#3561/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:35 ( 75)
雪原のワルキューレ8 つきかげ
★内容
の類なら想像もできるが、女の巨人となると、よけい醜悪に思われる。
ジーンは余計な想いを振り払い、外を眺めた。時おり稲妻が走るらしく、轟音ととも
に、広がる森林と山が闇の中に浮かび上がる。
突然、光と天上で宮殿が崩れ落ちるような轟音と共に、その男の姿が入り口に浮かび
上がった。
「何!」
ジーンは想わず立ち上がり、腰の剣に手を掛ける。その黒い人影は、足を進め、篝火
の明かりの中に入ってきた。
「驚かせて、すまない」
その、雨に塗れた体を火にあてながら、男は言った。
「道に迷った。怪しい者じゃない。暫く休ませてくれ」
男は、つばの広い帽子を被り、マントの衿を立てている。その顔はよく見えないが、
目鼻立ちはよく整っているようだ。ただ、表情がほとんどなく、仮面か彫像の顔を想わ
せる。歳はひどく若くも見え、老いているようにも見えた。
「道に迷っただと」ジーンは、剣の柄に手をかけたまま、男に近づく。男は火を背に立
つ形になり、再びその姿は黒い影となった。
「ここに来るには、城の地下から来るか、崖をよじ登ってくるしかない。道に迷って城
の地下から外に出るとは考えられない。とすれば、崖をよじ登ったということだ。この
嵐の夜に」
男は、微笑んだように見えた。そういう形に、顔を歪めたというべきかもしれない。
ジーンにはその男がなぜか、妖魔の類に思えた。
「森で嵐にあった。進む道がわからず、見上げるとここの灯が見えた。嵐をしのがない
と、凍え死にそうだったので、何とか登ったんだ。見てくれ、私は武器を身につけてい
ない」
男は、マントをはだけて、腰を見せた。腰に剣のようなものが吊るされている。男は
それを抜いた。ジーンは、思わず剣を抜く。
「これは剣じゃない」
男の言う通り、それは鉄鞭であり、刃はなくただの鉄の棒であった。ただ、鉄鞭でも
人を殴り殺せる。
「そいつを足もとにおけ」
男は言われた通りにした。
「まず、名前を聞こうか」
「ロキという。ヴァーハイムの産まれだ。訳あって諸国を旅している」
「あんたは、崖をよじ登ったのになぜ息を切らしていない。疲れたふうには、見えない
が」
ロキと名乗った男は、肩を竦めた。
「そう見えないだけさ」
「とにかく、ここは重大な反逆者を閉じこめた牢獄だ。旅人を、泊めるところではない
。ここをさらに登れば、城の地下へ着く。あんたが、本当に信頼できる人物なら、城に
入れてもらえるさ」
「間違ってはいなかったようだ」
ロキはまるで、宣言するように言った。とたんに、とてつもない威圧感が漂い始める
。
「ラーゴスのフレヤは、ここに閉じこめられているのだな」
ロキは、感情の全くこもらない声で言った。
「貴様、」ジーンは恐怖を感じ、数歩下がる。それを追って、ロキが近づいた。
「来るな!」
ジーンは叫ぶと、剣でロキに斬りかかった。ギン、とロキの首筋に当たった剣は、甲
高い音を立てへし折れる。まるで、岩に剣をぶちあてた様な、手ごたえだった。
「馬鹿な」ジーンが呆然と呟くと同時に、ロキの拳が、ジーンの顎先を捕らえた。ジー
ンは、一撃で意識を失い、牢獄の床へ転がる。ロキは、片隅にあった荷造り用らしい紐
で、手早くジーンを縛りあげた。
そして、その黒衣のロキは、マントの裾を靡かせ、牢獄の奥へと向かう。
牢獄の奥は、自然の洞窟を思わせる、岩盤をくり貫いた通路になっていた。仮眠室