AWC ヴェーゼ 第5章  侵攻前夜 15   リーベルG


        
#3657/5495 長編
★タイトル (FJM     )  96/12/28  13:33  (164)
ヴェーゼ 第5章  侵攻前夜 15   リーベルG
★内容

                 15

 12名の兵士たちは、うだるような暑さと、見通しの効かないジャングルに不快
感を募らせながら、ゆっくりと進んでいた。緊張感が持続していた最初の数分はと
もかく、一歩ごとに体力と気力が奪われていくようだった。
 新兵として訓練を受けた時から、あたりまえのように支給されていた数々の装備
がほとんど取り去られていることも、苛立ちを増す原因のひとつだった。シグだけ
は生きているので戦術情報が途絶えることはないが、それも有効距離は14キロ、
条件によっては3キロ弱にまで減衰してしまう。
 兵士たちが握っているのは、H&K社製アサルトライフル、スタッカート:タイ
プIII−α 、5.56mm口径である。ケースレスカートリッジなので、薬莢を必
要としない。スタッカートは、火薬使用の銃器であるが、本来の製品には、ご多分
にもれず、様々な電子補助装置が付いている。それらを全て取り外して、バランス
を調整したバージョンがタイプIII だった。αは、アンストゥル・セヴァルティ仕
様を示している。
 ポイントマン(斥候)として、小隊からやや先行していた兵士が、停止の合図を
送った。小隊長が手を振って指揮下の兵士たちを停止させた。戦術MIによるリア
ルタイム情報サービスに慣れた兵士たちは、完全に停止するまでにやや時間がかか
り、小隊長の表情を曇らせた。
「第5小隊へ。コード4で発信」小隊長は、100メートル左を並行して進んでい
るはずの小隊に呼びかけた。「こちら、第4小隊。そちらの位置は?どうぞ」
『こちら第5小隊。予定通りだ』すぐに応答が返ってきた。『敵の痕跡を発見した
のか?どうぞ』
 小隊長は、かがみこんで地面を調べているポイントマンを注視した。ポイントマ
ンは、失望したように立ち上がると、小さく首を横に振った。
「ネガディブだ。このまま進む。どうぞ」
『第5小隊、了解。予定通りの位置を保つ。どうぞ』
「了解。通信以上」
 まるでその瞬間を待ちかまえていたかのように、ポイントマンの胸に太い矢が突
き立った。
「!」
 ポイントマンは地面に崩れ落ち、膝まである草の中に没した。
「敵襲だ!散開しろ」小隊長は怒鳴った。「2時、および11時の方向を警戒!」
 兵士たちは命令を耳にするよりも先に、姿勢を低くしていた。安全装置を外す音
が一斉に聞こえる。
「まだ発砲するな。半円防御態勢」素早く命じておいてから、小隊長は再び僚隊を
呼び出した。「第5小隊へ。コード6。援護頼む」
『第5小隊、了解。そのままの位置で待て。そちらの8時方向から接近する。どう
ぞ』
「了解。そちらを待つ。通信以上」
 通信を終えた小隊長は、そっと周囲を見回した。ジャングルの中は鳥の声やら、
はいずり回る虫やらでにぎやかだが、敵の気配はない。
「8時方向から第5小隊が接近してくる」兵士たちに告げる。「合流後、敵に反撃
する。各員、即時応戦態勢のまま待機」
 じりじりするような数分が過ぎた。
  倒れたポイントマンは、ぴくりとも動こうとしない。その身体は、仲間の兵士た
ちが姿勢を低くしている場所からは見えず、ただ胸に突き立った矢だけが小さく揺
れている。
「ちくしょう」一人の兵士が囁いた。「どうして、羽根もついていない矢を正確に
命中させられるんだよ」
「どうせ、魔法の矢か何かなんだろう」隣にいた兵士が答える。
「私語をつつしめ」小隊長はたしなめた。
  その言葉に応じるように、固い木の棒に見えた矢から、奇妙な破裂音とともに、
数十本もの細長い触手が四方八方へ伸びた。矢そのものもぐにゃりと折れ曲がり、
ポイントマンの身体に溶け込むように沈んでいく。触手は周囲を見回すように、お
