#3522/5495 長編
★タイトル (ZWN ) 96/11/ 7 18:23 (198)
月光3 金剛寺 零
★内容
少し立ち話をしていた。そして、来た道を返っていった。
晋太郎は荷物を置くと「月光山」へ向かうことにした。
晋太郎が「月光山」についたのは8時を少し過ぎていた。荷物
の整理やその他色々な事をしていたせいで、こんな時間になって
しまったのである。
車を降り、辺りの情景を頭の中に入れた。「月光塚」という看
板を見つけた。そして晋太郎は、思うがまま歩いていた。
晋太郎は「月光塚」の辺りをグルグルと歩き回った。そして、
ふと下を見た瞬間、地面に血痕がついていることに気がついた。
そして、何かを引きずったあとのような跡もついていた。
晋太郎はその跡をたどって歩いていった。すると、その先は崖
になっていた。晋太郎は上から下を覗いた。森になっているらし
く、仮に死体が捨てられていたとしても、まだ、あの森の中にあ
る可能性もあると、晋太郎は考え、車で下に広がる森に移動した。
その森は想像以上に茂っていた。到底一人で捜すのは無理だと
わかっていた。しかし晋太郎は丹念にゆっくりと捜し始めた。
時間だけが刻一刻と過ぎていく。今まで朝日だった太陽が、今
際すっかり夕日に変わっていた。晋太郎は汗だくになりながらも、
”木戸真理子”かもしれない死体を捜していた。
陽が水平線に沈もうとしているときに、晋太郎は死体を発見し
た。写真から判断して、”木戸真理子”に間違いないと晋太郎は
判断した。
晋太郎はその死体を背負って森を出て、もっていた携帯電話で
山梨県警に電話した。県警がこの現場に着いたのは、それから1
5分ほど後のことである。晋太郎は事細かに死体発見の状況を説
明したうえで、
「警視庁には、貴方が発見したと言ってください」
と、頼み込んだ。
「ええ、いいですが」
そういうと晋太郎は名刺を出して、
「何かあったら、ここに書いてある携帯に電話を下さい。万が
一つながらなかったら「赤月光」に電話を下さい」
「わかりました」
晋太郎は死体を県警に引き渡すと、車に乗り込んで「赤月光」
へと戻っていった。
晋太郎は「赤月光」に着き次第、孝太郎の元へ電話をかけた。
「もしもし、親父か。たった今、”木戸真理子”の死体を発見
したよ。状況から見て、死んで間もないと見ているんだけど」
「そうか。わかった。おまえは少しばかり、そっちでの”木戸”
の動きを調べてくれ」
「わかった」
そういって晋太郎は電話を切った。
廊下から聞きなれた声が聞こえてきた。
「まさか、女中が言っていた団体って、”あいつ”のことだっ
たのか・・・」
晋太郎は恐る恐るドアを開けたようとした。
晋太郎はドアを少し開けた。そこから外を覗いた。そこからは、
聞こえてくる声の主はわからなかったし、姿すら見えなかった。
女中たちが、夕食の準備のため、山荘内を忙しそうに行き来す
る。晋太郎の目にはそんな風景が、警視庁内の言葉のやり取りに、
どことなく似ていると思った。
そして、晋太郎は部屋を出て、ゆっくりと温泉にでもつかろう
と、廊下を歩き始めた。心の中では、「”あいつ”と会いません
ように」と、神にも祈るような気持ちになっていた。
部屋を出て数分後の出来事である。案の定、”あいつ”と、出
会ってしまったのだ。晋太郎は孝太郎との約束で、他人の振りを
して声をかけなかった。”あいつ”も、声をかけてこなかった。
晋太郎はやっとの思いで、ふろ場の入り口についた。そして、
ドアを開けると、まだ先に道が伸びていた。そこは、この山荘の
ちょうど真後ろに当たる場所である。邪魔するもののない、見晴
らしのよい場所だった。
晋太郎が温泉につくと先客がいた。晋太郎は静かに服を脱ぎ、
音を立てずにお湯につかった。
「こんばんは。初めまして」
先客が振り向いて言った。
「こんばんは。とてもいい眺めですね」
晋太郎はぎこちなさそうに言った。
「本当ですよ。視界を邪魔するものが一切ないんですから。遅
れましたが、私、カメラマンの東道喜一と言います」
東道がそういったので、
「私は手塚晋太郎と言います。職業は、刑事です」
と、言った。
「刑事さんですか。で、何故ここに?事件でも?」
鋭い所を突いてくる、と、思ったので、
「いや、休暇中でして、温泉にでもつかろうかと・・」
「そうですか。まぁ、ここの温泉も、結構有名ですからね」
晋太郎と東道は、そんなたわいもない話を20分もしていた。
そして東道は、
「じゃぁ、これで」
と言って、お湯の中から上がった。
晋太郎は東道がいなくなるのを確認すると、紅(あか)に染ま
った空が、闇に染まるのを、お湯につかりながらのんびりと見て
いた。そんな景色を見ている晋太郎は、どことなく心が癒される
ような感じがした。
「ねぇ、祥子。昨日の死体、あれからどうなったのかな?」
美香が思い出したように言った。その瞬間、5人の中を流れる
空気が一瞬ひんやりとした。
「もうそのことは、忘れようぜ。いい加減に・・・」
稔が席を立ちながら言った。
