AWC すべてがAIになる 4    永山


        
#3713/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/12/31  17:25  (199)
すべてがAIになる 4    永山
★内容
「と、とにかく、印象が全然違う。初めて見る感じだった」
「それなら、全然知らない人である可能性もある訳だ」
「しかし、高倉さんの姿が見当たらないのは、事実だし……」
 警察は高倉の行方も追っているらしいが、見つかったという話は、まだ耳に
していない。自宅にいないのだけは、確かだ。
「このままじゃ、足りないなあ。もっと情報が入ってくるもんだと思ってたん
だけど」
「警察がそうそう教えてくれるもんか」
「首なし死体の衣服から何が見つかったのかぐらい、伝わってきてもいいのに
さあ。それか、何にも見つからなかったとか……」
「そんなことないでしょ。見つかってはいるが、身元を特定する決め手にはな
っていないんだ、きっと」
「千堂さん、ずっと警察に張り付いてくれたらよかったのに」
「無茶苦茶な。追い出されるか、下手をすると犯人扱いされるよ」
「そうしておいて、びしっと真犯人を指摘する。格好いいのに」
「何考えてんだ、全く……」
 千堂がため息をついたとき、部屋のドアがノックされた。「どうぞ」と言う
と、顔を覗かせたのは野瀬だった。
「いいかな?」
「もちろんです」
「どうせ暇ですし」
 上島が余計な一言を付け足した。どうやら、新しい情報が得られると思って、
気分が浮ついているらしい。
「どうせなら、食堂に行かない?」
 野瀬が提案してきた。
「そう言えば、ごたごたでまだ昼を取ってなかった……」
「たくさん入るとは思えないけど、食べないでいるのもよくない気がして」
 上島だけはすでに食べていたが、この三人で学生食堂に場を移した。午後二
時に近い食堂は、さすがに利用者も少ない。ゆったりとできる。
 千堂は玉子丼の小、野瀬はきのこスパゲッティを選んだ。上島も付き合う形
で、オレンジジュースを取る。
「亡くなったのが誰だか、警察は分かったんですか?」
 気になっていた点を聞いた千堂。
「まだみたい。……私、遺体の確認をしたんだけど」
「えっ!」
 千堂と上島は、声を揃えて叫んでいた。
「確認と言っても、遺体の手を見せられて、『高倉義人さんかどうか分かりま
せんか』と聞かれただけなんだけどね。同室だったんだから、手なんかはよく
見ているだろうって」
「それで……どうでした?」
 食事中にまずいかなと思いつつ、ままよとばかりに聞く。
 野瀬はゆっくりと首を横に振った。そして軽く息をつく。
「よく分からなかった。違うとは思うんだけど、確証が持てない。ほとんど毎
日、高君の手を目にしていたはずなのに、分からないなんて……自分の記憶力
のなさに呆れてるとこ」
「気にするべきじゃないですよ」
 明るい口調の上島は、言って、ジュースをすする。
「私だって、十人の人の手だけを見せられて、その中から千堂さんを選べと言
われたって、まず無理です」
「そりゃそうでしょ。僕がプログラム打ち込んでいるとき、君は画面ばかり見
てる。手元はちっとも覗いてくれない」
 千堂はそう言うと、箸を持ったまま、両手を上島へ突きつけるように示して
やった。が、上島も負けていない。
「この際だから、しっかりと目に焼き付かせておきますか? いつ、千堂さん
が首なし死体になってもいいように」
「馬鹿、冗談が過ぎる。僕と野瀬さんは、そいつを今日、見たばかりなんだか
らな」
 千堂に言われ、上島は首をすくめた。
 ようやく落ち着いた気分になれた千堂は、野瀬に尋ねた。
「亡くなったのが高倉先輩ではないとしたら、先輩はどこにいるんでしょうね」
「それもさっぱり……。心当たりに電話してみたけど、知らないって言われて」
「ねえ、野瀬先輩。殺害現場はどこだって言ってました?」
 上島の質問だ。早くも復活したらしい。
