#3550/5495 長編
★タイトル (ZWN ) 96/11/19 22: 5 (197)
「魔術師」3回
★内容
「大丈夫。絶対にここから出て見せる。たとえ、助けが来なく
ても」
伊集院はそう言って和巳を落ち着かせた。
「そうだよね。きっと帰れるよね・・・」
和巳はそう言って、自分を落ち着かせていた。
「ちょっと外に行ってくる」
伊集院はそう言って、部屋を出ていった。
行き着いた場所は、つり橋があった場所だった。伊集院はどう
しても引っかかることがあったのだ。それを確かめるためにここ
に来たのである。
伊集院は切られたつり橋を少しずつ引き上げた。切り口が見え
てきたのは、引き上げ初めてから10分後だった。
「これは・・・!?」
伊集院は切り口を見て言葉が出た。自然に切れた跡があるのだ
が、その上に、明らかに刃物で切った後がついていたのである。
伊集院はあの赤の物体が、人物だったのではないかと、思い始め
た。すると、あれが誰なのか、と言う新たな疑問が伊集院の頭に
現れた。
「もともと、このつり橋を壊すために切れ目を入れていた?と
言うことは、誰が死んでもおかしくなかったのでは?あの赤い人
物は、無差別殺人を装ったのか?」
伊集院はボソボソっと言った。
そして、部屋へと戻っていった。
「何処行ってたの?」
「つり橋を見に」
伊集院が手を洗いながら答えた。
「何かあったの?」
和巳が尋ねた。
伊集院は答えるべきか悩んだ。そして、
「なにもなかった」
伊集院はとっさにそう答えた。
「そう。夕食まで大分時間があるから、何かしない?」
和巳は質問の方向を変えてきた。
「そうだね、で、何するの」
伊集院がそう言うと、和巳は考え込んだ。
考え込んだすえ、
「やる事ないね」
伊集院は和巳がそう答えると窓際によって、大声で笑った。
和巳はふてくされていた。
夕食が始まったのは昨日と同じ7時だった。食事中、皆不安に
思いながら食べているようだった。それでも、沈黙という厚い壁
はなく、ある程度だが、言葉が飛び交っていた。その言葉の中に
は、昼間のことについては何1つ出てこなかった。
「先生?小説の方は進んでます?」
陽子が誠治に尋ねる。と、
「えぇ、まあまあと言うところですか・・・」
「もし良かったら、この本にサイン貰えます?」
陽子はそう言って、バックの中から1冊の文庫本を出した。
「えぇ、いいですよ」
誠治はそう言うと、陽子から本を取り、サインを書いて返した。
それから、陽子と誠治は、その本やその他の作品について話し
合っていた。その他の人は、食事が終わると部屋へと帰っていっ
た。伊集院も例外ではなく、部屋へと帰っていった。
伊集院はそのままの格好でベッドの上に寝そべって、窓の外を
眺めていた。和巳は伊集院の部屋にはいなく。自分の部屋へと帰
っていったみたいである。伊集院は、いつの間にか眠りについて
いた。
月はこうこうと照っている。風はなく、窓を開けていると涼し
い空気が流れ込んでくる。音は何も聞こえず、静かな夜を楽しめ
る。
4
昨日と同じように、太陽の光で目を覚ました。伊集院は自分の
隣にもう1つの気配を感じた。伊集院は起こさないようにベッド
から出て、その気配の正体を確かめた。
「なんだ・・・和巳か・・・」
伊集院は足音1つたてずに部屋を出て、風呂に入りに行った。
そして、また、静かに部屋に戻って、いすに座って朝の空に見と
れていた。
「うん?もう朝か・・・」
和巳はそう言いながらベッドから起き上がった。
「おはよう」
伊集院は和巳にそう言った。
「おはようー」
和巳はそう言うと伊集院の部屋を出ていった。和巳が部屋に戻
ってきたのは30分以上経ってからだった。髪の毛を潤いを帯び
ていて、シャンプーの香りが部屋中に充満した。
「そういえば、翔君。部屋の前に手紙が置いてあったよ」
和巳はそう言うと、伊集院に紅(あか)色の封筒を渡した。
伊集院はその封筒を和巳から渡されたとき、昨日見た赤いマン
トの人物の姿を思い出した。伊集院は封筒を開けると、中から便
せんを出して、文字に目をやった。
***************************
魔術師が 赤い服着た魔術師が 一歩一歩歩みよる
夜深し 月光輝く部屋の中 人を殺しにやってくる
白い壁 赤い液体振りまいて 座り込んで動かない
魔術師は 壁の絵を見て真似をする そして闇へと去りて行く
***************************
伊集院は読み終わると和巳に、
「この館に,絵って置いてある?」
