#3566/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:43 ( 83)
雪原のワルキューレ13 つきかげ
★内容
砲を持っていた。雷管式の、オーラ製の火砲らしい。長さは、五十センチほど、口径は
三センチほどだ。
陶器の榴散弾を発射するタイプで、陶器の砲の中に尖った鉄のかけらを詰め込んだも
のが炸裂し、命中すれば人の頭を粉々にするくらいのパワーがある。男達は火砲を片手
で保持していた。
「楽しそうな玩具を、持ってるね」
ジークは、子供のように無邪気に笑って言った。
「射ってごらんよ。ただし、射つなら必ず頭を狙いなよ。それ以外の場所に当たれば、
あんたたち死ぬよ」
ジークはそういうと、左手を揺らす。黒い死神の鎌のように、左手が揺れる。火砲を
持った男達の間に、微かな動揺が走った。ゲールは、命ずる。
「射て!」
ゲールが叫ぶと同時に、座ったままのケインの右手が素早く動く。何かが空を裂く音
がした。
「うっ」
「つうっ」
火砲を持った男達の呻き声と共に、三本の指が木から落ちた芋虫のように、床へ転が
った。男達の引き金に掛けられていた指が、鋭利な刃物で切断されている。火砲の銃把
が血に塗れた。
「こんな所でそんなもの、ぶっぱなしてほしくないね」
ケインの軽く挙げた右手の先で、何かが光った。それは氷のように透明な、剣である
。透明な剣の中で閉じこめられた光が、七色に輝き、あたかも清流が日差しを浴びて煌
めくように反射した。それは三日月型をした、刃渡り二十センチほどの剣である。その
一方の端にはエルフの紡いだ絹糸がつけられており、糸はケインの上着の袖口の中へと
続いていた。
ゲールが呻くように言った。
「水晶剣……、あんた西方のユンクの弟子なのか?」
水晶製の剣、それは武器というにはあまりに華奢で、かつ清冽な美しさを備えている
。ユンクは、その剣を使った剣術を開発した西方一の剣士であり、ケインの師であった
。
ケインは苦笑する。
「よく知っているな。物知り博士か、あんた?」ケインは水晶によって造られた、透明
の三日月型の剣を、袖口にある鞘へ納めた。水晶剣は、隠密性の高い武器である。肉眼
では捕らえにくい透明の剣を飛ばし、細くて丈夫なエルフの絹糸で操るという術を知る
者は、少ない。
ゲールは、片手をあげる。まわりの男達は、剣を納めた。傷を負った者は、奥へ退が
る。
「あんた達を、本物と認めよう。ケインとジーク。あんた達となら、ナイトフレイムの
宮殿へ行くことができそうだ」
ジークはケラケラ笑った。
「始めっからいってんじゃん。おれは地上最強だって。ま、いいよ。お宝の話しようか
」
そういうと、ジークはどっかりと腰をおろした。ゲールはその前に腰をおろし、改め
てジークの左手を見る。
まるで日差しの下の影が、実体と入れ替わったかのような左手を、ジークはテーブル
に置いていた。ゲールが尋ねる。
「それにしても、どうやったら、そんな手ができるんだ?」
「この大陸の東南のほう、クメンとバグダッシュの間のあたりの密林地帯には、黒砂蟲
というやつがいる」
黒砂は鋼鉄以上の硬度を持つ、特殊な黒い金属の砂鉄である。その砂鉄の中には、黒
砂蟲というスライム状のごく小さな虫が棲んでいた。その蚤よりも小さな虫は、柔らか
い体表を外敵から守るため、黒砂を使って殻を造る。
この黒砂蟲は、動物の体にへばりつき、その血肉を喰らう。そして、黒砂蟲は一匹々
は小さな虫だが、集団になると擬態を行う習性をもつ。すなわち、動物の体の一部分を
喰らうと、その喰った部分の擬態を行うわけである。
例えば、足を喰らえば足を、手を喰えば