと、他の人には内緒にお願いします」
「それはいいが……ほんとか? 何でまたそんなとこにあったんだか」
「事件に関係しているみたいなんです」
 千堂が説明を続ける。
「鍵をかけるのに使われた可能性が、非常に高いと僕らは思っています」
「じゃあ、何か? 部屋の鍵を内側からかけるために、犯人はロボットを盗ん
だってか。こりゃいいな」
 軽く笑い声を立てる須川。
「あの、何がおかしいのでしょう……」
「ああ、これは失敬をした。だが、考えてもみてくれ。犯人がロボットを盗ん
だ奴と同一人物なら、俺は逆に工学の連中を疑うぜ。わざと盗まれたって騒い
でだな、その実、隠しておいたロボットを使って犯行をする。ロボット制作者
は決して疑われないって寸法だ」
「……なるほど、そういう考え方もありますね」
 千堂は感心して、何度もうなずいた。罪を他人に擦り付けるために、ロボッ
トを使って密室を作った……。本末転倒であることには違いないが、事件の真
相を分かりにくくするという観点からは間違っていない。
「じゃ、じゃあ、宮田と西村という二人が犯人……?」
 野瀬がどもりながら言った。明らかに落ち着きをなくしている。
 そんな彼女を、須川は苦笑いを浮かべながらたしなめた。
「早合点しないでくれ。俺は推測を言っただけ。工学の連中にやり返すための、
都合のいい推測をな」
「そ、そうですよね」
 乗り出し気味だった身体を元に戻す野瀬。椅子のきしむ音がした。
「さて。これで終わりか?」
「あの、僕からも一つ」
 千堂は低く手を挙げた。
「0時以降、建物の外に出るようなことはなかったですか?」
「ん? そうだな、あの夜は出なかった。他の連中も出ていないみたいだぜ。
このことも、警察が聞いていったからな」
「あ、そうでしたか。……分かりました」
「千堂、こう思ったんじゃないか? 当日研究棟にいた人間の中に犯人がいる
って」
「−−当たりです」
 隠しても無意味だと判断し、あっさり認める千堂。
「でも、そう決めつけたんじゃないですよ。可能性が高いと考えているだけで
すから」
「慎重だな」
 何とも言えない笑みを見せ、須川は再びパソコンに向かう。
「もし犯人が分かって、警察に逮捕されたら、あとで名推理を聞きたいね」
「いいですよ」
 安請け合いして部屋をあとにした千堂だった。
 次に訪れたのは横井の部屋だったが、室内は暗い。すでに帰ったか、最初か
ら来ていなかったようだ。
「仕方ない。明日以降だね。村木さんは確実にいるだろうから、他の人のとこ
ろを先にしましょう」
 工学科の院生の誰がどの部屋に入っているのか詳しくないし、部屋割り自体
が学年も学科も入り乱れての無秩序そのものなので、一つずつ覗いて回った。
「あった。都築、辺見。同じ部屋とは好都合」
 三〇一号室にその名を見つけた。部屋の電灯が点いているから、誰かいるの
であろう。
 須川のときと同様、野瀬がノックする。さっきより控え目な音。
「誰?」
 そんな短い声だけが返って来た。聞き覚えのある男の声、都築に間違いない。
「野瀬です、情報科学科二年の……。他に千堂君と上島さんが」
「用件は?」
 相変わらず、ドア越しにしか会話させてくれない。
「事件が起きた夜の話を伺いたくて来ました」
「……協力したくないね」
「何故ですか? 理由を聞かせてください」
「僕らには関係ないことだ。そっちだけでやってくれ」
「関係ないなんて……そんな」
 絶句した野瀬は、救いを求めるかのような眼差しを、千堂らに向けてきた。
 代わって千堂が口を開く。
「関係がないと、どうして言い切れるんですか」
「説明しなきゃいけないのかい? 死んだのは情報科学の人間、場所は情報科
学の部屋、見つけたのも情報科学の人間。これで充分だろ」
「なくなったロボットが現場から見つかっても、ですか」
 千堂は切り札を開いた。ここで畳み掛けねばならない。
「何だって?」
 ドアの向こうの声がうわずり、足音がしたかと思うと、解錠する音がした。
寝不足なのか、目をしょぼつかせた都築が顔を出す。
 千堂は都築が喋り出すよりも早く、ロボットが見つかった状況を一気に説明
した。ついでに、須川の唱えていた「都合のいい」推測も披露してやる。
「嘘じゃないだろうな」
「当たり前ですよ。疑うんでしたら、宮田君なり西村君なりに聞いたらいいで
しょう」
「……ふん。どう見ても、はったりじゃないな。しょうがない、入れ」
 歓迎されてなかったが、ともかく部屋に通された。話もどうにか聞けそうだ。
「言っておくが、宮田達が犯人だなんて馬鹿なこと、あるはずがない」
「根拠を知りたいですね」
 辛くも主導権を握ることに成功した千堂は、虚勢を張りつつ、強気に出た。
「盗難が狂言でないとする絶対の根拠はない。だがな、あいつらは殺しのあっ
た当日、研究棟にいなかった。共犯者でもいない限り、あいつらにはできない」
「へえぇ、意外と真剣に事件のことを考えているんですね」
「何だと?」
「だって、さっきまでは無関係を強調されていたでしょ、都築さん。それなの
に的確に事件の概要をつかんでいるみたいだ。不思議だなって」
「はっ。それはだな、自分の命を守るためさ」
 吐き捨てる都築。
「君が言ったのと同意見だ。あの夜、研究棟にいた人間が最も怪しい。決めつ