ぞましくうごめいていたが、やがて草の中に消えていった。
 第4小隊の兵士たちは、あっけにとられて、その奇妙な光景を見つめていた。
「助けてくれ……おい、助けてくれよ」
 前方から苦しげなうめき声が届き、全員が飛び上がりそうになった。
「小隊長!」兵士の一人が囁いた。「生きてます!」
「ばかな……」
「助けてくれ、助けてくれよお。おれはここにいるんだ」またもや声が呼びかけた。
小隊長は自分の正気を疑いたくなった。まぎれもなく、矢に射抜かれたはずのポイ
ントマンの声で、彼が倒れた場所から聞こえてくる。
「助けなければ。生きているんですよ!」
「待つんだ!」
「どうして誰も助けに来てくれないんだよお」声は次第に大きくなっていく。「お
まえら、それでも戦友なのかよ……この臆病者どもが」
「小隊長!」
「ばか、落ち着け。これは罠だ。第5小隊が合流するまで待つんだ」
「ちくしょお!痛え!いてえよ!」
 大声が呼びかける。
 とうとう耐えかねたのか、一人の兵士が許可も得ずに飛び出した。教科書通り、
姿勢を低くしてスタッカートを構えていたが、遮蔽物を探すことなどまるで頭にな
いらしかった。数メートル進んだところで、音もなく飛来した第2の矢が無防備の
喉を貫いた。兵士は顎を空に向けて倒れた。
 見守っていた兵士たちは凍りついた。
「おーい、間抜けな戦友たちよお」
 あの声が呼びかけた。苦しげな様子はすっかり失せ、あからさまな嘲りを隠そう
ともしなかった。
「第5小隊へ」小隊長は必死で呼びかけた。「どこにいる?」
『接近中だ、第4小隊』
「あほったれの、くそったれども!何してやがる!おれはここにいるぜ!」
 一人の兵士が、何か言い返そうとしたらしく、ひょいと顔を上げて息を吸い込ん
だ。その瞬間、またしても矢が飛来し、兵士のこめかみを貫いた。
「やられたぞ!」
「左だ」一人の兵士が指した。「左から飛んできたぞ」
「最初の2本は前方からだったぞ」
「どういうことだよ。敵は前方と左にいるってことか?」
「移動したのかもしれん」
「そんなに早く動けるもんかよ」
 兵士たちの緊張と恐怖が、手で触れることができそうなほど高まっていく。小隊
長は警告しようと口を開きかけたが、それより早く第5小隊からの連絡が入った。
『第4小隊へ。こちらのポイントマンが、そちらの小隊を視認した』
「了解、第5小隊」
 小隊長は、ややほっとして、兵士たちにそのことを告げようとした。
 まるで、それを待ちかまえていたように、10を越える矢が四方八方から降り注
ぎ、兵士たちの目の前に次々に突き立った。
「うわあああ!」
 誰も被害を受けなかったものの、兵士たちは暗闇で後ろから突き飛ばされたよう
な反応を示した。
「やめろ!」
 小隊長の制止もむなしく、4、5名の兵士が同時に立ち上がると、ジャングルに
向かって一斉に発砲を始めた。貫通力の高い高速被甲弾が、周囲の緑の壁を切り裂
いていく。銃声につられたように、さらに数人が乱射に加わった。
 第5小隊のポイントマンは、それらの火線のど真ん中に姿を現した。
 それに気付いた何人かが、仲間の銃身をはね上げたものの、すでに手遅れだった。
ポイントマンは数発の銃弾を受けて、後方に吹っ飛んだ。
「ばかもの!」
 小隊長は怒りの声をあげたが、銃声にかき消されてしまう。手近の兵士の腕をつ
かんで発砲をやめさせようとしたとき、その身体を銃弾が貫いた。
 攻撃を受けたと誤認した第5小隊の兵士たちが、一斉に反撃したのである。
 あらゆる軍人が最も恐れる悪夢、同士討ちが始まった。もはや、制止はきかなく
なっていた。実戦経験の少ない兵士たちは、たやすく狂乱状態に陥り、自分以外の
奴は全て敵、と言わんばかりに撃ちまくった。
 比較的冷静な数人が、とっさに隊から離れて身の安全を図ろうとした。だが、彼
らは自分の機転を称賛する間もなく、ジャングルの奥から放たれた矢に、一人ずつ
射倒されていった。
 最後の銃声が止んだとき、立っている者は一人もいなかった。



