#3554/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:22 ( 76)
雪原のワルキューレ1 つきかげ
★内容
雪原のワルキューレ
雪原には容赦のない陽の光が、振りそそいでいた。
真白く輝く雪原には、死体が横たわっている。それは、銀の海に漂う黒い魚達のよう
にも見えた。そして輝く雪原につけられた染みのような血は、光の中におちた昏い影の
ように見える。
中原の遥か東北、このラーゴスの山中にて、戦いはすでに終結しつつあった。横たわ
っている死体の大半は蛮族のものである。彼らは、戦いと略奪の中で生活し、戦場にて
死ぬことを誉れとする種族であった。
蛮族達を罠にかけ、全滅させたのは北方の文明国、ライゴールの戦士達である。彼ら
の目的は蛮族を排除することと、彼らの首領を生け捕りにすることであった。そして、
鋼の鎧で武装した彼らは目的を達しつつある。最後に残ったのは、蛮族の首領のみであ
った。
ライゴールの兵は、自分たちの対峙している相手が追いつめられているとは思ってい
ない。むしろ、自分たちこそが、怒れる神に差し出された生け贄だと思えた。そう、彼
らの戦おうとしているのは蛮族の王ではなく、血に飢えた戦いの武神に見えたのだ。
血塗られた剣を構えたライゴールの兵達が囲んでいるその相手は、身のたけが4メー
トルはある巨人であった。その巨人は通常の巨人族にありがちな、身体の歪んだ部分が
全くなかった。その四肢のバランスは美の化身といってもいいほど見事である。
その巨人は女性であった。白銀の鎧の上に、純白のマントを羽織った真白き巨人は、
輝く黄金色の髪を風になびかせ、美の女神のごとき美しい顔を怒りで曇らせている。
彼女の持つのは2メートル以上ある長大な剣であった。常人であれば二人がかりでも
持てないような巨大な剣を、片手で軽々と持っている。そしてその剣は存分にライゴー
ル兵の血を、吸っていた。
兵士達は完全に魅了されている。その美しく強大な、死の女神に。彼女は雪原を吹き
渡り、生きるものを死滅しつくす、山上の吹雪であった。その剣は凍てついた猛風であ
り、青く怒りに燃える瞳は兵士たちの魂を氷つかせる。
ライゴール兵の隊長が、気をとりなおし、叫んだ。
「怯むな、おまえ達、隊形を整えなおせ!俺とミカウの隊が正面、オーリの隊が右、ギ
ルの隊が左だ。コーウェン、後ろに回り込め、一斉に攻撃するぞ!」
隊長の声にしたがって、三人一組の小隊が体勢を整え、布陣をとる。
そのとき、美しき巨人が哄笑した。兵士達の動きが止まる。
「愚かな、なぜ逃げ出さない。死ぬぞ、貴様ら」
怒りに燃える瞳を持った巨人は、笑顔で言った。
「おまえ達、か弱き小人ども、死ぬのか?ここで」
正面に立ったライゴール兵の隊長は、剣をふりあげ、叫ぼうとする。巨人はその時、
動いた。
まるで天上から落ちる雷のごとく、剣が振り降ろされる。巨人の振るう剣は、渓谷を
抜ける突風のごとき速さで走り抜けた。
巨人族にありがちな緩慢な動作とは無縁の、むしろ常人の数倍速い動きである。 ラ
イゴール兵の隊長は一瞬、視界が真っ青になったのに驚く。彼が、その青が晴れ渡った
空だと気がついた時には、絶命していた。巨人の剣は彼の右肩から入り、左脇下から抜
けている。剣の動きがあまりに速かったため、苦痛すら感じる暇はなかったはずだ。
巨人の剣は容赦なく、猛威を振るった。振り降ろされた剣が再度ふり上げられる時に
は、二人の兵を跳ね飛ばし、死の稲妻としてふり降ろされた時には、三人の兵士が、首
を跳ねられている。
巨人は踊るように、動いた。巨大な身体は、風に舞うように、軽々と動く。それはま
さに、死をもたらす真白き暴風であった。兵士は自分の剣で巨人の剣を、受けようとし
たが、全く無意味であった。
兵士の持つ長剣は、枯れ枝のように青白