「そう、それがあった。警察の人達、実際に犯人がひどいことをした場所は、
あの部屋じゃない可能性もあるって言ってた」
 小さく手を打つ野瀬。
「どこか別の場所で犯行をやって、そこで頭部を切断し、私の部屋に運び込ん
だという見解みたい」
「そうなんですか? 千堂さん、血液の量、少なかったんでしょう?」
 質問の不意打ちに、お冷やを飲んでいた千堂は、わずかにむせた。
「何だって?」
「だから、部屋の中に飛び散る血は、どの程度だったかってことです」
「……? 記憶にない」
「ということは、ほとんど飛び散っていなかった?」
「そうだと思う。−−どうでしたっけ?」
 野瀬に助けを求めた。
「私はあのあと、部屋に入れたから。血は何滴か落ちているぐらいで、大した
量はなかったようだけど……上島さん、それが?」
「いえ、警察の判断の根拠を知りたかっただけです。発見現場に残る血の量が
少なかったから、よそから運び込んだと考えたんだなって分かりました」
「ちょっと待ってくれ」
 千堂はストップをかけた。
「僕が昔読んだ推理小説には、死んだ人の肉体を傷つけても、それほど血は出
ないとあった。まさか、生きている人間の首を……とは考えにくいでしょ。だ
から、血の量の多い少ないは、大した理由じゃないんじゃないか」
「そっか……。あの、野瀬さん。死因は何だって言ってました?」
「しいん? あ、どんな風にして死んだのかってこと? 何かの毒薬か窒息死
じゃないかって」
「はっきりしていないんですか」
「そうみたい。ただ、身体に外傷はなかった−−首を除いて」
「死亡推定時刻も分かってないんだろうなあ。うーん。じゃあ、最大の疑問。
うめき声を聞いたそうですが、結局、何だったんです、それって?」
 上島の言葉に、千堂もようやく不可解さを覚えた。たった今まで、被害者の
うめき声だとばかり考えていたが、それはおかしい。頭部がないのだから、う
めきようがない。
「その点は私も話したけど、どこまで本気で取り上げてくれるのか……。テー
プレコーダーのような物はなかったし、電話からの声である可能性もないって」
 野瀬の答に、上島は不満そうに唇を噛んでいる。思うように情報を得られな
いからに違いない。それでも質問を続ける。
「部屋の鍵がかかっていたという話ですが、野瀬さんや高倉さんが普段使う鍵
は、どこにあったんでしょうか?」
「それは……そう、部屋にあったと言ってた。高君の机の上に」
「密室!」
 叫ぶ上島は大げさでなく、目が輝いているようだ。猫にかつお節とはさもあ
らん。
「不謹慎だぜ、上島」
 千堂がたしなめるのも、まるで意に介さない様子だ。
「そんなこと言ったって、解かなくちゃいけないのは、おんなじです」
「ふん。万が一、保安の宍戸さんが犯人だったら、がっかりだな。合鍵を使え
ばおしまい」
「ど、どっちが不謹慎ですか!」
 いつもの調子で応酬する千堂達に、野瀬は疲れたような表情を見せていた。

 下宿に戻っていた千堂は、事件の翌日、大学に顔出しして、講義の再開は明
日からだと知った。まだ研究テーマが定まっていない身分だから、なるべく講
義を受けて単位を収めたいところだが、いかんともし難い。
「おーい、千堂、おーい」
 掲示板の前でどうすべきか思案していると、間の抜けた声に呼ばれた。振り
返ると、蔭山が側まで来ていた。
「何でしょうか?」
「大したことじゃないんだけど、部屋の入れ替え、どうするつもりかと思って
ねえ。あんな事件があったし」
「あ、そうでした」
 頭に手をやり、先輩を見下ろす千堂。若干、彼の方が背が高い。
「あの部屋、使えるようになったんですか?」
「いや、まだだよ。下手したら、一週間ぐらい封鎖されるとかでさ。野瀬さん
も困ってる様子だね」
「野瀬さんが」
「もっとも、部屋を使えない事態以上に、気持ち悪さが優先しているようなん
だけど」
「僕も気持ち悪いですよ。入れ替わるの、遠慮したくなってきたな」
「ん、だからさ。あそこの部屋、研究室に使うのはやめて、プリンター室にし
ちゃおうかという案が出てて」
「プリンター室? 今ので充分でしょ。それに、部屋が減ったら」
「今のプリンター室を新たに研究室にする訳。少し手狭だけど、一人が入る分
にはいい」
「一人って……高倉さんはどうなるですか?」
 怪訝に感じ、尋ねる千堂。高倉が戻って来たとき、居場所がなくなるではな
いか。
「お、知らないの? 新聞やニュース、見ていないな」
 手を広げ、目を丸くする蔭山。どこか芝居がかっているが、これが彼の驚い
たときのいつもの仕種だ。
 一方、千堂は嫌な予感を覚えつつも、聞き返す。
「はあ。昨日は疲れてて、帰ったら即、寝てしまいましたし、今朝も起きてす
ぐ、こっちに……。何か進展が?」
「高倉は死んでたよ。残念ながらな」
「……それは、あの部屋で見つかった遺体が、高倉先輩だったと」
「そうだよ。血液型だのDNAだのと調べて、同一人物だって分かったってよ。
死因は何とかいう毒だとさ」
「……知らなかった」
 覚悟しないではなかったが、改めて知らされるとぞっとする。
「部屋の入れ替え、どうするんだ?」
「あ……そうですね。と、とりあえず、愛ちゃんや野瀬さんと話し合って決め
ます。もし移動するんだったら、今のプリンター室ってことになるんですね?」
「そ。もしかすると、君の一人部屋になっちまうかもよ」
 それだけ言うと、蔭山は腕時計をかざし、そそくさと立ち去っていった。
 千堂は他の掲示内容を確認してから、研究棟の二一六号室に向かった。
「お、ちょうどよかった」
 鍵は開いており、室内には上島の他、野瀬の姿もあった。
「部屋の話でしょう?」
 千堂の言葉に反応した野瀬の顔色は、決してよくない。青ざめていると言う
よりも、むしろ白に近かった。
「僕はプリンター室で平気ですよ。同じ二階にあるし、一人になれた方があり
がたいです」
「何だとぉ」
 聞き捨てならないとばかり、上島は勢いよく椅子から立ち上がり、千堂へと
一直線に向かった。
「そんなに嫌だったんですか!」
「誰もそんなこと、言ってないでしょ。気兼ねなく煙草が吸えて、うれしいな
って意味です。お分かり?」
「あ、そうですか。そういうことにしときましょう」
「全く……」
 苦笑いしながら野瀬の方を見やった千堂は、内心、ぎょっとしてしまった。
野瀬の表情が相変わらず暗い。
「あの、野瀬さんはいかがです? それでかまいませんか?」
「ええ、好きにして。部屋の中の物を持ち出すの、手続きが結構、ややこしい
みたいだから、やると決まったらてきぱきと動かないと」
 視線を漂わすように、ぼんやりと語る野瀬。
「手続きというのは、警察の……」
「そう。立ち会わせてくれって言ってきているらしくて、今から憂鬱」
「何か証拠を持ち出さないか、見張りって訳ですね」
 不躾に言ったのは、上島。千堂と野瀬が沈黙していると、さすがに間の悪さ
を察したようで、すぐさま言い足す。
「そんな見張りなんて、無駄ですよねぇ。事件に関係ないんだから」
「……正直なところ……恐い」
 野瀬が口を開いた。さっきまでとは、微妙に調子が違う。明るくなったので
はなく、テンションが上がったような色合いがにじみ出ていた。
「知っている人が死ぬ、同じ部屋の人が死ぬ、大学の中で死ぬ。−−殺されて。
普通じゃない」
「野瀬さん……」
「ひょっとしたら、自分も巻き込まれてたんじゃないかって考えると……何も
手に着かなくなる。村木さんみたいに振る舞えない」
 村木は殺人現場の対面にある自室で、今でも事件前と何ら変わるところなく
研究を続けているようである。
「それで普通ですよ。村木さんが特別なん−−」
「そういうことじゃなくて、千堂君。事件がまだ終わってないとしたら……私
も狙われるかもしれない」

−−続




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