AWC 「春愁」(6)        悠歩


        
#3453/5495 長編
★タイトル (RAD     )  96/ 9/23  23:44  (153)
「春愁」(6)        悠歩
★内容
 
 家に着いた。
 もう考えはまとまっている。他に手はない。
 本当にそうなのか?
 いまの僕は冷静さを欠いている。
 落ち着いて考えれば、まだ何か手があるのではないか?
 自問自答を繰り返してみても、結果は変わらない。
 後になって、他にも手があったと後悔するかも知れない。けれど、いま手を打た
なければ、もう機会はないように感じる。
 ならばやるしかない。
 僕はゆっくりと、静かに美里の部屋を目指す。
 部屋の前で、一度立ち止まり気配を伺う。何やら音が聞こえる。
 美里は部屋に居る。
 もし美里がまだ帰って来ていなければ、考えも変わったかも知れない。
 けれど美里は居た。幸か不幸か。
 僕は、部屋の戸を開く。

「はあ………お、お兄ちゃん」
 驚いたように美里は僕を見る。
 僕も驚いて、その場に立ち尽くしてしまう。
 セーラー服を着たままで、ベッドに横たわる美里。
 スカートの下には、何も着けていない。美里の女性の部分が露になっている。そ
してその部分にあてがわれた美里の手。中指の先が埋没している。
 僕は美里が自慰の最中に、飛び込んでしまったらしい。
 唖然としていた美里だったが、すぐに落ち着きを取り戻しように
「何かよう?」
 と言いながら、身体を起こしてベッドに腰掛ける。めくれ上がったスカートから
は、性器が見えたままだ。
 僕の方がまだ、驚きから立ち直れない。見ないように、と思いながらもつい、ス
カートの中へ視線が行ってしまう。
 しばらくして、やっと目的を思い出す。
「お、お前だろう………由香里ちゃんに嫌がらせの手紙を出したり、無言電話をか
けているのは」
「そうよ」
 意外なほど、素直に美里は認める。
「だって、悔しかったんだもの。私の方が、ずっと先に愛されて来たのに、それを
突然現れた、あんな女にお兄ちゃんを取られるなんて」
 うっすらと涙を浮かべて言う。
 その言葉が胸に刺さる。僕は愛を感じて、美里を抱いたことはない。あったのは
いつでも、性欲だけだった。
「今もね、お兄ちゃんの事を想いながら、自分でしてたの」
 美里が右足を曲げたので、局部がよりはっきりと見えるようになる。
 僕は自分の下半身に血液が集まり出すのを感じる。だが、そんな事をしている場
合ではない。
「言ったはずだ。僕らは普通の兄妹に戻るんだって。彼女への嫌がらせを止めろ」
「いやよ。私はお兄ちゃんを愛しているんだもの………普通の兄妹になんて、戻り
たくない。お兄ちゃんが、あの女を好きだと言うのなら、それでもいいわ。でもい
まさら、普通の兄妹になるなんて言わないで。
 オナニーの代わりでもいいの、私を抱いて。私の方がお兄ちゃんを、喜ばせられ
るんだよ。お兄ちゃんの感じるところ、誰よりもよく知ってるんだもん」
 駄目だ。
 やっぱり説得の余地なんてない。
 このままでは、僕は永遠に美里から離れる事は出来ない。
 僕は両手を広げ、美里へと歩み寄る。
「お兄ちゃん?」
 何かを期待したのだろう。美里の顔に笑みが浮かぶ。
 美里の細い首を、両手で掴む。僕の真意を知った美里の顔から笑みが消える。
「お前が悪いんだぞ………素直に、言うことをきかないから」
 掴んだ首から、美里の体温を感じる。とくんとくんと指先に響く脈は、美里のも
のなのか、それとも僕自身のものなのかは、よく分からない。
 殺意を感じながら、家に急いでいたときよりも、それを行為に移しているいまの
ほうが、不思議と落ち着いているように思う。
 人を殺す………意外と簡単なことのようだ。
 テレビや小説の中で見るより、ごく自然に事が流れて行く。
 気持ちの昂りもない。
 いや、たぶん興奮はしているのだろう。けれど、そうは感じない。
 当たり前に朝起きて、顔を洗うように、美里の首を絞めている。
 その美里と目が合う。
 蒼白になった美里の顔。あと少しの間、絞め続けていれば美里は死ぬだろう。
 気のせいだろうか、また美里が笑ったように見える。何かを言いたそうに、唇が
動く。
「いいんだよ、お兄ちゃんになら」
 声は出ていない。
 けれども唇は、確かにそう動いた。
 その瞬間、それまで稀薄だった人を殺すと言う行為に対する恐怖に襲われる。
 そして恐怖に耐えきれなくなった僕の手は、美里の首から離れてしまう。
 美里はベッドの上に崩れるように倒れ込み、激しくせき込む。
 せき込む美里を見ながら、僕は気が付く。
 簡単なはずだ………
 首を絞めている間、一度として美里は抵抗をしていない。
 不意を突いたわけでもない。背後にまわった訳でもない。
 何の考えもなく、真正面から首を絞める僕に対して、美里はされるがままになっ
ていた。
「どうして………抵抗しなかったんだ」
 まだ呼吸の整わないでいる美里を見下ろして、僕は訊いた。
 顔を上げ、僕を見る美里。その瞳は潤んでいる。
 乱れた髪が、汗で顔に張り付いている。
 ベッドに投げ出された太股、スカートから露出したお尻。
 部屋に入った時から充血したままの僕の分身は、そんな美里を激しく欲している。
 死にかけて、弱々しくなった美里に僕は欲情している。
「お兄ちゃんと………離れる………くらいなら、その手で殺された方が………幸せ
だもん」
 美里のその答えに、僕はもう我慢出来なくなった。

 ベッドから手を伸ばした手が、虚しく空を切る。
 ここが自分の部屋でないことを思い出した。
「煙草が欲しいんでしょ、ちょっと待ってて」
 僕の腕の中で眠っていたはずの美里が、そう言いながら起きあがる。
 ベッドから離れて行く、生まれたままの姿の美里を見ながら、ついまだ一度しか
見ていない彼女の姿と比べてしまう。
 その体つきは、彼女と比べても、まだまだ幼い。
 けれども自らが言う通り、その幼い身体が僕に与える快楽は、大きいものだった。
 思う。
 この先、どれほどの女と経験を重ねたとしても、これ以上の快楽を得られる事は
ないのではと。
「一本だけだよ」
 どこに隠してあったのだろう。まだ封を開けていない煙草とライター、蛙の漫画
の入った灰皿を持った美里が、ベッドへと戻って来る。
「どうしてお前の部屋に煙草が? お前、煙草が嫌いなはずじゃ」
 煙草を受け取るため、身体を起こしながら僕は訊く。
「お兄ちゃんがね、いつ来てもいいように、用意してたんだよ」
 その微笑みに、その健気さに、僕は再び欲情してしまう。
「やだ、お兄ちゃん。また大きくなってる」
 やだと言いながらも、美里の手は僕の物を掴んでいた。
「ねえ、煙草の前にもう一回………」
 言われるまでもなく、僕は美里をベッドへと引き寄せる。
「俺たち、結婚は出来ないんだぞ」
「知ってるよ、それくらい」
「俺は………たぶん、彼女とは別れない」
「いいよ。お兄ちゃんが私を捨てないなら、我慢する」
「でもお前が彼を作ったら、こんな事は、止めなきゃ、な」
「お兄ちゃん以外の男の子には、興味ないもん」
 美里を抱きながら考える。
 僕にとって最高の女は、美里だったのだと。
 始めから分かっていてたのかも知れない。
 それをモラルだの世間体を気にして、無理に関係を断ち切ろうとして………
 いまだって、まだ気にしているんだ。
 彼女と別れる気がないのがその証なのかも知れない。いや、彼女は彼女で素敵な
女性で、僕は好意を持っている。
 美里との事も、彼女との事も全ては僕の身勝手から生じている。
 でも上手くやって行けるなら、そのままでいいのではないだろうか。
 いつかは問題が起きるかも知れないけれど、それまでは無理に正す必要はないん
だ。そう思うと、これまでの事がとても馬鹿馬鹿しく感じられる。
「でも」
「えっ」
 美里を抱きながら、その思いが声に出てしまう。
「避妊だけは、ちゃんとしないと」

 考え方を変えてから、時間の流れが早く感じられた。
 嫌がらせがなくなった事で、彼女との間に有った距離も埋まり、幾度となく身体
を重ねた。ただし、美里の気持ちを気遣い、僕の家でする事はなかったけれど。
 正直なところ、それほど長く続くとは思わなかった彼女との仲だけれども、婚約
する事になった。長くつき合って来たことで、彼女の父親も僕のことを真面目な男
だと思ってくれたらしい。
 意外ではあったけれど、美里も僕らの婚約を喜んでくれた。
 日に僕は、入ったばかりの高校の制服を着たままの美里を抱いた。
 そして事の終わった後、美里は僕の耳元で囁いた。
「あのね、お兄ちゃん………私、生理が来ないの」
 微笑む美里の顔は、嬉しそうだった。

                           (終わり)






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