けることはできないにしても、少なくとも、大学の関係者の中に犯人がいるの
は間違いないだろう。鍵のシステムなんかを知っていないとおかしいからな。
 犯人が身近にいるかもしれない上に、犯人の狙いが不明のままとなれば、用
心するのは当然だ。事件についてできる限り知っておいて、各人に対して信用
できる、できないの線引きをしたんだよ。ドアに鍵をかけるようにして、やっ
て来た人の身分を確認するのもその一つさ」
「僕らは信用してもらえた訳ですか」
「いや。全面的には信じていないよ」
 皮肉な笑みを浮かべる都築に、千堂達は困惑の表情を返した。
「ま、三人の内二人までが当日、研究棟にいなくて、さらにその一人が被害者
と付き合いのあった野瀬君だと分かったから、判定基準を下げただけさ」
「−−ご存知だったんですか?」
 野瀬が口に手を当てながら、かすれ声で言った。都築は、面白くもなさそう
に答える。
「辺見から聞いたんだよ」
「辺見さんが……」
「同じサークルだったそうだな。野瀬君が入ってきたとき、辺見は、高倉の奴
から相談を持ちかけられたんだと。どんなことしてもらうと女性は喜ぶのかっ
てな。高倉も鈍感だね」
「じゃあ、辺見さんが辞めたのは」
「決まってるだろ」
 野瀬は何も言わなくなった。うつむいたままである。
 その横で、千堂は、やはり辺見にも動機があることになると考えていた。
「今日、辺見さんはすでにお帰りですか」
 ずっと黙っていた上島が、初めて口を開いた。もしかすると、千堂と同じ考
えを抱いたのかもしれない。
「ああ、帰ったよ。だがな、彼女を疑うのはお門違いだ。はっきり言わせても
らおう。あの夜、僕と辺見はずっとこの部屋にいた」
「……そうだったんですか?」
 上島が呆気に取られたような受け答えをする。
「そりゃあな、短い時間、部屋の外に出たことはあったが、いずれも十分足ら
ずさ。そんな短い時間でどうしようもないだろう?」
「……ですね」
「そうなると、都築さんにもアリバイ成立ですね」
 上島に続いて、千堂がすかさず言った。都築は、鳩が豆鉄砲を食らったよう
に目を白黒させている。
「……おまえ、本気で僕を疑っていたのかい」
「研究棟にいた人全員について、検証しているだけです」
「食えない奴だな」
 椅子の背もたれに沿って大きく伸びをすると、都築は頭を左右に振った。ど
こかの骨がこきこきと鳴っている。
「どうして犯人探しなんかする? 野瀬君はまあ、分かるが」
「こっちが首を突っ込みたがるから、ですね」
 と、千堂は上島を指差した。
「そんな言い方、ないじゃないですかっ」
 上島の黄色い声に、千堂は大げさな身振りで、両手で耳をふさいだ。
 都築は辟易した様子で肩をすくめると、上島に言った。
「表立ってやりすぎるのは、注意しないとな。好奇心は猫だけじゃなく、人を
も殺すかもしれない」
 一瞬、上島はきょとんとしたが、すぐにかぶりを振る。
「事件のあった夜、何か物音を聞きませんでしたか? この部屋は四〇一の真
下だから、きっと何か」
「残念だが、何も聞いていないよ」
 あっさりした回答に、上島だけでなく、千堂や野瀬も落胆する。
「犯行があったのは、夜の九時から一時までだったな。無論、そのときに限っ
て聞き耳を立てていれば、何か気づいたかもしれないがね。君達も知っている
だろうが、この棟は壁や床の防音はほとんど完璧だ。その分、ドアの防音がな
っていないのが玉に瑕」
「ドア……」
「だから、話を聞くんなら、村木さんのところだろう。もっとも、あの人の場
合、研究に意識を集中しているだろうから、聞き逃している可能性大だな」
 それから、須川にしたのと同じような質問を都築にも浴びせたが、芳しい情
報は得られなかった。
「どうもありがとうございました」
 辞去する際の礼は丁寧に述べて、千堂達は廊下に出た。
「結局、頼りは村木さんだけか」
「頼りになりそうもないけれど」
 上島が投げやりな調子で言った。先ほどの都築の言葉に賛成らしい。
 一旦、演習室に引き返した。最前に出したメールが読まれているかどうかを
確認するためだ。
「あれ……読まれていないよ」
 上島が高い声を上げた。野瀬が画面の表示を覗き込む。
「本当ね……。おかしいな。村木さん、ずっと機械を立ち上げっ放しのはずだ
から、メールが到着すれば音で気がつくものなのに」
「そうですよね。他の物音がうるさいとしても、画面をときたま注視していれ
ば、メールが来たって分かりますし……」
 憂鬱になる千堂。これから訪ねて行って、もしも不機嫌なときに当たったら
厄介だ。
「とりあえず、行ってみようか」
「はあ。野瀬さんにお任せしますよ」
 寂しい廊下を行く。外はすっかり陽が落ちている。もちろん、廊下の電灯は
点いているのだが、寒々としていて、足音だけがいやに響いた。
「さて、と」
 深呼吸をしてから、野瀬は四〇二号室のドアを静かに叩いた。
「……」
 反応がない。もう一度、野瀬は同じ行動を繰り返したが、やはり無反応だ。
「ノックの音が聞こえないほど、熱中しているんでしょうか」
 感心した口振りで、上島が言う。それを受けて、野瀬はいくらか大きめの音
を立てた。ついで、声も。

−−続く




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