AWC ……を待ちながら 3   永山


        
#3640/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/12/24  23:31  (200)
……を待ちながら 3   永山
★内容
「あれは単なる話し上手。僻地でいたずらをしていたのを見つけられ、身が縮
み上る思いです」
「そこまでへりくだるなら、はっきりと問いましょう」
 イェスマは軽く息を吸い、静かに言った。
「ディモ、おまえも何か不思議な力を用いるそうではありませんか。その力、
どのようにして身に着けた? 教えてもらいたいものです」
「はて。イェスマ様にとって不思議な力など、ないでしょう。たいていのこと
をおやりになる」
「それは皮肉ですか?」
 声の調子がきつくなった。慌てたように首を振るディモ。
「とんでもございません。不愉快にお感じになったのであれば、お詫びします。
ただ、私の力と言っても、イェスマ様にできぬことをやっているとは思えませ
んでしたので……」
「さて、どうでしょう。見せてもらいたいですね。この目で確かめたいもので
す。それに、優れた者であれば、すぐにでも召し抱えたいとは、ドゴー様のお
言葉ですよ」
「そこまでおっしゃるのなら、お見せします。−−では、失礼して」
 つい、と立ち上がったディモ。
 イェスマは、目の前の男が何をしでかすのか一部始終を見届けてやろうと、
意識を集中した。
「−−え?」
 叫んだときには、もう遅かった。
 ディモが両手を上方で構えたかと思うと、次の瞬間、振り下ろされてきた左
右の手刀に、イェスマの首は断ぜられてしまった。
 ほとばしる鮮血と共に、イェスマの艶やかな髪が束になって切れ、宙を舞う。
「何をする」
 床に転がった頭部だけで、イェスマは冷静に問い返した。
「このまま復活させて差し上げるのも一興かと」
 ディモは笑っていた。作ったような笑いの奥には、別の感情が隠されている
ように見えなくもない。
「ならば、早くやってみせよ」
 イェスマは完全な命令口調になっていた。ディモのあまりに突飛な振る舞い
に、さすがの彼女も思考が混乱している。
「ですが、それでは面白くない。ドゴー様と同じになってしまう」
「……何がしたい?」
 そう問うたイェスマの頭部が、ひょいと持ち上げられた。ディモと向き合う
格好である。
「さすが、不死身のイェスマ様。この程度では平気ですね」
「……」
「もしも、不死身のあなたに死を与えることに成功すれば、私を高く買ってい
ただけるでしょうかね?」
「−−貴様」
 イェスマは、血の気が引いたような気がした。もっとも、元々白い顔をして
いる上に、現在の彼女は首から下がないのだから、血が引くも何もあったもの
ではないが。
「どうして護衛の者を連れて来なかったんです? 私をそんなに甘く見ていま
したか? それとも助けをこれから呼ぶつもりですか?」
「おまえは安心しているのか? 声としては聞こえずとも、私は他者の心に呼
びかけることができる。先ほどおまえ達を取り巻いていた村の者共を呼んで、
おまえを殺してやる」
「−−どうぞ、やってご覧なさい」
 ディモの自信に満ちた返答に、イェスマは躊躇した。相手の自信がどこから
来るのか、掴めない。
「どうしました? やめるのですか。賢明かもしれません。多人数にかかって
いたぶられながら死ぬよりも、一人の手で殺される方がまだましでしょう」
「まさか……」
「まさか、何です?」
 ディモは嘲笑を浮かべた。
「私も神になってみようと思ったのです。少しずつですが、確実に信者を増や
していましてね。この村の者は全員−−ま、昨日生まれた赤子までは無理です
が−−、私の信奉者です。ここにいるのは、あなたを殺すことを何とも思って
いない者ばかりですよ」
「おのれ」
 歯がみするイェスマ。が、どうしようもない。いくらか使える術・力も、デ
ィモには通じないことが分かってしまったのだ。
「ディモ……おまえは我らと同類だね?」
「そうだよ。だから知っているのさ」
 イェスマの顔に、力が加わった。
 そして急激に起こる意識の混濁−−。
 彼女が最後に聞いたのは、ディモの次の言葉だったかもしれない。
「不死身のイェスマ様の命を絶つ方法をね。あなたの脳を潰せば、いくら不死
の技術があってもあなたは死ぬ」

           *           *

 眼前、レグナの数は百を下らないだろう。イェスマ倒れるの方を受けたドゴ
ーが送り出したに違いない。
 たくさん生み出したものだ。ディモは−−ドグは半ば、呆れていた。
「こういうのも、宗教戦争と言うのだろうか」
 独りごちてから、立ち上がる。
 味方はいないと言っていい。一村落の者全員を暗示によって信奉者に仕立て
たドグであったが、すでに彼らの意識は解放されていた。これから先、この星
の人達の力を借りる訳にはいかない。わずかに、スタンとヴィルの二人が、裏
の事情を知るだけだ。
 ドグは筒のような金属製の道具を背負うと、慎重にそれを作動させた。ふわ
りと浮く。
 レグナ達もドグの動きに気付いたか、一斉に矢を射てきた。数はやたらに多
いが、当たりはしない。射程距離を全く考えていないとしか思えない。
 ドグは自分の想像が当たっていたことに、ほっと胸をなで下ろしていた。
(レグナ共にとって、飛行能力が最大の武器だ。血を走り回る者を狙う場合、
圧倒的に有利だろうが、こちらも同程度に飛べるとなれば戦略の差が出る)
 ドグはまず、レグナの飛行速度を測ってみた。挑発して、追いかけさせる。
 怒りの表情も露骨に、レグナの一人が追って来たが、ドグに追いつくことは
なかった。最高速度を持続させるのも難しいようだ。
(鳥の翼を着けたところで、所詮は紛い物ということか)
 次に、手にした火器の威力を確かめにかかる。狙いは翼。レグナ達は全員、
この星の者達であるから、殺したくはない。なるべく低空で、翼だけ焼き尽く
せばいいだろう。
 さすがにこれは難しい。自分の体勢を整えながら、照準を合わせるのは常に
集中力を要する。狙いがそれて、肉体そのものを傷つけるに忍びず、ドグは火
力を押さえ加減に、翼の先端のみを燃やすよう心がけた。
 残る問題は、燃料のある内に全てを落とせるかどうか。
 が、その心配は無用だった。
「貴様、何者だ?」
 数名のレグナに囲まれる形で、ドゴー本人が姿を見せた。ゆったりとした白
布を頭からすっぽり被り、宙に浮く彼は、探るような視線を投げてくる。
「分かるだろう? 同類だ」
 ドグが言い返すと、ドゴーは苦い表情を浮かべ、口中から何かを引っ張り出
した。それは球状の黒い物体−−翻訳機だ。
「まさか、本当に……」
 ドゴーの口からは、母星での言葉が流れ出てきた。ドグも翻訳機を外す。
「まだ報告は行ってなかったようだな。とっくにばれているものと思ったが。
私は案外、小物と見られているらしい。結構なことだ」
「おまえは……ソックの者だな?」
 それは、ドグの属する団体の名。人口問題解決のために他の星への移住する
計画が具体化するに伴い、それに反対する者が集まってできたのがソックだ。
公的な活動は政府によって全て禁じられている。
「イェスマを殺したのは貴様か」
「星に帰れば、再生可能かもしれない。まだ」
 嘲るように言ったドグ。
「もっとも、彼女が死のうが生きようが、自分に罪悪感は微塵もない。おまえ
達がやろうとしてる侵略を食い止めるためなら、何だってする」
「……」
「さあ、さっさとけりを着けようじゃないか。長引かせるとおまえに応援が来
るかもしれないしな」
「待て。考えろ」
 狼狽したように、早口で言うドゴー。彼を神と信じる者達が、この言葉を解
せたとしたら、どう思ったであろう。
「相打ちの可能性が高いぞ。それを避け得たとしても、深手を負うは必至」
「戦う前に喋るのは趣味じゃない。いいか、これまで何度も話し合ってきたが、
我々ソックの意見はことごとく無視された。もはや実力行使しかない」
「……ここまで築いてきた基盤を崩す訳にはいかない。今からでも遅くない。
話を聞こうじゃないか」
「ドゴー、おまえはこの星でこそ『神』だが、実際はただの役人。そんな人間
に要求を突きつけたところで、通るはずがない。時間の引き延ばしは認めん」
「では……おまえが仕掛けてくるのであれば、私は住人を殺して回ってやる」
「できるのか? 折角、『神』として崇め奉られかけているのにな。本国の司
令を待たず、『悪魔』に身をやつすか?」
「名前は関係ない。支配できるか否か、それだけだ」
「−−終わりだ」
 ドグは第一撃を食らわせるために、かまえて−−。

