#3590/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 21: 3 ( 73)
雪原のワルキューレ37 つきかげ
★内容
ここは、お前達の来るところではない」
竦みあがっている人間達の中で、ブラックソウルがただ一人、不敵な笑みをみせてい
る。ブラックソウルが言った。
「用事が済めば、帰りますよ」
黒曜石のように、瞳を煌めかす。
「黄金の林檎が得られれば」
「お前には、無理だな」フレヤは静かに、宣言した。「ここに残るというのであれば」
フレヤの瞳は、真冬の烈風を思わす光を宿した。「ムシけらにふさわしい、惨めな死を
与えてやろう」
ブラックソウルは、哄笑した。ケインとジークは、とっくに姿を隠している。「死は
総ての者に、等しく与えられる。神ですら例外ではない。お前にもだ、最後の巨人」
フレヤの背後で、アニムスが跳躍した。火焔の入れ墨を持った戦士は、フレヤの頭を
越えるほど高く跳躍し、空中で旋風のように身を回転させ、剣を振るう。
避けようのない速度とタイミングで、剣はフレヤの首筋めがけて走る。フレヤは、羽
虫の気配を感じたというかのように、軽く片手を振った。
みちっと肉を打つ音がし、アニムスの体が宙を飛ぶ。まるで投げ捨てられた、子供の
おもちゃの人形のように、アニムスの体は飛んで行き、柱にぶつかった。10メートル
以上の距離を、跳ね飛ばされている。
濡れた音がし、柱にぶつかったアニムスの頭が、粉砕された。真紅の絵の具を、巨大
な刷毛で塗ったように、柱に紅い線が引かれる。
ごみくずのように、床へアニムスの死体が落ちた。フレヤは、背後を見ようともしな
い。何かが死んだという意識すら、ないようだ。美しい笑みは、救いの女神を思わすが
、その笑みの背後には、魔神の凶悪さが潜んでいる。
フレディは、膝が震えるのを感じた。人智を越えた、魔法的存在と戦ったことも、幾
度かある。しかし、今、目の前にいる巨人は、圧倒的な物理的力であるとともに、得体
のしれぬ神秘的存在であった。そんな物に出会ったのは、これが始めである。
「くそっ」
フレディは、剣を抜く。フレヤの前に、立ちふさがった。フレヤは、涼しげな青い瞳
で、フレディを見おろす。
一瞬、風が起こった。フレヤが、腰のスリングから剣を抜いた為だ。それは、巨大な
鉄材を思わす、剣である。
その剣は、フレディの頭上に掲げられた。フレディは鋼鉄の塊が、軽々と片手で持ち
上げられ、頭上で舞うのを見、恐怖を感じる。
(飛び込むしかない)
フレディは、フレヤの足元へ向かって、跳んだ。そこであれば、剣も振るえないはず
である。フレヤの臑へ斬りつけようと、構える。
フレヤの足が、ふっと動いた。フレディは、自分が暴風に飲み込まれたのかと感じる
。フレディの体は、紙人形のように宙を舞っていた。
そのまま聖壇を軽々と越え、その背後の壁画へ激突する。黄金の林檎の木を描いた部
分に、真紅の血飛沫がかかり、床へ落ちた死体は、鞠のように跳ね、転がった。
「せめて、剣で死なせてやろうと思ったが」フレヤの口元が、苦笑に歪む。「自らムシ
けらのような、死に様を選ぶとはな」
フレヤの背後から、黒衣のロキが進みでた。
「オーラの手のものだな、お前達は」
ブラックソウルは、配下の者の無惨な死を見ても、顔色一つ変えていない。
「おれは、オーラ参謀ブラックソウルだ。あんたは?」
「ロキ、といえば判るだろう」
ブラックソウルは、怪訝な顔をする。
「ロキ殿?ロキ殿は、オーラ首都の水晶塔におられるはず。お前は何者だ?」
ロキは、静かに言った。
「ロキとは、一人ではない。私もまた、ロキの一人」
「よく判らんが、まぁいい。あんたその巨人と、何をするつもりなんだ」
「おまえと同じさ。黄金の林檎を求めて、ここへ来た。おまえは帰るがいい、オーラ