「うん、何枚か置いてあるけど・・・」
「白い壁が描かれているものってある?」
「うん。あるけど・・・。それがどうかしたの?」
和巳か不思議そうに聞く。が、伊集院は和巳のそんな言葉を聞
いてはいなかった。今、頭の中では便せんに書かれた4行の文に
ついてで頭が一杯だったからである。
「何処にその絵はある?」
「確か、西部の2階の部屋だったと思うわ・・・」
和巳はそう答えた。
「正確な位置はわかる?」
「うん。真ん中の部屋よ。でも、今は菊子さんがあそこの部屋
を使っているけど」
和巳のその言葉を聞いて、伊集院はまた、便せんに目をやった。
<壁の絵を見て真似をする>という1文が、妙に伊集院の頭か離
れなかった。
「もしかすると・・・」
伊集院はそう口に出すと、急いで部屋を出た。階段をかけ降り
て、西部の2階へと上がっていった。真ん中の部屋の前に立つと、
伊集院はドアをノックした。
「菊子さん。菊子さん」
伊集院はそう言いながら、ドンドンとドアをたたいた。しかし、
一向として、中からは返事は返って来なかった。伊集院は急いで
自分の部屋に戻って、和巳に、
「部屋の合いカギあるか?」
「うん。叔父さまの所に行けば」
「急いでそれを取ってきて、菊子さんの部屋に持ってきてほし
いんだ」
「わかったわ」
和巳はそう言うと部屋を出ていった。伊集院もその後を追って、
部屋を出て、菊子の部屋を目指した。
伊集院は菊子の部屋の前に来ると、再びドアをノックした。ど
れだけドアをノックしても、中からの応答はなかった。それでも、
伊集院はドアを、壊れるくらい叩いた。和巳はまだ、その場には
現れなかった。
和巳が合いカギを持って、菊子の部屋の前に来たのは、7分も
後のことだった。
「早くカギを」
伊集院はそう言う。
和巳は急いで手に持っている合いカギを渡した。
伊集院はその合いカギを1本ずつ、かぎ穴に差し込んでいった。
閉ざされたドアが開いたのは9本目のカギを回したときだった。
伊集院はカギが外れると、ドアを勢いよく開けた。窓の近くに赤
いマントを羽織った人物がいた。
「あの時の・・・」
伊集院はその人物に向かって言う。
その時、その人物は窓の外へと消えていった。
「ヤローーー」
伊集院はそう言うと、その窓へと走り寄った。伊集院は窓の外
を覗いた。そこにはもう、その姿が無く、しかも2階である。こ
この建物の高さは、一般的なものと違い、ここの2階は一般の3
階に相当する高さである。
「菊子さんは」
伊集院がそう言うと、和巳は部屋を見渡した。しかし、その部
屋には菊子の姿はなかった。
「絵は何処に?」
伊集院は尋ねる。
「隣の部屋よ」
和巳がそう答えると伊集院は、
「壁紙の色は?」
「白よ」
「まさか・・・」
伊集院はそう言うと隣の部屋へと向かった。
「和巳は来るな!!」
そう言って伊集院は、部屋のドアを開けた。
そこには、白い壁紙が赤く染まっていて、その下には変わり果
てた菊子の姿があった。絵は、その姿の直ぐ横に、象徴するかの
ように飾られていた。菊子は息をしている気配は感じられなかっ
た。
「どうしたの?」
和巳が部屋へ、入ってこようとした。
「和巳、入るな!時夫さんやその他の男の人をこの部屋に呼ん
でくれ」
「わかったわ」
和美はそう言うと部屋を出ていった。伊集院も和美が部屋を出
た後、その部屋を出て、リビングルームに行った。
5
「どうしたんです、伊集院さん」
時夫はそう言って、菊子の部屋に入ってきた。それは、和巳が
皆を呼びに言った10分後のことである。時夫の後に隼人が、そ
して、幸助と慎治、誠治に幸夫の順に部屋に入ってきた。その6
人は、何でこの部屋に呼ばれたか、わからないと言う顔をしてい
た。多分、和巳は6人に何も言わないでここに連れてきたからで
ある。
「こんな手紙が、僕の部屋の前にあったんですよ」
伊集院はそういうと6人に手紙を見せた。その手紙を見たもの
は血の気が無くなったかのように顔を青くした。手紙を持った手
が震え出したり、額に汗をかいたり、体全身の力が抜けたように
なったりと、人それぞれだったが、皆一様に恐怖を感じているよ
うだった。
「なんなんだね、これは?」
幸夫が伊集院に尋ねた。
「予告状でしょう」
伊集院はそう答えた。
「予告状?」
慎治が聞く。
「気が小さい方は見ないほうがいいですが、となりの寝室を見
てください」
伊集院がそういうと、真っ先に誠治が寝室へと向かった。さす
が作家だと、伊集院は納得した。
アーーーーーーーーーー!!!