「でも、警察に言わなくていいの?」
理恵が剛に言った。
「あの死体、昔の彼女に似てたんだ。だから。どうしても犯人
を自分で見つけたいんだ・・・」
剛はそう言って床を拳でたたいた。
「でも、気になんないの。無くなっちゃったんだよ」
美香がそう言った。
「だけど、今さらそんなこと言っても、しょうがないじゃない
か」
稔が怒っていった。そして、それから5分近く会話が無かった。
晋太郎は風呂から上がって部屋に帰ろうとしていた。そして、
帰りぎわに携帯からこの山荘に電話をかけた。
「はい赤月光てすか?」
「すいませんが・・・」
晋太郎は”あいつ”を呼び出してもらった。
「おまえか、後で俺の部屋に来てくれないか?」
「いいけど。また、何で?」
「それは後で話すから、何時ごろがいい?」
「そうねぇ、9時ごろは?」
「わかった」
晋太郎はそういうと電話を切った。そして、山荘の入り口をく
ぐった。そこには、夕食のいい匂いが漂っていた。晋太郎は我慢
が出来ず、部屋まで小走りが返っていった。
部屋に入って数分もしないうちに、女中が夕食を持って、部屋
に入ってきた。
「どうも、失礼します」
女中はそういって、持ってきたおぜんを晋太郎の前に置いた。
「どうも」
晋太郎はそうあいさつした。
「では、食べ終わりましたら、廊下の方へ出しておいてくださ
い」
女中は部屋を出ていった。出ていくまでの少しの時間、晋太郎
はその女中と話をした。晋太郎は直ぐには食べず、ひと通り目を
通した後、一品一品味を確かめながら食べていた。
食べ終わった後晋太郎は、”あいつ”に話すための資料を揃え
ていた。捜索願、顔写真など、ある程度の資料をカバンから出し
て、机の上に綺麗に並べた。そして自分も、話しに矛盾をなくす
ため、目を通しておいた。
そうした準備が整った所で、窓の近くに行って、闇に染まった
外の風景を見て、心を和ませた。
9時5分前に、晋太郎の部屋のドアをノックする音が聞こえて
きた。
「はい。どうぞ」
晋太郎はそう言った。
外の人物はそれを合図にドアを開けて入ってきた。
「失礼します。叔父さま」
”あいつ”は晋太郎の部屋に入ってきた
「すまないね、こんな所まで・・・」
「いえ、別に。何かあったんですか?」
晋太郎は”あいつ”に、さっきならべた資料を渡した。
”あいつ”はそれをパラパラとめくっていった。そこには、昨
日見つけた女性が写っていた。
「おじさん。この人は?」
「この女性、”木戸真理子”さんは、今日、月光塚の下に広が
る森林内で発見されたんだ。
”木戸真理子”さんは、東京で一昨日から行方不明になってい
たんだ。そして、僕がこちらに来て捜索していたら、森林内で死
体となって発見したわけだ」
「そっ、それで、私に何を?」
「”木戸真理子”さんを”おまえ”がどこかで見ていないかと
思って」
”あいつ”は当惑した。まさか、死体を発見したとも言えない
し。でも、事実を言わないと捜査が難航するし。と、色々なこと
が頭の中を駆け巡っていた。
「ええ、この人を見たわよ・・・」
「どこでだ?」
「月光塚で」
「あの引きずった後のある・・・。一人だったのか?」
”あいつ”は軽く首を横に振った。
「一人じゃなかったんだな。で、一緒にいたのは誰だった」
”あいつ”はまた、首を横に振る。
「どういうこと何だ。黙ってないでいってくれよ」
晋太郎は何が何だかわからなかった。1人でもないし、誰かと
一緒でもない。
「1人だったと言えば1人だったし、1人じゃないと言えば1
人じゃなかったの」
「それはどういうことだ?」
晋太郎は訳がわからなかった。
「死んでいたのよ、もう。私たちが会った時にはもう、死んで
いたの」
「死んでいた?何時頃だった、その時?」
”あいつ”は少し間を置いてから、
「大体、2時くらいだったと思うわ、夜中の」
晋太郎はまたなんかあったら協力してくれといった。
そして”あいつ”は、自分たちの部屋に帰っていった。
晋太郎は資料を片づけて、孝太郎へ電話をかけた。
「もしもし、親父か。晋太郎だけど」
「おお、晋太郎か。それからなんか進展したか?」
「進展したもなんの、”あいつ”の奴が、この事件にかかわっ
ているんだよ」
「そうか。それはややこしくなってきたなぁ。で、説明くらい
はしたんだろ」
「ああ。一応はな」
「じゃぁ、なんかあったらまたかけろ。それと、”木戸真理子”
はどうも殺されていたらしい」
「わかった」
晋太郎は電話を切った。あんな所では、目撃者は出てこないなぁ
と、思っていた。
外は嵐の前の静けさだった。風もピタリと吹きやんでしまって、
虫の声も聞こえなかった。月の光はさっきよりも強くなっていて、
太陽光線を浴びているような光である。
翌日の早朝。
朝日が山の間から笑顔を出してきた。鳥のさえずる声が自然の
醍醐味をとくと感じさせてくれる。都会でもさえずりは聞こえる
が、これほど生き生きとしたものは聞いたことがなかった。
晋太郎は部屋を出て朝風呂でも浴びようとしていた。しかし、
山荘内の様子がおかしかった。晋太郎は女中の後をつけい歩いた。