           *           *

 全身、血にまみれて墜ちていくドゴー。
 神の敗北を目の当たりにした信奉者達は、一斉に衝撃を受けた。その内の一
人、カナベルも同じである。目を白黒させ、動揺を露にしたその若者は、意味
不明の言葉をわめきながら、ドゴーを倒した怪異な存在へ突進を始めた。
「愚かしい。無駄だ。やめておけ」
 宙に浮いたまま、侵略者は忠告を発した。それでも止まらなかったカナベル
は、手にしていた槍を、天めがけて力一杯放った。緩い弧を描きつつ、高さを
稼いだ槍だったが、侵略者には届かなかった。
「小賢しい。己を知るがよい。ドゴーは死んだのだ」
 高らかに宣言する侵略者。カナベルらは黙って聞く他なかった。
「ドゴーに支配されていた者共よ。ドゴーに死をくれてやった私にかなうはず
がない。新しい主は私しかおらん。刃向かう者に命はない」
 ある者はうつむき、またある者は歯ぎしりをしていた。が、実際に行動に出
る者はもはやいない。
「さあ、服従の証を示せ。ドゴーにしていたように、私に祈りを捧げよ!」
 顔を見合わせ、しばし逡巡する間があってから、カナベルらは膝をついた。
こうするしか助かる道はない。そう判断しての行動。
 が、ずらりとひれ伏す人々の合間を縫うように、二人の男が飛び出してきた。
「ぬ? 何のつもりだ?」
 侵略者の発した戸惑ったような声で、カナベル達も異変に気が付く。顔を上
げ、不意に現れた二人に目が行く。
「あ!」
 その者達の顔を見て、思わず叫ぶカナベル。
「お尋ね者の……スタンとヴィル!」
 立ち上がりかけるカナベルだったが、そんな彼の動きを無視するように、ス
タンとヴィルは侵略者のほぼ真下まで一気に達すると、立ち止まった。
「何だ、貴様達は」
 侵略者の不快げな声が響く。
「俺達は支配されるなんて、真っ平御免なもんでね。自己主張しに来た訳さ」
 スタンがそう叫んだのを見て、カナベルの頭の中は混乱を起こしていた。
(あいつら……敵じゃないのか? ドゴー様が倒れ、嬉々として大きな顔をす
るものと思っていた……)
 カナベルの仲間達も同じ思いなのであろう。一様に怪訝な表情をしている。
「おまえがドゴーをやったからって、俺達が屈服する理由はどこにもない!」
「−−面白い」
 侵略者の声には、嘲りの色が混じったようだ。
「やってみよ。このごみが!」
 スタンとヴィルは顔を見合わせると、一本の矢を弓につがえる。金色の矢だ。
 跪いたヴィルが狙いを定め、スタンが弦を力強く絞った。
「−−食らえ!」
 金の矢は予想外に加速し、一直線に上昇すると侵略者の胸板を打ち抜いた。
「−−」
 侵略者は声もなく身体を震わせると、きりきり舞いをするように宙をさまよ
い、やがて渦を巻きながら彼方へと消えていく……。
 しばしの静寂の後、スタン達の後方から、歓声が上がった。カナベルらはス
タンとヴィルに駆け寄ると、その両手を取り、上下に大きく振った。

(大げさな芝居だったぜ。でも、これで我々は正しい方向へ進んでいける)
 ドグが消えていった方を眺めやりながら、スタンは考えていた。
(第二のドゴーが現れても、決して屈しない)

 惑星**を飛び立ち、惑星※※に降り立ったドグの役目は……終わった。

註.上の一文の**、※※のいずれかへ「地球」を当てはめてみてください。

−−終




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