「話にならんな」ギブスン大佐は苦々しく吐き捨てた。「全く、話にならん。諸君
らが、実際にレヴュー9で戦闘に直面するところをみたいものだ。さぞかし、素晴
らしい喜劇が演じられるだろうな」
 VR戦術シミュレーションから開放された、8個小隊分の兵士たちは言葉もなく
顔を伏せた。
「しかし、大佐どの」第4小隊の小隊長が、弱々しく抗議した。「あのような魔法
の攻撃は、実際には……」
「ありえない、とでも言いたいのかね?」ギブスンは冷たく小隊長を見返した。
「…………」
「これだけは言っておくぞ、諸君」兵士たちをじろりとにらんで、低い声で告げる。
「諸君らは、アンシアンを文明程度の低い未開人か何かだと思っているようだが、
それは間違いだ。ただの間違いではない。諸君らの命と、僚友たちの命を危険にさ
らす、とてつもなく愚かしい間違いだ。アンシアンを甘く見てはいかん。特に彼ら
の魔法を、地球人のそれと同一視するな。アンスティの平凡な農民一人でも、統合
軍一個中隊に匹敵する力を持っている可能性があるのだ」
 兵士たちは固唾を飲んで、ギブスンの言葉に聞き入っている。
「レヴュー9では、原因不明の理由でエレクトロニクスは、ほとんど使用不可能だ。
諸君らが慣れ親しんで来た、レーザー追尾式照準装置も、戦術情報サービスも、空
中機動部隊や長距離要撃兵器の支援も、何一つない。シグだけはかろうじて使える
が、その情報伝達効率は極度に下がり、音声情報のみがサポートされるのだ。
 諸君らは、そうした不利な状態での戦闘に慣れなければならない。1カートリッ
ジ800発のパワー・ライフルではなく、せいぜい60発の火薬式の銃器での戦闘
を身体におぼえこませなければならないのだ。負傷しても、高度医療システムのサ
ポートなど望めないことを忘れてはいかん」
 ギブスンはエンジニアに合図した。
「時間がない。今のをもう一度繰り返してもらおう。条件や、敵の魔法は変化する
が、基本的な対応パターンは変わらない。5分後に始めるぞ」
 兵士たちは疲労の色を見せながらも、感覚遮断ボックスに戻っていった。
「仕方がありませんよ、大佐」6個小隊、つまり一個中隊を指揮する大尉が言った。
「今まで、都市戦用に最適化されてきたのに、いきなりジャングルに放り込まれた
のですからね」
「仕方があろうとなかろうと、やってもらうしかない」ギブスンはシミュレーショ
ンのパラメータを指示しながら答えた。「ムーンゲイトが開くまで90時間しかな
いのだからな。だが、そう心配しなくてもいい」
「といいますと?」
「レヴュー9に入ってすぐに戦闘になる可能性は少ない。現地で訓練を積む時間は
あるだろう。あいつらも、口で言うほど悪くはない」
「だといいんですがね」
「大佐。準備完了です」エンジニアが報告した。
「よし、はじめろ」





前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 リーベルGの作品 リーベルGのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE